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2025.06.04 その他活動

「2025年度スポーツジャーナリストセミナー」を開催

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2025年度スポーツジャーナリストセミナーを開催(写真:フォート・キシモト)

 日本オリンピック委員会(JOC)は5月28日、日本スポーツ記者協会と共催で「2025年度スポーツジャーナリストセミナー」をJapan Olympic Square 14階「岸記念メモリアルルーム」で開催しました。本セミナーはオリンピック・ムーブメント推進事業の一環として、メディアと国内競技団体(NF)の相互理解を図ることを目的に開催しており、今年度は「アスリートとSNS」をテーマに、国内スポーツジャーナリストやJOC加盟団体関係者など約100名の参加がありました。

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開会の挨拶をする井澤真日本スポーツ記者協会会長(写真:フォート・キシモト)

 はじめに、主催者を代表して井澤真日本スポーツ記者協会会長が登壇し、「SNSが社会に浸透し影響力を持つ現代において、多くのアスリートがSNSで自身の言葉を発信し、ファンとの交流を深めています。しかしその反面、誹謗中傷といった批判にさらされるリスクもあり、対策が求められています。本セミナーでは、八木由里JOC理事からその対策について取り組みをご紹介いただき、またパネルディスカッションを通じてSNSの課題と活用法について皆様と共に議論し意見を交わしたいと考えております。SNSの普及により、アスリートによる直接的な情報発信が増え、私たちメディアとの関係性も変化しています。このセミナーが、アスリート、メディア、関係者が相互理解を深め、より良い情報共有の機会となることを願っています」と挨拶しました。

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八木由里JOC理事(写真:フォート・キシモト)

 次に八木由里JOC理事が登壇し、「誹謗中傷等からアスリートを守るための法務等支援事業」について説明しました。パリ2024大会期間中に国際オリンピック委員会(IOC)が実施したAIによる誹謗中傷モニタリング(240万の投稿をチェックし、1.2万の誹謗中傷投稿が削除要請されたことなど)や、スポーツ庁の「持続可能な国際競技力向上プラン」におけるアスリートのウェルビーイング向上への取り組みに触れました。また、JOCでは、今年3月25日から「オリンピック・パラリンピック誹謗中傷・相談対応ホットライン」を設置し、強化指定選手やその関係者からの相談を受け付けていることを説明。ホットラインでの支援内容や、今後の法務、教育研修、広報・啓発、人材育成、監視機能という5つの柱からなる支援計画についても紹介しました。最後に、JOC中期計画の目標「アスリートとともに スポーツの力を 社会の力へ」にこの取り組みが貢献することを述べ、協力を呼びかけました。

■パネルディスカッション 「SNS時代のアスリートとメディア」

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パネルディスカッションに登壇した村上茉愛公益財団法人日本体操協会体操女子強化本部長(写真:フォート・キシモト)

 続いて、公益財団法人日本体操協会女子体操強化本部長の村上茉愛氏、JOC選手強化本部情報・医・科学専門部会情報・科学サポート部門員で大阪体育大学スポーツ心理・カウンセリングコース教授の土屋裕睦氏、NHK記者の田谷亮平氏、毎日新聞社の滝口隆司論説委員によるパネルディスカッションが行われました。

 ファシリテーターの滝口氏が登壇し、1997年から続くスポーツジャーナリストセミナーの歴史に触れ、今回のテーマでもある「SNS時代のアスリートとメディア」について説明しました。SNSの普及による課題が浮上する中で、アスリートやメディアがどう向き合うべきかについて、各パネリストが自身の経験を踏まえ、パネルディスカッションが進行しました。

 村上氏は、アスリートがSNSを通じてファンと繋がり応援を得るメリットを語る一方で、投稿が永久に残るリスクや、プライベートからの情報特定などの課題を指摘しました。指導者として、若い選手には「誰のために投稿するのか」を考え、投稿前に第三者の確認を促しているものの、個人の自由を尊重するため強制は難しいと述べました。また、東京2020大会での自身の経験を振り返り、言葉の選び方への反省と共に、周囲のサポートが乗り越える力になったと語りました。

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パネルディスカッションに登壇した田谷亮平NHK記者(写真:フォート・キシモト)

 田谷氏は、メディアの立場から村上氏の事例を詳述し、アスリートの真意が切り取られて伝わることの危険性を指摘しました。メディアの役割として、アスリートの背景や心情に付加価値を付けた情報を発信することで、SNS時代における存在意義を示すことができるとし、高梨沙羅選手の取材経験を例に、深い質問がアスリートの新たな一面を引き出すことに繋がると説明しました。

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パネルディスカッションに登壇した土屋裕睦JOC選手強化本部情報・医・科学専門部会情報・科学サポート部門員/大阪体育大学教授(写真:フォート・キシモト)

 スポーツ心理学専門の土屋氏は、アスリートの心身の健康を「メンタルヘルス」だけでなく、より包括的な「ウェルビーイング(心理的、社会的、身体的に良好な状態)」として捉えるべきだと提言しました。 誹謗中傷がアスリートのウェルビーイングを脅かす深刻な問題であり、これを支えるためには「達成」に加え「感謝」の気持ちを発信することが重要だと述べました。また、ジャーナリストも選手を支える「アントラージュ」の一員であるとし、傾聴、共感、受容に基づいたコミュニケーションの重要性を強調しました。

 各パネリストは、SNSが情報発信の有効なツールであると認識しつつも、その影響力とリスクを自覚した利用の重要性を強調しました。村上氏は選手が協会の公式アカウントを活用することによる負担軽減策を、田谷氏はメディアがアスリートの情報を深く掘り下げ、付加価値をつけて伝える役割を挙げました。 土屋氏は、SNSのリテラシー教育の必要性や、若年層には練習の場としてのSNS利用機会を提供することの重要性を説きました。

 参加者からの質疑応答の場面では、中高生の海外遠征におけるSNS利用の課題が提起され、村上氏はガイドラインの策定や所属と代表としての自覚を促す指導を提案し、土屋氏は競技団体内でのSNS利用に関する「練習の場」を設けるべきだと提案しました。また、北京オリンピックでの選手への誹謗中傷事例とJOC・JPCの相談窓口への期待を表明し、アスリート、メディア、競技団体が「アントラージュ」として連携し、共にメダルを目指すチームとしての協力を呼びかけるとともに、SNSによる情報の偏りや炎上といった既存メディアが直面するジレンマに触れ、正しい情報を伝え、信頼される情報源となる既存メディアの役割の重要性を問いかけました。

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パネルディスカッションに登壇した滝口隆司毎日新聞社論説委員(写真:フォート・キシモト)

 滝口氏は、SNS時代のスポーツ界は、アスリートの安全とウェルビーイングを確保しつつ、その魅力を効果的に発信するために、アスリート、メディア、関係団体が協力し、相互理解を深めることが不可欠であると結論付けました。法整備も進む中で、まだ完全な解決策はないものの、今後もこの問題について議論を継続していくことの重要性を強調し、セミナーを締めくくりました。

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腰塚弘愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会 広報メディア担当(写真:フォート・キシモト)

 続いて、腰塚弘愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会広報メディア担当より2026年に愛知・名古屋で開催される第20回アジア競技大会に関する情報提供が行われました。愛知・名古屋アジア大会は9月19日から10月4日までの16日間で41競技・最大15,000人が参加し、愛知・名古屋アジアパラ競技大会は10月18日から10月24日までの7日間で18競技、3,600〜4,000人が参加する予定で、両大会のメイン会場は名古屋市瑞穂公園陸上競技場となります。大会は、既存施設活用や先端技術導入による「アスリートセンタードの視点」と、多様性を尊重する「共生社会の実現」を意義としています。主要会場には、2026年3月竣工予定の名古屋市瑞穂公園陸上競技場と、2025年7月オープン予定の愛知国際アリーナ(IGアリーナ)が含まれ、宿泊は選手村を設けず、既存ホテルに加え、約4,000人規模のクルーズ船と約2,000人分の移動式宿泊施設が活用されます。大会関連イベントとして、2025年6月5日には「第5回アジアパラ競技大会 500日前イベント」が開催予定で、公式アンバサダーも任命されています。チケットは大会開催1年前の2025年9月以降に、公式サイトやプレイガイドで販売開始との紹介がありました。

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閉会の挨拶をする星香里JOC常務理事(写真:フォート・キシモト)

 閉会の挨拶では、星香里JOC常務理事よりスポーツジャーナリストセミナーへの参加とパネリストへの感謝が述べられました。SNSがスポーツ界に大きな影響を与え、アスリート自身が発信手段を得たことで情報発信の形が変わっていると指摘し、一方で、誹謗中傷問題に対し、JOCがスポーツ庁と連携し、オリンピック・パラリンピック一体で取り組む所存であることを表明しました。この問題はスポーツ界だけでなく社会全体での対応が必要であり、スポーツ界の取り組みが社会全体の課題解決の一助となることを期待すると述べました。アスリートを守り、スポーツの魅力を伝えるため、JOCの第二次中期計画「アスリートとともに スポーツの力を 社会の力へ」を強調し、今後の主要大会がスポーツの力を社会に伝える絶好の機会だと述べました。最後に、本セミナー開催に尽力した日本スポーツ記者協会をはじめとする関係者への感謝を述べ、セミナーが締めくくられました。

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