日本オリンピック委員会(JOC)は12月16日、「2021年JOCネクストシンボルアスリート研修会」をオンラインで開催しました。
本研修会は、次世代のシンボルアスリートとして、オリンピックをはじめとする国際総合競技大会において活躍が期待され、JOCネクストシンボルアスリートに認定されたアスリートが、その役割を理解し、自身の行動や競技への取り組みに責任を持つことを目的としています。研修会には15名のネクストシンボルアスリートが参加しました。
はじめに星野一朗JOC専務理事が開会の挨拶に立ち、東京2020大会には12名のネクストシンボルアスリートが出場し、その中から4名がメダリストになったことを紹介。星野専務理事は、この勢いを北京冬季オリンピックやその先の国際大会などにつなげていけるよう、JOCとしてネクストシンボルアスリートの活動を引き続き全力でサポートしていくととともに、「今回、各競技を代表してネクストシンボルアスリートに選ばれた皆さん全員が、先輩アスリートに続いてさらなる飛躍を目指し、将来的にはJOCネクストからシンボルアスリートとしても日本スポーツ界をけん引するような存在になっていただけるよう、心から願っております」と期待の言葉を送りました。
■中村憲剛さんの「スペシャルトークライブ」
続いて、本研修会の最初のプログラムである「スペシャルトークライブ」が行われ、ゲストスピーカーとしてサッカーのJリーグや日本代表として活躍した中村憲剛さんが参加。40歳まで続けてきた長い現役選手生活の中で大切してきたことや思い、初めて日本代表に選ばれたとき、また日の丸を背負って初めてピッチに立ったときの思い出などを語りました。
この中で、中村さんが“変わらず持ち続けてきた思い”として強調したのは「とにかく上手くなりたい」ということ。中村さんは、自身が早い時期から日本のトップで活躍できたわけではなく、プロ生活もJ2からスタートし、日本代表に初選出されたのも25歳という遅咲きだった語りました。そうした経験の中でプロとして生き残っていくためには「まず、自分の武器をしっかりと伸ばさないといけない。また、周りにしっかり合わせる力も持っていなければいけない。自分の中で大事にしている芯と、うまく変えられる柔軟性・順応性が必要だと思います」とポイントを挙げました。これらに付け加えて「自分の意見を主張できる力」と「相手の話を聴く力」、そして何より大事なことは「結果」だと力を込めた中村さん。「当たり前ですが、結果を残さないと日本代表には残れない。そういう意味では“中村憲剛”という選手をずっと代表に置いておきたいと思わせる何かがなければいけない。それは僕だけではなく、みんな一緒だと思います」と述べました。
日本代表として国を背負う戦いについて「自分を成長させてくれる場所でもありました。非常に楽しかったですね」と振り返った中村さんはまた、「失敗した後のリカバー」の重要性についても説明。「成功と失敗を繰り返してきた」という自身の経験から「ずっと成功する選手なんていないと思います。むしろ失敗したときにどうリカバーしていくかが大事。いくらでも落ち込んでいいと思います。そこから這い上がればいいだけですから」と、ポジティブ思考でネクストシンボルアスリートたちにアドバイスを送りました。
そのほか、日本代表となったことで競技以外で感じた気づきや、日本と世界のレベルの違いなどについても言及する一方、東京2020大会については一人の視聴者として手に汗を握りながら応援し「やっぱりスポーツってすごいな、素晴らしいなと改めて思いました」と語った中村さん。最後に、これからの活躍が期待されるネクストシンボルアスリートに向けて「なぜこの競技を始めたのか、それはやっぱり楽しいからだと思います。苦しいときこそ、そのベースの気持ちを大事にしてほしい。また、今回の研修会に参加されている皆さんの可能性は無限大だと思います。ただ、その可能性を自分が思い描いている形にするのは、皆さん自身です。最後は自分の可能性を信じて、その可能性に蓋をせずに、常に向上する気持ちを持ってほしいなと思います。僕は15年間、諦めませんでしたから」と、熱いエールを送りました。
■トップアスリート4名によるトークセッション
次に「トークセッション第1部」として、中村さんに加えて、3名のオリンピアンが参加。陸上の走高跳の日本記録保持者で東京2020大会では日本選手として49年ぶりに決勝進出を果たした戸邉直人選手、東京2020大会の体操女子種目別ゆかで銅メダルを獲得した村上茉愛さん、2012年ロンドンオリンピックのフェンシング男子フルーレ団体で銀メダルを獲得した千田健太さんが「トップアスリートとして得られたもの」「求められる自己管理」「人生設計」などをテーマにそれぞれの経験談や思い出を語り合いました。
これらトークテーマの中で、東京2020大会の成果や競技力向上につながったこととして、学生時代から海外へ渡って世界トップレベルの選手・環境から競技を学んだことや、実技のみならず科学的なアプローチから走高跳やスポーツを研究してきた点を挙げた戸邉選手。一方、オリンピック2大会に出場している村上さん、千田さんは2度目に出場した大会でメダルを獲得しており、その要因として「意識、準備の違い」を強調しました。
また、これまでの競技生活におけるモチベーションの推移を各自がグラフにしたパネルでは、4名それぞれが特徴的な曲線。特に中村さんは小・中学生時代に大きな浮き沈みの波があった後は、引退するまで最高のモチベーションを保つ一直線のグラフを描いており、これを見た村上さんは「最初は20代での浮き沈みかと思っていたんですけど、子供の頃からのことだったので、中村さんは若いときから真剣にサッカーに向き合っていたんだなと思いました(笑)」と、目を丸くして感想を述べていました。
最後に、これからの人生設計について、千田さんは「今後さらにスポーツの知見を広めていきたい」と語り、戸邉選手は現役アスリートとして「ここからさらにパフォーマンスを上げられるように」と宣言。また、指導者の道を歩む村上さんは「選手と年齢が近いからこそ、私にしかできないことで一緒に成長していきたい」、同じく中村さんは「日本サッカー界に貢献していきたいし、勉強しながら独自の指導を追求していきたい」と、思い描いている今後の展望を語りました。
■橋本大輝選手と素根輝選手、東京2020大会で活躍したネクストシンボルアスリートがトークで交流
続いて行われた「トークセッション第2部」では、東京2020大会で金メダリストとなった2名のネクストシンボルアスリートが参加。体操男子個人総合と種目別鉄棒で金、団体で銀メダルを獲得した橋本大輝選手、柔道女子78キロ超級で金、団体で銀メダルを獲得した素根輝選手が「東京2020大会を振り返って思うこと」「1年の大会延期」「自身の変化」など、様々なトークテーマをもとに自身の考えなどを語り合いました。
東京2020大会を振り返る中で、橋本選手は「チームの目標である団体での金メダルが達成できなくて悔しかった。個人の目標としては満足していますが、嬉しくもあり、悔しくもあった大会でした」と総括。一方、東京2020大会を経ての自身の変化について、素根選手は「たくさんの方に支えられ、感謝の気持ちを忘れてはいけないと改めて思うようになりました」と述べました。
また、休日の過ごし方や趣味、体操選手や柔道選手ならではの癖などを紹介し合い、互いに聞いてみたいことを質問するなど、ネクストシンボルアスリート同士で意気投合していた両選手。オンライン上でもネクストシンボルアスリートから寄せられた質問に答えるなど、これからの日本スポーツ界を担う同世代の選手同士で交流を深めました。
■「インテグリティ教育」を実施
次に、本研修会における最後のプログラムとして「インテグリティ教育」を実施。講師を務めた上田大介JOC選手強化本部インテグリティ教育ディレクターは、スポーツが社会からの信頼を確保するために選手に実践してほしいこととして、リスクマネジメントを徹底し、自身の判断基準を持つことの2つを挙げました。また、東京2020大会でも大きな問題となったSNSでの誹謗中傷についても言及。自身の心の健康を守るための方法として「SNSの機能の設定の見直し」「SNSと向き合う心の設定の見直し」などについて説明しました。
これらを踏まえ、上田ディレクターは最後に“やっぱり、スポーツっていいね”をキーワードとして「スポーツをする人はクリーンでフェアなプレーを全力でやりましょう。見る人に対しては果敢に挑戦する姿で、勇気や感動、希望を届けていただければと思います。そして、普段から支えてくださる方々にはちゃんと伝わる形にして感謝の気持ちを届ける。ここにいる皆さんの若い力とアイデアを使えば、色々なアプローチが出てくると思います。ぜひそれを皆さん一人ひとりが一つでもやっていただけたら、スポーツと社会の距離は縮まるのではないかなと思います」と呼びかけました。
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