JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、北京2022冬季オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。
鍵山 優真(スケート/フィギュアスケート)
男子シングル 銀メダル
団体 銅メダル
■大舞台で実現した親孝行
――男子シングルで銀メダル、そして団体でも銅メダルと、初出場となったオリンピックの舞台で2個のメダルを獲得されました。どんなお気持ちでいらっしゃいますか。
初めてオリンピックという舞台を経験して、いろいろな緊張もありながら、その中で楽しさを忘れずに最後まで競技ができたかなと思います。
――メダルをとる前と、とった後で反響や自分自身の変化を感じることはありますか。
そうですね。オリンピックなので特別感はやはり強かったです。ただ、競技をしている最中にやっていることはいつもと変わらないので、あまりオリンピックであることを意識しすぎずに、いつもの試合と同じようにプレー、演技することができました。
――お父様の鍵山正和さんは1992年アルベールビルオリンピック、94年リレハンメルオリンピックに出場されたオリンピアンでした。ただ、お父様もかなえられなかったメダル獲得を、優真選手は初出場で成し遂げました。お父様とは何かやりとりされましたか。
「おめでとう」という言葉だけはもらいましたが、(※)深いやりとりはこれからです。オリンピックのことや、今後の課題についていろいろと話していけたらいいですね。父を再びこの舞台に連れて来られたことはすごくうれしく思っています。生まれてからずっと一緒にスケートの道を歩んできて、色々と山あり谷ありの状況を乗り越えて今の自分があるわけですが、乗り越えられた要因として、父の言葉の支えもあったのですごく感謝しています。
(※インタビュー実施日:2022年2月11日)
――キスアンドクライでお二人が並んでいる時には、マスクをしていることもあって余計にそっくりに見えました。
父は普段、僕とは真逆のタイプで結構冷静なので、試合であれほどの笑顔を見ることはすごく珍しいと思います。それぐらい、父の笑顔を引き出せたことはすごく良かったですね。
――最高の親孝行ですね。
そうですね。まずはオリンピックという舞台で、一つの親孝行ができたかなと思います。
■充実した北京2022冬季オリンピック
――団体も含めて3本の演技をされました。拝見していて3本とも本当に素晴らしい滑りに映ったのですが、最後のフリーの際はご自身が「初めて緊張した」ともおっしゃっていました。今大会をどのように振り返っていますか。
オリンピックという舞台にせっかく立てたので、一つも悔いが残らないように最後まで過ごしたいと願っていました。そして、その言葉通り、何も悔いは残らず最後まで100%の自分を出し切れたと言えます。その点は本当に良かったと思っています。
――「頑張ってきた数年間の全てが詰まった銀メダル」という言葉もありましたが、メダルがとれた最大の要因を一人のフィギュアスケート専門家としてご自身が分析した時に、どういう点が優れていたと思いますか。
メダルのことをあまり考えずに、自分自身に集中していい演技ができるようにとだけ考えていました。技術的なことでいえば、加点につながるような質のジャンプが跳べたというのが大きかったと思います。演技構成点やスケーティングなど、シニアになってからも評価されたことはすごくうれしいですね。と同時に、まだまだ成長できる点もあると感じたので、これからもっと磨いていきたいと思っています。
――2020年にはローザンヌで行われたユースオリンピックを経験されました。その時と比較して、今回初出場を果たした北京2022冬季オリンピックをどう感じていましたか。
オリンピックとユースオリンピックとで選手村の違いを感じました。ユースオリンピックと比較しても本当に広くていろいろなものがあるので、すごく興味が湧きます。まだ全部は探索しきれていないのですが、ようやく競技が終わりましたので、ゆっくりと選手村を拝見したいと思っています。
――具体的に楽しみにしていることはありますか。
オリンピックグッズをまだ買えていないので、みんなにお土産としてビンドゥンドゥングッズを買っていきたいと思います(笑)。
競技が終わったとはいえ、今日から練習できる状態なので、落ち着いて体がリセットできたら、もう一回練習に戻りたいと思います。そして、その余った時間で、オリンピックを十分に楽しみたいですね。
――それは、この後のエキシビションやその後に控える世界選手権などに向けて、まだまだ気を緩められないという思いなのでしょうか。
はい、そうですね。今の自分は休みたい気持ちもある一方で、早く練習したいという気持ちが強いです。エキシビションももちろんなのですが、今、すごく向上心がある状態なので、もっと練習して成長したいと思っています。
■ライバルとの切磋琢磨と自らの成長
――新型コロナウイルス感染症が拡大する中での大会開催となりました。振り返ると東京2020大会も1年延期され、フィギュアスケートも影響を受けたと思うのですが、鍵山選手はスポーツがなかなかしづらい環境をどのように受け止めてきましたか。
一時期練習ができなかったり、練習できても1日数時間という短い時間しかできなかったりした経験を通して、1日を大切に過ごすことの大切さを学びました。また、試合を開催してくださる運営の方々の感染防止対策の配慮など、そういう部分がしっかりと行われているからこそ自分の演技に集中できていると感じるので、周りの方々のサポートには本当に感謝しています。
――オリンピックの良さは、ライバルを大切な仲間ととらえてたたえ合うというところもありますよね。特にフィギュアスケート界は、そういうライバルを大切にする文化があると感じますが、鍵山選手にとってライバルの存在はどういうものでしょうか。
日本では特に、互いに切磋琢磨して高め合うという気持ちが強く、すごく毎日楽しく練習できています。それはスポーツ界全体にとってもすごく良いことだと思うので、今後、僕たちが下の世代に受け継ぎ、発展していけるように守りたいと思っています。
――宇野昌磨選手が鍵山選手について、「少し年が離れているけども本当の意味で同世代の切磋琢磨できるライバルが出てきてうれしい」とおっしゃっていました。鍵山選手にとって宇野選手はどういう存在でしょうか。
宇野選手が意識してくれているからかもしれませんが、先輩感はあまり感じず、同じ立場として会話をしてもらえることをすごくうれしく思っています。宇野選手がそういう接し方をしてくれてすごく優しさがにじみ出ているからこそ、フレンドリーに話すことができていい関係を築けているのではないかと思います。
――ずっと背中を見て頑張ってきたと思いますが、羽生結弦選手についてはどう感じていますか。
僕が感じたこともないようなプレッシャーや重圧を一人で背負い、常にトップで走り続けている姿はすごく憧れでもあり尊敬もしています。おそらく、引退した後も語り継がれていく存在になっていくでしょう。羽生結弦選手という人物を超えられる存在は現われないのではないかと感じています。
――今大会金メダルを獲得したネイサン・チェン選手については。
同じ選手として見ると、本当に並外れた能力を持っていると同時に、桁外れの努力をしてきたのだと感じています。自分の演技が終わった後にネイサン・チェン選手の演技を見たのですが、高難度の構成に挑んでいるにも関わらず楽しそうに滑っている表情や姿は、自分の目には「すごくいいな」と映りました。今後は、彼みたいに楽しく滑れるように頑張りたいなと思います。
――オリンピックメダリストになったことで、鍵山選手の一挙手一投足がさらに注目を集めることになりそうです。そしてまた、鍵山選手の背中を見てスケートに挑戦する子どもたちも出てくると思います。スポーツやスケートの素晴らしさをどのように伝えていきたいですか。
今の自分にできることは、スケートを楽しく滑ること。楽しく滑っている姿を見てもらい、フィギュアスケートが魅力的なスポーツだと思ってもらえるように頑張りたいです。演技に関して芸術的だと認められるような素晴らしい選手になりたいと思っています。
――コメントの中には、「オールラウンダーに近づいていきたい」という言葉もありました。現状ご自身が感じている課題感はありますか。
周りからは、「もうオールラウンダーでは」と言われることもあるのですが、自分の中では羽生選手や宇野選手などと比較した時に滑りがまだまだ子どもっぽいところがあると感じています。経験が浅いので、もっといろいろな世界を見て、経験して、自分の表現を引き出していきたいと思っています。
――本当にありがとうございました。あらためて、おめでとうございます。
ありがとうございました。
■プロフィール
鍵山 優真(かぎやま・ゆうま)
2003年5月5日生まれ。神奈川県出身。
ジュニア時代には、20年ユースオリンピックで優勝。2020-21年シーズンにシニアデビューし、グランプリシリーズのNHK杯で初優勝、全日本選手権では3位に入る。21年3月の世界選手権に初出場し、男子シングルで銀メダルを獲得。オリンピック初出場となった北京2022冬季オリンピックでは男子シングルで銀メダル、団体でも銅メダルを手にした。コーチでもある父・正和氏はオリンピックに2度出場したオリンピアンでもある。(※)オリエンタルバイオ/私立星槎国際高校所属。(※所属先は北京2022冬季オリンピック当時)
(取材日:2022年2月11日)
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