日本オリンピック委員会(JOC)は5月31日、味の素ナショナルトレーニングセンターで「平成29年度JOC冬季競技コーチ会議」を開催しました。冬季競技の強化責任者、国内競技団体(NF)の関係者ら86名が参加。会議は3部構成で実施され、第1部では2016-17シーズンの反省と検証並びに、平昌冬季オリンピックに向けた各競技の取組みに関するパネルディスカッション、第2部では気象情報の活用事例や「夏から学ぶ」と題し、リオデジャネイロオリンピック時の柔道の情報・科学の活用についての紹介、第3部では「プロリーグから学ぶ」と題し、村井満Jリーグチェアマンが講演を行いました。
オープニングセッションでは、JOC平昌対策プロジェクト古川年正委員長が開会の挨拶。昨夏のリオデジャネイロオリンピック、今年2月に札幌で開催されたアジア冬季競技大会で日本代表選手団が歴代最多となるメダルを獲得したことを挙げ、「ひとえにこの結果も選手の努力であり、ここにお集まりいただいた監督、コーチ、関係者、競技団体の努力が実ったものであると考えています」と感謝の言葉を述べました。また、「競技力の向上」と併せて「人間力の向上」についても「皆さんにお力を貸していただきたい」と呼びかけました。
続いて、来賓を代表して登壇したスポーツ庁の籾井圭子競技スポーツ課長は、平昌冬季オリンピック、東京2020大会、さらに2020年以降を見据えて、現在スポーツ庁が取り組んでいる競技力強化やスポーツ振興における施策、支援を紹介。「今日のこの会議の成果が平昌冬季オリンピックにおける日本代表選手の一助となり、さらには東京2020大会につながっていくものとなりますよう祈念いたしております」と挨拶しました。
■2016-2017シーズンの反省と検証、平昌へ向けた取組み
コーチ会議の最初のプログラムは、「2016-2017シーズンの反省と検証並びに第23回オリンピック冬季競技大会(2018/平昌)に向けた各競技の取組みについて」と題し、パネルディスカッションが行われました。日本スケート連盟の黒岩彰JOCアシスタントナショナルコーチがファシリテーターを務め、パネリストとして全日本スキー連盟の成田収平JOCナショナルコーチ、日本スケート連盟の伊東秀仁JOCナショナルコーチ、日本アイスホッケー連盟の山中武司JOC専任コーチングディレクター、日本カーリング協会の柳等強化委員長、日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟の鈴木省三JOC選手強化本部委員、日本バイアスロン連盟の出口弘之JOC専任コーチングディレクターが登壇。各競技の昨シーズンの主な国際大会での成績、その結果に基づいて分析した課題・修正点、そして、それらを踏まえての平昌冬季オリンピックへ向けた強化施策などが各競技団体から報告され、それぞれについて議論されました。
その中で、平昌冬季オリンピックでのメダルが期待されている女子スキージャンプの課題として成田JOCナショナルコーチが挙げたのが「メディアコントロールと心理サポートのさらなる活用」。また、様々な意見が交わされた後、日本スケート連盟の伊東JOCナショナルコーチは「先日、日本代表が平昌冬季オリンピックで獲得するメダルは金3つを含む10個だと、あるアメリカのメディアが予想していました。それに負けないくらい我々は皆さんとともに高い目標を持って、平昌オリンピックで活躍していきたい」と気持ちを新たにして、パネルディスカッションを締めくくりました。
■気象情報の活用事例、柔道に学ぶ
第2部では「第23回オリンピック冬季競技大会(2018/平昌)について」と題し、柳谷直哉JOC強化部長が2014年ソチオリンピックからの変更点をはじめ、現地の各競技場や選手村の位置関係、移動距離と時間などを説明。また、オリンピック選手村の施設紹介などを行いました。加えて、日本と韓国の歴史や領土問題など、スポーツであっても歴史問題に発展しうるので、表現、発信の際には十分注意するよう促しました。
次に「気象情報の活用事例」として、今年3月に行われたパラ・クロスカントリースキーの平昌プレ大会に同行したウェザーニューズスポーツ気象チームの浅田佳津雄さんが、現地で行った気象予測や観測の方法、そこから得た情報をチームにどのように伝えたかを紹介しました。特にスキー競技は天候や自然環境の影響を大きく受ける競技ですが、同行した大会では日本代表選手の金・銀・銅それぞれ1個ずつのメダル獲得に貢献。浅田さんは「現地の雪の特性を実際に見ることで、だいぶ理解できたことが良かった。天気を変えることはできませんが、あらかじめ知ることで準備ができます。情報を提供することで万全の準備をして、そのときの最高のパフォーマンスを発揮できるようなお手伝いが、気象情報の活用でできるのではないかと思います」と振り返りました。一方で、平昌冬季オリンピックに向けては、観測機器の選定と観測方法のさらなる見直しを課題に挙げていました。
続いて、第2部最後のプログラムとして「〜夏から学ぶ〜世界一を目指す経験から学んだこと」をテーマに、柔道の石井孝法JOC専任情報・科学スタッフが登壇。ここでは、石井さんがこだわり続けた「情報を選手やコーチにしっかりと伝えるまでの流れ」、リオデジャネイロオリンピックで好成績を挙げた日本代表選手団を支えたデータ解析システム『GOJIRA』の開発と導入の経緯、そして、石井さんにとって大きなターニングポイントになったという、2014年チェリャビンスク世界選手権大会の帰路で斉藤仁日本代表選手団団長から言われた言葉などを紹介しました。これらの経験を経て石井さんが学んだことは「最後の課題は人間関係」であるということ。「日本はポテンシャルが相当高い国ですし、技術力も素晴らしいものがあります。でも、最後の最後に結果が出ない部分に人間関係が絡んでいる場合がある」と指摘し、本当のアスリートファーストとは何であるかを考えていくことが大事だと、参加者に呼びかけました。
■村井Jリーグチェアマンが語る人間力
第3部では「〜プロリーグから学ぶ〜『Jリーグにおける個の育成と組織開発』をテーマに、村井満Jリーグチェアマンが講演しました。
村井チェアマンは高校の部活動でサッカーをしていましたが、プロ選手や指導者の経験はなく、ビジネスマンを経て2014年にJリーグチェアマンへと抜擢されました。現在に至るまでの自らの経歴を説明する中で、チェアマンに就任した当初、特に困ったのが新入団選手への挨拶だったとのこと。「選手、指導者の経験もない自分が何を話せばいいんだと悩みました。そこで思ったのが、経験がないんだったら、とにかく調べようということ」。村井チェアマンはその当時から10年前までさかのぼり、2005年に入団した選手が10年後に通算何試合に出場したかを調べたところ、0〜50試合の割合が最多となり、その中でも0試合で現役を終える選手が一番多かったという結果が出たとのことです。それは2005年の入団選手に限ったことではなく、どの年の入団選手でも同じ結果が出ました。そこで10年後もトッププレーヤーとして活躍している選手に複数回のアンケート、インタビューなどを実施して突き詰めたところ、長く活躍する選手に共通するのは「傾聴力」が総じて高く、2番目に「主張力」が高いということ。相手の話に真剣に耳を傾けて理解し、それを自己啓発した後、自分の考えを主張していく――そうしたサイクルを村井チェアマンは「人間力」と位置づけ、長く活躍できる選手はそのサイクルをたくさん回すことができる「人間力」の高い選手であり、傾聴力、主張力を鍛えることが個の育成において大事なトレーニングであると説明しました。
また、個の育成に関しては、観察力、思考力、判断力を重点的にトレーニングしていたドイツ代表にも学び、一方で、Jリーグとしての経営人材の育成や組織改革にも着手し、順調に成果を挙げていることにも言及した村井チェアマン。最後に参加者に向けて「サッカー界はずっと人間力を追いかけて今日までやって来ました。この会議にいる皆さんはともに同じ目的の仲間と認識していますので、いっしょに頑張れたらと思います。夏のオリンピックになりますが、サッカーもメダルが獲れるように頑張ります」とエールを送りました。
すべてのプログラムが終了後、クロージングセッションでは橋本聖子JOC選手強化本部長が登壇。味の素トレセンが設立されてから節目の10年を迎え、良かったことの1つとして様々な競技の選手、スタッフが一堂に集まって交流を深める機会が増えたことを挙げると、「トップアスリート、あるいは今日来ていただいている監督、コーチ、スタッフの皆さんのようなその世界のトップの方たちは、もしかしたら自らの団体から学ぶことよりも、他の団体から学ぶことの方がもっとプラスになっていく立場の方ばかりだと思います。ですから、こうした機会をぜひプラスに変えて、どんどん発展させていただければと思います」と述べました。そして、来年2月に迫った平昌冬季オリンピックに向けて「東京2020大会を成功させることにおいても、来年の平昌冬季オリンピックは非常に大事な位置づけになります。JOCとしても全力でサポート体制を取らせていただきたいと思います」と参加者に呼びかけて、コーチ会議を締めくくりました。
関連リンク
CATEGORIES & TAGS