北京2022冬季大会のスノーボード男子ハーフパイプで金メダルを獲得した平野歩夢選手が12日、記者会見に出席し、メダル獲得の心境を語りました。
■「何かを諦めたことは一度もない」
――現状の気持ちをお願いします。
本当にここまで来られたのはやはり家族とか身内の人たち、あとはサポートしてくれる周りの人たち、応援してくれている人たちのおかげでこの場に立てたと思っています。自分の滑りを全て出し切れて、その期待に答えられたのかなと思っているので、皆さんに本当に感謝しています。
――高さへのこだわりがあったからトリプルコークに生きたというところがあると思いますが、どのように生きたのか教えてください。
僕は高さというところには昔からこだわりがあり、今はスピンの技術が高まっていくからこそ高さが出しづらく、全部が全部同じ高さで、なかなかバランスよく出し切れない部分がやはりどうしても強くなっていきますが、そこを失わないように(しています)。小さいころから自分はスケートボードもしていて、バーチカルというハーフパイプに似ている形状のものがあるのですが、そこでのトレーニングだったり、スケートボードでの踏み込みというのも、すごく研究してこだわってやってきたものがスノーボードに生きているのかなという部分もあると思っています。だから自分のその高さを出せる秘訣になっている部分はスケートボードを含め、そこを合わせた自分の武器なのかなと思います。
――シンプルなエアを入れる弟の海祝さんのルーティーンがすごく格好良かったですが、ちょっと羨ましいとか感想があれば教えてください。
海祝のエアターンに関しては、あれはあれで海祝のスタイルだなと思っています。海祝は、僕にはどの大会でも「一発目だけは誰よりも飛びたい」と言っています。僕はまた違うこだわりがあり、圧倒的な滑りをして、他の人がフルの滑りをしてもそれを上回る滑りを常に(したい)。失敗する可能性も踏まえて、やはりそういうものにかけているという思いは強いです。海祝はやはりパフォーマンスが上手というか、ここ最近調子が上がってきているのでまだまだこれからかなと(思います)。高さとスピンの技術が合わさっていったら彼はもっと伸びていくと思うし、ここで満足しないように更なる高みを、彼には彼らしい感じで求めていってくれたらという気持ちでいつもいます。あのエアターンはいつも自分も高められているというか、自分のモチベーションもグッと上がるので、お互いにいい高め合い方ができているのではないかなと感じています。
――大学時代に卒業研究で自身の競技の動画を分析して、それを研究発表されたとうかがっていますが、その研究をしていたことが決勝ラウンドのパフォーマンスにつながった、金メダルにつながったかどうかを教えてください
僕が普段、技の一つひとつに対してこだわっているポイントだとか、やはり技よりも飛ぶまでの過程というのが一番大事にしてきた部分で、そういうところは今でもまだまだ自分には磨き足りないのかなと思ったりもするのですが、それがあってこその技だと思っています。だから今まで技だけのために練習というのはあまりしてこなくて、技をするまでの内容で全て技の状況が決まるというか、それがあってこその技というところの全体を見た研究というのは、お父さんともそういう話を小さいころから、今もずっとしているのですが、そういうところにフォーカスを当てて、その時はその通りに研究して書きました。
――この4年間、平野歩夢選手にしかできない挑戦をしてきて、苦しいこともあったと思いますが、改めて振り返ってそこを乗り越えてきたことで見えてきたものや、4年間を振り返っての思いを聞かせてください。
この4年間はやはり今までのオリンピックとはまた全然別物といいますか、また違った形の自分の中での4年間だったのかなと思います。本当にいろんなことがありましたし、やはり常に限界に何かぶつかっているような、どう向き合っていくかというところで、自分しかやっていないことにチャレンジしたいというこだわりはありました。何度もただのチャレンジというよりは一日一日が自分に迫ってきているチャレンジだったり、時間との戦いだったり、不安だったり、いろいろなことがあったからこそ、今がこうしてあるような。なかなか思い通りにはいかないような日々が続いていたので、今までで一番苦しかったというか、自分にとっては大きい、大きすぎるチャレンジだったのかなというのは思いました。でも、そこに自分に負けないで来ることができたというのが、今振り返ってみると、そこで何かを諦めたことは一度もなかったので、そういう日々を乗り越えていくうちに、精神的にもメンタル的にも、いろいろなことがオリンピックを通して強化されたのかなというか、だからあの時の4年前と比べると、全然気持ちも考え方もガラッと変わりました。全てが小さいころの気持ちに戻ったというか、自分が小さいころに夢を追っていた時の、そういう気持ちで今回はスノーボードのこの舞台に半年間で帰って来られて、改めてチャレンジャーとして挑んだ立場でしたが、そういう時間があって、この半年間で金メダルをとることができて、そこはチャレンジ達成なのかなと思います。
――まだゆっくり考えたいとおっしゃっていましたが、これ以上の挑戦というのはないように思えてしまいます。平野選手にとって、次にこれ以上の挑戦をしたいとすれば何か考えていることはありますか?
たぶんいっぱいあるのではないかなと。可能性は他にもいろいろ思いますし、スノーボード、スケートボードだけでなくても、それ以外のことでもなんでもいいと思うので、そういうところを広くゆっくり整理して、またやってないことをやってみることから始めていけたらいいと思います。逆にそこをガラッと変えなくても、スノーボードとこうしてずっと向き合うという時間でもいいと思いますし、そうですね、ちょっとどうしようか、ゆっくりその辺は考えてまた突き進んでいきたいなと思っています。
――決勝ラウンドの演技に関して、2回目は思ったように点数が伸びなかったという話をされていました。ご自身では伸びなかった要因についてどのように感じていますか? また、今のジャッジシステムに感じていることがありましたら教えてください。
まずは僕が思っているように周りの人も同じように思ってくれていたということもあったり、僕以上に思って、もっと怒っているような人もいたりという状況もあったと思います。僕だけではなく、今後のスノーボードというジャッジの全体を含めた基準として、やはり今回はそういう意味では、どこを見ていたのかという説明は改めて聞くべきだと思います。競技をしている人たちは命を張って、リスクも背負っているので、そこは選手のためを思って整理させた方がいいのではないか、振り返ってみてスルーしない方がいいのではないかなというところはあると思います。
■「これからが始まり」
――東京2020オリンピックのスケートボードをはじめ、二刀流の挑戦で金メダルということで一つ目標を達成したのかなと思いましたが、平野選手にとってここはゴールでしょうか、それともまだ通過点でしょうか、考えをお聞かせください。
全然これからがまだ始まりというか、ここからいろいろと何か自分の新たな道がまたゼロからスタートするのかなという気持ちは切り替えやすいと思います。まだまだ全然年齢的にも可能性もあるし、まだやりたいという気持ちもいろいろなことに対して思うので、これからが始まりというか、何かある大きな大会でも一つのピークが過ぎた後でも常にリセットしていきたいという気持ちは持っていたいなと思います。
――先ほど小さいころの気持ちにいい意味で戻れたというお話をしていたかと思いますが、東北地方のスキー場、山形県や福島県のスキー場で小学生のころによく滑っていたというお話をうかがっています。童心に帰ったということも含めまして、当時の記憶や、また現地ではパブリックビューイングもしていましたので、改めて現地への思いをお聞かせください。
この4年を通してチャレンジしてきた時間の中では、自分が小さいころに県外の山とかで滑っていた時に海外のライダーとかに影響されたような気持ちになかなか戻れる事ってないと思うのですが、下から上を見上げるような気持ちで、自分の気持ちもまた、常にプレッシャーとか負けられないとかということではなく、負けても何も怖くないような、自分との戦いというものにより近づけたかなということのメリットの方が大きかったです。それを考えた時に、小さいころに大会に負けても次を目指してそれに向かって練習しているような気持ちに似ているなというか、そういう気持ちに、初心になれたというのはかなり、この調整がなければできなかったことだと思うので、そういう気持ちがすごく大事だなと思いました。
――金メダルをとったことでスノーボードという競技に注目が集まると思います。これからスノーボード業界、横乗り業界、どういうふうに盛り上がっていってほしいか、イメージがあれば教えてください。
やはりオリンピックはすごい影響力があって、見てくれている人たちや一般の人たちに伝わる思いというのはかなり大きいのではないかなと思います。普段のスノーボードの大会と比べると、これを見てスノーボードをやりたいとか、例えば今日、何だかやる気が出ないという時の不意に訪れる気持ちの中をクリアにしてくれる。オリンピックにはスノーボードではなくてもそういう力があると思うので、このオリンピックを通して、本当に夢だったり希望というものを、これをきっかけに持ってもらえたりとか。スノーボードはまだまだ他の競技と比べたら小さいジャンルだとは思いますが、夏のオリンピックのスケートボードも日本人が活躍して、スケートボード人口が増えているように、こうやってスノーボード人口もこれからどんどん増えて、横乗り業界をもっといいなと思ってもらえる人たちが一人でも増えていくのは、僕ら(競技を)してきた側からすると、本当にオリンピックがあるからなのかなというところはあるので、そういうものを何か与えられたらなと思います。
――ロイターの記者です。金メダルを獲得してどうでしたか? スノーボードに大きな貢献をしてきたショーン・ホワイト選手が最後に出場するこのイベントで金メダルをとれたということについて、どういう気持ちでしょうか?
オリンピックで金メダルをとるというのは、自分が小さいころから夢にしてきた一つの大きいタイトルでした。自分の中でも今までの中でも、一番忙しい半年間でしたが、その中でいろいろ目に見えないような敵とも戦いながら無事出場できて、怪我なく夢を一つ叶えることができて良かったなと思います。ショーン選手はすごいレジェンドだと思うので、彼はスノーボードのスタイルというよりも人間としての強さを誰よりも強く持っていますし、最年長での結果がどうこうよりも、その場に立っている強さというのはなかなか真似できないことだと思います。彼はまだまだこれからいろいろなことにチャレンジしていくと思うので、こういう舞台に一緒に立てて光栄でした。
――オーストラリアの記者です。銀メダルから金メダルへ行くためには何が必要でしょうか? 今回、銅メダルから銀メダルに行ったオーストラリアの選手がいるので、この先何をすれば銀から金メダルに行けるのか、教えていただけますか?
それは結構難しいことで、みんな性格も違えば、求め方、やりたいトリックも違うし、圧倒的な力を持っていてもそれを発揮できない選手たちも中にはいるということを、今回の大会を見て改めて僕は感じました。だから何が確実なのかということは言い切れないですけど、周りをあっと驚かすような圧倒的な滑りというのは当然必要だと思いますし、それ以外にやはり精神面だとかメンタル的な部分というものが大会では求められる強さだと思います。そういうところのバランスがすべて整って、そのピークをしっかりオリンピックに持って来られるのかというところだったり、それを全てバランスよく整えることは本当になかなかできないことなので、そのためには孤独にならなきゃいけない時もあれば、やりたくないことと向き合う時間も絶対に(必要です)。自分の場合はそういうものがあってこその今回の結果だったと思います。ちょっとこれを全て人におすすめはできないですけど、でも圧倒的な滑りと気持ちの強さとメンタル、精神力、あと普段の生活というものが上回っている人が勝つのではないかなと信じたい部分もあります。
――難しい質問になってしまうかもしれませんが、先ほどの採点の話に付け加えて、スノーボードは今100点満点で何点という形で採点していますが、もっとフェアにいくなら技の一個一個に基礎点みたいなものを付けて、フィギュアスケートみたいに、このトリプルコークをしたら何点、5個で合計何点だとすることで公平性とかフェアさを担保できると思います。反面、スノーボードのスタイルなどはちょっと表現がしづらくなってしまう。この辺り今後ハーフパイプというものがどちらの方向に進んでいってほしいと競技者として願うか教えてください。
スノーボードは幅広くて、いろいろなスタイルがあってこその魅力だったり、自由さというものも当然一つの格好良さとしてありますが、それはそれとして切り分けるべきだと思っています。でも競技の世界のこういう感動だったり、人に与えるものは競技でしか生まれない部分もあると思うので、競技の部分ではそれこそ高さ、グラブとかそういうものを測れるようなものを整えていくべきだと思います。ジャッジの評価も、そういう意味ではまだまだちゃんとしていないというような、選手の今の最大のリスクを抱えてやっているものに対してもっとしっかり評価してジャッジするべきなのかなと思います。全部を測れる何か新たなシステムというか、今後、他の競技ではそういうものがあるのでスノーボードも大会と大会ではないものを切り分けた上で、しっかりするべき時代になってきたのではないかなという気がしています。
――中国の記者です。この北京2022冬季大会は特別な思い出になったのではないでしょうか。今こちらで練習して、北京大会の会場で競技をしてみて、どのような思いがありますか感想を教えてください。
今回の大会は自分にとって特別な大会になったと思います。時間の大切さをより改めて感じ取れるような経験も中には多くて、いろいろな不安と、まだ知らない自分と向き合いながら、コロナの状況とかも大変な中で、なかなか自分のビジョンというのが見えづらかったですが、その見えない中をどう受け入れながらやりくりしていくかというところを突き詰めていく先にちょっとずつ見えてきたものが、今の状態を生んでくれていると思います。その中で半年、みんなは4年前からスタートしていると思いますが、僕はもう半年前からようやくスタートという、こういう難しい状況の中でのオリンピックはなかなかないと思います。本当は2年ぐらいスノーボードをやれる時間はありましたが、そううまくもいかない中でのオリンピックでのメダルというのは、一生の思い出にもなると思いますし、自分もその経験のおかげでより成長できたのかなと改めて感じる部分もあります。
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