日本オリンピック委員会(JOC)は6月22日、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会をオンライン形式により実施しました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに207社/団体、330名(2021年6月22日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会は、一般社団法人新経済連盟の会員企業も含め、20社30名が参加しました。
最初に、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターがアスナビの概要を説明。「いよいよ東京2020大会開催まで1カ月となりました。アスリートや大会関係者は一生懸命準備をしております。ぜひ安心安全な大会を期待しております。また、アスナビを通じて就職を果たしたアスリートも数多く出場内定しており、大変楽しみです」と述べると、映像、資料をもとに雇用条件、夏季・冬季競技それぞれの採用人数、採用された競技、アスリート活用のポイント、カスタマーサポートなどを紹介しました。
次に、アスナビ採用企業事例紹介として、2018年4月に森下⼤地選⼿(陸上競技・砲丸投)、19年4月に奥⽥啓祐選⼿(同・⼗種競技)、今年4月には川⼝紅⾳選⼿(同・円盤投)を採用した株式会社ウィザスの中上紳一郎氏が登壇。選手たちとの出会い、アスリート社員の日常、学びと今後など、同社の活動内容を紹介しました。中上氏は同社が求める人物像として、「自己成長(自らの成長に視点を置く)」「他者貢献(自分以外の人たちを喜ばせる意識)」「ベストを超える」の3点を挙げ、アスリートはそのいずれも網羅している旨を説明。また、中上氏は企業側に求められる姿勢に「競技に寄り添うことが重要」と話し、「あくまでも私たちはファシリテーター、コーディネーターという立場で接してあげること、それから外とのつながりや社内への関係性づくりに少し目配せ気配せしてあげることが重要になっていくかと思います」と、選手との接し方についてポイントを述べました。
最後に、就職希望アスリート8名がそれぞれの場所からリモートでプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像での競技紹介などで自身をアピールしました。
■甲斐瑠夏選手(トライアスロン)
「私がここまで成長することができたのは家族をはじめ、たくさんの方々の支えがあり、環境にも恵まれたからです。感謝の気持ちが一番の力になると思っております。この気持ちを忘れずに力にできる者こそ、私が目指す本物のアスリートです。昨年はコロナ禍で部活動を行えず、実家での練習がメインとなりました。練習は一人で行いましたが、大学生活中に養った計画性、競技力向上のための専門的な知識を駆使した結果、東京都トライアスロン選手権では3位、日本学生トライアスロン選手権では4位、日本トライアスロン選手権では15位の成績を収めることができました。今年は先日行われた東京都トライアスロン選手権で3位に入り、日本選手権の出場枠を獲得することができました。大学卒業後は競技者として、一社会人として、働かせていただいていることを当たり前と思わず、何事にも積極的に、前向きに取り組んでまいります」
■蔦奎弥選手(水泳/水球)
「私の夢は日本代表としてオリンピックでメダルを獲得し、水球の認知度を向上させることです。水球は日本ではマイナースポーツとされ、あまり知られていないのが現状です。オリンピックで活躍することで、水球をメジャーにしたいです。私が水球で培ってきた能力は2つあります。1つ目は忍耐力です。水温18度での8時間にわたる練習など、肉体的、精神的につらい環境に直面しても対応できたので、今後どのような環境下でも適応し、結果を残し続けられます。2つ目はリーダーシップです。私は高校、大学で主将を務め、全体をけん引しつつも、定期的なミーティングや個別面談の時間を取り、そこで出た意見をチーム活動に取り入れることで組織全体を底上げしました。大学卒業後、企業に就職しながら競技を続けることを希望しますが、それは今まで以上に困難な課題や苦悩に直面すると思います。しかし、水球で培ってきた忍耐力とリーダーシップを生かして、企業の社員とチーム一丸となり困難な課題を乗り越え、仕事と競技を両立させていきます」
■花車優選手(水泳/競泳)
「私は高校生の時、国際大会に出場しても思うような結果が出ず、悔しい経験をしたことで、世界で活躍したいという思いが強くなり、大学は数々のメダリストを育て上げた平井伯昌先生が指導する東洋大学に進みました。平井先生と200m平泳ぎの世界記録保持者や北島康介さんの映像を見たり、それについて話し合ったりする中で、知り得なかった技術を数多く学ぶことができました。今年は日本選手権で6位に入賞し、さらにジャパンオープン大会では自己ベストを更新してオリンピック内定選手を破って2位に入り、調子を上げることができています。私の目標は、2024年パリオリンピックでのメダル獲得です。そのためには競技力を向上させなければなりませんし、人間としての成長も求められます。社会に身を置き、仕事と競技を両立していくことで、私は社会人としても、選手としても成長していけると信じております。競泳競技で培った、集中力やコミュニケーション能力などを生かし、必ず企業の皆様の力になることを約束いたします」
■中島涼選手(水泳/競泳)
「4月に行われた日本選手権400m自由形において、自己ベストを大幅に更新して優勝しました。ただ、オリンピックの派遣標準記録まであと0.6秒足りず、初優勝のうれしい気持ちと、オリンピック出場を逃した悔しい気持ちが同時に沸き上がってきました。しかし、私にとってこの成績は大きな自信を与えてくれたと同時に、正しい努力を積み重ねることが大きな結果へとつながっていくことを実感いたしました。私の目標は2024年パリオリンピックでメダルを獲得することです。そのためには、多くの国際大会や多くの日本代表経験を増やし、自分の競技レベルを世界レベルまでいち早く引き上げます。私は応援してくれる方々の期待に応え、結果を残すことがアスリートとしての最大の恩返しだと考えております。支援していただける企業の期待に必ず応え、社員の皆様に感動や勇気を届けて、アスリートならではの貢献をしていきたいです」
■新嶋莉奈選手(セーリング)
「私は元プロウインドサーファーだった父の影響で、17年間競技を続けています。しかし、続けることは簡単ではなく、特に一番苦労したのは勉学と競技の両立でした。私は2014年の南京ユースオリンピック代表選手に内定していましたが、同年に高校受験を控えていました。最初は競技と勉学のどちらを優先するか悩みましたが、優劣をつけずに頑張ることにしました。その結果、大会では7位入賞、高校受験では志望校に合格できました。大学進学後はシニアに転向し、このころから本格的に東京2020大会を目指し始めました。しかし、経験がものをいう競技で年長の先輩方に勝つことは簡単ではありませんでした。そこで私は自分のスキルを分析しました。客観的な分析には苦労しましたが、自らの弱みを認め、周囲に打ち明けることによって、早くスキルアップができました。代表にはなれませんでしたが、この経験を若いうちにできたことは今後の競技人生の糧になると思います。もし私を応援してくださる企業がありましたら、常に感謝の気持ちを忘れずに活動し、感動を与えられたらと思います」
■井上暉央選手(カヌー/スプリント)
「私のアスリートとしての目標は2つあります。1つは、2024年パリオリンピックへの出場です。オリンピックは4年に1度の大切な試合です。一流のアスリート達しか出られません。彼らと競い合い、勝つことで、両親や恩師、サポートしてくれた方々への恩返しになるのではと考えています。2つ目の目標は、人に応援されるアスリートになり、多くの人に夢や希望を与えることです。私は、これまでの競技生活で多くの不安や挫折を味わってきました。心が折れそうになったことも少なくありません。それでも頑張ってこられたのは、応援してくれた方や世界で活躍しているアスリートがいたからです。なので、次は私が社員の皆様の力となり、共に夢を追いかけ応援し合える関係になる。それが、私の目標です。カヌーという競技は日本ではまだまだマイナーな競技です。そのスポーツへの投資という意味では難しいかもしれません。しかし、私にはオリンピック出場や社員の皆様と応援し合える関係になる自信があります。共に夢に向かって歩める企業で働ければと思っています」
■重弘喜一選手(スケート/ショートトラック)
「大学1年生の時に行われた選考会で、眼窩底骨折の大ケガをしてしまい、スピードを出すことへの恐怖心が強くなっていきました。しかし、その中でも諦めずに努力を積み重ねた結果、2年前に初めてW杯のメンバーに選考され、世界のトップレベルを肌で体感する機会を得られました。そこで私が感じたのは、技術はもちろんのこと、トップスピードの違いでした。私が最大の目標としている、オリンピックでの金メダル獲得を実現するためには、スピードへの恐怖心を克服しなければならず、勇気をもってトップスピードを強化する練習に取り組みました。その結果、今年1月の全日本選手権では500mで優勝を果たしました。私は、競技を通して諦めずに続けることで、人は変われるということを体現することができたと思っています。そして、支えてくださる方々への感謝を忘れず、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季オリンピックで金メダルを獲得するという大きな目標へ向かっていく姿をお見せすることで、皆さんに勇気を感じていただけるよう、精一杯頑張ってまいります」
■齋藤駿選手(スケート/ショートトラック)
「私は4人兄弟の末っ子で、ショートトラック競技をしていた姉、兄に憧れ、この競技を始めました。兄弟の背を追い、競技を続けることで世界ジュニア選手権及びW杯に出場できるまでに成長することができました。この競技を続ける理由はただ一つ、達成したい目標があるからです。それは、世界一小さな世界チャンピオンになることです。『非常識と言われていたことでも、勝てば常識に変わる』。この言葉は長野オリンピック金メダリストの清水宏保選手が言った言葉です。この言葉を知った時、私は小さな体では勝てないという周りからの評価を覆したいと考えました。また、世界一小さな世界チャンピオンになるという、大きな目標を達成することにより、長野大会以降オリンピックでメダルを取れていないショートトラック競技に、新たな風を吹かせたいです。どのような環境に置かれても、自分を成長させ、結果を出すことで、逆境の中でも企業に貢献していきたいと思います」
説明会終了後には、選手と企業関係者との情報交換会がブレイクアウトルームの機能を活用して行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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