日本オリンピック委員会(JOC)は3月11日、味の素ナショナルトレーニングセンターで「JOCオリンピアン研修会」を開催しました。
この研修会はJOCアスリート専門部会が中心となって行っているもので、オリンピアン自身がオリンピズムやオリンピックの価値をあらためて学び、アスリート間のネットワーク構築を進めることにより、オリンピック・ムーブメント事業への積極的な参加を促すとともにアスリート自身の今後の活躍に役立てることを目的としています。昨年5月の札幌、同12月の名古屋に続き、今年度最後の開催となった東京会場には、73名のオリンピアン・パラリンピアンが参加しました。
伊藤華英アスリート専門部会員による進行の元、冒頭に登壇した荒木田裕子アスリート専門部会副部会長は「今日は1964年の東京大会から、次の東京2020大会出場を目指すような幅広い年代のメンバーがそろっています。今日は有意義な会にしていきましょう」とあいさつしました。
■「近代オリンピックの父」クーベルタンの描いた理想像
参加オリンピアン・パラリンピアンの紹介に続いて、中京大学の來田享子教授がオリンピックの歴史や、国際オリンピック委員会(IOC)における最新のオリンピック・ムーブメントに関する動向などに関する講演を行いました。來田教授は、「近代オリンピックの父」と呼ばれるピエール・ド・クーベルタンが、「調和のとれた人間」「平和」「平等(民主主義)」が表された古代ギリシャの競技会にオリンピックの理想を描き、古代オリンピックを復興させたと解説。そして、「(この3つは)現代のオリンピックにも非常に大切にされている原則」であると述べました。また、一般的には「オリンピック=メダル争い」といったイメージもありますが、オリンピック・ムーブメントを広く伝える上で、努力や尊重、友情などメダル以外の価値を語ることが重要だと強調し、スポーツが持つ様々な価値を伝えました。
さらに、2014年に採択された「アジェンダ2020」を例に最新のオリンピックの動向を紹介し、「これまで以上の速さで変化する社会は、スポーツの変化を待ってはくれない。私たちがオリンピズムの価値を社会にとって適切なものとして残すことを望むのであれば、今こそが変革の時である』というトーマス・バッハIOC会長の言葉を引用し、変化なくして勝つことができないと誰よりも知っているオリンピアンこそ、変化を与えることができる存在であると説明しました。
■パラリンピックで共生社会の実現を
続いてパラリンピアンを代表して、アスリート専門部会オブザーバーの田口亜希さんが、「アスリートとして知っておきたいパラリンピック基礎知識」と題して、大会の歴史や、障害の程度や部位などによるクラス分け、パラリンピックの価値などを幅広く解説。さらに2016年のリオデジャネイロパラリンピックでの現地の様子や選手の声などを紹介しました。
講演の中で、田口さんは1964年の東京大会を契機に、日本でも障がい者スポーツが認知され始めたといい、東京は世界で初めて2度目のパラリンピック夏季競技大会開催都市となることに触れ、「1964年の東京パラリンピックで障がい者の自立や社会参加、社会貢献が考えられるようになったように、東京2020大会以降もレガシーとして様々なものが残っていくよう、共生社会の実現に向けて私たちも努力していきたい。このパラリンピック開催が、障がい者を『守らなければいけない』存在から『共に生きていく』存在ということに気づかせる、良い機会になると思っています」と訴えました。
■オリンピック教室を学びの機会に
後半の最初のプログラムでは、伊藤アスリート専門部会委員が登壇し、JOCがオリンピック・ムーブメント推進のために行っている「ハローオリンピズム事業」の概要説明を行いました。そして、事業の1つである「オリンピック教室」について、実際に参加したオリンピアンが感想を述べ、ウエイトリフティングの齋藤里香さんは「この教室をやることで、私自身がオリンピックの価値についてあらためて考える機会になりましたし、一緒に考えることで新たな価値に気づかされたりと、とても学びの多い時間になりました。ぜひ皆さんにも経験いただけたらと思います」と呼びかけました。また、リュージュの小口貴久さんは「僕自身、メダリストでもないしリュージュ競技というマイナーな競技ですが、オリンピック教室で話をする時は、子どもたちは『知らない競技の人』ではなく『オリンピックに出たすごい人なんだ』という見方をしてくれます。私たちにしか伝えられないことがあると思うので、ぜひこうした場で、自分にしか伝えられない話をすると、子どもたちに響くのではないかと思います」とメッセージを送りました。
次に、「ワールドワイドオリンピックパートナー パナソニックがオリンピアン・パラリンピアンに期待すること」をテーマに講演を実施。まず、パナソニック株式会社ブランドコミュニケーション本部宣伝部スポンサーシップイベント推進室から、オリンピック・パラリンピック課の福田泰寛氏が登壇し、オリンピックパートナーの歴史や協賛の目的、同社が実施するスポーツを通じた社会貢献活動などを紹介。その中で、オリンピック・ムーブメントと同社の経営理念で重なる部分があることから協賛につながった経緯などが説明されました。続いて、パナソニックセンター東京 運営課の那須瑞紀氏が登壇し、東京都・江東区にある同社の「パナソニックセンター東京」で実施しているオリンピック・パラリンピックムーブメント活動を紹介しました。
■NFアスリート委員会の役割を考える
最後のプログラムとして、「NFアスリート委員会の設置に向けたアスリートの役割について」をテーマにしたグループディスカッションを実施。まず、荒木田副部会長から国内競技連盟(NF)におけるアスリート委員会の立ち上げを働きかけている経緯を説明し、現状アスリート委員会の設置が進まない、設置したが具体的に活動できていないなどの課題を紹介。その上で「1人ではできないけれど、アスリート委員会であれば自分たちでこういうことができる。もしくは自分たちはできなかったけれど、後輩たちが何かの機会に集まった時に、アスリート委員会として彼らに情報提供する場を作ってあげることができるかもしれない。そういった視点で考えていいのではないか」とアスリート委員会設置の意義を強調しました。
その後、参加者は8つのグループに分かれて、自分の身近にある様々な問題解決に向けたNFアスリート委員会の役割、設置に向けての懸念点や課題を解決するための具体的な方法、また今後NFアスリート委員会やアスリートが取り組むべき具体的な活動・役割を考えました。
発表では自身の経験を反映した様々な意見・アイデアが紹介されました。アスリート委員会を取り巻く事情は、競技特性などから各NFで大きく異なっており、参加者たちは時には驚きの声を上げながら、1つ1つの発表に興味深く耳を傾けていました。
全グループの発表終了後、荒木田副部会長が再び登壇し、「これから課題を一つずつクリアしながら、(皆さんがNFアスリート委員会で)良い活動ができるような形にしていきたい」と語りました。そして、JOCが選手強化のスローガンとして掲げている「人間力なくして、競技力向上なし」という言葉を引用し、「人間としてどう生きるか、どういうアスリートに育っていくかということをアスリート自身が考える必要があり、そういう後輩を育てていこうという意識をもつことで、2020年も素晴らしい大会ができるのではないか」と述べ、研修会を締めくくりました。
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