日本オリンピック委員会(JOC)は9月17日、Japan Sport Olympic Square14 階「岸清一メモリアルルーム」において「令和7年度JOCパートナー都市連携会議」を開催しました。本会議はオリンピック・ムーブメントを推進するにあたり、JOCパートナー都市との更なる連携強化が必要となることから、JOCの活動やオリンピック・ムーブメントの推進におけるJOCパートナー都市との取り組み事例を紹介し、オリンピック・ムーブメントの今後の展開について情報共有や意見交換を行うことを目的に実施。JOCパートナー都市の11自治体が参加しました。
司会進行はJOCアスリート委員会の村上めぐみ副委員長と入江陵介副委員長が務め、主催者を代表して太田雄貴JOC専務理事が「新体制となり、これまでの強化という歴史的な位置づけから、オリンピック・ムーブメントの推進という新しいコンセプトへと変化しています。これまで行ってきた取り組みも含めて見直す必要があり、自治体と連携し、全国の小学校やイベントで子どもたちがアスリートに触れられるような本物を見る機会を創出していきたいと考えています。新しい取り組みを含めて強い熱量をもって可能性を探っていきたいと思っていますので、積極的なオープンディスカッションとなるようお願いします」と、参加自治体に向けてさらなる連携強化を呼びかけました。
■JOC関連最新情報の提供(オリンピック・ムーブメント事業含む)
続いて、小谷実可子JOC常務理事が登壇。JOC関連最新情報の提供として、JOC新体制と今後の活動について説明した上で、「第2次中期計画は5つの柱で構成されており、特にパートナー都市の皆様とは、第1の柱である『オリンピックの価値発信』を重点的に推進し、アスリートが競技力だけでなく人々から憧れられる存在となり、自身の経験を伝えることで社会課題の解決に貢献していくことを目指します。今後はアスリートとともにアイデアを出し合い、独自の事業を創り上げていきたい」と呼びかけました。
■「オリンピアン、アスリート、競技団体(NF)と都市の関係強化を目指して」
<JOCアスリート委員による活動紹介>
続いて本会議のメインテーマである「オリンピアン、アスリート、NFと都市の 関係強化を目指して」として、谷本歩実JOC理事がファシリテーターを務め、JOCアスリート委員会の羽根田卓也委員長、村上副委員長、入江副委員長がそれぞれの活動を紹介しました。
はじめに、羽根田委員長がカヌーの魅力を発信したいという思いから、自ら江戸川区に提案し、自治体との共催で「羽根田卓也杯」を開催したことを説明。「自身が主催するカヌー大会を通じて実際に競技を始め、オリンピックを目指す子どもたちが現れたことを嬉しく思い、活動が競技の普及に繋がっていることを実感しました。アスリートの迫力や魅力を言葉だけでなく、直接触れ合いながら体験してもらうことが重要であると思います」と語り、さらに「競技を普及させたいという思いと、自治体の協力を組み合わせることで、地域活性化や健康促進に繋がる独自の事業を生み出すことができ、参加した自治体関係者に新たな可能性を感じてほしい」と呼びかけました。
続いて入江副委員長は、日本水泳連盟が主催する水泳の普及と教育を目的とした「スイムスマイルプロジェクト」について語り、福島県須賀川市で実施された水泳教室での指導や講演会の交流の中で、生徒たちの近くで対話する形式を取り入れたことで、多くの質問が寄せられ、生徒たちとより深く交流できたことを明かしました。さらに「生徒たちの顔つきが変わったという声が聞かれ、スポーツを通じて学んだ挫折や経験が、スポーツをやっていない生徒たちにも響いたことを実感しました。また、日本水泳連盟が制定した『水泳の日』のイベントも全国各地で行っており、これらの活動を通じてより多くの人々と触れ合い、水泳の魅力を伝えていきたい」と語りました。
続いて村上副委員長は、地元福井県でのアスリート活動を身近にしたいと考え、個人的な活動を始めたことを語りました。現在は、福井県越前市で、アスリート仲間と5人で団体を立ち上げ、行政と連携してスポーツ普及活動(小学校での授業、スポーツ体験イベント、マラソン大会のサポート)のほか、東京都の離島や小浜市での活動〈「東京都宝島(大島・神津島)しまスポプロジェクト」〉も行っていると述べました。最後に「引退したアスリートが、自身の経験や専門性を活かして地域貢献できる可能性を実感しています。アスリートが競技を広めたいという思いと、地域のニーズを組み合わせることで、地域住民の健康促進や活性化に繋がる独自事業が創出できると思う」と語りました。
活動を紹介した後、多くの参加者から質問が寄せられ意見交換が行われました。また、事前に行われたアンケートの結果を提示し、都市がスポーツを活用することでスポーツイベントの有益性やシビックプライドの向上、都市の魅力向上に繋がることが示されました。
【ディスカッション】
続いて、3つの自治体における事業紹介が行われました。はじめに石川県より、2018年から継続して行っている「いしかわスポーツキッズフェスタ」について、「小学校低学年の子どもたちを対象に、様々なスポーツを少しずつ体験できることが特徴です。子どもたちの適性や興味がどこにあるかを知りたいと考える保護者のニーズに応え、経験者向けのワンポイントアドバイスのコーナーも設けることで、多様な参加者に対応しています」と紹介がありました。続けて「本イベントは参加者が1日で多くの競技を体験できることに加え、スポーツチームは自競技に興味がない人々も集まることでファンを増やす機会を創出でき、自治体としてもスポーツの裾野を広げるための良い機会となり、地域活性化にも繋がっています。このイベントを継続して開催していくためにも、自治体の予算が減っていく中で、いかに自走化させていくかが今後の課題です」と述べました。
続いて岡山市が実施している「小学校給食交流事業」について紹介がありました。この事業は、平成24年度に策定された岡山市の都市ブランド推進計画の一環で、岡山市にゆかりのあるトップスポーツチームと連携し、選手やスタッフが学校を訪問し、子どもたちに栄養バランスの良い食事や健康な体づくりの大切さを伝える事業となっており、トップアスリートと直接触れ合う貴重な体験となるほか、スポーツを「応援する」「支える」といった多様な関わり方を学ぶ機会になっています。この事業は、子どもたちの学びになるだけでなく、チームにとっては地域への貢献とファンの獲得、市にとってはまちづくりというそれぞれの目的が合致した取り組みになっていると述べられました。またこの紹介を受けて、アスリート委員会のメンバーや日本オリンピアンズ協会とも連携して事業に協力できるよう進めていく考えを示しました。
続いて札幌市より事業紹介がありました。札幌市はオリンピック・パラリンピック教育を長年にわたり実施しており、この事業は、小学校の総合学習の時間を使って、オリンピック開催都市である札幌への市民の愛着を醸成し、国際社会への理解を深めることを主眼としています。その中で、札幌オリンピックミュージアムとの連携を通して、バスツアーと体験学習、オリンピアンとの交流が行われています。年間約70校の小学生がバスツアーで札幌オリンピックミュージアムを訪問し、ジャンプ競技場から街を見下ろす体験や、ジャンプやボブスレーなどの競技を疑似体験できるシミュレーションゲームを楽しみます。シアタールームでは、実際にオリンピックに出場したアスリートから、挫折や諦めない気持ちといった貴重な経験談を聞く機会が設けられています。複数の要素を組み合わせた複合的な体験をすることで、子どもたちにとって忘れられない体験を提供し、単なる座学ではなく、オリンピックの価値や魅力を深く感じてもらうことができると語られました。
続いてパートナー都市がスポーツ交流事業を推進する上で直面している課題が挙げられました。「人員・予算の確保」「イベントのマンネリ化」「オリンピアンの日程調整や場所の確保」「被災者への配慮や、若者や女性の生活の質の向上に繋がる交流事業の開発」などの課題に対し、「『応援』へとコンセプトを転換し、スポーツを見る、支える市民を増やすというパートナー都市の要望に応えたい。この新たな取り組みとして、大人数だけでなく、不登校や障害を持つ子どもたちのような少人数でも深く交流できる機会を検討していく。また、選手の活躍映像を活用した交流や裏話を通じて、スポーツの魅力を伝えることも有効。さらに、女性アスリートへのサポートが不十分であるという認識のもと、JOCが窓口となり、自治体などとの連携を強化して支援を進め、課題を共有し、共に解決策を探していく」と今後も連携を深めていくことを示しました。
続いて、JOC事務局より、日本オリンピックミュージアム(JOM)の活用について、JOMは「みんなのオリンピックミュージアム」をテーマに展示、イベント、教育普及、施設貸し出しといった多様な事業を展開する日本におけるオリンピック・ムーブメントの重要な発信拠点であると説明がありました。続いてTEAM JAPANコミュニケーション戦略について、TEAM JAPANは「ともに、一歩踏み出す勇気を。」というコンセプトのもと、ミラノ・コルティナ2026冬季大会からその先を見据え、「サステナビリティ」「コミュニティ」「ウェルビーイング」という3つのテーマを通じて、アスリートとファン、パートナー企業、自治体などが一体となり、スポーツの価値を社会に伝えるコミュニケーション戦略を推進していると説明がありました。そして、来年2月6日より開催されるミラノ・コルティナ2026冬季大会の概要説明と併せてTEAM JAPAN壮行会の案内がありました。
すべてのプログラムが終了し、閉会の挨拶として星香里JOC常務理事が参加者や登壇者へ感謝を述べた後、「都道府県や市区町村に直接的な関係団体を持たないJOCにとって、パートナー都市との連携が極めて重要であると感じています。JOCは今後、『アスリートとともに、スポーツの力を社会の力へ』という中期計画の目標のもと、アスリートとパートナー都市との距離を近づけることに注力していきたい。また、今回の会議をきっかけに思ったことを気軽にご相談いただき、さらに連携を深めていきましょう」と呼びかけ、JOCパートナー都市連携会議が締めくくられました。
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