日本オリンピック委員会(JOC)は11月8日、味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに209社/団体336名(2021年11月8日時点)の採用が決まりました。
説明会は北区、板橋区、東京商工会議所7支部(文京、北、荒川、豊島、板橋、足立、練馬)との共催で行われ、12社15名が参加しました。
最初に主催者を代表して岩渕健輔JOC理事が挨拶に立ち、「ここ北区で初めてトップアスリート専用トレーニング場が設置されて10年が経過しました。この夏に開催された東京2020大会において、NTC施設をフル活用したトップアスリートによる数多くのメダルが生まれました。我が国トップアスリートを取り巻く環境は、オリンピックの成績も踏まえて非常に前向きなところがございます」とこれまでの10年を振り返りました。「一方でトップのアスリートたちが必ずしもそういった環境で競技に打ち込めている状況ではございません。ここにいるアスリートも経済的なところがしっかり落ち着いてくれば、今よりもさらに記録が伸びて、オリンピックで活躍できるアスリートになっていってもらえると思っております。ぜひ皆さま方にはオリンピック・パラリピックをともに目指す『TEAM JAPAN』の一員であるということでぜひ、ご一緒になって前に進めていくことができれば幸いです」と、参加企業に向けてアスリート採用を呼びかけました。
続いて、共催者を代表して花川與惣太北区長が「東京2020大会では、アスリートの方々が感謝の気持ちを伝える場面を数多く拝見し、所属企業などアスリートを支える環境の大切さを改めて感じました。アスナビで採用された北区ゆかりのアスリートも出場され、区民に大きな希望を与える大会でもありました」と挨拶しました。
同じく共催者を代表して、坂本健板橋区長が「アスリートの皆さまがご自分のパフォーマンスを100%以上発揮するために、ご自分のスキルだけではなく、地域や企業の皆さまのご支援がなければならないと思っております。SDGs(持続可能な開発目標)を含めスポーツによる地域の活性化により、いろいろな意味での相乗効果が地域に新しい価値を作るものだと感じております」と支援を呼びかけました。
続いて、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターが、動画を用い、アスナビの概要と、過去にアスナビを通じて採用されたアスリートと採用企業の担当者のコメントを紹介。さらに資料をもとに夏季・冬季競技それぞれの採用人数、採用された競技などを説明しました。また、JOCアスナビチームが採用後に行っている選手を集めての社会人教育を目的とした研修会や企業向けの情報交換会などのサポートプログラムの事例が語られました。
次に、採用企業の選手活用事例として、2017年4月に森本麻里子選手(陸上競技・三段跳)を採用した内田建設株式会社・内田眞代表取締役が登壇しました。森本選手は、陸上競技・三段跳の日本陸上競技選手権大会3連覇中で、冬季競技のボブスレー選手としても活躍しています。内田代表取締役が森本選手を採用した背景や経緯、普段の勤務状況と内容、地域社会とのコミュニケーション、大会の応援を含めた支援体制などを紹介しました。土木・建設業で新規の採用が難しいなか、「森本選手が入ってから2名、女性の技術者を採用することができました。そういった意味で森本選手の効果は大きいと思います」とトップアスリート採用の有用性をアピールしました。また森本選手自身についても、「日本陸上選手権で優勝し、ボブスレー日本代表にもなり、日の丸をつけて競技に挑んだ頃からさらに強くなったと思います」と、アスナビ社員としての責任と自覚を持つようになってから大きく成長していると評価しました。
続いて、オリンピアンからの応援メッセージとして、東京2020大会においてフェンシングのエペ団体で金メダルを獲得した宇山賢さんがスピーチをしました。
宇山さんは、自身もアスナビを通じて就職活動を行ったエピソードや引退後のキャリアプランを紹介。「ありがたいことにアスナビの中で第一号の金メダリストの称号をいただくことができました。今後はアスナビのサポーターとして、オリンピックを目指したいのに環境がなかなか整わない選手たちをひとりでも引き上げるお手伝いをしていきたいと思います。今回の説明会を通じて、まずは選手のファンになっていただき、そこからアスナビという制度を知っていただける場になることを望んでいます」と述べました。
最後に、就職希望アスリート7名がプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像での競技紹介や競技のデモンストレーションなどで自身をアピールしました。
■増田陽人選手(フェンシング)
「選手としてだけではなく、働かせていただく上で目標があります。それは会社内で応援されるアスリート社員になること、会社にきちんとした形で貢献することです。競技・仕事の両立は難しいですが、私は両立するための2つの強みがあります。1つ目はPDCAサイクルを基本として、受験や競技で成果を出してきたことです。2つ目は大学の講義で学んだ分析力です。大学入学当初は結果を出すことができませんでしたが、映像やデータを分析して、これまでのプレースタイルを変更し、2019年U-20W杯で個人2位という成績を収めることができました。フェンシング男子エペは東京2020大会で金メダルを獲得しました。先程スピーチをしていただいた宇山選手らといっしょに練習をすることで、世界一になるためには何が必要かを肌で感じ、私にとって大きな財産となりました。私自身がパリオリンピックで活躍するために、今後自分の強みをさらに磨きをかけ、金メダルを獲得したいと考えております。それと同時に会社では、自分から積極的に働きかけ、できることをやっていきたいと思います。ぜひご検討のほどよろしくお願いいたします」
■野村綾之介選手(体操/トランポリン)
「私の目標はパリオリンピックでのメダル獲得です。私の強みは徹底した自己分析力と、努力を継続しておこなう力です。これまで数多くの挫折や失敗を経験してきましたが、そのたびに自分には何が足りないのか、何をすべきなのかを自分の中で明確にし、効率的な練習メニューやトレーニングをおこなうことで、自身の強化に繋げてきました。その結果、世界年齢別トランポリン競技大会での銅メダル獲得、全日本トランポリン競技選手権大会での2冠を果たすことに繋がりました。また世界トランポリン競技選手権大会の日本代表にも内定することができました。私はトランポリン競技を通して、技術力はもちろん人間力でも大きく成長してきたと自負しています。特に高校生から現在までおこなっている児童へのトランポリンの指導経験から、入社後は自身の指導と競技での2つの経験を生かし、積極的に社会や企業に貢献していきたいと考えております。どうか私を採用してください。よろしくお願いします」
■甲斐瑠夏選手(トライアスロン)
「私の目標はパリオリンピック出場です。私が大切にしている言葉は感謝の力です。全てに感謝する気持ちを忘れずに力にできるアスリートこそ、私の目指す本物のアスリートです。昨年はコロナ禍で部活動がおこなえず実家での練習がメインとなりましたが、大学生活中に養った計画性や競技力向上のための専門的な知識を駆使した結果、東京都トライアスロン選手権では3位、日本学生トライアスロン選手権では4位、日本トライアスロン選手権では15位の成績を収めることができました。今年は学生トライアスロン界史上初となる全学生レース男女団体アベック優勝を達成、個人の成績としては三重国体の東京代表に選出していただき、13位の成績を収めることができました。大学卒業後は競技者として、一社会人として、全てに感謝の気持ちを忘れず何事にも積極的に前向きに取り組んで参ります」
■大玉華鈴選手(陸上競技/七種競技)
「陸上競技は小学4年生から始め、中学2年生から今まで全国大会入賞は途切れることなく競技を続けてきました。どんな時も前向きでいられる強い精神力、大きな自信、そしていつも明るく社交的な性格が今までの結果につながったのではないかと思っています。大学では1年時にアジアジュニア優勝、2年時から全日本インカレで3連覇を成し遂げることができました。しかし、私が目指しているところは世界です。まだまだ種目柄、厳しいと言われていますが、私の目標は日本記録更新、そして世界の大会で活躍することが目標です。社員の方々とのコミュニケーションを積極的にとり、自身のさらなる成長はもちろん、会社の成長のためにも全力で取り組み、仕事と競技の両立をお約束いたします。まだまだ今現在も成長段階だと思っています。常に感謝の気持ちを忘れずに、明るく前向きな性格を強みに目標をより現実的にしていくためにも、レベルアップし続ける環境をいただけたらと思います。ぜひ私を採用してください。どうぞよろしくお願いいたします」
■渡部雄貴選手(セーリング/ナクラ17級)
「現在、オリンピックを目指す活動と同時進行で広報の仕事をしています。セーリング競技のプロリーグのPR担当として、プレスリリースを出したり、フォロワーが約10万人いるフェイスブックやインスタグラムなどSNSの管理をさせていただいています。もし私を採用していただけましたら、そうした広報の仕事であったり、英語力を生かしていきたいと思っています。また、セーリング界では世界で課題になっている気候変動に関してかなり力を入れております。この取り組みも日本で広めていきたいと思っていますが、オリンピックの活動に関しても様々なメッセージを発信していきたいと思っています。どんなに向かい風が吹こうがチャレンジし続けることの大切さであったり、特に海洋プラスチックごみの深刻さについてです。普段の生活でも環境についてものすごく考えるようになりました。数多くある選択肢の中から物やサービスを選べるようになった今、スポーツを通して私たちで環境を良くしていきましょうというメッセージを発信して、社会に少しでも貢献していきたいと思っています」
■重弘喜一選手(スケート/ショートトラック)
「高校生の時に全日本ジュニアオリンピックカップで総合優勝し、第2回冬季ユースオリンピックでは混合リレーで銀メダルを獲得しましたが、大学1年生の時に眼窩底骨折の大ケガをしてしまい、スピードを出すことへの恐怖心が強くなっていくのを感じました。しかし、その中でも諦めずに努力を積み重ねた結果、2年前に初めてW杯の代表に選考され、今年1月に行われた全日本選手権では500mで優勝を果たすことができました。私は、競技を通して諦めずに続けることで、人は変われるということを体現することができたと思っています。そして、これらのことは社会においても必要な能力であると考えており、採用していただいた企業様に最大限に貢献させていただきます。支えてくださる方々への感謝を忘れず、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季オリンピックで金メダルを獲得するという大きな目標に向かっていく姿をお見せすることで、皆様に勇気を届けられるよう、精一杯頑張ってまいります」
■齋藤駿選手(スケート/ショートトラック)
「私は4人兄弟の末っ子で、小学1年生のころ、ショートトラック競技をしていた姉、兄に憧れ、この競技を始めました。兄姉の背を追い、競技を続けることで世界ジュニア選手権及びW杯に出場できるまでに成長することができました。この競技を続ける理由はただ一つ、達成したい目標があるからです。それは、世界一小さな世界チャンピオンになることです。ショートトラックを通して、私はこの小さな体で今まで多くの目標を達成してきました。目標を達成する中で、不利な状況でも諦めず、自分の持っている知識や技術を駆使し体現してきました。その経験は、物事を違う視点から見ることで絶えず工夫し続ける力を私に与えてくれました。どのような環境に置かれても自分を成長させ、結果を出すことで、逆境の中でも企業様に貢献していきたいと思います。所属させていただく企業様のためにも、自分で掲げた目標を達成できるよう一生懸命頑張りますので、ご採用のほどよろしくお願いいたします」
説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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