日本オリンピック委員会(JOC)は11月11日、「令和6年度JOCコーチ会議及び情報・医・科学合同ミーティング」を開催しました。JOCの役員、選手強化本部をはじめ各専門部会の部会員や、ナショナルコーチ・専任コーチ等、国内競技団体(NF)の関係者ら、強化に関わる約270名が参加。パリ2024大会の副団長によるパネルディスカッションのほか、ミラノ・コルティナダンペッツオ2026冬季大会、愛知・名古屋アジア大会に向けた情報共有、JOC選手強化中長期戦略プロジェクトに関する説明などが行われました。
開会に先立ち、主催者を代表して尾縣貢JOC 専務理事兼選手強化本部長が挨拶。今年度の振り返りとして、第33回オリンピック競技大会(2024/パリ)でのTEAM JAPAN選手団の健闘を称えるとともに、「憧れられるアスリートの育成、スポーツによる社会課題解決への貢献、これらを念頭に置きながら活動を続けてまいりたいと思います。スポーツ界一丸となって総力を結集して進んでまいりたいと思いますので、ご協力よろしくお願いします」と参加者に呼びかけました。
また、来賓としてスポーツ庁の日比謙一郎競技スポーツ課長が挨拶し、パリ2024大会における選手団の活躍を称賛しました。また、愛知・名古屋アジア大会等に向けた選手強化、誹謗中傷等への対応やインテグリティの確保、国際スポーツ情報の活用などについて説明。そして、「夏冬問わず、TEAM JAPANの皆様がオリンピックを始めとする国際競技大会等において最高のパフォーマンスが発揮できるように、予算の確保をはじめ競技団体の皆様をこれからも全力でサポートすることをお伝えします」と述べました。
■パネルディスカッション(パリオリンピックでの取り組み・振り返り)
続いて、パリ2024大会TEAM JAPANの井上康生副団長、谷本歩実副団長、杉田正明本部役員がモデレーターとして登壇し、パネルディスカッションが行われました。パリ2024大会で見えた課題や評価できる点、今後について率直な意見を交換しました。
井上副団長は「アスリートのパフォーマンスや多くの方々のサポート、そしてファンの歓声と、人々とスポーツの融合を感じられた素晴らしい大会でした。オリンピックやスポーツの価値というものを改めて認識することができました」とパリ2024大会を振り返るとともに、「ミラノ・コルティナダンペッツオ2026冬季大会やロサンゼルス2028大会に向けた戦いは始まっています。皆様方のお力を借りながら、一丸となって進んでまいりたいと思います」と決意を述べました。
谷本副団長は「今回オリンピックとしては初めてTEAM JAPAN Caféという、TEAM JAPANの皆さんがくつろげる空間を選手村に設置しました。多くの方にご利用いただき、選手だけではなくコーチ同士の交流の場にもなりました。今回このようなリラックススペースの重要性を実感し、各国が注力している部分でもありますので、日本としても力を入れていきたいと思います」と振り返りました。
その後登壇者と参加コーチ間で、パリ2024大会においてプラスに作用したもの、村外サポート拠点、事前合宿、大会期間中の一体感醸成などについて、活発で忌憚のない意見交換が行われました。
■今後の国際総合競技大会について
次に、ミラノ・コルティナダンペッツオ2026冬季大会などの今後の国際総合競技大会に向けて小林亨JOC強化部長が現時点の準備体制、今後の方向性について報告。ミラノ・コルティナダンペッツオ2026冬季大会について、各種サポート体制や現地拠点、アクレディテーションなどについて準備を進めていることが紹介されました。
続いて独立行政法人日本スポーツ振興センター及びハイパフォーマンススポーツセンターの久木留毅理事・センター長が登壇。各種会議や今後の計画など、国際大会における情報連携について紹介がありました。
その後、公益財団法人愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会の八木和広副事務総長が登壇し、2年後に開催される愛知・名古屋アジア大会の進捗状況を報告するとともに、「愛知・名古屋アジア大会を有観客の大会として盛り上げ、今後の国内における国際大会招致の試金石とさせていただきたいと考えておりますので、ご協力お願い申し上げます」と呼びかけました。
■アンチ・ドーピング専門部会より(アンチ・ドーピング教育)
続いて、JOCアンチ・ドーピング専門部会から、古谷利彦部会長、浅川伸部門員・日本アンチ・ドーピング機構専務理事が登壇。パリ2024大会に向けたアンチ・ドーピングプログラムや大会派遣前の研修状況など、2024年度の活動について報告した上で、競技団体やコーチに向けて「アンチ・ドーピング教育は面倒なものではなく、選手の競技生活を守るために必要なものだと思ってもらえるように取り組んでまいりますので、皆様の一層のご協力をお願いしたいと思います」と呼びかけました。
■情報・医・科学専門部会
休憩を挟み、情報・医・科学専門部会から土肥美智子JOC情報・医・科学専門部会長が登壇。パリ2024大会におけるサポート体制、感染症対策方針、出場前のメディカルチェック、スタッフの健康調査、現地での活動や選手団の受診状況などについて紹介した上で、「感染症対策や医薬品の運搬・管理といった面では大きな問題もなく進められたと思います。一方で選手団以外の選手やスタッフの診療については、一定のルールを定める必要があると感じました。また、外傷・障害・疾病登録について、本部も各NFの医師も複数のフォーマットへの入力が必要なので、登録方法を検討する必要があると考えております。2025年1月にトリノでFISU冬季ワールドユニバーシティゲームズが行われますので、こちらをミラノ・コルティナダンペッツォ2026冬季大会へのテストとして取り組んでまいりたいと思います」とコメント。併せて、ウェルフェアオフィサーの活動報告や誹謗中傷対策について説明が行われました。
続けて登壇した杉田正明JOC情報・医・科学専門副部会長からは、パリ2024大会に関するアンケート結果や情報・医・科学専門部会の取り組み、選手村内外における他国の取り組み事例などが共有されました。
■JOC選手強化中長期戦略プロジェクトについて
次に「JOC選手強化中長期戦略プロジェクト」について、「憧れられるアスリート」を継続的に育成するためのJOC選手強化本部としての目標の方向性や目指す姿、戦略の柱について、水鳥寿思選手強化中長期戦略プロジェクトリーダー、井上康生ハイパフォーマンスマネージャー、中竹竜二サービスマネージャー、皆川賢太郎サービスマネージャーが登壇。現在実施している3つのワーキング(アスリート、指導者、データ&テクノロジー)における施策について、それぞれ説明しました。
まずアスリートワーキングについて、担当の水鳥プロジェクトリーダーは「従来のオリンピック強化指定選手に加え、昨年度からオリンピックネクスト強化指定選手という枠組みを設定しております。この2つのカテゴリーを対象とし、アスリートアカデミーを軸としたJOCアスリートサポートプログラムの充実を図っています。プログラムに参加したアスリートの声を拾っていきながら選手に必要な情報提供をしていき、選手たちが憧れられるアスリートになるための支援をしていきたいと思います」と語りました。
続いてデータ&テクノロジーワーキングを担当する皆川サービスマネージャーが登壇。「JOCでは一気通貫のデータ管理を推進しております」と構想を語った上で、選手・指導者等のパーソナルファイルのデータベース化や、選手強化に関するデジタルプラットフォームの推進、競技別強化拠点とのネットワーク連携などについて説明しました。
最後に井上ハイパフォーマンスマネージャー、中竹サービスマネージャーが担当する指導者ワーキングについて解説。冒頭、井上ハイパフォーマンスマネージャーは「指導者の支援、そして連携は非常に重要な部分ですので、今後も皆様とコミュニケーションを取りながら、良いものを作っていけるよう進めてまいります」と語りました。中竹サービスマネージャーは、指導者ワーキングのスローガンである『対話と共創』を紹介した上で、会場に多く集まったハイパフォーマンスディレクターやハイパフォーマンスアシスタントディレクターに向けて具体的な役職の役割と責任などについて解説。そして「JOCのハイパフォーマンスマネージャーやサービスマネージャーが各競技団体のハイパフォーマンスディレクター・ハイパフォーマンスアシスタントディレクター間の交流連携を促すことで、各競技団体単体では達成することができない”スポーツ界全体の競技力の共創”を支えていきたいと思います」と述べました。
■ガバナンス・コンプライアンスについて
TMI法律事務所の小塩康祐弁護士がガバナンス・コンプライアンスについてというテーマで登壇。指導者や指導するアスリートの遵守すべきコンプライアンス、SNS対策、不祥事対応という3つについて、法律の専門家としての立場から説明を行いました。
■NTC事業紹介・令和5年度JOCナショナルコーチアカデミー修了式
服部道子ナショナルトレーニングセンター専門部会副部会長が登壇し、JOCエリートアカデミー事業やJOCキャリアアカデミー事業「アスナビ」について説明。それぞれへの連携や活用を呼びかけました。続いて「令和5年度JOCナショナルコーチアカデミー修了式」が行われ、令和5年度の修了者41名を代表して公益財団法人日本体操協会の佐藤寛朗さんに、尾縣JOC専務理事兼選手強化本部長から修了証が贈られました。佐藤さんは、「私はナショナルコーチとして活動する上で、『信念を持ち全力で強化活動に取り組む』『コミュニケーションを大切にし、皆で同じ目標に向かって努力する』『仲間を大切にする』というナショナルコーチアカデミーで学んだ3つのことを大切にしております。ナショナルコーチアカデミーでは自分と異なる競技の方々と多くの時間を過ごすことができました。この先コーチとして学び続ける上で、そのような刺激し合える仲間が非常に大切になると感じています」と想いを語りました。
■クロージングセッション
最後に、クロージングセッションとしてJOC選手強化事業専門部会の伊東秀仁部会長が閉会の挨拶に立ち、ミラノ・コルティナダンペッツオ2026冬季大会、愛知・名古屋2026アジア競技大会に向け、「TEAM JAPAN、JOC、各競技団体がそれぞれの役割を果たし、相互に連携しながら、スポーツ界全体で『スポーツの価値を守り、創り、伝えていく』というビジョンの実現に努めて参りたいと思います」と述べ、今年度のコーチ会議を締めくくりました。
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