日本オリンピック委員会(JOC)は4月20日、味の素ナショナルトレーニングセンターウエストで、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに211社/団体343名(2022年4月20日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会ではJOC主催のもと、11社20名が参加しました。
最初に主催者を代表して岩渕健輔JOC理事が、アスナビ説明会が開催されることへ感謝の言葉を述べました。続けて「選手たちの生活基盤や経済基盤の安定のため、また選手たちが今後にかける競技と社会への想いを一番に強く感じていただき、ぜひとも皆様にはTEAM JAPANの一員となって支えていただきたい」とアスリートの採用を呼びかけました。
続いて、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターがアスナビの概要ならびに、過去にアスナビを通じて採用されたアスリートと採用企業の担当者のコメントを動画で紹介。さらに、資料をもとに雇用条件、夏季・冬季競技それぞれの採用人数、採用された競技、アスリート活用のポイント、採用後のカスタマーサポート、これからの進め方などを説明し、企業とアスリートがともにwin-winとなる魅力について紹介しました。
続いて、採用企業の選手活用事例として、陸上競技(棒高跳)の澤慎吾選手とスケート/ショートトラックの岩佐暖選手を採用した株式会社東京きらぼしフィナンシャルグループの野田康志事業戦略部サステナビリティ推進室長兼ゼネラルマネージャーが登壇しました。野田さんは、同社が採用に至った理由として「東京の地域金融機関として東京2020大会に向け、どのように大会を盛り上げ、支援していくかという課題に対し、オリンピックを目指す選手を支援できないかと考えたところアスナビにたどり着きました」と語りました。
また、現在の担当業務や育成・支援内容について説明し、アスリート社員の受け入れ、必要となる準備、各種競技への理解について説明しました。加えて、社内で応援プロジェクトを立ち上げ、選手と一緒に喜びや悔しさを共有する気持ち、社員一丸でアスリートを応援することによる一体感の醸成など、当時の魅力的なエピソードを紹介。また、今後の課題として「競技活動の支援、応援体制の整備、アスリートを活用した人材育成、アスリートの広報・PR、今後のキャリア支援、次世代アスリートの確保」の6つを挙げました。このような課題を述べつつも、採用経験を踏まえて1人より2人の採用をすることで選手同士の安心感も生まれ、会社からフォローもしやすくなるとメリットを述べました。
次に、オリンピアンからの応援メッセージとして、陸上競技(棒高跳)の日本記録保持者、2004年アテネオリンピック、08年北京オリンピック、16年リオデジャネイロオリンピックに出場し、今はJOC理事とアスリート委員会 委員長、富士通陸上競技部のアドバイザーを務める澤野大地さんがビデオで登場。澤野さんは「競技を続けていくうえで企業からサポートを受けることは絶対に必要なことだと思っています。対して企業側としてはその選手をサポートするにあたり、企業にとってどんなメリットがあるのか、ここを一番に考えていると思います。もし、学生時代の部活の延長でただ競技を続けられるということで、アスナビに挑戦している方がいましたら、その考えはぜひ改めていただきたいと思います」と強調しました。
また、就職を希望するアスリートに向けて「企業の皆さん一人ひとりを大切なファンとして、そのファンの方々に何を還元できるのか、しっかりと考えながら競技を続けていただきたいと思います」とアドバイスを送りました。
その後、就職希望アスリート4名がプレゼンテーションを実施。映像での競技紹介やスピーチで、自身をアピールしました。
■石川愼之介選手(水泳/競泳)
「私はこれまで各年代の全国大会で優勝し、ジュニア日本代表も経験してきました。2019年ユニバーシアード大会では優勝を果たし、当時の100mバタフライにおいて歴代2位の記録(世界選手権銅メダル相当の記録)を樹立できました。大学1年時は新型コロナウイルス感染症による影響で練習できずスランプに陥りましたが、自分が必死に泳ぐ姿が周囲の方々の勇気や支えになり、それが自分にとっても励みになっているのだと感じることができました。私は応援をプレッシャーと感じず力に変えられるタイプのため、所属企業の皆様には自分を応援していただきたいと思っています。また、自分の泳ぐ姿で所属企業様のイメージアップに貢献し、オリンピックや世界選手権など国際大会の好成績を目標に頑張っていきたいと思っております。所属企業の一員としても人としても成長し、夢や希望を生み出し、周囲の方々が笑顔になって何かを感じていただける、そんなアスリート社員になりたいと思っておりますので、ご採用のほど、よろしくお願いいたします」
■田村紀佳選手(フェンシング)
「私は、小学2年生から幼馴染に誘われてフェンシングを始めました。今年で競技歴は23年目ですが、私は人よりも運動神経がなく不器用で、それを自分でわかっているからこそ人より何倍も練習してきました。けがで痛んでいても試合に立ち続け、努力し続けて、目標を掴み取ってきました。誰もいない練習場で一人で練習をし、どんなことにも根性でくらいついてきました。2021年には目標であった東京2020大会に出場し、個人26位、団体女子サーブル史上初の5位入賞を果たしました。このような経験を経て、もっと成長できる、もう一度オリンピックの舞台に挑戦してメダルを獲得したいという気持ちになりました。皆様の企業にご採用いただけましたら積極的に業務に取り組み、人間的にも成長し、皆様に応援される、励みになれる選手になりたいと思っています。やり抜く力が強みの田村紀佳をどうぞよろしくお願いいたします」
■関夏菜美選手(アイスホッケー)
「私は北京2022冬季オリンピックに出場することができませんでした。しかし、出場した選手よりも優れていることが一つあります。それは代表から落ちたという経験があることです。けがをして代表落選し、アイスホッケー人生において初めての挫折を経験しました。このような立場になって初めて気付いた気持ちは、周りの人のありがたさでした。以前までは完璧を求め過ぎてしまい、自分や他者を許すことができなかったのですが、他者の多様な意見を尊重できるようになりました。そのような時間を経て、応援してくださる人や誰かのために頑張りたいという思いが強くなり、オリンピックで良い結果を残したいという思いも、より一層高まったように感じます。私の目標はミラノオリンピックに出場し、メダルをとることです。今後は企業の皆様にも応援していただき、恵まれた環境でアイスホッケーに打ち込めることに感謝し、応援を力に変えて努力していきます。そして、誰かの頑張る活力となれるよう、人としても選手としても企業や社会に貢献していきます」
■田上駿選手(陸上競技/十種競技)※ビデオ登壇
「私の強みは、どんな困難な状況でも目標に向かって前進し続けられることです。自分には才能がないと諦めそうになった時に混成競技に出会いました。限られた時間の中で効率的に取り組める練習メニューを自ら考え、試合で常にベストパフォーマンスが出せる準備を積み重ねてきました。その結果、高校時には全国優勝を果たし、現在は日本代表として世界のトップクラスの選手たちと戦うために日々練習に励んでいます。また、競技を行うことで学んだ、課題を多面的に捉え、解決策を探し、効率的に物事に取り組むことを学業に活かし、高校、大学ともに総代として答辞を読ませていただきました。私を採用いただきましたら、十種競技のチャンピオンの称号であるキングオブアスリートとして結果を残すことはもちろん、一社員として企業様の業績に貢献できるような働きを目標に掲げ取り組んでいくことを約束いたします。今後もアスリートとして前進して行く姿をお見せするだけでなく、一社会人として企業様や社会に勇気や感動を与えられるような人間になっていきたいと思います」
プレゼンテーション終了後には、会場内の就職希望アスリート3名へインタビューを実施。進行を務めた菊地光JOCキャリアアカデミー事業アスナビプランニングディレクターの質問に答える形で、3選手それぞれが自らの考えを述べました。
また、説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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