山下泰裕JOC会長が7月14日、就任1年にあたっての会見をJapan Sport Olympic Squareで開き、1年を振り返っての所感、今後取り組んでいく課題などについて総論を述べました。
山下会長は冒頭、熊本県を中心とした九州地方や中部地方など各地で発生した令和2年7月豪雨の被害にあわれた方々に向け、お見舞いとお悔やみの言葉を述べました。
続いて、昨年6月27日にJOC会長に就任してから今日までを「激動の1年」と振り返り、特に新型コロナウイルス感染症拡大の影響に関して、スポーツ関連活動が大きく制限され、社会全体が経済的にも大きな打撃をこうむっている中で、JOC加盟団体をはじめとして、スポーツ団体も財政的にひっ迫していることを明かしました。
しかしながら、その一方で「こうした状況におきまして、スポーツの持つ力、オリンピックの重要性を改めて認識したのもまた事実でした。スポーツが人々の希望となる、あるいは、アスリートが誰かの勇気になる、この純粋で大きな価値に改めて気づかされました」とコメント。緊急事態宣言解除後の6月からはプロスポーツをはじめとして、さまざまなスポーツ活動が再開されていることから、「社会がこの困難を乗り越えるとき、スポーツがもたらす尊敬、友情、連帯、相互理解、こういった価値がより重要な意味を持つと信じています。こうした強い思いのもとJOCは、限られた環境下でひたむきにオリンピックを目指すアスリートたちを全力でサポートするとともに、スポーツの力がよりよい社会づくりに寄与できるように取り組んでいくことを改めて決意する次第です」と述べました。
■この1年間で取り組んできたことについて
次に、この1年間で取り組んできたことについて述べました。山下会長は「新型コロナウイルス禍を経てスポーツが引き続き社会から必要とされ、夢と希望と活力を届け続けるためにも、スポーツ界の活動が社会から理解され、共感を得ることが必要。そのためにもスポーツ団体それぞれが社会の変化に対応して変わっていくことが求められています。統括団体であるJOCがまず自ら率先して改革に取り組み、ダイナミックな組織になっていかなければならないと思っています」と話すと、会長就任後に取り組んできたこととして、大きく分けて以下の4つを挙げました。
(1)役職員との情報共有の強化・活気ある組織づくり
(2)関係機関との連携強化
(3)競技成績に限定されないオリンピックの意義の発信
(4)国際的な連携の強化
それぞれの具体例として、(1)に関しては、JOCの各部署を横断して社会からの新たなニーズに対応した施策と企画を実施できるようにした総合企画部の創設や、JOC職員とのコミュニケーションの充実。(2)に関しては、国内競技団体(NF)、日本パラリンピック委員会(JPC)、日本スポーツ振興センター(JSC)、日本スポーツ協会(JSPO)、スポーツ庁をはじめ関係省庁、スポンサー企業ら関係機関との更なる連携強化。また(3)に関しては、オリンピックはメダル獲得が最終目標ではなく、そこに向けてアスリートが努力していくプロセスも含めて社会に夢と希望を届け、スポーツの魅力や価値を高め、オリンピズムへの理解を深めるものであるという発信や、東京2020大会を通じてJOCが果たすべき3つの役割と目標達成に向けた戦略を伝える「JOC GOAL&ACTION FOR TOKYO 2020」の発表、またオリンピック・ムーブメントの発信拠点である日本オリンピックミュージアムの開館などを説明しました。
そして最後に(4)について、今年1月10日に新たに国際オリンピック委員会(IOC)委員にも就任した山下会長は、渡辺守成IOC委員と共に各国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)会長、IOC委員、オリンピック夏季競技の国際競技団体(IF)会長に向けて、日本の今の状況についてのメッセージをオリンピックデー当日の6月23日に送付したこと、そして、東京2020大会開催1年前となる7月23日にも、各NOC会長宛てに「明るい話題を含んだメッセージを発信できたらと考えています」と話しました。
■今後取り組んでいく課題について
次に、今後取り組んでいく課題について述べました。その冒頭で「まずは来年の東京2020大会の実施、成功に向けて、東京2020組織委員会の準備にしっかり協力しつつ、JOCとしての役割を果たしていきたい」と語った山下会長は、「アスリートたちが安心してトレーニングに励み、しっかりとした準備ができるようにわれわれもできる限りのサポートをしていきたい。新型コロナの影響で社会全体が落ち込んでいる今だからこそ、スポーツを通じて明るい話題を提供し、社会に活力を与えたいと思っています」と力を込めました。そのためにもスポーツ界のガバナンス面での信頼を高めることが不可欠とし、「JOCが率先して社会から理解を得られる活気ある組織となっていくことが重要であると考えております」と話すと、今後取り組む課題を以下の3つに絞って挙げました。
(1) 安全・安心な東京2020大会実施・成功に向けての取り組み
(2) スポーツを通じて社会に元気を与えられる取り組みの実施
(3) 社会から理解される活気ある組織づくり
これらの取り組みとして、(1)は新型コロナウイルス禍の先行きが不透明な中でもアスリートの不安を少しでも払しょくするために積極的に正確な情報を伝え、JOCアスリート委員会からの意見を大切にして必要な支援を行うこと、東京2020組織委員会、スポーツ庁、JPC、JSCら各関係機関とより一層の信頼関係を構築しながら心を一つにして東京2020大会の実現・成功に向けて取り組んでいくこと、また、「JOC GOAL&ACTION FOR TOKYO 2020」についても計画を見直し、ポストコロナのオリンピックにふさわしい目標を設定したうえで、大会終了後にはどのような成果があったかを含めて公表し、取り組みの検証を行う予定であることなどを発表しました。また、その成果については日本オリンピックミュージアムでの展示を準備しており、山下会長は「聖火の展示を通して、一人でも多くの方々に希望を感じてもらえたら嬉しく思います」と述べました。
(2)に関しては、「今後は、トップアスリートの活躍を通じて社会に夢、希望、活力を届けるといった従来の取り組みに加えて、より積極的にスポーツを通じた社会貢献活動を実施することが必要である」という考えを明かした山下会長。JOCアスリート委員会からもトップアスリートによるジュニアアスリートの支援、またオークションを通じたさまざまな社会貢献の取り組みについてのアイデアが出されているとのことで、「こうした提案は歓迎すべきこと。アスリート委員会と連携しながらJOCとして可能な限り支援していきたい」と述べました。
また、国内だけの取り組みにとどまらず、スポーツを通じた国際連携についても国際協力機構(JICA)との協定を今後締結し、JOCが持っているNOCとのネットワークを活用するなど、「これまで『スポーツ・フォー・トゥモロー』で培われてきたネットワークの連携を継続することはもちろん、さらにJOCが率先してこうした取り組みを行うことでスポーツ界全体に好影響を与えることができればと考えております」と展望を述べました。
最後に(3)について、山下会長は「社会から理解される組織づくりの前提として、スポーツ団体が社会から信頼され、社会の環境の変化、あるいはニーズに柔軟に対応できる活気ある組織となっていくことが重要」と述べ、まずはJOCが率先してスポーツ団体ガバナンスコードの遵守に取り組んでいくとともに、外部理事や女性理事の登用など多様性の確保、役員等の新陳代謝をはかる仕組みの構築など、「加盟団体の見本となるようしっかりと議論していきたい」と誓いました。
また、対外的な説明の充実、組織の活性化について「社会から理解していただき、スポーツを応援していただくうえでJOCの活動内容についてしっかりと対外的に説明し、理解していただく努力をする、汗をかくことが重要」と話すと、「JOC GOAL&ACTION FOR TOKYO 2020」の見直し、2022年度から開始となる中期計画の策定を行うなど、目標を掲げ、その成果を検証し、活動を見直していくというPDCAサイクルを活用すること、さらに2カ月に1度はJOC記者クラブと定例の記者会見を実施していくことなどを発表しました。
そして、これらのことが「机上の空論とならず、確実に実施されるためには、活気ある事務局の運営が最大の鍵となります」と山下会長。すでにJOCの中では『JOC Rebornプロジェクト』という名称で事務局の業務効率化に向けた検証を行っていることを明かし、「業務改善に向けた提言を着実に実施できるように取り組んでまいりたい」と述べました。
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