日本オリンピック委員会(JOC)と日本パラリンピック委員会(JPC)は18日、誹謗中傷からアスリート等を守る法務等支援事業における愛知・名古屋2026アジア・アジアパラ競技大会での取り組みに関する発表会を、名古屋市内で開催しました。本発表会では、JOC・JPCインテグリティ統括事業推進リーダーの谷本歩実氏が事業の概要や体制について説明したほか、新たな広報・啓発活動として、「#言葉に6秒深呼吸」を用いたSNSでの発信戦略を発表しました。
また、元サッカー日本代表の柿谷曜一朗氏をゲストに招き、啓発映像への出演をはじめ、本事業に協力するにあたっての思いを語っていただきました。後半には、アスリートを対象に実施したアンケート調査の結果も交えながら、パネルディスカッションを行いました。
谷本氏は、近年SNS上の誹謗中傷がアスリートの心身に重大な影響を与えている現状に触れ、選手やスタッフが安心して競技に集中できる環境を整えるため、「SNSモニタリング・削除申請」「法務支援」「セーフガーディングオフィサー、ウェルフェアオフィサーとの連携」という3つの柱でサポートを展開することを発表しました。
具体的な取り組みとして、主要プラットフォームを対象にAIによる検知、専門スタッフによる目視確認、弁護士による精査を組み合わせ、悪質な投稿に対して通報・削除申請を実施しています。その結果、アジア競技大会期間中の状況として、AIが検知した1万7,872件のうち、41件について削除申請を行ったこと(9月17日12時時点)を報告しました。また、大会期間中は弁護士が現地で常時待機するほか、選手が被害に遭った際に速やかに相談できるよう、新たに「LINE相談窓口」を開設したことを発表しました。
さらに、誹謗中傷の未然防止に向けた新たな広報・啓発活動として「#言葉に6秒深呼吸」を本格始動させることを発表しました。アンガーマネジメントにおける「人は6秒待つと理性的な判断がしやすくなる」という考え方を参考に、投稿する前に立ち止まり、言葉の先にいる人へ思いを馳せ、自分の言葉と向き合う時間を持ってほしいというメッセージを込めています。谷本氏は、「投稿の先には、必ず誰かがいます。その人を思いながら言葉を選んでほしい。 『#言葉に6秒深呼吸』が、その第一歩となり、スポーツに限らず、誰も傷つくことのない健全なSNS空間につながることを願っています」と語りました。本プロジェクトでは、X 、Google、TikTok、Meta、YouTube、LINEヤフーなどのプラットフォーム各社、LIVE BOARDなどのメディア、JR東海・名古屋鉄道などの交通事業者と連携し、大会期間中を中心に広く発信していくこともあわせて発表しました。
発表会の後半には、元サッカー日本代表の柿谷氏も参加し、谷本氏とパネルディスカッションを行いました。パネルディスカッションでは、本大会に参加するアスリート約300人を対象に実施した「SNS利用に関する意識調査」の結果を公表しました。
調査によると、81.3%のアスリートがSNSを通じてファンから「応援や励ましをもらっている」と回答し、60.3%が「競技を続ける力をもらった」と回答するなど、SNS上の言葉がアスリートにとって大きな力になっている実態が明らかになりました。
この結果について、柿谷氏は「直接届く応援からは本当に勇気をもらえます。プレーがうまくいかなかった時でも、『柿谷らしくて面白かったよ』と言ってもらったことがありました。この“らしくて”という言葉が、僕の中ですごく支えになりました」と振り返りました。
一方で、「少数の否定的な言葉でも、多くの応援より強く残ることがある」と回答したアスリートが59.3%に上ったという結果について、柿谷氏は「励ましのコメントについては『こう言われたから頑張れた』と言いやすいが、否定的な言葉は『そんなことでモチベーションが下がるならプロをやめろ』とさらに追い打ちをかけられるのが怖くて、つい気にしていないふりをしてしまいます。でも本当は傷ついたことを言っていいし、1人でも気持ちが落ち込んでいる選手がいるなら僕たちがサポートしてあげたいと思っています」と、自身の経験を交えながらSNS上の誹謗中傷の実態を訴えました。谷本氏も「100件中たった1件でも否定的なコメントがあれば、これまで準備してきたものがすべて崩れてしまう。そうなると、たくさんの応援が届いているのは分かっていても、SNSを見られなくなってしまいます。安心して応援の力を受け取れる環境を整えていきたい」と共感を示しました。
また、約3人に1人(33.7%)が、誹謗中傷を避けるために「投稿を控えた(15.0%)」「当たり障りのない内容に変えた(13.7%)」などの回避行動をとっている実態も報告しました。
この現状について柿谷氏は、ブロックやミュートをすることで「自分の誹謗中傷がアスリート本人に認知された、と相手に喜ばれてしまうのが嫌で、あえて反応しない選手もいる。でも、投稿を控えることで、テレビでは見られないプライベートな一面も応援したいと思っている人たちに見てもらえなくなるのは、やはり寂しいこと」と語りました。また、「大阪のノリかもしれないけれど、ミスした選手にあえて『誹謗中傷コメント来てるか?(笑)』と先に聞き、イジリや笑いに変えることで、本人のダメージを軽減することもありました」と実体験を語りました。谷本氏も「これまでは『誹謗中傷されていません』とアスリート側に言われると、それ以上踏み込めず、なかなかサポートを届けられないという壁もありました。しかし、選手同士の対話やTEAM JAPANとしての環境づくりを通じて、より一層助け合っていきたいです」と応じました。
セッションの最後に柿谷氏は、「自分が誹謗中傷を受けていると認めることがまず第一歩だと思います。現役時代は人が怖くなる瞬間もあったし、『俺は強い』と無駄なプライドを持っていましたが、一人で抱え込まず、もっと誰かに頼っていいと思っています。乗り越えなくていいし、甘えていい。助けてくれる人は必ずいる」と、アスリートたちへ強く呼びかけました。さらに、「僕がこの啓発動画に出ることで、絶対に『そんなこと言っているから(現役時代に)活躍できなかったんだ』と誹謗中傷コメントが来るんですよ(笑)。でもこうして先に予言しておくことも、乗り越える方法の秘訣だと思っています」と語りました。
これを受け、谷本氏も、「誹謗中傷を受けた選手が、それを口にすることを恥ずかしいと感じてしまう壁がありました。注目度が上がるほど誹謗中傷が増える傾向もありますが、誹謗中傷と戦うのではなく、誹謗中傷のない世界を目指し、互いに理解を深めながらSNS空間をつくっていく必要があると思っています。単に心ない言葉を減らすだけでなく、6秒の深呼吸を経て、温かい応援の輪を社会全体に広げていきたいです」と締めくくりました。
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