日本オリンピック委員会(JOC)は8月27日、味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)拡充棟で、「第15回アスナビ採用企業情報交換会(パラリンピック編)」を行いました。
アスナビは、オリンピック・パラリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに184社/団体285名(2019年8月27日時点)の採用が決まりました。
今回の情報交換会では、パラアスリートを採用した企業から11社20名と、競技団体からは日本パラ・パワーリフティング連盟2名、日本身体障害者アーチェリー連盟1名が参加。採用企業の選手活用事例やアスリートから見た企業支援などについて、情報が共有されました。
はじめに、主催者を代表して星野一朗JOC理事が登壇。アスナビでは2014年8月から本格的にパラリンピックを目指すアスリートを支援しはじめ、現在までに40社46名の就職が決まった実績を紹介すると、「東京パラリンピックの開会式まであと364日。アスリートが安心して競技力強化にまい進していくためには、生活基盤の整備が必要となります。皆さまの企業に採用されたアスリートがいち会社員としてだけでなく、様々な局面において社会に貢献することができるための知見の共有とネットワークの構築を本日深めていただければ幸いです」と挨拶しました。
続いて、髙橋秀文日本障がい者スポーツ協会(JPSA)常務理事兼日本パラリンピック委員会(JPC)副委員長が挨拶に立ち、2013年に東京2020大会開催が決まって以降、パラスポーツを取り巻く世界が劇的に変化、向上していることに触れて、「まさにパラリンピックが1つの契機となり、社会が大きく変わっていくこと、人にやさしい日本になることを期待しておりますので、ぜひトップランナーの各社の皆さまにご理解、ご協力をますますお願い申し上げたいと思います」と、今後いっそうの支援を呼びかけました。
次に、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターがアスナビの概要を説明。映像や資料をもとに採用実績や採用決定理由、また企業・選手側から寄せられた「採用して良かったこと」「現在の課題」を紹介し、「皆さまの課題、成果を共有していただき、これを機会にネットワークを作っていただくような会になればと思います」と述べました。
次に行われた採用企業の選手活用紹介事例では、2014年11月にパラ・パワーリフティングの西崎哲男選手を採用した株式会社乃村工藝社の東京2020オリンピック・パラリンピック推進室室長を務める原山麻子執行役員が登壇。西崎選手を採用した経緯や雇用概要、現在の業務内容などを説明するとともに、応援体制の不足や、アスリート採用の目的としていた社員の士気高揚・連帯感の醸成につながっていなかった採用初期の課題、それらに対してどのような取り組みを行ったかなどが語られました。
採用して初めての大会では5名しかいなかった応援も、リオパラリンピックが行われた2016年の全日本選手権では74名にまで増加。このように現在は全社を挙げて西崎選手をバックアップし、一方で西崎選手の活躍や社内での活動が社員の健康増進や社内間コミュニケーションに好影響となっている乃村工藝社ですが、「アスリート社員はスポンサー契約のアスリートではないですし、そこを勘違いしてはいけないと思います」と原山執行役員。アスリート社員と会社の関係において「まだまだ社内全体での説明が足りていない部分があります。また、部下の目標達成のために会社が支援して一緒に頑張っていくのは、一般の社員もアスリート社員も同じ。引退後のことも含めて、会社はアスリート社員とどう向き合っていけばいいのか、その点も含めて皆さまと情報交換させていただければと思います」と、今回を機にさらなる課題解決に向けて参加企業と情報共有していきたい旨を述べました。
続いて、アスリートから見た企業支援について、射撃で2004年アテネ大会、08年北京大会、12年ロンドン大会と3大会連続でパラリンピックに出場し、現在は日本郵船株式会社の社員でもある日本パラリンピアンズ協会の田口亜希理事が説明しました。
ここでは、パラアスリートの練習時間、個人の負担費用、専用コーチの有無などについて、複数回行われたパラアスリート、コーチ、スタッフへのアンケート結果を紹介。このアンケート結果の最新版が3年前のものであることから、数字だけではパラスポーツ界の環境が大きく向上したと導くことはできないと前置きしつつも、髙橋JPSA常務理事兼JPC副委員長が冒頭の挨拶で述べたように、2013年以降のパラスポーツ界を取り巻く環境が良い方向へ向かっていることが分かると話した田口理事。「この3年間で劇的に変化しました。環境整備が一気に進んでいると実感していますし、企業の支援の広がりはありがたくて心強いです」と感謝の言葉を述べると、「パラアスリートの採用にあたっては、勤務や引退後にどのようなことがしたいか、してほしいのか、どのような貢献ができるかについて、選手と事前にじっくり話すことが大事だと思います。また、選手を甘やかすのではなく、選手と対等に向き合っていただければと思います」と、参加企業に向けてメッセージを送りました。
最後に、今回参加した11社20名に、競技団体、JOC、JPCスタッフが加わり、2つのグループに分かれて情報交換会を実施。アスリート社員に関する「仕事」と「応援」の2つのテーマについて、各社が抱える課題や実践している工夫などを共有し、またそれらについて議論するなど、活発な意見交換を行いました。
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