日本オリンピック委員会(JOC)は11月21日、味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに163社/団体248名(2018年11月21日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会には29社41名が参加しました。
最初に主催者を代表して挨拶に立った星野一朗JOC理事は、練習施設だけでなく、安心してスポーツに打ち込める環境が必要不可欠であることを説明。今年8月18日〜9月2日に開催されたジャカルタ・パレンバンアジア大会を現地で視察した実体験から「選手たちは自分のために戦っているのですが、会社の皆さんと一緒に戦うなど、誰かのために戦うということが選手たちにとって大きな力になります」と述べると、参加企業に向けて「本日は東京2020大会、2022年北京冬季オリンピックでの活躍が期待される選手が登壇します。ぜひ選手たちの声を聞いていただき、お声がけいただければ」とアスリート支援を呼びかけました。
続いて、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターが、資料をもとにアスナビの概要を説明。夏季・冬季競技それぞれの採用人数、採用された競技、アスリート採用後の雇用形態や給与水準、勤務スケジュール、選手活用企業のポイントなどを紹介しました。
続く「アスナビ」採用企業の事例紹介では、昨年、競歩の渕瀬真寿美選手を採用した建装工業株式会社の管理本部総務人事部次長を務める小野功雄氏と同総務人事部課長代理の大林司氏が登壇。アスリート採用に至った経緯や担当業務、アスリートと他社員との交流などが紹介され、渕瀬選手が各地の大会に参加する際には、各営業所の社員が集まって応援に行っているなどの事例が語られました。
小野次長は「オリンピアンが会社にいるということで、多くの社員が会社に誇りを持ってくれるようになりました。またアスリートを応援している中で、社員自身が仕事でもプライベートでも頑張ろうという気持ちになってくれたり、みんなで応援していることで会社に一体感が芽生えました」と、アスリート採用の有用性をアピールしました。
次に1988年ソウルオリンピックのシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)のソロとデュエットで銅メダルを獲得した小谷実可子さんが応援メッセージを送りました。
ソウルオリンピックでのメダル獲得後、“奥の深いシンクロ”を求めて社会勉強のために一度競技から離れた小谷さんは、勉強の成果を携えて4年後のバルセロナオリンピックの代表入りを果たすも、本番では補欠に。その経験を通じてオリンピックの厳しさや魅力を学んだと振り返り、アスリートがオリンピックに懸ける思いを語りました。
現在は「選手たちのために頑張ろうという自己満足があるからこそ、自分が出ないオリンピックでも我がことのように応援し、選手の活躍を願い、金メダルを獲ったら一緒に喜ぶことができる」と、裏方として選手を応援する立場から得られる刺激とうれしさがあると語った小谷さん。「皆さんには是非、アスナビでご縁のあった選手を自分のファミリーのように思い、ともに戦う気持ちになって応援し、刺激し合い、喜びをシェアしていただきたいと思います」と参加企業に呼びかけるとともに、「スポーツ選手は日々、自分は今日頑張れたか、良いことができたか、自分で自分を褒められるか、と自問自答します。そんな人が身近にいることで刺激を受けるし、自分もしっかりしなければと思うことができる」と、アスリートと一緒に働くメリットをアピールしました。
そして、東京2020大会の招致アンバサダーを務めた経験から「チームに関わった中で一番うれしかったのは、役職や立場を超え、チームが同じ目標に向かって一体となったこと」と述べ、「アスリートを筆頭に、社長さんも部長さんも課長さんも、これから偉くなる人も、立場を捨てて一つの目標に向かって進んでいく勢いや充実感を味わっていただければと思います」と訴えました。
最後に、就職希望アスリート8名がプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像での競技紹介などで自身をアピールしました。
■藤田雄大選手(レスリング)
「私は小学校4年の時に、父の勧めでレスリングを始めました。大学3年生の時に階級を下げる必要があった際に、体重調整に苦しんだ時期がありました。しかし、監督、コーチ、家族、仲間の支えで競技に復帰することができました。その経験を通じ、日常生活の大切さを改めて認識し、練習方法を変え、さらなる上を目指し自分で追い込みました。そのおかげで、全日本選抜レスリング選手権大会で3位、世界学生選手権でも優勝できました。私はレスリングを通じて向上心や忍耐力を身に付けました。これらを生かし、卒業後は競技だけでなく、会社に貢献していきたいと思っています。またアスリートとして2020年東京オリンピック、2024年パリオリンピックの金メダルを獲得し盛り上げていきたいです。ぜひ私を採用してください。よろしくお願いします」
■原田真緒選手(ビーチバレーボール)
「私がバレーボールを始めたのは高校生からです。その後、進学した大学ではビーチバレー部が無かったため、積極的にビーチへ足を運び、他の方に声をかけて 練習相手を探すなど、練習環境を整えてきました。しかし、大学2年時には大学代表から外れてしまい、悔しい思いをしました。その日から、2年後の世界大学選手権メンバーに入るために、日常生活をはじめ、練習への取り組み方などを見直しました。その結果、今年7月に世界大学選手権メンバー入りし、日本最高峰のジャパンツアーで5位になれました。私の強みは行動力です。大学では自己管理が必要不可欠な環境の中で、上達するためには何が必要かを自分で考え、練習環境、食事管理などを行ってきました。仕事でも何が必要かを考え、行動に移すということを実践していきたいと思います。採用企業様のイメージアップ、認知度向上にも全力を尽くしていきます。よろしくお願いします」
■大久保柊選手(水泳・飛込)
「私は飛込競技を行っていた父の影響で小学1年生から競技をはじめました。高校1年生の時に、全国大会に出れず悔しい思いをしました。そこから、絶対にオリンピックに出たいという高い目標を持ち、自分で考え、練習を行った結果、高校3年生の時には国民体育大会で優勝することができ、自分に自信を持つことができました。私のモットーは、決して諦めることなく、目標に向かって、自分に何ができるのかを考え、工夫し、行動できることです。2年後の東京2020大会で結果を出し、企業の方々にその姿を見ていただき、勇気や感動を与えるだけでなく、諦めずに挑戦し続ける原動力となれるよう頑張ります。私を採用いただき、ご支援、ご声援いただけたら幸いです。よろしくお願いします」
■高橋佳汰選手(スキー・フリースタイル)
「私は小学校5年生で競技を始め、今年で10年目になります。海外での大会は、強風の中で行われることも多く、標高の高い地域では、強風で体が押されてしまう時があります。また常に風向きと雪質に合った動きが求められ、自然と判断力と集中力が鍛えられました。この競技を通じて培ったあらゆる場面にも適応できる判断力と集中力、どんなことがあっても最後まで諦めない継続力を生かし、周囲から信頼される、誠実な社会人を目指します。目標は2022年の北京オリンピックです。地域、職場、そして日本全体を盛り上げる存在になり、支えてくださる皆さまに恩返しができるよう、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
■岩下聖選手(スケート・ショートトラック)
「私は高校2年生の時に世界ジュニア選手権にリレーの種目で参加しました。そこで、本気で世界を目指そうと思うようになりました。しかし翌年、半年の間に右足を2度も骨折するという大怪我をしてしまいました。それでも、私は決して諦めず、いつか必ず世界のレベルでという高い目標を持ち続けました。そして、大学2年生の時にはユニバーシアード大会に出場できました。怪我からの困難を乗り越える自分を見て、ひたむきに目標に向かう姿に共感していただき、一緒にオリンピックを目指すことができると思っていただける企業に所属する選手として、世界で活躍する私の背中を押していただきたいと強く思っています。ぜひ、皆さまのご支援のほどよろしくお願いします」
■後藤秀斗選手(陸上競技)
「私は現在、日本陸上競技連盟のサポートを受けて競技を続けております。大学院時代は、競歩のパフォーマンスの向上を突き詰めるために、競技選手のトレーニングをテーマに研究を行っていました。この4月からは所属するチームや企業が無い状況で競技を続けてきました。その中で、これまで所属チームに守られてきたこと、応援されるありがたさ、温かさを感じることができました。50km競歩は東京2020大会で行われる陸上種目の中で最も長い競技になります。50kmもの距離の中で、戦い続ける姿や諦めない姿勢、ゴールした時に与えられる感動は唯一無二の物であり、応援していただける方にも感動や活力を感じていただけると思います。2020年、そして2020年以降も企業に貢献できるように頑張っていきます。どうか私に企業で競技を続けるチャンスをください。ご検討よろしくお願いします」
■鋤﨑隆也選手(トライアスロン)
「私がトライアスロンを始めたのは高校2年生の時です。トライアスロン競技は30歳前後がピークと言われています。東京2020大会の時には26歳ということもあり、企業様に万全のサポートをいただき、努力を積み重ねていくことで、オリンピックに出場するという目標を実現できると信じています。これまで競技で培ってきた、努力を継続すること、最後まで諦めないことを大切にし、向上心を持って、競技に打ち込むことによって、社員の方の士気の高揚や、企業のイメージアップに貢献したいと思います。オリンピックで活躍するという小さい頃からの夢を一緒に目指していただける企業様の元で競技をしたいと思っています。どうぞよろしくお願いします」
■田畑隼剛選手(アーチェリー)
「大学院卒業後、競技と仕事の両立を志し、フルタイムで勤務をしておりました。しかし、残業時間が多い部署に配属となり、いかに競技との両立を図っていくかという大きな課題に直面しました。その時、仲間と協力して業務改善を行った結果、データベースの活用という手法を見出し、残業時間を9割以上削減することができました。仕事での経験があるのは既卒者だからの強みだと思います。仕事と競技の両立はとても充実していたものでした。しかし、オリンピックでも金メダルが欲しいという強い思いを抱き、前職を辞めて今回チャレンジすることにしました。ぜひ私を採用してください。私の経験が必ず企業様の力となります。そして企業様のご声援が私の力になります。企業様の力と私の力で社会の力につなげていければと考えています」
説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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