日本オリンピック委員会(JOC)は4月21日、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を、オンライン形式により実施しました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動を続けることのできる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに206社/団体、329名(2021年4月21日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会には10社11名が参加しました。
最初に、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターがアスナビの概要を説明。「いよいよ東京2020大会まで100日を切りました。アスナビを通じて就職したアスリートの中からも出場内定という選手が出ており、心から嬉しく思っています。今日は東京2020大会、北京冬季オリンピックはもとより、それ以降の大会も見据えてという選手もいますので、後ほどぜひ選手のプレゼンテーションをご確認いただければと思います」と述べると、映像、資料をもとに雇用条件、夏季・冬季競技それぞれの採用人数、採用された競技、アスリート活用のポイント、カスタマーサポートなどを紹介しました。
続いて、「アスリートのもつ資質がビジネスにいかに役立つか」をテーマに、太田雄貴日本フェンシング協会会長、皆川賢太郎日本アーバンスポーツ支援協議会理事によるオリンピアン対談が行われました。
現役選手時代に企業から受けたサポートや応援体制を振り返る中で、皆川理事は「今はアルペン選手、ウインタースポーツの選手たちも所属先を探すのが非常に大変。昔はどちらかと言えばスポーツだけやっていれば応援してくれるという風潮もありましたが、今の現役選手たちはアスリートだけじゃない存在価値を求められる」と指摘。同調した太田会長も「自分が競技でやっている特性を応援してもらえるというよりは、例えば自分がメダルをとるとこういうことが起きるんだという大義のようなものがあると、そこに共感を覚えた企業さんたちが応援してくれるようになったりすると思うんです」と述べました。
このように、現在のアスリートには競技以外のものも求められると話す一方で、太田会長は「企業さん側から見た場合、この選手をアイコンとしてどう使うかというのをちゃんと決めてから採用した方がうまく行くと思います。ざっくりとした方針でうまく行くケースはその選手が自分で考える力が相当あるから。普通は22歳くらいの新卒の社員が自分で考えて上長に提案するなんてことはまずないと思いますので」と企業側にアドバイス。これを受けて皆川理事も「選手たちは自分がやっていることとビジネスシーンがうまくリンクしていない。ビジネスは大人の世界という感覚になってしまう。企業さんがスポーツを応援したいと思っても、それをどう活用したらいいのかということをスポーツ界がなかなか提案できていない」と課題を述べました。
対談の締めくくりに、皆川理事は「必要なのは選手が自分自身を売れるものとしてちゃんと伝えられるか。これは現役時代もその後も必要なことなので、選手には今日が実りある日になってほしいですし、企業の皆さんには彼らの未来を切り開いて一緒に育てていただきたいと思います」、太田会長は「選手の皆さん、今日はいっぱい緊張しましょう。緊張はこれまでやってきた自信の表れだと思います。いっぱい緊張して、いっぱい恥もかいて、自分らしさを存分に出して頑張ってください。応援しています」とそれぞれエールを送りました。
最後に、就職希望アスリート7名がそれぞれの場所からリモートでプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像での競技紹介などで自身をアピールしました。
■古野慧選手(スキー/フリースタイル)
「今回は私がこれまでに得た経験及び強みについて紹介いたします。一つ目の強みは時間の使い方、マルチタスク能力です。私は幼い頃からスキーだけでなく自転車競技にも取り組み、両種目で世界を舞台に戦ってきました。効率良く練習することで時間を生み出し、質と量の両方を高いレベルで求めてきた結果だと考えています。二つ目の強みは分析力です。スキークロスで勝つためには技術、体格、道具などさまざまな要素が必要です。例えば体格面に関して、ワールドカップ(W杯)上位40人の身長・体重を調べたところ、平均186センチ・86キロであることが分かりました。そこからトレーナーやコーチと試行錯誤しながら、2年間で10キロ以上の増量に成功しました。結果、W杯でも十分に戦える手応えを感じています。私はこれまで、あらゆる面において現状を分析し、解決策を導き出すことで競技力を向上させてきました。企業の皆さまには、世界で戦うアスリートだからこそ伝えられることや、新たな視点を提供できるよう努めてまいります」
■重弘喜一選手(スケート/ショートトラック)
「私はショートトラック競技を通して、諦めずに続けることで人は変われるということを体現できたと思っています。私の強みは状況に応じた戦略を立て、スタイルを変えることができる柔軟性と行動に移せる判断力です。ショートトラックは常に駆け引きが行われているので、決められたことをただこなすだけでは勝つことはできません。周りの状況を把握し、今何をするべきなのかを考えることで、競技成績を残すことができています。そして、これらのことは社会においても必要な能力であると考えており、採用していただいた企業に最大限に貢献させていただきます。そして、支えてくださる方々への感謝を忘れず、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季オリンピックで金メダルを獲得するという大きな目標に向かっていく姿をお見せすることで、皆さんに勇気を感じていただけるよう、精一杯頑張ってまいります」
■塩見綾乃選手(陸上競技)
「私の強みは周囲の意見や立場を尊重し、その上で自分がどのような役割を果たすべきかを理解しながら行動できるところです。誰かのために尽くす思いを大事にしており、採用していただいたら支えてくださる方々に自分が活躍する姿で感謝を伝え、会社作りにも貢献していきたいです。大学では多くの海外遠征を経験してきました。海外の選手はアスリートである反面、一人の女性であることも大事にしていて、ファッションやパートナーとの生活を楽しんだり、レース後には一緒に走った選手の健闘を称え合う姿を見て、日本の選手にとってのアスリートの概念とは捉え方が違うように思いました。私はこのような経験からこういった概念を覆し、大きく変化していく必要性を感じています。そのため私が率先して行動を起こし、自らの経験を活かしながら変えていきたいと思っております。私は今、東京2020大会の出場ラインに近く、日本人初となる(800mでの)1分台を目指しています。どうか私を採用していただきますよう、よろしくお願いいたします」
■本間大晴選手(スポーツクライミング)
「スポーツクライミングは7歳の頃から始めました。競技の魅力であるコースを登りきった時の達成感に魅せられ、基礎能力を固めることからトレーニングに励みました。高校からはコンスタントに成績を出せるようになり、ジュニアオリンピックで2連覇を達成できました。そして、大学入学後には日本代表権を獲得し、ワールドカップ準優勝まで勝ち上がることができました。これまで培ってきた、目標を定めて努力を重ね結果が出るまでしつこいほど取り組み続ける心の強さが、私の武器になります。私の一番の目標は2024年パリオリンピックで金メダルを獲得することです。14年間のクライミング生活の中で家族、知人、競技団体の方々、サポートしてくださる企業、地元の方々に応援していただきました。これまで支えてくださった方々のために、活躍する姿をお見せして、応援して良かったなと思えるよう、ご恩を返したいです。クライミングや仕事を通して社会に貢献できる社会人になりたいです。精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします」
■鈴木瑠奈選手(スキー/スノーボード)
「私は17歳で本格的にスノーボードを始め、20歳でプロ資格を取得しました。その後国内で成績を残し、スノーボード歴わずか5年で日本代表入りを果たしました。昨季は国内ポイントランキング3位まで上り詰め、代表入り初年度にしてワールドカップ選考基準をクリアしましたが、新型コロナウイルスの影響で出場することができませんでした。それでも夢を諦めることができず、どうすればいち早く活動を再開できるのかを必死に考えた結果、できる限り自分で資金を調達するという結論に至り、去年の11月に新規ビジネスを立ち上げました。ただ、資金を全額調達するには遠いのが現状で、就職先が見つからないと活動を再開できない状況に置かれています。バイリンガルとしてのバックグラウンドと、他の選手には絶対に負けない行動力と思考力で、これからも世界に挑戦したいです。企業の皆さまにとっても、今までなかった思考や価値観を与えられる人材になれるかと思います。これからも夢に向かって走っていけるよう、お力をお貸しください」
■井上暉央選手(カヌー/スプリント)
「大学時代に椎間板ヘルニアを患いましたが、持ち前のコミュニケーション力と忍耐力を活かし、教授に効率的なストレッチを聞きに行くとともに、有効なトレーニングを勉強した結果、4年生の時には大学選手権で個人MVPと総合2位をいただくことができました。このような経験を活かし、どのような仕事にも根気強く取り組みます。私の今後の目標は二つあります。一つは2024年パリオリンピックに出場し、メダルをとることです。オリンピックに出場し、そこで勝つことで自分の両親や恩師、応援してくださった方々への恩返しになると思っています。二つ目は多くの人に夢や希望を与えられるアスリートになることです。私はこれまでの競技生活の中で多くの不安や挫折を味わってきました。それでも頑張ってこられたのは、応援してくれる方や世界で活躍しているアスリートたちがいたからです。次は私が社員の皆さまの力となり、一緒に夢を見て応援し合えるアスリートになることが目標です」
■渡部晃大朗選手(トライアスロン)
「私は昨年までは企業に所属しながら競技を行うアスリート社員として、活動を行ってまいりました。しかしながら、新型コロナウイルスの影響などで企業を離れ、現在はアルバイトをしながら生活費、遠征費を工面しつつ、空いた時間で必死にトレーニングをして、エリート強化指定選手として活動しています。私はトライアスロン競技を通じて、試合に向け入念な準備・計画をすること、予想外のアクシデントが起きても臨機応変に対応し迅速な意思決定をすること、そして、どんな状況になっても最後まで諦めずに全力でやりきることを学びました。仕事においても何事にも積極的に取り組み、確実に成果を出すこと、また、自分の競技活動を通じて社員の方々の士気を高め、企業のイメージアップにもつなげられると確信しております。私は自分自身がオリンピックに向け、企業の理解をいただきながら、仕事と競技の両立を図り、最大限に良い環境で打ち込みたい。そして、社員のみなさまと一緒に成長していきたいと考えております」
説明会終了後には、選手と企業関係者との座談会、交流会がオンラインで行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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