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2025.01.07 その他活動

「令和6年度スポーツと環境カンファレンス」を開催

令和6年度スポーツと環境カンファレンスを開催(写真:アフロスポーツ)
令和6年度スポーツと環境カンファレンスを開催(写真:アフロスポーツ)

 日本オリンピック委員会(JOC)は12月4日、JAPAN SPORT OLYMPIC SQUARE 14階「岸清一メモリアルルーム」にて「令和6年度スポーツと環境カンファレンス」を開催しました。本カンファレンスは、JOCが2005年度から開催していた「JOCスポーツと環境・地域セミナー」と、日本スポーツ協会(JSPO)が2020年度から開催していた「JSPOスポーツと環境フォーラム」をスポーツ界が一体となり、共通の認識をもってスポーツと環境に関する課題に対応すべく、2021年度よりJSPOとともに開催しています。2024年度は、各中央競技団体(NF)の環境担当者等71名が会場に参集しました。

開会の挨拶を行った日本スポーツ協会の山本浩常務理事(写真:アフロスポーツ)
開会の挨拶を行った日本スポーツ協会の山本浩常務理事(写真:アフロスポーツ)

 はじめに、主催者を代表してJSPOの山本浩常務理事が開会の挨拶に立ち、「本日、スポーツと環境に関して話し合い、お互いが共有した内容を、所属するコミュニティに還元していただき、永続的にスポーツを楽しめる地球を守るためにご尽力をいただきたいと思います。我々JSPOとしても大いに努力してまいります。充実した1日になることを願っております」と呼びかけました。

オープニングレクチャーを行った日本スポーツ協会スポーツ科学研究室の石塚創也研究員(写真:アフロスポーツ)
オープニングレクチャーを行った日本スポーツ協会スポーツ科学研究室の石塚創也研究員(写真:アフロスポーツ)
オープニングレクチャーを行った東海大学准教授の大津克哉氏(写真:アフロスポーツ)
オープニングレクチャーを行った東海大学准教授の大津克哉氏(写真:アフロスポーツ)

 続いて、JSPOスポーツ科学研究室の石塚創也研究員と、JOCオリンピック・ムーブメント事業専門部会員及び東海大学准教授である大津克哉氏がオープニングレクチャーを行いました。

 まずは石塚氏が、地球温暖化がスポーツと環境に与えた影響の事例を紹介し、『人間による活動が地球を温暖化させてきたことについては疑う余地がない』という言葉を伝えた上で「これまで以上にスポーツ界が一丸となって環境問題に向き合わなくてはなりません」と語りました。続けてこれまでのスポーツ界の取組を説明。IOCでは1990年代初めにオリンピック・ムーブメントの3つの柱として「スポーツ」「文化」「環境」を掲げてから積極的に問題解決に取組んできており、2014年には「オリンピック・アジェンダ2020」を発表、その後2021年にはオリンピック・ムーブメントの未来に向けた戦略を示した「オリンピック・アジェンダ2020+5」を発表したことを紹介しました。また国内のスポーツ団体における事例としてJOCやJSPOの環境への取組についても紹介し、最後に「繰り返しになりますが、人間による活動が地球を温暖化させてきたことについては、もはや疑う余地がないというところまで来ており、今後のスポーツの実施やオリンピックの開催が危ぶまれています。本日のカンファレンスが、これまで先駆的な取組を行ってきた団体からこれから始めようとする団体まで、スポーツの持続可能性を確保するために、また各組織のガバナンスを確保していくために、一丸となって取り組む必要性があることを再確認する場となることを期待しております」と参加者へメッセージを送りました。

 続けて大津氏が「スポーツと環境〜スポーツ界の持続可能性に向けて〜」というテーマでレクチャーを行いました。まず地球温暖化の現状について紹介した後、地球温暖化がスポーツに与える影響として、冬季競技会場での雪不足や、熱中症対策としての夏季競技の開催時間・場所の変更等、近年発生している事例を紹介。続けてスポーツと環境の接点には「スポーツが環境に影響を与える」「スポーツが環境から影響を受ける」という2つの側面があるとした上で「スポーツ等の人間活動は基本的に自然破壊や環境汚染を伴います。よって『スポーツの現場における環境保全』と『スポーツを通じた環境問題の啓発』が必要になります」と述べました。その後、オリンピック・ムーブメントを通じた環境問題への取組の事例として、ペットボトルの持ち込み禁止、再生エネルギーを利用した聖火台、再生プラスチックで作られた表彰台やリサイクルされた金属で作られたメダル、公共交通機関や自転車の利用推奨等、本年夏に開催されたパリ2024大会における環境への取組が紹介されました。

 次のプログラムでは2つの事例報告が行われました。

事例報告を行った滋賀県文化スポーツ部 国スポ障スポ大会局長の辻󠄀睦弘氏(写真:アフロスポーツ)
事例報告を行った滋賀県文化スポーツ部 国スポ障スポ大会局長の辻󠄀睦弘氏(写真:アフロスポーツ)

 まず、滋賀県文化スポーツ部 国スポ・障スポ大会局の辻󠄀睦弘局長が登壇し、『わたSHIGA 輝く国スポ・障スポ2025』における環境配慮の取組について紹介しました。冒頭、滋賀県では『MLGs(マザーレイクゴールズ)』という琵琶湖を切り口にした2030年の持続可能社会へ向けた目標を定めています。これは琵琶湖版のSDGsとして、2030年の環境と経済・社会活動をつなぐ健全な循環の構築に向け、独自に13のゴールを設定しているものです。そして『わたSHIGA 輝く国スポ・障スポ2025』ではMLGs宣言として、MLGsに沿った取組をすることを定めています。その具体的な内容として、県民への省エネ行動の呼びかけや企業へのカーボンクレジットの提供によるカーボンオフセットや、再生素材100%で作られたスタッフウェアやリユース食器の活用といったプラスチック削減への取組を紹介しました。最後に辻氏は「来年の国スポ・障スポを契機に、自治体、企業、県民が一体となって環境に配慮した取組が広がり、そして一人ひとりの意識や行動の変化に繋がることを目指しています。本日ご参加のNFの皆様も一緒に、環境への取組を行っていけたら幸いです」と述べました。

事例報告を行った横浜市にぎわいスポーツ文化局スポーツ振興部長の熊坂俊博氏(写真:アフロスポーツ)
事例報告を行った横浜市にぎわいスポーツ文化局スポーツ振興部長の熊坂俊博氏(写真:アフロスポーツ)

 次に、横浜市にぎわいスポーツ文化局スポーツ振興部の熊坂俊博部長が登壇しました。1963年の企業との公害防止協定の締結や1973年に緑地保全を目的として制定した『緑の環境をつくり育てる条例』等、国内でも早い段階から環境問題と向き合ってきた横浜市。そして2009年から世界トライアスロン横浜大会の開催地となったことをきっかけに、景観、にぎわい、水環境にすぐれた「きれいな海」の実現に向けた活動を開始しました。その世界トライアスロン横浜大会での取組として、開催1ヶ月前にグリーントライスロンという大会PRと地球環境保全の啓発を目的としたイベントを実施していることや、大会時においてはブルーカーボン事業として参加者やブース出展者から集めた環境協力金でカーボンオフセットを行い、そこで育成したわかめを『完走(乾燥)わかめ』として配布することで参加者への理解促進を行っていること等が紹介されました。その他にも毎年2万人以上が参加する横浜マラソンや、新たに誕生した横浜BUNTAIといった施設での取組も紹介し、最後に「これまではスポーツイベントといえばゴミや二酸化炭素が大量に排出されるという印象がありましたが、これからはスポーツイベントを実施することで環境が良くなるというように変化させていければと考えています。イベント事業者やJOC、NFだけでなく、自治体や地域、参加者や市民と一体となって、このような仕組みを作っていけたらと思います」と語りました。

「スポーツイベントにおける気候変動対策について」をテーマにパネルディスカッションを実施(写真:アフロスポーツ)
「スポーツイベントにおける気候変動対策について」をテーマにパネルディスカッションを実施(写真:アフロスポーツ)

 続いて、「スポーツイベントにおける気候変動対策について」をテーマにパネルディスカッションが行われました。大津氏がモデレーターを務め、事例紹介で登壇した辻氏、熊坂氏に加えて、オリンピアンの齋藤里香氏(ウエイトリフティング)、皆川賢太郎氏(スキー/アルペン)がゲストとして参加。オリンピックや競技活動を通しての経験談を交えながら議論を深めました。

パネルディスカッションに参加したオリンピアンの齋藤里香氏(写真:アフロスポーツ)
パネルディスカッションに参加したオリンピアンの齋藤里香氏(写真:アフロスポーツ)

 アスリートやNFの環境への向き合い方というテーマに対し齋藤氏は「現役時代は競技のことを考えるのに必死で、自分の置かれている環境やウエイトリフティング全体のことを考える余裕がなかったというのが正直なところです。引退前後から少し広い視野で物事を考えられるようになり、ウエイトリフティングが多くの方に愛される競技になってほしい、スポーツ全体が世の中に必要とされるものであり続けてほしいと思うようになりました。私が現在関わっているアンチ・ドーピング同様にスポーツの環境を整えるために重要なものの1つが環境問題なのではないかと思っています。広い視野を持てるようになったアスリートはきっといると思うので、NFで何か取組ときにそのようなアスリートに声をかければ協力してくれると思いますし、それは自治体や地域からの依頼でも同様だと思います」と、自身の経験を元に語りました。

パネルディスカッションに参加したオリンピアンの皆川賢太郎氏(写真:アフロスポーツ)
パネルディスカッションに参加したオリンピアンの皆川賢太郎氏(写真:アフロスポーツ)

 大会のレギュレーションを環境に配慮しすぎるとアスリートが競技をしづらくなってしまうのではというテーマでは、皆川氏が「昨年の冬季国スポのスキー競技では、コースの距離が本来のレギュレーションより短くなりました。これは積雪や温度、環境によって結果的に短くなってしまったものです。屋外競技のアスリートは自然環境と常時向き合っているので、その環境を受け入れていくというスタンスでもあります。もちろん各競技において国際レギュレーションというものはありますが、国スポ等の大会ではそれを完全に遵守することは難しい部分もありますし、どの部分を譲歩できるのかというところを模索している段階なのかなと思います。想像にはなりますが、環境への配慮等未来に向けたルール作りを、国スポ毎に設計するようになるかもしれません」と、冬季競技に関わっている立場から自身の意見を述べました。

 国スポにおける気候変動対策について、辻氏から「滋賀だけの取組だけでなく、この後に続く大会にも何か拠り所になるようなガイドラインのようなものが必要ではないか」と提案があり、進行を務めた石塚氏が「スポーツ大会運営のあり方に関するガイドラインは必要であるため、策定することを前向きに検討したい」と意見を述べました。

 最後にディスカッションのまとめとして登壇者から今後の抱負が語られました。齋藤氏は「大きなことはできなくても小さなことを積み重ねて当たり前にするこということは、引退した私にもできることではないかと思います。地球に関わることなので、皆さんと一緒に前に進んでいけたらと思います」と語り、皆川氏は「スポーツの現場も冬季産業も、その課題解決が環境問題の解決に繋がるような社会構造になっているのではないかと思います。これからも皆さんと一緒に課題解決に向けて取組んでいきたいと思います」と語りました。

 大津氏は「まずは環境に対して興味を持つこと、そして自分のできることから行動すること。この考え方を指導者やアスリートに伝えていく。そしてアスリートが家族や周囲の人に広めていくことが、スポーツを楽しむ環境を50年後、そして100年後の子供たちに残すことに繋がるのだと思います」というJOCの環境メッセージを伝え、その上で「スポーツと環境の接点に気が付けば、持っている知識が意識に変わります。そうなったらできることからひとつずつ行動していき、そして行動する人が増えれば、スポーツを通じて社会を変える大きな力となります」と語り、締めくくりました。

グループディスカッションで情報共有(写真:アフロスポーツ)
グループディスカッションで情報共有(写真:アフロスポーツ)

 その後、参加者がグループディスカッションを実施。グループごとに、お互いの所属する組織における環境への取組について、情報共有を行いました。

閉会の挨拶を行った小谷実可子JOC常務理事(写真:アフロスポーツ)
閉会の挨拶を行った小谷実可子JOC常務理事(写真:アフロスポーツ)

 すべてのプログラムが終了し、閉会の挨拶として、JOCの小谷実可子常務理事が登壇者とパネリストに感謝を述べた後、「本日の参加者の皆様においては、スポーツをより長く楽しんでもらうためにも、本日のカンファレンスの内容を所属団体等で是非活かしていただき、そしてアスリートへの教育活動をお願いするとともに、皆様一人ひとりが環境問題を自分事として捉えていただけたら幸いです」と総括し、カンファレンスを締めくくりました。

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