日本オリンピック委員会(JOC)は9月26日、トップアスリートの就職支援ナビゲーションシステム「アスナビ」の支援説明会を大阪市内で行いました。4回目の説明会となる今回は、ロンドンオリンピック・ソチ冬季オリンピックを目指す選手5名が、関西経済同友会メンバー56名の前で現状を説明し、それぞれが企業のために貢献できることを話した上で支援を求めました。
冒頭、大林剛郎関西経済連合会代表幹事は、「なでしこジャパンの活躍により人々が勇気をもらった事は記憶に新しいですが、スポーツが持つ“力”は大きい。オリンピック等で活躍するトップアスリートの中にも、就職先がなく困っている選手は少なくない。この状況に対し関西でも少しでもお手伝いしていきたい」と挨拶しました。
また、市原則之JOC副会長兼専務理事は、「アスリートの世界における活躍は、日本国民に大きな感動と夢を与えてくれます。しかし、3月11日の震災後、(アスリートたちは)スポーツを本当にしていていいのか苦悩し、海外からも日本はロンドンオリンピックに出場することができないのではないかとまでも言われました。でも、この時期だからこそ“スポーツの力”が必要であり、アスリートとともに活動をすることにしました。JOCでは、アスリートの国際競技力の向上とオリンピックムーブメントの推進という大きな目的のために日々活動をしており、本年7月をもって、100周年を迎えることができた事を、この場を借り、長年、アスリートとオリンピックムーブメントを支えていただいた企業の皆さま方に改めて感謝したい。トップアスリートは日本が誇るべき宝であり、その宝を育て、支えていただくために、ぜひとも関西経済同友会メンバーの皆さま方の協力をいただければと思います」と語りました。
さらに「本年6月24日“スポーツ振興法”が50年ぶりに改正され、“スポーツ基本法”が制定され、国策として国の支援を受けることとなりましたが、我々の調査によると、オリンピック出場選手の半数以上が企業のサポートを受けて競技生活を行っていることが明らかになりました。企業のスポーツへの支援の在り方も“保有”から“サポート”に移行しており、今後は、企業とアスリート双方にメリットのある“雇用”という形態に移行しつつあります。本日、日本を代表するアスリートの生の声を聴いていただき、企業経営者の皆さまにも日本のトップスポーツ・アスリートの在り方について改めて考える場としていただきたいと思います。JOCとしても、その責任として、アスリートに『自覚』と『社会的責任』を持たせるよう、今後も教育していきたいと考えております」と語り、関西経済同友会の関係者に感謝の気持ちを述べました。
続いて、荒木田裕子JOC理事・JOCゴールドプラン委員会副委員長は、「日本のトップスポーツはこれまで企業に支えられてきました。90年代のバブル経済の崩壊後、企業のグローバル化に加え、雇用形態、福利厚生施策などが多様化し、企業のスポーツに対するニーズが大きく変化しました。昨今では、企業理念と結び付けさらにスポーツの強化に取り組む企業と、休廃部による撤退に向かう企業の二極化が進んでいます。その結果、多くのアスリートが支援を失い、また支援先が見付からず、競技生活を断念したり、就職活動と競技生活の同時進行を余儀なくされたり、十分な練習時間の確保に苦労しているのが現実です。アスリートの競技力の向上には、強化体制の国策化が必須で、それは私たちの悲願でもあるが、その実現にはまだまだ時間がかかります。支援先がないアスリートにとっては待ったなしで、ロンドンオリンピックは来年、その後のソチの冬季オリンピックなど世界の舞台が続きます。トップアスリートの雇用には高額の費用がかかると思われがちですが、JOCからの支援もあり、実際はそうではありません。雇用形態も正規雇用だけでなく、様々な形があります」と、トップアスリートを取巻く環境について説明。また、「本日登壇できなかった選手を含め、15競技団体、24名の支援をお願いしたいアスリートのリストをお配りしておりますので、ご覧ください。今後、アスリートとしてのみならず、人間として、社会人として誇れるアスリートを育てていく覚悟でおりますので、世界に夢をはせるアスリートにご支援くださいますようお願いします。本日は、選手5名が登壇しますので、アスリートの声を聴いていただきたいと思います」と支援を求めました。
さらに、朝原宣治JOCアスリート専門部会員が登壇。「現役中から大阪ガスに所属していましたが、海外へも派遣してくれたり、ケガをしたときもサポートしてくれたりしました。さらに、北京オリンピックで銅メダルを獲得したときには、すべての社員から祝辞をいただき、会社も一つにまとまり盛り上がったように感じました。現在は、今までの人脈とアスリートの発信力をフルに生かし、大阪ガスの看板を背負いながら社会貢献をしています」と、現役中の経験談と現在の活動について語りました。
その後、就職先を探している5名が緊張しながらも、それぞれの思いを語りました。
■冨田尚哉選手(水泳/競泳)
「平泳ぎは、日本を制したら世界を制すると言われています。小学生のときから憧れていた北島(康介)選手に勝てた経験を生かし、現在は大きな目標である、ロンドンオリンピックでの金メダル獲得を目指し日々練習をしています。目標達成能力、困難に立ち向かう力は、職場でも生かせると思います」
■附田雄剛選手(スキー/フリースタイル・モーグル)
「福島の企業に11年間お世話になってきましたが、この震災により4月で退社し、現在は就職先を探しながらの練習生活をしています。現在の目標は、ソチオリンピックでのメダル獲得と、子供たちにスキーの楽しさを伝える事です」
■森ゆかり選手(ライフル射撃/ピストル)
「自衛官中の2000年、シドニーオリンピックに出場し、次の北京オリンピックにも挑戦しましたが出場することができず、現役引退とともに自衛隊を退職し主婦となりました。しかし、夢をあきらめられず現役復帰し、昨年ロンドンオリンピックの出場権を獲得することができました。しかし、就職先がなく貯金を崩しての生活が続いています。ロンドンオリンピックにただ出場するだけでなく、震災を受けた方々に希望を持ってもらうためにも、オリンピックでのメダル獲得のために努力したいです」
■黒須成美選手(近代五種)
「ロンドンオリンピック出場権を獲得し、近代五種では、日本人女性として初のオリンピック出場となりました。1年に6回ぐらい韓国で強化トレーニングをしているため、英語と韓国語でのコミュニケーションを取ることができるのは、社会人としても強みだと思っています」
■杉本宏樹選手(トライアスロン)
「先日9月19日横浜で世界選手権があり、日本人2位の12位になりましたが、8位までに与えられるオリンピック内定にまでは至りませんでした。しかし、現在オリンピック出場に向けて必死に練習を重ねています。スポーツには、『心を動かす力』がある。人々に感動を与えられる、社会貢献のできる人になりたい」
「アスナビ」は、平成22年10月に経済同友会の協力により説明会がスタートしました。現在、水泳/競泳の古賀淳也選手が「第一三共株式会社」、水泳/競泳の上田春佳選手とカヌーの竹下百合子選手が「キッコーマン株式会社」、フェンシグ/女子エペの下大川綾華選手が「テクマトリックス株式会社」、ビーチバレーの朝日健太郎選手が「株式会社フォーバル」にそれぞれ就職が決定しています。
JOCは今後も、企業と選手のより良い関係を築くために「アスナビ」による支援を行っていきます。
(写真提供:アフロスポーツ)
CATEGORIES & TAGS