公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は3月3日、海運クラブ(東京都千代田区)で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、オリンピック・パラリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに72社/団体100名(2016年3月3日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会は、公益社団法人経済同友会の会員を対象に行われ、44社67名が参加しました。
最初に主催者を代表し、経済同友会の横尾敬介副代表幹事・専務理事が「今年はリオデジャネイロオリンピックが行われるオリンピックイヤーであり、その後は2020年東京オリンピックに向けていっそう世界の注目が集まります。今回エントリーされていますトップアスリートの皆さんが東京2020大会や国際大会で活躍し、また企業・団体の皆さまにとっても社員の一体感や業務へのプラス効果が生まれることを大いに願っております」とあいさつ。続いて経済同友会の東京オリンピック・パラリンピック2020委員会を代表して壇上に立った程近智委員長は「全国民が勇気付けられる素晴らしい大会を実現するには、アスリートの皆さんが最高のパフォーマンスを発揮することが重要ですが、その環境を準備する、また整えるのは経済界の役割だと思います。アスナビへの期待も高まっており、このムーブメントを一過性のもので終わらせるのではなく、2020年以降も続くようなレガシーとして深く、広く継承していくことを望みます」と述べました。
平岡英介JOC専務理事は、ちょうどこの日アスナビによる就職内定者が100名に到達したことを報告。これまでの支援を感謝するとともに「本年はリオデジャネイロ、2年後には平昌、そして4年後には東京でオリンピックが開催され、本日のアスナビ説明会に参加しているアスリートもそこを目指して日々鍛錬しています。アスリートたちは本人の努力はもちろん、周りを支えてくれている方々のおかげで活躍できますが、何といってもやはり生活基盤の安定が非常に大事になってきています。ぜひともそのチャンスを与えていただきたくよろしくお願いいたします」と、参加企業に引き続きの協力を呼びかけました。
次に八田茂JOCキャリアアカデミーディレクターが、雇用形態や給与水準、勤務スケジュール、配属部署、国際大会での社名の使用などの概要を、資料をもとに説明しました。
続けて行われた採用事例紹介では、昨年6月に岩原知美選手(アイスホッケー)、藤井桜子選手(ビーチバレー)を採用した株式会社市進ホールディングスの七戸仁人事部部長と、2014年11月に西崎哲男選手(パラ・パワーリフティング)を採用した株式会社乃村工藝社の原山麻子スポーツぶんか事業開発室室長がそれぞれ登壇。アスリートを採用するに至った経緯、選手との出会い、現在の勤務状況、社内のバックアップ体制や社員に与える影響などを説明しました。
また、同席した藤井選手は「私もちょうど1年前のこの時期にアスナビにエントリーし、この会社と出会い、入社させていただきました。会社の方々にはバレー以外でも良くしていただいているので、それが自分のエネルギーとなって活動ができていますし、今後も選手として役割を果たせるように頑張っていきたいと思います。今日はアスナビに参加している選手も本気で猛烈アタックをしてくると思いますので、素敵な出会いがあればと願っております」と、一人でも多くアスナビによる就職内定が決まることを期待していました。
次に、オリンピアンからの応援メッセージとして、バルセロナオリンピックで銀メダル、続くアトランタオリンピックでも銅メダルを獲得したマラソン女子の有森裕子さんが登場。陸上競技を始めたきっかけから、まったくの無名だったという中学・高校の学生時代、リクルート入社時の思い出など、「私の陸上人生」を講演しました。
その中で有森さんは「高校時代の恩師からは、諦めない気持ちが人を動かすと教えられました。また、リクルートでは当時の小出義雄監督から、人間は2つの要素が大事で、体の素質はもちろん、それ以上に心の素質が大事なんだと教えられました。ここにいるトップアスリートのみなさんも素晴らしい実績と体の素質は最大の売りだと思います。ただ、そういう人たちは日本中、世界中にたくさんいます。それでも自分はここが違うんだと、自分自身が強く信じて、絶対に諦めないことが周りの人たちを引きつける一番の要素になるかもしれません」と選手たちにメッセージ。そして、企業関係者に向けてはリクルート時代のエピソードを交えながら「リクルート・ランニングクラブは社員のみなさんの応援とともに一丸となって、苦しかったあの当時を乗り切ったと思います。ランニングクラブがどれだけ社員のみなさんの心を1つにしたか、大事なものかということを教えていただいた気がします。ぜひ、色んなアイデアと思いを描きながら一人でも多くのアスリートの支えをしていただけたらと思います」と呼びかけました。
最後に就職希望アスリート7名がプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像で競技を紹介したり、デモンストレーションを行ったりと、それぞれ趣向をこらしたプレゼンテーションで自身をアピールしました。また、説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、懇談会が行われました。
■岸大貴選手(体操・トランポリン)
「私は3歳のころからトランポリン競技一筋でここまでやってきました。私の競技の目標は東京オリンピックに出場しメダルを獲得することです。しかし、東京オリンピックでメダルを獲得するためにはまだまだ力が足りないと思っています。さらに上のレベルへステップアップするためには、何か大きな変化が必要だと思いました。そこで考えたのが生まれ育った石川県を離れ、東京へ上京することです。トップ選手が集まる国立スポーツ科学センターに練習拠点を移し、仕事を続けながら競技を続けたいと思っております。私は人と接することが好きで、人と距離を詰めることが得意だと思います。なので、接客業や販売業に興味があります。しかし、競技を続けられるのであればどのような仕事でも力の限りを尽くし、全力で勤めたいと思っております。所属しお世話になる企業には、様々な大会で結果を残し会社を盛り上げるとともに、さらに社内を活気づけられるアスリートを目指し、企業に精いっぱい貢献したいと思っております。ご支援のほどをよろしくお願いいたします」
■森本麻里子選手(陸上競技/三段跳)
「現在、私は日本女子体育大学で部員90名をまとめる主将を務めております。私は三段跳を始めて2年半と経験は浅いですが、東京オリンピックまで毎年自己記録更新を常に考えて跳んでいきたいです。三段跳の日本記録まで1メートル弱ありますが、毎年30センチずつ記録を伸ばし、2020年の東京オリンピックには14メートル20センチを目指していきたいです。私は陸上競技で逆境に負けない気持ちを培ってきました。陸上競技は目標を設定し達成するまでにたくさんの困難があります。つらい練習や記録が出ない時期でも耐えられる我慢強さ、忍耐力こそ私の強みです。私は所属させていただく会社には、精いっぱい貢献します。どのように貢献していくか、それは陸上競技で活躍し結果を残すことで貢献できると考えています。ぜひ私が挑戦する姿を見ていただいて、いっしょに上を目指し、社内の一体感を作りたいです。『命を燃やせ』という高校時代の恩師の言葉で、自分に“カツ”を入れて締めくくります」
■床亜矢可選手(アイスホッケー)
「来年2月に平昌オリンピック出場をかけたオリンピック最終予選が行われます。日本は現在世界ランク7位で、上位8チームが出られる平昌オリンピックに出場できる可能性は高いのですが、そこで必ず出場を決め、次こそはオリンピックに出るだけではなく結果を残したいと強く思っています。現在、海外でプレーする選手も増える中、私はアスナビにエントリーし、大学卒業後、企業で働きながら世界のトップを目指すことを決めました。それは、企業で働くことでよりコミュニケーション能力を高めること、また、日本での大会を盛り上げ、アイスホッケーが日本で人気のスポーツとなるべく活動していきたいと思っているからです。私がこれまでアイスホッケーで培ってきた力を生かし、どんなときでも前向きに努力し続けることで、会社が1つのチームとなっていく中に貢献していきたいです。また、女性がスポーツを続けながら社会人アスリートとしての活躍ができるよう、競技と仕事の両立を図りたいと思っています」
■吉井康平選手(自転車/BMX)
「BMXレース競技は2008年の北京オリンピックから正式種目に採用されました。このときから私の目標がオリンピックの舞台で走りたい、メダルを取りたいという明確なものに変わりました。大会の成績としては、ジュニアのときに全日本選手権を2連覇し、アジア選手権でも優勝しタイトルを獲得しました。現在は日本ランキング4位につけており、今後もシニア大会でワールドカップを回りながら、オリンピック出場を目標に頑張っていきたいと思っています。また、私は競技に専念できる環境を作るためにアルバイトをしながら、競技生活を続けてきました。しかしながら、金銭面の不足などで満足にレースに行けないのが現状です。私の目標は東京オリンピックでのメダル獲得と、BMXという競技を日本に広げることです。その目標に向けて、ぜひ企業の皆さまに応援していただけたらと思います」
■宮山亮選手(フェンシング/サーブル)
「私は現在、新たな企業を探している状況です。ですが、これは私にとって新たな転機だと思っています。東京オリンピックまでの4年間を新たな企業に支援していただき、新たな企業のもとでメダリストになるという夢を実現させたいからです。私は中学時に生徒会副会長をしたり、高校、大学のフェンシング部では主将を務めるなど、人を引っ張っていくことも得意です。さらに、フェンシングの持ち味である足を使った素早いフットワークを仕事にも生かし貢献していきたいと思っています。海外遠征で得た広い視野や、固定観念にとらわれない柔軟な発想も必ず仕事に生かせると思います。私は今までどんな局面に立っても、アントニオ猪木さんの言葉“馬鹿になれ、夢を持て”をモットーにやってきました。東京オリンピックまでの4年間、馬鹿になれるほど自分の夢を持って、一生懸命やっていきたいと思っています」
■鈴木沙織選手(スキー・フリースタイル/ハーフパイプ)
「私はフリースタイルスキーの競技歴が今年で6年になります。21歳の遅い時期から始めたため、自ずと強くなるために何が重要で、何が重要でないかということを考え、しっかりとした時間管理ができるようになりました。私は目標達成のためにやるべきことを優先順位付け、ビジョンを描き、時間管理し、前進することができます。おかげでこの6年の間、初心者のようなレベルから始まり、基礎を積み重ね、今年のワールドカップでは4位になるところまで駆け上がってきました。また、私は小学校から高校卒業まで無遅刻・無欠席を通しました。体力と規律を守ることに関してはとても自信があります。この体力とスキーで培った精神力により、多くの人々にやる気、勇気、感動を共有していただけると信じ、日々精進してきました。そして、私を見て頑張ろうと思っていただけるようにさらに前進していきたいと思います。どうか、平昌の表彰台への道をいっしょに歩んでいただけないでしょうか」
■伊藤心選手(フェンシング/エペ)
「男子エペは東京オリンピックにおいて、団体戦と個人戦の両方でメダルを獲得するチャンスがあります。私は現在26歳ですので、4年後には30歳になり競技力のピークに到達する年で東京オリンピックを迎えることができますので、メダル獲得の可能性は非常に高いと感じております。フェンシングにおける私のプレースタイルは、自分よりも身長が高い選手と戦うため、相手の懐に入っていくようなステップワークを得意としております。仕事においても私の社交的な性格を生かし、相手の懐に入っていくようなコミュニケーションを心がけていきたいと思っております。今月いっぱいで前職との雇用契約は切れることになっておりますが、フェンシングの練習にも専念させていただきたく、オリンピックでのメダル獲得、またその先にある競技の普及という私の目標の実現に向けて、ぜひ一度お話する機会をいただきたく存じます」
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