公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は6月8日、愛知県名古屋市でトップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビとは、オリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動です。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに219社368人(内定者含む、2023年6月8日現在)の採用が決まりました。
説明会は愛知県、中部経済同友会との共催で行われ、24社34名が参加しました。
最初に主催者を代表して岩渕健輔JOC理事がアスナビ説明会に参加した企業に対する感謝の言葉を述べました。続けて、「選手たちは様々な支援があってこそいいパフォーマンスを発揮できます。そのためにはどうしても環境が必要です。本日ご参加いただいた皆様にはぜひTEAM JAPANの一員となってオリンピック、そして2026年に行われるアジア競技大会で活躍できるようなご支援をいただければと思います」と、参加企業にアスリート採用を呼びかけました。
続いて、共催者を代表して大村秀章愛知県知事が「本日ご出席いただいたアスリートの皆さんは愛知県を中心とする中部エリアでの就職を希望していると伺っております。この機会に是非とも積極的にプレゼンテーションを行っていただければと思います。また、企業の皆様には世界で活躍が期待されるトップアスリートばかりですので、積極的な採用をご検討いただければと思います」と、期待の言葉を送りました。
次に、柴真樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターがアスナビの概要ならびに、雇用条件、夏季・冬季競技それぞれの採用人数、採用された競技、アスリート活用のポイント、採用後のカスタマーサポート、これからの進め方などを説明しました。
続いて行われた採用企業の選手活用例では、同説明会を通じて志土地希果選手、栄希和選手(ともにレスリング)を採用した株式会社ジェイテクトの総務部スポーツ・リレーション推進室の中山敦央室長が登壇しました。まず中山氏が会社概要と同社におけるアスリート支援について説明。同社がアスリート支援を始めるきっかけとなった志土地希果選手の採用について、「至学館大学でレスリングに取り組んでおり、愛知県になじみのあるスポーツだったことや初めての採用でも指導面や施設面でも大学と連携が取れることが決め手になった」と話しました。
そのあと所属しているアスリートたちの雇用形態や出勤体制について説明。アスリートを採用したメリットは活躍によって会社を元気にしてくれることや、若手研修の講師や地域イベントなどへの参加によって、会社や地域との懸け橋となってくれていることだと述べました。
最後に、「アスリートは自分たちの価値を再認識して自信をもって取り組んでいってほしい」と語りました。
その後、就職希望アスリート6名がプレゼンテーションを実施。映像での競技紹介やスピーチで、自身をアピールしました。
■小林かなえ選手(フェンシング)
「私は小学校2年生の時、町の文化祭の体験コーナーでフェンシングに出会い、その後普通の人がやらないことに魅力を感じ、どんどんのめり込んでいきました。中学1年生のときにはフルーレからサーブルへ転向し、翌年初めて出場したサーブルの東日本大会ではいきなりベスト4に入り、同年の冬には海外遠征にも派遣していただきました。フルーレの『突く』ということに対し、サーブルは『斬る』という動きが基本で、今までとは全然違う動きに心惹かれて、さらにフェンシングが楽しくなってきました。私は新しいことへの挑戦が成長への鍵だと考えております。フェンシングだけでなく、仕事に対しても同じように、この好奇心を自分の武器として生かしていきたいです。東京2020大会後にナショナルチームのヘッドコーチがフランス人のコーチに変わりました。そのコーチの方針を自分なりに理解し、チームと協力してこそ勝利が得られると思うようになりました。最近の試合では冷静になると仲間の声が聞こえるようになり、コーチやチームメイトの声から次の作戦を考えられるようになりました。成績も上り調子で世界ランキングは昨年度4月時点で122位から33位まで上がり、アジア選手権、世界選手権のメンバーにも初選出いただきました。皆様の企業にご採用いただけましたら、持ち前のチャレンジ精神を生かし、社員の皆様、一人ひとりと対話することを大切にし、ムードメーカーとして会社を盛り上げる核となって活動していきたいです。そして私のプレーを見ていただき、社員の皆様からの応援を受け、頑張っていきたいです」
■藤田慎之介選手(スキー/ジャンプ)
「私は元スキー選手だった父の影響で3歳からスキーを始めました。小学校低学年の時、町民スキー大会でスキージャンプの体験会に参加し、翌日にはジャンプ少年団に入団。父のいとこが長野オリンピック金メダリストの船木和喜さんだったと知り、それから中学3年生の時に優勝した全国中学スキー大会で世界を意識するようになりました。その時、父が大喜びでハイタッチをしてくれました。父の夢が世界一のスキー選手になることだったと聞き、その夢の続きを叶えたいと思いました。高校はレジェンド葛西紀明さんの母校・東海大学附属札幌高校に進学し、初めてのインターハイで3位入賞。高校3年生ではほとんどの試合で優勝。大学は東海大学に進学し、人体の構造やスポーツ指導者の資格取得に向けた勉強をしています。現在、大学で学んだことを活かし、競技力の向上と練習の効率化を図っています。皆様の企業に採用されたら二つのことに挑戦したいと思っております。一つ目は社員の皆様に、スポーツを通じて健康な心身を作るお手伝いをしていきたいと考えております。二つ目は、SNSマーケティングについてご協力させていただきたいと考えております。私は最近、SNSのマーケティングにとても興味があり、自身のSNSでフォロワーの方はどのような投稿に興味があるのか、どのような投稿が伸びるのかなど、自身のSNSを使い研究しています。この経験を生かし、企業様のSNSなどに貢献ができるのではないかと考えております。本日はありがとうございました」
■篠原琉佑選手(スキー/スノーボード)
「私は父の影響でスノーボードを始め、約15年間、競技とともに生きてきました。そんな私が大切にしていることは『信頼』と『挑戦』です。スポーツは決して一人でできるものではありません。いろいろな方々との信頼関係があってこそスポーツは大きな力を生み、それが見てくださる方に届くことで、感動や活力につながると考えています。これは日々、新たなビジネスを開拓し、社会貢献に尽力されている企業の皆様と共通することではないでしょうか。この信頼をもとに競技で培ってきた能力の一つに『考え方』があります。ネガティブは悪いものではなく自身の弱点を知ることができる一つのツールだと教えてくれる人に出会い、競技で苦しんでいた弱点を克服し、自身のパフォーマンスに集中することができました。次に大切にしている『挑戦』についてもお話しします。私はオリンピックの金メダル獲得を目標としており、挑戦する過程とその後を通して誰かの助けになりたいという思いが強くあります。なぜなら、取り組むことでアスリートとしての存在意義を見出すことができるからです。私が世界に挑戦する姿が、誰かの挑戦の後押しになるかもしれないと考えると、わくわくします。私は人の心を動かせるアスリートになりたいと思います。ご採用いただいた際には、強い覚悟を持ち、目標に挑戦することや競技で培った力を活かして職務を全うすることはもちろん、世界に挑戦する姿をお届けすることで、企業の一体感醸成を図り、間接的に社会貢献できるものと信じております。本日はスノーボードというスポーツをしていたからこそいただけた貴重な機会にとても感謝しています。ありがとうございました」
■松代龍治選手(カヌー/スプリント)
「私は中学1年生の時にオリンピックへの思いを胸に競技をはじめ、高校2年時にはインターハイ優勝を経験しましたが、腰の疲労骨折を患い、以降は思うような結果を残せませんでした。しかし、自身の課題と向き合い、2021年全日本学生選手権で優勝。昨年は世界選手権で優勝という成績を収めました。現在は来年のパリオリンピックでの金メダル獲得を目指して海外を転戦し、日本代表合宿でトレーニングに励んでいます。昨年4月、大学を休学し、瞬発力と持久力を伸ばすために強豪国であるハンガリーに留学しました。そこで得た成果は二つあります。一つ目は、未経験のトレーニング手法を身につけ、競技力を向上させたこと。二つ目は、トレーニングへ取り組む姿勢の大切さです。ハンガリーの選手は誰もが練習も試合も楽しく向き合っており、その姿勢は違いを最も感じた点でした。次に代表活動と学業の両立についてお話します。私は国際的な分野を学びたいと思い、南山大学国際教養学部へ進学しました。大学での学びも大切に考えていたので、当初は日本代表合宿になかなか参加することができませんでした。しかし、オンライン講義という特色を生かし、日本代表合宿と学業との両立を可能としました。私の目標は、2024年パリオリンピックの出場、2026年に愛知県で開催されるアジア競技大会の優勝、2028年ロサンゼルスオリンピックでのメダル獲得です。皆様の企業にご採用いただきましたらカヌーを通して培ってきた何事にも挑戦する力、日本代表活動と学業を両立させた経験を活かし、結果を出せるように取り組んでまいります」
■切久保仁朗選手(スキー/アルペン)
「私の目標はオリンピックでメダルをとることですが、もう一つの目標があります。それは感動をもたらす選手になることです。羽生結弦選手が何度も震災地に訪問し、アイスショーをすることでたくさんの人に勇気や感動を与える姿を見たことをきっかけに、次は私が行動と結果で感動をもたらせるような選手になりたいと思うようになりました。この目標に対して、たくさんの人とコミュニケーションをとることに力を入れてきました。私は大学3年時にアルペン種目の取りまとめ役を担い、トレーニング時には選手のモチベーションを上げるための雰囲気作りや相談に乗りました。4年時には、部活の主将としてチームの先頭に立ち、まとめ役のチーフを担い、チームが強くなるように行動してきました。また、支えてくれる人たちとのコミュニケーションを通して決して一人では競技ができないということを実感し、感謝の気持ちを持つことで応援されるような人間性や信頼関係を構築することができたと自負しております。その結果、今年のインカレでは回転、大回転の2種目で優勝することができました。優勝した瞬間は部員だけでなく、ライバルやコーチ、支えてくれる人たちが泣いて喜んでいる姿を見て、初めて私がたくさんの人に感動をもたらしたと実感することができました。私が皆様の企業に採用されましたら、活躍で勇気や感動が生まれること、応援してもらうことによって社員同士の親交も深まるのではないかと考えます。問題解決力、強いメンタル、コミュニケーション能力の三つの能力を生かし、どんな職務でも真摯に取り組み、企業への貢献に努めてまいります」
■若月夕果選手(スキー/アルペン)
「私は姉の影響でスキーを始め、高校は親元を離れて単身で北海道にわたり、技術に磨きをかけました。3年間の寮生活を通して甘えない自分を構築できたと思います。このような生活の中、高校2年生の時に出場した大会中に転倒し膝に大けがを負い、2シーズンは雪上に立つことすらできませんでした。諦めかけた時、『このままでいいのか、もう十分やりきったのか』と自問自答しました。私の答えは『アルペンスキーが好き。もう一度勝利に挑戦したい。夢を夢で終わらせたくない』という気持ちでした。絶対に復帰して雪の上に立つという強い思いを持ち続けた結果、大学2年生の頃から膝を思うように動かすことができるようになりました。そして、2年間を取り戻すことを誓い、初めて挑んだ全日本学生選手権では3位入賞を果たすことができました。その後の好成績により国内強化選手に選出されたときは諦めずに努力を続けることの大切さを感じました。この経験から、諦めない力、目標達成力、挑戦を続ける力を養うことができました。私は、この三つの力を活かし、2026年ミラノオリンピックの出場、2030年のオリンピックのメダル獲得に向けて努力の日々を送っています。企業の皆様にご採用いただきましたら仕事と競技、どちらも全力で取り組みます。スポーツのもたらす喜びや楽しさ、感動を共有することで価値を生み出し、社内に活気をもたらします。チームワークは目標達成に対する情熱、どんな困難にも挑戦し続ける姿、意志があります。以上のことを体現することで、企業の貢献できる存在になるということを約束します」
プレゼンテーション終了後には、就職希望アスリート6名による座談会を実施。それぞれが自己PRを行いました。
次に、オリンピアンからの応援メッセージとして、競泳で北京2008大会、ロンドン2012大会に出場し、現在は日本オリンピック委員会でアスリート委員を務める伊藤華英氏が「大事なのは、アスリートが自分の価値を自分で伝えて人の心を動かすこと。ここにいる6人は、自分の軌跡を自ら考え、スライドを作って、何度も練習して参りました。きっとそれができる6人だと思います。ぜひ競技力、そして今日のような能力を評価していただいて、採用していただけたら大変嬉しく思います」と企業へ採用を呼びかけました。
また、説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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