日本オリンピック委員会(JOC)は3月10日、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を、オンライン形式により実施しました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動を続けることのできる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに206社/団体、329名(2021年3月10日時点)の採用が決まりました。
説明会は公益社団法人経済同友会の会員を対象に行われ、13回目となる今回は11社12名が参加しました。
最初に、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターが、資料をもとに雇用条件、夏季・冬季競技それぞれの採用人数、採用された競技、アスリート活用のポイント、カスタマーサポートなどを説明。それらアスナビの概要とともに「選手としては競技が続行できる、あるいは企業・社会への貢献ができるという『Win』、企業さまとしては一体感の醸成、社員の方の士気の高揚という『Win』。このWin-Winの関係を築いていこう、目指していこうというところがアスナビの目的です。本日は選手たちも緊張してプレゼンテーションの準備をしておりますので、最後までぜひご覧いただければと思います」と述べました。
続いて、アスナビ採用企業事例紹介として、2019年4月にレスリングの遠藤功章選手を採用した株式会社東和エンジニアリングの新倉恵里子代表取締役社長が、大会での応援体制を始め、社員の家族を招いたイベントやレスリング教室、ブログによる情報発信など遠藤選手の同社での活動を紹介しました。
また、同社は映像、音響、ICT(情報通信技術)の分野におけるオフィス、ホール、会場などの構築を事業としており、2016年ごろから東京2020大会会場にも携わるようになったことから「この会場で主役になる選手が社員にいたらいいなという思い」でアスナビを通じてアスリートを採用するに至ったと新倉社長は説明。続けて、採用してからの2年間を振り返り「遠藤選手がオフィスに来ると自然と拍手がわきます。これは遠藤選手の活動が社員に感動を与えている表れだと思います。遠藤選手は会社の中で人事、総務、営業などの業務をしているわけではありません。しかしながら、競技をしている姿を見る、あるいはこうした選手が今頑張っていることを私たちのお客さまとともに共有することが、私たちにとってとてもありがたいことだと思います」と、アスリート採用による一体感醸成の効果の大きさを語りました。
さらに、同社は遠藤選手に続き、日本財団パラリンピックサポートセンターが主催する「あすチャレ!Academy」に参加したことをきっかけにパラ水泳の川辺多恵選手を2020年4月に採用。新倉社長は「選手、取り巻く環境、そして私たちの会社の社員とその家族までもがこの2人を応援しながら、本当にオリンピック・パラリンピックの開催を心の底から願っています」と述べました。
最後に、就職希望アスリート6名がそれぞれの場所からリモートでプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像での競技紹介などで自身をアピールしました。
■齋藤駿選手(スケート/ショートトラック)
「私は小学校1年生のころ、ショートトラックをしていた兄、姉に憧れ、この競技を始めました。現在は北京冬季オリンピック、およびミラノ・コルティナダンペッツォ冬季オリンピックに向けて練習をしています。この競技を続ける理由はただ一つ、達成したい目標があるからです。それは世界一小さな世界チャンピオンになるということです。ショートトラックを通して、私はこの小さな体で多くの目標を達成してきました。目標を達成する中で、不利な状況でも諦めず、自分の持っている知識や技術を駆使し体現してきました。その経験は、物事を違う視点から見ることで絶えず工夫し続ける力を私に与えてくれました。どのような環境に置かれても自分を成長させ、結果を出すことで、逆境の中でも企業に貢献していきたいと思います。所属させていただく企業のためにも、自分の目標を達成できるよう一生懸命頑張りますので、ご採用のほどよろしくお願いいたします」
■山名里奈選手(スケート/ショートトラック)
「私がショートトラックに出会ったのは小学校3年生の時でした。最初は『楽しい』という気持ちだけで滑っていましたが、なかなか結果が出ず、良い思い出ばかりではありませんでした。しかし、壁にぶつかるたびに自分を分析し、コツコツと練習を重ね、課題を克服していくことで、だんだんと結果を出せるようになってきました。さらに、今年の全日本選手権では初の総合優勝を達成し、日本代表選手として世界選手権の代表に選出されました。これらの経験の過程の中で、オリンピックでメダルを獲得する夢は目標に変わり、その気持ちがだんだんと大きくなってきました。目標達成のためには先を見据えてトレーニングすることと、周りの方々の応援やサポートが必要であると考えています。採用していただけましたら、オリンピックに出場しメダルを獲得するという目標に向かって日々努力し、成長していきます。そして、私が職場にいることで社内を明るく盛り上げていきたいと考えています」
■重弘喜一選手(スケート/ショートトラック)
「私はショートトラック競技を通して、諦めずに続けることで人は変われるということを体現できたと思っています。私の強みは状況に応じた戦略を立て、スタイルを変えることができる柔軟性と行動に移せる判断力です。ショートトラックは常に駆け引きが行われているので、決められたことをただこなすだけでは勝つことはできません。周りの状況を把握し、今何をするべきなのかを考えることで、競技成績を残すことができています。そして、これらのことは社会においても必要な能力であると考えており、採用していただいた企業に最大限に貢献させていただきます。そして、支えてくださる方々への感謝を忘れず、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季オリンピックで金メダルを獲得するという大きな目標に向かっていく姿をお見せすることで、皆さんに勇気を感じていただけるよう、精一杯頑張ってまいります」
■入江ゆき選手(レスリング)
「私の夢はオリンピックで優勝して、周りの方々に笑顔になっていただくことです。そのためにこれまで経験してきたことを糧にし、新しい基盤を作りたいと考えています。現在までレスリングを約23年間続け、天皇杯全日本選手権大会やアジア選手権大会に出場し、優勝することができました。現在はひざのけがを手術し、リハビリをしております。このけがは私にとってプラスになりました。それは物事をポジティブに捉えることを教えてもらったからです。けがをしたことで今の自分を見つめ、何ができて、何ができないか。練習やトレーニング、環境を見つめ直し、自分に必要なものが見えてきました。この23年間で培われたことはたくさんあります。今後、パリオリンピックを目指すにあたり、新たな挑戦をしたいと考えております。採用していただいた際には、これまで経験してきたことや今回のけがを糧にして、社員の皆さまに仲間と思っていただけるように精一杯頑張ります。また、社会に貢献していければと考えております」
■渡部晃大朗選手(トライアスロン)
「私は昨年までは企業に所属しながら競技を行うアスリート社員として活動してきました。しかしながら、新型コロナウイルスの影響などで企業を離れることとなり、現在はアルバイトで生活費、遠征費を稼ぎながら、空いた時間で必死にトレーニングをして、エリート強化指定選手として活動しています。私は競技を通じ、試合に向けて入念な計画・準備をすること、予想外のアクシデントにも臨機応変に対応し迅速な意思決定をすること、そして、どんな状況でも最後まで諦めずに全力でやり抜くことを学びました。私はこの経験を通じて、仕事においても何事にも積極的に取り組み、確実に成果を出すこと、また、競技活動を通じて社員の方々の士気を高め、企業のイメージアップにもつなげられると確信しております。私は自分自身がオリンピックに向け全力で頑張る中で、企業に理解をいただき、仕事と競技の両立を図り、最大限により良い環境の中で頑張りたいと考えております。そして、社員の方々と一緒に成長していきたいと考えております」
■鍋倉那美選手(柔道)
「現在、私は世界ランキング4位です。これまで18年間の柔道修行を通じ、多くのことを学んできました。一つは、目標は強く思えば必ず達成されるということ、またそれには努力が必要ということ。そして、柔道修行に答えはなく、限界はないということです。しかし、競技の世界は勝つか負けるか、非常に厳しい世界であり、対人競技でもある柔道は試行錯誤、創意工夫のたゆみない努力と準備を必要とします。これまで私は数多くの失敗をしながらも、この厳しい世界の中で努力を重ね、確実に世界の頂点が見える位置まで、ひたむきに上り詰めてきました。私は自身の目標である2024年パリオリンピックで金メダルを獲得することに向け、妥協なく挑戦しつづけることを、支援企業の方々に対しお約束いたします。採用いただけましたら、心技体全ての能力を最大限に生かし、社会のために最善の行動をとります。また、自分の活躍と活動により社員の皆さまを明るくし、社会がより良くなるように、精力善用、自他共栄の精神を常に持ち、何事にも志高く、目標達成に向け取り組んでいきます」
説明会終了後には、選手と企業関係者との座談会、交流会がオンラインで行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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