公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は7月27日、味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、オリンピック・パラリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに50社/団体72名(2015年8月1日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会は、東京ニュービジネス協議会(NBC)との共催で行われ、35社36名が参加しました。
今回で5回目となるNBCとの共催説明会。開会あいさつに立った福井烈JOC理事は、アスナビプロジェクトへの理解とこれまでのアスリート採用に感謝した上で、「取り巻く環境に苦しみ、日々の練習に100パーセント(の態勢)で取り組むことのできていないトップアスリートがまだまだ数多く存在するというのも現実です。ぜひ私どもと一緒に、選手たちを育てていただければと心から思っております」と、引き続きの支援を訴えました。
NBCの高橋ゆき理事/国際人財教育委員会委員長は、アスナビ説明会開催を始めた理由、続ける意義について、「このナショナルトレーニングセンターなどの施設を使えるのは本当に一部の選手。そういう選手でも、生活していきながら世界の舞台で戦い続けることは難しいんです。そこで、経営陣として何かできることを、みんなで少しずつできないだろうかと思い、活動を始めたのがこのアスナビさんとの共同説明会なんです」と話しました。
八田茂JOCキャリアアカデミーディレクターからの概要説明では、雇用形態や給与水準、勤務スケジュール、配属部署、国際大会での社名の使用などの項目が、資料をもとに説明されました(ページ下部参照)。
続いて、特別講演として「〜トップアスリートはどう作られるのか?―経営に生かす現代のスポーツ科学〜」をテーマに、国立スポーツ科学センター(JISS)の平野裕一副センター長がスピーチしました。
平野副センター長は隣接する2つの施設、種目別に特化した専用練習場持つ「味の素トレセン」と、研究課題を科学・医学・情報からの支援や研究を行う「JISS」のコンセプトや活用イメージを紹介。味の素トレセンでは選手たちが練習・強化に取り組み、JISSでは練習・強化の過程で挙がった課題を研究するという、トップアスリート育成・強化のサイクルを説明しました。
最後に就職希望アスリート5選手が、自己PRと競技紹介を行いました。スピーチはもちろん、競技映像を見ながら出場試合の解説をしたり、デモンストレーションを行ったりと、趣向をこらしたプレゼンテーションを実施。奮闘する選手たちの姿に、出席者の表情は和らいでいました。
■阿部宏隆選手(レスリング)
「私にはオリンピックで金メダルを獲るという大きな夢があります。レスリングは女子選手が有名ですが、ロンドンオリンピックでは米満達弘選手が男子で24年ぶりの金メダルを獲得。私もいつかあの舞台に立ち、日本人男子の強さを世界に見せたいと強く思いました。
私は常に向上心を持ち、自分に何が足りないかを考え、その足りない部分を監督やコーチ、先輩、後輩から積極的にアドバイスをもらい、一緒に練習し、問題解決をしてきました。この経験は社会に出て必ず生きると確信しています。競技力向上はもちろんですが、支援いただける企業様のお力になれるよう努力していきたいと思います」
■石川謙太郎選手(スキー・クロスカントリー)
「私は2012年の第1回冬季ユースオリンピックで日本人初の銀メダルを獲得しました。この夏からは、シニアでの(日本人選手と)海外選手との差をどうしたら埋められるのかを追求するために、スキー王国ノルウェーのクラブチームで練習していきます。
大学では経営学を学び、スポーツと非常に似ていると感じています。世界において成功した経営者は皆、不可能と思われていることを不可能と思わないということでした。私の目標は、3年後の平昌オリンピックで、日本人では誰もなし得なかったクロスカントリースキーでのメダルを獲得することです。自分の言動や行動に責任を持ち、企業の皆さまが応援したくなるような選手になれるように頑張っていきたいと思います」
■佐藤夏生選手(スキー・スノーボード)
「高校ではウィンタースポーツの本場であるカナダのウィスラーへ単身留学。毎日が必死で、『失敗してもしょうがないけど2回同じことは間違えないぞ』と心に決めて頑張りました。最終的にはネイティブ同等の英語力を身につけ、高校からは最優秀留学生賞を授与されました。
私の強みは3つあります。スノーボードの基礎力、カナダで習得した技術力、そして自ら必ず何かを学び次に生かしていく修正力です。今の私に足りないものは、より多くの海外のコースを体験し適応していくための引き出しです。精いっぱいやっていきます。ご支援、ご協力のほど何卒よろしくお願いいたします」
■浅野晃佑選手(ボブスレー)
「大学時代から(陸上競技と並行して)ボブスレー人生が始まりました。当初は、夏は陸上競技、冬はボブスレーを中心に活動しようとも考えていましたが、ソチオリンピックを前に代表落ち。オリンピックは生半可な気持ちで目指すものではないとあらためて痛感し、ボブスレーに集中して取り組もうと思いました。
ドラマ化もされた『下町ボブスレー』という太田区の中小企業を中心にそりを制作しているプロジェクトもありますが、採用に名乗りを上げていただければ、(同じように)企業名を広めていただけると思っています。どうかよろしくお願いいたします」
■本間南選手(ボブスレー)
「ヨーロッパやアメリカではとても盛んで人気のあるボブスレー競技ですが、女子はまだ世界的にも競技人口が少なく、私が世界のトップ選手として活躍できるチャンスは大いにあります。私には2つの強みがあります。磨き続けてきた操縦技術と、両ひざの前十字靭帯断裂という大けがから復活し、パフォーマンスを上げてきた精神的な強さです。すべて自分がもっと強くなるために必要だったと思っています。
冬の間は活動場所が主に長野県や海外になりますが、オフシーズンは関東地域にいても活動することができます。どんなことにも、皆さまとチャレンジしていきたいと思っています。応援よろしくお願いします」
<アスナビ概要>
■就職実績
2011年3月から2015年8月1日まで計50社72名。(夏季競技選手37名、冬季競技選手27名、パラリンピックを目指す選手8名)
■採用企業規模
上場企業:非上場企業 ほぼ半々
■雇用形態
正社員、または契約社員(1年契約)
■給与水準
同年代の社員に準ずる(月額固定給+競技活動費の選手負担分の一部または全部)
■競技活動費の選手負担
年間50万〜400万程度
■勤務スケジュール
競技活動を優先(大会・合宿を除き、シーズン中は週1-2回、オフシーズンは週3-4回の勤務)
■配属部署
人事、総務、広報、営業など
■社名の使用
オリンピック、ワールドカップなどを除き、概ね可能
■選手肖像利用
ほぼすべての媒体で可能
■引退後の雇用継続
選手との相談により、適宜判断(雇用継続が前提ではない)
※配布資料一部抜粋
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