日本オリンピック委員会(JOC)は9月28日、「平成28年度JOCコーチ会議」を開催しました。JOCの役員、選手強化本部をはじめ各専門委員会の委員や、ナショナルコーチ、専任コーチ等、国内競技団体(NF)の関係者ら、強化に関わる約300名が参加。「第31回オリンピック競技大会(2016/リオデジャネイロ)の反省と検証」と題したパネルディスカッションが3部構成で行われたほか、橋本聖子日本代表選手団団長と田裕司総監督によるリオ大会の振り返りと総括などが行われました。
福井烈JOC常務理事による開会挨拶では、リオデジャネイロオリンピックで史上最多41個のメダルを獲得できたことは「指導者、スタッフの皆さんの日ごろからのご指導、献身的なサポートによるものと感じております」と感謝の言葉を述べました。そして、来たる2018年の平昌冬季オリンピック、2020年の東京オリンピックに向けて「選手の競技力向上に向けた最善の方策を議論いただき、アスリートのために今私たちが何をすべきなのか、助言・提案をいただければと思います」と呼びかけました。
■金メダル獲得競技、チーム競技によるパネルディスカッション
最初のプログラムは、リオデジャネイロオリンピックの反省と検証をテーマにした「パネルディスカッションI/金メダル獲得競技」。星野一朗リオ本部役員がファシリテーターを務め、競泳の平井伯昌コーチ、体操競技男子の水鳥寿思監督、レスリングの栄和人チームリーダー、柔道男子の井上康生監督、バドミントンの中島慶コーチがそれぞれ、ロンドン大会からリオ大会までの準備・調整方法、課題克服、選手への指導方法などを報告しました。
その中で、全7階級でメダルを獲得し男子柔道を復活に導いた井上監督が、金メダルを獲得できた要因として挙げたのは「意識」「練習内容」「体力」「組織」「科学の力」という5つの要素。東京2020大会へ向けてもこの5つの要素を中心にさらに課題を克服し、「4年後の試合でどうパフォーマンスを最大限に引き出してあげられるか、これを考えた上での強化が必要だと改めて感じました」と見据えていました。
また体操競技男子の水鳥監督は、この2年間でのDスコア(演技価値点)向上が打倒中国を果たし金メダルにつながったこと、さらにリオ大会に向けてはコンディション対策を重要視したことを明かしました。
続いて行われたのは「パネルディスカッションII/チーム競技」。福井リオ本部役員がファシリテーターを務め、水球の原朗強化委員長、サッカー男子の手倉森誠監督、ホッケー女子の永井祐司監督、バレーボール女子の荒木田裕子強化委員長、バスケットボール女子の内海知秀監督、男女7人制ラグビーの岩渕健輔チームリーダーが意見を交わしました。
リオ大会ではメダルに届かなかったチーム競技。敗因の1つとしてサッカーの手倉森監督、バレーボール荒木田強化委員長はともに「初戦を勝てなかったことで勢いをつけられなかった」ことを挙げ、さらに手倉森監督は「選手の国際大会の経験不足」、荒木田強化委員長は「選手の大型化への対応の遅れ」を付け加えていました。対照的にバスケ女子、ラグビー男子は初戦で格上を破ったことでチームに勢いがつき、また選手が自信を持てたことが下馬評を覆す躍進に繋がったと報告しました。
また、荒木田強化委員長からはチーム競技全体の強化のために、『チームジャパン』として垣根を越えたチーム競技間の連携が必要であることが強く訴えられました。
午前中最後のプログラムは、「リオデジャネイロオリンピックを振り返って」をテーマに橋本団長が講演。JOC選手強化本部が掲げている『人間力なくして競技力向上なし』のスローガンのもと、「2018年、2020年に向けて、これほどスポーツが注目されているときはありません。スポーツはあらゆる面で多くの効果を表すことができる素晴らしい力をもったものだと思います。これからも、素晴らしい未来への架け橋になるような競技団体、スポーツ界にしていくことを『チームジャパン』として一致結束して、未来に向けて頑張っていきたいと思っています」と力強く誓いました。
■メダル獲得の命運を分けた要因とは
昼食休憩を挟んで行われた午後最初のプログラムは、「パネルディスカッションIII/メダル獲得の命運を分けた競技」。大塚眞一郎リオ本部役員がファシリテーターを務め、陸上競技の苅部俊二コーチ、卓球の宮義仁強化本部長、フェンシングの東伸行強化本部長、カヌーの山中修司コーチ、アーチェリーの新海輝夫チームリーダーがメダルの命運を分けた要因について議論しました。
日本中に大きな感動を呼んだ陸上男子4×100mリレーの銀メダルに関し、「ロンドンでのバトン失敗を教訓にしました」と明かした苅部コーチ。また、男子卓球悲願のメダル獲得の背景には、2001年からスタートしたジュニア選手の強化が実を結んだ結果であることを宮強化本部長が説明しました。
一方、メダルを逃したフェンシングの東強化本部長は、東京2020大会に向けて「ジュニア層は世界トップレベル。これら若い選手の更なる競技力の引き上げと、リオ出場選手たちとの切磋琢磨、融合を進めて強化していきたい」と展望を語りました。
パネルディスカッションの後は「危機管理〜リオデジャネイロオリンピック時の事例〜」と題して、陸上競技の競歩におけるプロテストの事例を紹介。これは、男子競歩50kmにおいて3位でゴールした荒井広宙選手が4位だったカナダチームの抗議により1度は失格とされたものの、日本陸連の上訴により失格が取り消されて銅メダルが確定するまでの流れが説明されました。
また、同じく「危機管理」として、大会期間中に起きた他NOCの様々なトラブル、事件にまで発展した事例が紹介されました。
続いて、田総監督が日本代表選手団の戦いを総括。メダルの総獲得数が史上最多41個だったことは「2020年につながる非常に大きなこと」と評価しましたが、「競技の成績は60点。色々と日本に不利な面もあったことを考慮して70点」と点数をつけました。これは田総監督自身も「あえて辛口」と前置きし、「情熱、選手への愛情、信念、この3つをしっかり持って指導し、2020年に最高の成績を残していただきたい。それがスポーツを愛する人すべての願いだと思います」と呼びかけました。また『チームジャパン』がさらに盛り上がるためには、チーム競技の活躍も必要不可欠であることも強く訴えました。
■2018年平昌、2020年東京、さらにその先に向けて
休憩後、「2018年平昌大会、2020東京大会に向けて」と題し、スポーツ庁の先卓歩競技スポーツ課長がスピーチしました。共同通信による「東京2020大会で期待すること」のアンケート結果や、国別・年代別・競技別のメダル獲得数比較のグラフなどをもとに、先課長は「2018年、2020年、さらにその先を見通した支援を競技スポーツ課では1つのモットーとしております。2020年で競技力強化の支援は終わらない。その後においても強力で持続可能な選手強化の支援とはどういうものなのか、鈴木大地長官とともに日々ディスカッションさせていただいております」と報告。そして、GDPに対するスポーツ強化費の割合が世界各国と比べても低いことを挙げ、更なるスポーツ予算の確保を掲げました。
続いて「東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた進捗状況について」、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の村里敏彰国際渉外・スポーツ局長が登壇。スライドや大会の新しいプロモーション映像をもとに、大会準備の進捗状況や新たなコンセプト等を説明しました。その上で「スポーツ国ニッポンが2020年以降も続いていけるように、今後も皆さまからの意見をいただき、お力添えいただければと思います」と呼びかけました。
次に「トップアスリート育成・強化支援のための追跡調査について(速報)」、杉田正明JOC科学サポート部門長より報告されました。これは東京2020大会、その後も見据えて生かせるような情報収集を目的として行われてきた調査であり、2013年からユースオリンピックに出場した選手・役員に対して行われてきましたが、今回初めリオ大会出場選手にも実施。これは世界的にも例がない貴重な調査となるとのことです。
現在8割ほどの回答が寄せられていますが、この中でメダリストがスポーツ医科学を多く利活用していたこと、また、中学生期・高校生期にはスポーツ医科学が必要であるという回答が多いことから、「中・高校生期の医科学サポートを今後はしっかり考える必要がある」と杉田部門長。「今後はより詳細に競技種目や系統別の特徴、メダリスト・非メダリストの特徴などを明らかにしたいと思います」と、調査をもとにした今後の展望を語りました。
■平成27年度JOCナショナルコーチアカデミー修了式
続いて、平成27年度JOCナショナルコーチアカデミー修了式が行われました。23名の修了者のうち、この日は13名が出席。修了者を代表して、星野JOC理事から記念品と修了証書を授与されたラグビーフットボールの稲田仁さんは「2020年東京オリンピックに向けて、まずは自分自身が強い意志と覚悟を持つこと、またその情熱を他のスタッフや選手、私が関わるすべての人たちに伝えていけるようなコーチになりたいと思います」と意気込みを語りました。
最後に、山下泰裕リオデジャネイロオリンピック日本代表選手団副団長が閉会の挨拶に立ち、「4年間はあっという間です。東京オリンピック成功のためには最初の2年間でどれだけ育成できるかが大きな鍵。できるだけ早く2020年に向けたスタートを切ってもらいたい」と訴えました。また、2018年平昌冬季オリンピックに向けても「リオでの日本代表選手団の活躍の勢いをぜひ冬季オリンピックに受け継いでいただいて、平昌で素晴らしい戦いを見せていただきたい」とエールを送り、自身が初めて出席した26年前のJOCコーチ会議で当時の松平康隆選手強化本部長が語った、“自分ひとりの能力には限界がある。足らないところは役割を分担し、耳を傾け、周囲の協力を得ることが大切である”という競技連携に通じるエピソードを紹介し、「夏と冬が一体となって『チームジャパン』として力を合わせ、日本のスポーツ界を盛り上げていきたい。我々JOCも今まで以上に各競技団体と連携を密にしながら強化に取り組む所存です」と締めくくりました。
※この活動は競技力向上事業の助成金を受けて実施されました。
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