公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は8月28日、横須賀商工会議所で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、オリンピック・パラリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに50社/団体72名(2015年8月5日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会は、横須賀市と横須賀商工会議所との共催で行われ、20社21名が参加しました。
開会あいさつに立った福井烈JOC理事は、初開催となった横須賀の地元企業に向けて「取り巻く環境に苦しみ、可能性を残したまま現役生活にピリオドを打たなければならない選手も数多く存在することも事実です。本日は来年のリオデジャネイロ、2018年の平昌、そして5年後の東京で主役になる可能性を秘めたアスリートが5名登壇します。願わくばこの場を契機として、未来のメダリストを私どもと一緒に育成・強化していただければと心から願っています」と支援を訴えました。
続いて八田茂JOCキャリアアカデミーディレクターから概要説明があり、雇用形態や給与水準、勤務スケジュール、配属部署、国際大会での社名の使用などの項目が、資料をもとに説明されました(ページ下部参照)。そして、採用企業の事例の紹介映像が流され、上田春佳さん(競泳)を採用したキッコーマン株式会社、小西あかね選手(アイスホッケー)を採用した株式会社久慈設計、パラアスリートの夏目堅司選手(スキー・アルペンスキー)を採用したジャパンライフ株式会社の3社が紹介されました。
「トップアスリートによる体験談」では、ロンドンオリンピック・フェンシング男子フルーレ団体銀メダルの千田健太選手が登壇。千田選手はロンドンオリンピック後に、一度競技から離れましたが、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の招致活動に携わったことで、競技を続ける決意をし、アスナビを活用して所属先を探しました。しかし、1年弱も所属先が決まらず、「経済的に厳しい状況が続き、自分の実力を試す場でもあったワールドカップも出場を取りやめて世界ランキングも下がっていく一方でした」(千田)。そんな中、出身地でもある宮城県気仙沼市に関連のある株式会社阿部長マーメイド食品から声がかかり、現在に至っています。
就職活動を通して「競技の結果だけではなく、企業に何かしら還元できるものがないと採用は難しい」と感じた千田選手は、現在では販売促進のパンフレットに登場したり、フェンシング教室で子どもたちを指導するなど、競技だけでなく所属企業への貢献も積極的に果たしています。
自身にとっても企業にとっても良い結果となっている現在の状況を説明した後に、千田選手は「アスリートの雇用は必ず企業様にとってもプラスになると思いますので、より多くのアスリートが雇用されることを願っています」と参加企業に支援を呼びかけました。
そして、八田ディレクターのコーディネートのもと、5選手が自己PRのプレゼンテーションが行われました。
■鈴木千代選手(ビーチバレーボール)
「今シーズンは国内のプロ選手が出場する大会で2度優勝し、国内最高峰の大会では、大学生初の準優勝を成し遂げることができました。また、大学選手権でも優勝することができ、現在日本ランキングでは5位と、大学生で唯一トップテン入りを果たしています。私の目標は2020年東京オリンピックで表彰台に立つことです。私の可能性を信じ、社員の皆さんと私がオリンピックにかける思いを共有していただき、一緒に夢を追いかけていただければと思います」
■山辺美希選手(セーリング)
「2020年の東京オリンピックでセーリング競技は、私が普段練習を行っている神奈川県の江ノ島で開催されます。まさに地元で行われる世界最大のレースで、メダルを獲得することが最大の目標です。
日本で現在5、6番目の位置にいる私がトップに立つにはとにかく練習時間を確保するしかなく、多くの課題に取り組まなければなりません。大学卒業後も江ノ島や横須賀で練習をしたいと考えています。ぜひ、私の第二のふるさとである横須賀の企業に応援していただければと思います」
■宮坂楓選手(陸上競技)
「走り幅跳びと三段跳びを行っていますが、オリンピックは三段跳びで目指していきたいと考えています。私は高校2年生の時に走り幅跳びでインターハイで優勝することができましたが、その翌年に左ひざを骨折してしまい、手術をしてからは思うように結果が出ない日々が続きました。懸命なリハビリにより、大学4年生では全日本大学学生選手権で優勝することができました。
今後の課題としては2つあります。1つ目は全身の筋力アップ。2つ目に海外競技会に参加して国際感覚を高めていくことです。そのために、練習場である大学付近の横浜、横須賀で勤務し今まで以上に練習時間の確保と海外遠征を取り入れていきたいと考えています」
■本間南選手(ボブスレー)
「ボブスレー競技の女子は、世界的に競技人口が少ないため私がトップ選手として活躍できるチャンスは大いにあります。これまでの最高成績は日本選手権優勝、海外ではアメリカズカップカルガリー大会で6位に入賞を果たしました。目標は3年後の平昌オリンピックで日本人初のメダルを獲得することです。
この競技は冬の間は長野県や海外の活動がメインとなりますが、現在のようなオフシーズンは走る練習やウェイトトレーニングが中心となりますので、関東でも活動が可能です。私は今後生まれ育った神奈川県に戻り、初心に帰って競技に専念したいと考えています」
■森脇敏夫選手(パラリンピック射撃/ピストル)
「私は20歳のときから左腕と左上半身に麻痺を残す障害を持っております。射撃を始めたのは2009年、40歳になってからです。日本での成績は障がい者のライフル選手権では何度も優勝しており、障害を持つピストル選手の中でトップの成績を残しています。
今回アスナビに参加させていただいた理由は、ワールドカップで好成績を残しパラリンピックに出場するそのためのより安心して競技に取り組める就業環境を得るためです。私はシステムエンジニアとしての経験が20年以上あり、業務ツールの作成やシステムの運用補佐などでお役に立てればと思っています」
最後に、横須賀市の吉田雄人市長から「横須賀市からオリンピック・パラリンピックを目指す人がいる、そして活躍している人がいるということは横須賀市の子どもたち、市民のみなさんに夢や勇気を与えることにつながると思っています。市としてもトップアスリートの皆さんがトレーニングしやすい環境作りを進めていきたいと思っていまが、練習の場所を整備するだけでは人は集まりません。のびのびと働ける場所があって、ライフスタイルも含めて満足していただいて初めてトップアスリートの皆さんが横須賀を選んでくれると思っています。企業の皆さまには企業活動にプラスになるような方を雇用していただければ、横須賀市にとってもありがたいと思います」とあいさつがありました。
<アスナビ概要>
■就職実績
2011年3月から2015年8月5日まで計50社72名。(夏季競技選手37名、冬季競技選手27名、パラリンピックを目指す選手8名)
■採用企業規模
上場企業:非上場企業 ほぼ半々
■雇用形態
正社員、または契約社員(1年契約)
■給与水準
同年代の社員に準ずる(月額固定給+競技活動費の選手負担分の一部または全部)
■競技活動費の選手負担
年間50万〜400万程度
■勤務スケジュール
競技活動を優先(大会・合宿を除き、シーズン中は週1-2回、オフシーズンは週3-4回の勤務)
■配属部署
人事、総務、広報、営業など
■社名の使用
オリンピック、ワールドカップなどを除き、概ね可能
■選手肖像利用
ほぼすべての媒体で可能
■引退後の雇用継続
選手との相談により、適宜判断(雇用継続が前提ではない)
※配布資料一部抜粋
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