公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は6月4日、東京商工会議所(東京都千代田区)で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、オリンピック・パラリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに48社/団体67名(2015年6月2日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会は、東京商工会議所の会員企業/団体を対象に行われ、45社57名が参加しました。
開会あいさつに立った後藤忠治東京商工会議所健康づくり・スポーツ振興委員長は、自身も1964年東京オリンピックに競泳代表として出場した元アスリート。5年後の東京2020大会に向けて、「会場の見直しや追加種目の検討など、一連の準備が進められていますが、何よりも大会の主役である選手の育成が重要です」と大会成功の鍵を挙げ、選手たちの雇用環境改善の必要性を訴えました。また「多くのアスリートは競技生活を通じて、目標達成に向けて努力することや、チームワーク、チャレンジスピリットなどを身に付けており、企業の求める人物像にもマッチしています」と、企業側の採用メリットを語りました。
青木剛JOC副会長兼専務理事も「みなさまのサポートが、トップアスリートの明日をつくります。この場を機会として、未来のメダリストを私たちと一緒に、育てていただければと思います」とあいさつし、協力を呼びかけました。
福井烈JOC理事はアスナビの概要を説明。「企業のサポートを望んでいるトップアスリートと、企業のみなさんとのwin-winの関係をつくることを目的にしているのがこのアスナビです」と話し、雇用形態や給与水準、勤務スケジュール、配属部署の例、社名PRに関する実情などを資料をもとに示しました。
さらに、オリンピアンからの応援メッセージとして、ソウルオリンピック女子柔道銅メダリストの山口香JOC理事が登場しました。山口理事は1964年東京オリンピックで第1号の金メダルを獲得した三宅義信さん(ウエイトリフティング)が話した「自分たちが金メダルを取れたのは、みんなが応援してくれたおかげ。日本人が取らせてくれた金メダルなんだよ」という言葉を借り、応援が選手の力、支えになることを、あらためて出席者に伝えました。だからこそ、アスリートたちが社会人として成長することの必要性も感じており、「国民のみなさんに後押しをしていただけるような、教育、育成をぜひお願いできればと思っています。皆さまには、彼らの“未熟さ”と“価値”の両面をご理解いただいて、スポーツのみならず社会の資産となっていくように、育てていただきたいと心から願っております」と、アスリートの先輩として語りました。
続いての採用事例紹介では、アスリート5人が在籍している三菱電機株式会社の高石圭悟人事部採用グループマネージャーが登壇。アスリート採用の目的と運営、今後の課題などを資料を用いて説明しました。同社の場合は「競技引退後も正社員として活用を継続し、その後の人生も支える」という方針のもと、通常業務の経験もさせ、社会人として仕事をするための基礎力を身に付けるべくアスリートたちを指導。競技と仕事のバランスなどは、選手本人、競技団体、関係者らとコミュニケーションをとり、互いが“win-winの関係”になるべく努めているそう。
高石氏は、「トップアスリートを支援するスタイル、考え方、取り組みの内容には、正解がないのではないかと思っています」と話し、同社の運営方法はあくまで一例であることを強調。「各会社ができる範囲の中でどういうことができるのかを考え、関係者さんとの中で作り上げていくものではないかと感じています。日本から世界に飛び立とうとしているトップアスリートの育成強化に、わたくしども企業としても少しだけでも携わることができれば」と締めくくりました。
最後に八田ディレクターのコーディネートのもと、今回参加した6名の選手が明快な口調で自己PRのプレゼンテーション。説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、懇談会が行われました。
■平井彬嗣選手(水泳・競泳)
「私は日本高校新記録、日本新記録を樹立してきましたが、世界の舞台で限界を感じてしまい、長いスランプに陥ってしまいました。いったんは競技を諦める覚悟をしましたが、そんな私にたくさんの人たちが支えとなってくれました。このとき『一人で泳いでいるのではなく応援してくださる人たちのために泳ぐ』ことをあらためて意識することができ、そのおかげでその年の大学の全国大会で優勝。今年は再び日本一の座に戻ってくることができました。私は人の記憶に残る選手になりたいと思っています。だからこそナンバー2にはなりたくありません。“ナンバー1"を目指す企業様の下でオリンピックを目指したいと思っております。僕にその夢を実現するチャンスをください」
■地田麻未選手(水泳・競泳)
「中学のジュニア大会で日本一になり、オリンピックで戦いたいという気持ちが強くなりました。そこでどうしても(北島康介選手らを指導する)平井伯昌先生の指導を受けたいと思い、スイミングスクールを移籍。昨年の仁川アジア大会では銅メダルを獲得することができ、世界の舞台で戦う自信もつきました。私には女子自由形長距離界を引っ張っていく使命があると思っています。平井先生の指導で学んだことは、競泳はお互いを認め、協力し合い、仲間を大切にし、切磋琢磨できる人こそ世界の舞台で結果が出せるということです。一人ひとりのパフォーマンスを上げることでチーム力を向上させる手法も、企業の中で生かすことができたらと思っております」
■中丸彩衣選手(ラグビーフットボール)
「私は小学6年生から10年間バスケットをしていました。ラグビーへ転向するためのトライアウトではただ1人の合格者です。経験はまだ少ないですが、体力では誰にも負けません。日本のタフなラグビーに貢献できる自信があります。私の強みはやると決めたことは最後までやりきるところです。2つの違う競技を行ったことで、環境変化への対応も身につけることができました。私を採用していただける企業がございましたら全力で貢献できるよう致します。私の夢であるオリンピック出場と、金メダル獲得を一緒に応援していただければと思います」
■菊池萌水選手(スケート・ショートトラック)
「私は2014年のソチオリンピックに控え選手の立場で出場しました。チームの力として何もできなかったことは本当に悔しかったですが、控えの立場で自分に何ができるかを考え選手村での2カ月間を過ごしました。いつでも代わりになれるように先輩たちの滑りを何度も見て、意見を聞いて、どのポジションでも滑れるように準備をしました。最後まで出番はありませんでしたが、ソチでの経験があったからチームとして何が必要か考え、そして最後までやりぬくことの大切さを実感しました。社会人としては分からないことばかりですので、企業で働く中で競技者として社会人として成長して、貢献していきたいと思います」
■伊藤さつき選手(スキー・フリースタイル)
「私は2度の大きなケガを経験しましたが困難にぶち当たっても、諦めずに努力を重ねることができました。社会人になってもその経験を生かし、どんな状況でも課題を解決できるよう前向きに頑張っていこうと思います。また、モーグル競技は遠征や合宿などが多く、チームメートと共同生活することがとても長いです。私は明るい性格なのでムードメーカーとしてチームの雰囲気を明るくすることが得意です。自分が苦しい状況でも必ず声を出して周りの選手を応援します。お世話になる企業でも、会社の中を明るく元気にしていくよう努めていきたいと思います。誰よりも速く、誰よりも明るく、誰よりも粘り強く、競技も仕事も頑張っていきたいと思います」
■宮崎哲選手(パラリンピック水泳・知的障がいクラス)
・宮崎選手の母、義恵さんによるプレゼン
「知的障害とは一般的に物事を判断したり適切な行動を行うことが困難な障害のことです。哲の場合は昨日や一昨日など抽象的な概念の理解が難しいです。しかし、実際に作業を目で見て覚え、コミュニケーションに配慮された指示を受ければ、健常者と同様の仕事を我慢強く継続する訓練を受けてきています。これまでは、会社の資料コピーやパソコンでのアンケート入力など一般職務を1年間。その後はコナミスポーツクラブさんのご理解のもと館内清掃業務に従事して、今年で4年目です。職場ではまじめで丁寧な仕事ぶりが評価されております。ただ現在は移動に一日3時間半を要しており、練習時間の確保が課題です。競技では知的障害者水泳において3種目の日本記録保持者で、今後のトレーニングにより国際大会でメダル獲得ができる位置にいます。より充実した練習環境を得られる可能性があるならと今回エントリーさせていただきました。スポーツを通じて哲自身の世界、サポートにかかわる私たちの世界観が変わると信じています」
・宮崎選手のコメント
「宮崎哲と申します。水泳を始めてから今日まで、先生や職員の皆さまの応援のおかげで世界選手権の出場チャンスを頂いております。世界のライバルと同じ水面のレースで、メダルを取ることを願っています。今回の世界選手権では皆さんの応援と期待に応えると同時に、私の夢をかなえるよう、ベスト更新と決勝進出を目指すことを目標に精いっぱい努力します。必ずメダルを獲得します。どうかご支援の程よろしくお願いします」
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