JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いを詳しくお伝えします。
西矢 椛(スケートボード)
女子ストリート 金メダル
中山 楓奈(スケートボード)
女子ストリート 銅メダル
■うれしさの詰まったオリンピック
――金メダル、そして、銅メダル獲得、おめでとうございます。
西矢 ありがとうございます。
中山 ありがとうございます。
――お二人の年齢は3歳違いますが、何かお友達みたいな雰囲気ですよね。中山選手から見て、西矢選手はどのような印象ですか。
中山 私のほうが年上ですが、いろいろといじってくれます。
――いじってくれる(笑)。ちょっといらだってしまうこともあるのですか。
中山 はい、たまに(笑)。
――西矢選手から見ると中山選手はどういう方ですか。
西矢 楓奈は良いお姉ちゃん、という感じです。
――試合中もお互いにお互いのプレーに対して拍手をしている様子がすごく印象的でした。普段の大会からお互いに褒め合っているのでしょうか。
西矢 はい。
――かっこいいですよね。昨日の競技はどうでしたか、楽しかったですか。
中山 いつもの大会より楽しかったです。無観客だったので、ワーッという歓声がなかったのが良かったです。
――歓声がない方が集中できますか。
中山 人の声を聞くと緊張してしまいです。
――緊張しやすい方ですか。
中山 はい。
――テレビ出演も緊張しますよね。
中山 はい。緊張しました。
――お二人のどちらが緊張しがちですか。
西矢 楓奈ですね。
――昨日は最初からかっこいいトリックを決めていましたよね。
中山 はい、調子が良かったです。無観客でリラックスできましたし、自分なりの滑りができました。
――お互いのプレーを見ていて、どう感じていましたか。
中山 練習通りでした。練習でしていたことをあの場でやるので、それほど変わらないという印象でした。椛は練習通りできるのがすごいなと思っていました。
西矢 楓奈は練習でうまく決まっていないのに、大会でやったら絶対乗るのでそこがすごいと思います。
中山 試合本番はいつもより頑張っているという感じです。それほど特別に調子が良かったわけでもないですが、イメージに近い滑りができました。
――日本人選手が3人も決勝に残りました。それはどんな気持ちでしたか。
西矢 うれしかったです。
――今大会は東京で開催されました。海外での大会と違うところはありましたか。
中山 海外だと日本と比べて遠いので、「せっかく来たのに予選落ちしたらどうしよう」と不安になります。そういうのもあって、いつも大会は嫌だなと思うこともあるのですが、日本だからそうした不安はないので、プレッシャーが少なかったです。
――なるほど、確かに。わざわざ遠くまで行ったのに、予選落ちをしてしまうと周りの人たちにも悪いなと。
中山 はい。日本だからちょっと気楽にやれたところがありました。
――実際にメダルをとったら大変な騒ぎですよね。お祝いが届いたり、テレビに出たり、取材を受けたり、今までの大会よりも多いですか。
中山 はい。想像よりもかなり多いと思います。
――男子ストリートでは堀米雄斗選手が金メダルを獲得しました。お二人から見るとどんな存在ですか。
中山 本当にすごい人です。すご過ぎて緊張しますし、喋りかけられないです。オーラが出ています。
西矢 最初が悪くても、後から逆転して優勝するので、本当にすごいと思います。
――昨日の西矢選手もそういう試合展開でしたよね。
西矢 私は、最初が終わっていたので……(笑)。最初はわからなかったのですが、3本目から乗れてきたから、いけるかなと思いました。
■驚きの選手村体験
――周りのお友達はどのように接してくれるのでしょうか。
中山 中学までの地元・富山の友達は、保育所、小学校、中学校と全部同じ人たちで、いつも通りの感じで接してくれています。ただ、高校1年から環境が変わって、まだあまり仲の良い友達ができていないので、オリンピックに出る人という感じで少し距離を置かれている感じがして少し寂しさもあります。でもみんな喜んでくれると思うので、「メダルをとれたよ」と伝えたいです。
――西矢選手はいかがでしょうか。
西矢 いつも遊んでいるメンバーは特別扱いをしなさそうですが、喋ったこともないのに急にLINEで友達追加してきた人もいるので、そういう人からは特別扱いされそうな気もします(笑)。
――確かにそれは複雑な気持ちかもしれませんね(笑)。ちなみに、スケボーをやりたいと思っているお友達がいたら、お二人はどのように良さを伝えますか。
西矢 とりあえず、1回スケボーしよう!(笑)
中山 男女も国も年齢も関係なく、スケボーをしていたら友達も増える。いろいろと周りの人が話しかけてくれるから、やってみたらいいことあるよと伝えたいです。
――海外の試合はプレッシャーがあるとおっしゃっていましたが、世界中にお友達ができるのはスケボーのいいところですね。
西矢 喋れないですが、挨拶できるような選手も少し増えてきました。英語であれば言っていることはだいたいわかるのですが、喋り返すことができないから、携帯の翻訳を使ってコミュニケーションしています。
中山 何語を話しているのかわからない時も、とりあえず笑って相槌を打っていたら、相手も察してくれて「OK」と言ってくれます(笑)。
――笑顔は大事ですね。今大会、西矢選手の笑顔も大きな話題になっていましたね。
西矢 はい、うれしいです。
――中山選手も試合中に笑顔がはじけていてかっこよかったです。
中山 ありがとうございます。ただ、笑っているのに、「笑って」と言われるから「ん?」となることが多いです。
――オリンピックを体験してどんな気持ちですか。選手村には他の競技の選手もいますよね。誰かに会って驚いたことはありますか。
西矢 テニスの錦織圭選手に会いました。日本代表選手団の棟で会って「すごい」と思いました。
――話しかけたのですか。
西矢 写真を撮ってもらいました。「おめでとう」と言ってもらいました。
――西矢選手が掲げている目標がありましたよね?
西矢 世界で知らない人がいないくらい有名な選手になりたいです。
――錦織選手から「おめでとう」と言ってもらえるのは、その夢がかないつつある証拠ですよね。
西矢 はい、うれしいです。
――その他、選手村で驚いたことはありますか。
中山 ある? 人がいっぱいいた、とか?
西矢 人いっぱいだよね(笑)。いろいろな国の人や、見たことがない国旗をつけた人がいました。そして、イタリアや、コロンビアをはじめ、いろいろな国の人とピンバッチを交換しました。
――世界旅行に行けるような感じで、良い経験ですね。
西矢 はい。
――ちなみに、スケートボードの他に何かやっていたスポーツはありますか。
中山 小学1年の時に、フットサルを1年ほどやっていました。サッカー選手になるのが夢だったので習っていました。サッカーも好きなので、注目したいと思います。
■恐怖心を乗り越えて
――オリンピックに出て、メダルをとって、普通の人では体験できない幸せな時間を過ごしていると思いますが、周りのお友達はもっと遊んだり自由に過ごしたりできていますよね。それを羨ましく思う時はありますか。
西矢 羨ましい時もありますが、スケートボードの練習をして、頑張って大会に出て披露するのはすごく楽しいです。
中山 私は、素直にいいなと思います(笑)。もちろん、スケートボード自体はやっぱり好きで楽しいですが。
――今大会は朝も早く起こされましたよね。普段は何時ぐらいに起きるんですか。
西矢 8時くらいです。
中山 休みだったら、10時とか11時ぐらいまで寝ています。
――それはゆっくり派ですね(笑)。さて、話は変わりますが、大会が始まる前は、新型コロナウイルス感染症拡大の問題があってオリンピックができるかわからないような雰囲気がありましたよね。お二人はどのようにニュースを見ていましたか。
中山 オリンピック批判がすご過ぎてつらかったです。嫌な気持ちにもなりましたが、開催したら「やってよかった」と言ってくれる人も少しずつ増えているのかなと感じています。
西矢 最初は自分もオリンピックが開催されることで、新型コロナウイルス感染症にかかってしまうかもしれないという怖さがありました。でも、実際には、毎日検査もありますし、すごく丁寧に対策がとられていましたし、金メダルもとれたので良かったと思いました。
――3年後にはパリオリンピックもありますが、今後の目標を聞かせてください。
中山 パリオリンピックはまだ先のことでわかりません。まずは、目の前の大会を頑張ること。今は目の前の東京2020オリンピックが終わったので、次の目標を探しています。
西矢 私は、次のパリオリンピックにも出たいです。
――全員で注意をしながら、無事に大会が開催されて、こうしておめでとうと言ってもらえる結果も残せて本当によかったですね。これからもぜひ、オリンピックメダリストとして活躍を楽しみにしています。
中山 ありがとうございます。
西矢 ありがとうございます。
■プロフィール
西矢 椛(にしや・もみじ)
2007年8月30日生まれ。大阪府出身。小学1年生から本格的にスケートボードを始める。小学6年生の時に初出場した「X Games」では銀メダルを獲得。21年の世界選手権でも準優勝を果たす。同年東京2020オリンピックのスケートボード女子ストリートで13歳330日の日本人史上最年少金メダリストとなった。ムラサキスポーツ所属。
中山 楓奈(なかやま・ふうな)
2005年6月17日生まれ。富山県出身。9歳で競技を始める。19年の日本選手権女子ストリートで優勝。同年、ロンドンで開催された世界最高峰のストリートリーグで6位に入った。21年東京2020オリンピックでは、女子ストリートで銅メダルを獲得。ムラサキスポーツ所属。
関連リンク
CATEGORIES & TAGS