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2021.07.23 オリンピック

山下JOC会長×河合JPC委員長特別対談(後編)東京2020大会の意義、アスリートの姿を通じて伝えたいこと

山下JOC会長×河合JPC委員長特別対談(後編)東京2020大会の意義、アスリートの姿を通じて伝えたいこと
山下泰裕JOC会長(右)と河合純一JPC委員長(中)による特別対談(写真:フォート・キシモト)

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開幕を間近に控えるなか、日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長と、日本パラリンピック委員会(JPC)の河合純一委員長による特別対談が実現しました。

 1年の開催延期を経て迎える東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会。改めて、大会の開催意義やオリンピック・パラリンピック精神とその価値、また、現役選手時代に出場した大会で得た経験などを語っていただきました。

 前編に続いて今回の後編では、主にJOC会長、JPC委員長として東京2020大会に向けて今率直に思うことをはじめ、選手たちへの激励、また大会を通じて国民の皆さんに伝えたいこと、さらに大会後のレガシーについて幅広く語っていただきました。

 なお、2008年北京オリンピックと2012年ロンドンオリンピックに競泳で出場したオリンピアンである伊藤華英さんが対談のファシリテーターを務めました。

■選手たちには生き生きと輝いてほしい

伊藤 オリンピック、パラリンピックに関してもっともっとお二人のアスリートとしてのお話を聞きたいところですが、ここからはJOC会長、JPC委員長としてのお話を聞かせていただければと思います。実際にオリンピック・パラリンピックの延期は史上初めてのことでしたし、私たちが出場した大会は4年に1度の計画通り開催された大会でしたが、今回出場する選手たちは今までにないメンタリティやモチベーションをキープしたり、周りの人たちにとっても色々なことがイレギュラーな大会なのではないかと思います。開催が迫ってきた東京2020大会について、率直なご意見を聞かせてください。

山下会長 まずひと言で言うと、オリンピアンもパラリンピアンも、選手たちには生き生きと輝いてほしいと思っています。色々な苦労があったと思います。結果が期待されている選手たちは、自国開催ということでいろいろなものを背負うような雰囲気を感じるかもしれませんが、しかし、自国開催のオリンピック、パラリンピックに出場できるということはものすごいことであって、また、素晴らしいことです。ですから、自分がやってきたことを十分に出し切ってほしい。そのためにはやはり一人ひとりが、大会の競技会場だけじゃなくて、大会に向けていく日々の中でも生き生きと自分らしく輝いてほしいなと思います。

伊藤 そうですね。色々なことを考えずに、まずはこの場所を楽しむということですよね。

山下会長 それから、勝負の世界は非情だし、新型コロナウイルスも含めて、自分の力ではどうすることもできないことはたくさんあります。しかも世の中の変化というものは非常に激しい、そういう時期ではあると思います。ですから、選手にとっては十分な期間、集中した練習ができなかったとか、あるいは通常行える海外での色々な経験が積めなかったとか、様々な制限があったかもしれない。でも、あえて言わせていただきますと、もう条件はみんな同じ。世界の国々の中にはもっと恵まれなかった選手もいるかもしれません。我々としては今、持っているものを全部出し切ることです。
 一方で、このような状況の中、大会が1年間延びたことで、あるいは躊躇したり、迷ったり、罪悪感を感じたりしたかもしれません。これまで多くのアスリートはずっと国民の皆さんの声援を力にしてきましたから。でも、それらのことを乗り越えてここまで来たのですから、これまでの試練、経験というものも含めて、それらをうまく生かしながら、この舞台で自分自身を表現してほしいなと思います。メダルの数とか金メダルの数を言われるかもしれませんが、一人でも多くのアスリートが生き生きと輝いてくれる、そのことが私たちにとって何より重要だなと思っています。

伊藤 良い結果であれば嬉しいですけど、例えどんな結果でも競技が終わった後には輝いている自分を想像してほしいですよね。

山下会長 もう少し言いますと、選手のときもそうでしたし、柔道の全日本監督時代もそうでしたが、よくマスコミや周りの人たちから「大変ですね」と言われるんです。

伊藤 確かにそう言われますよね。

山下会長 選手のときは正直言いまして、「自分はオリンピックに出たいと思って一生懸命に頑張って来たのに、なんで大変なんだ。大変だと思ったら、やめればいい」って思っていました。

伊藤 そうですよね、自分がそう思って頑張っていることですからね。

山下会長 それで監督になったころは少し経験も積んできましたから「大変ですね」と言われたら、「え、何が大変なんですか?」と聞きます。すると「だって監督、負けられないでしょう」と。違うんです。「負けられない」のではなくて「負けたくない」んです。選手たちには持っている力を全部出してほしい。自分の夢を自分の手でつかんでほしいんです。

伊藤 まさにその通りです。

山下会長 あえて、大変なことは何かと言わせていただきますと、わずか紙一重の差で代表になれなかった選手たち。柔道男子の井上康生監督も、バレーボール女子の中田久美監督も涙を流しながら代表選手を発表しました。一緒に頑張ってきたけれど、紙一重の差でメンバーを選ばなければいけない。特にチーム競技などは世界選手権と比べても人数が少なくなります。柔道でも阿部一二三対丸山城志郎という試合がありましたが、ほとんど差はないけれどオリンピックに出場できる人間は限られている。そこで出場できなかった選手が大変なのであって、出場できるということは素晴らしいことなんです。
 ですから、どうやったら自分らしく生き生きと輝けるか、どうやったら今までやってきたことを出し切れるか。そこだけ考えてほしいと思っています。やっぱり夢というものは待っていても来ないですよ。一歩前に出て、自分からつかんでいかなきゃ。その勇気を持って、自分の夢にチャレンジしてほしいですね。

山下JOC会長×河合JPC委員長特別対談(後編)東京2020大会の意義、アスリートの姿を通じて伝えたいこと
河合純一JPC委員長(写真:フォート・キシモト)

■最大限のサポート体制で選手たちの環境づくりを

伊藤 手に入れられるはずなのに、なぜか手を伸ばせない選手もいると思いますから、その勇気を持って、やってきたことを信じて、前に一歩踏み出してほしいですね。河合委員長はいかがでしょうか? 色々な立場もあったり、選手としての気持ちもあると思いますが。

河合委員長 今、山下会長がおっしゃった通りで、選手にとっては悔いを残さないように頑張ってほしいなということが前提にあります。だから、僕もパラリンピックの日本代表選手団団長として話をしたときに、ここ1年半ぐらいはずっと言っていますが、「最高のパフォーマンスを発揮しよう」と。本番まで色々なことがあったけど、準備をしっかりやって、体調を整えて、自分のベストな状態をつくることに集中しようということをすごく言ってきたつもりです。もちろん、それによってメダルの色がどうなのか、とりわけ僕がやってきた種目の特性上、記録系は自分の努力がもろに出るじゃないですか。

伊藤 競泳は特にそうですね。

河合委員長 相手によって左右される対戦系ではないということもありますが、でも、対戦競技であっても想定をしながらやれることをやり切ったと、本当に自分の力やチームの持てる力を全部出し切ったというベストゲームができたら、悔しさはあれど、達成感や充実感はきっとあるんじゃないかと思うんですよ。それで、僕はパラリンピックに6回出場していますが、最後の6回目がメダルをとれなくて、4位だったんですよね。でも、その種目においては、当時37歳だったんですが、タイムは生涯ベストだったんですよ。パーソナルベストをロンドン大会の決勝で泳いでいるんです。

山下会長 おぉ、そうだったんですか。それはすごいですね。

河合委員長 でも、そのとき「3位じゃなくて惜しかったですね」と皆さんがおっしゃってくれたんですけど、僕としては今まで生きてきた中で一番速く泳げたので良かったなぁって(笑)。もちろん、メダルをとれていれば嬉しいですし、その後の人生にも何か変化があったかもしれないですけど、でも、そういう経験があったことを思えば、やっぱり選手たちには悔いを残さないためにちゃんと準備をして、やり切る・出し切るということが一番重要かなと思います。そのためにコーチ、監督、スタッフ、本部の我々もそのサポートを全力でします。サポートスタッフとしても、まさに我々にとってのベストパフォーマンスを出そうよ、と。持っているノウハウ、スキルとかを総動員して、最大限のサポート体制で選手たちの環境づくりをするというのが、チームだと思っています。そういう選手団でありたいということは常々お話ししてきたことですし、開幕まで1カ月ちょっとですが、これからも言い続けることなんだろうなと思います。

山下JOC会長×河合JPC委員長特別対談(後編)東京2020大会の意義、アスリートの姿を通じて伝えたいこと
山下泰裕JOC会長(写真:フォート・キシモト)

■アスリートの姿から感じるオリンピック精神

伊藤 選手一人ひとりがベストを尽くす姿を、例えばオリンピックやパラリンピックに全然興味がない、なぜ大会を開催をするのかと思っている方たちも含めて、国民の皆さんが見たときにどう思われると思いますか? もしくは選手の姿から何を感じてほしい、あるいは何をもらってほしいですか?

山下会長 やはりその姿の中に選手の生きざま、ひたむきさが出てくると思うんです。3年前の平昌冬季オリンピックに日本代表選手団の副団長として参加して、非常に感じたことがありました。戦いが終わった後の小平奈緒選手とイ・サンファ選手。私とラシュワン選手もそうでしたが、トップクラスの選手たちというのはライバルだけど、同じ目標に向かって頑張っているから、お互いが理解し合えるし、尊敬し合えるんですよね。最大のライバル同士がああして称え合う姿、これこそが一つのオリンピズムだと思うんです。

伊藤 本当にそうですよね。国を越えての関係ですから。

山下会長 それからもう一つ。羽生結弦選手。足首をねんざして、ほとんどリンクに立てていませんでした。そこからのあの演技。ほとんどの人が信じられなかったと思います。

伊藤 はい、本当に信じられませんでした。演技が始まる前は本当に不安でした。

山下会長 演技が終わった翌日でしたか、彼と話をしたんですが、こういうことを言っていました。「体が覚えてくれていました」と。「もう何千回、何万回とずっとやってきたことを、たかが2カ月間リンクに上がれなくても、それを体が覚えてくれていたんです」と。やっぱり、そこから我々が学べることはなにかというと、どういう状況になっても決して最後まで諦めない。自分ができる最善を尽くす。そのことの大切さというものが、羽生選手のあの姿に凝縮されていると思うんですね。
 それから、ノルディック複合の渡部暁斗選手。あの当時、肋骨を骨折していましたが、そのことをひと言も話さなかった。「いや、関係ないです。痛くなかったですから」って言うんです。今、我々はすごく言い訳、弁明することが多い。私が思い出したのは2000年のシドニーオリンピックで世紀の大誤審と言われた柔道の篠原信一の試合。篠原が投げた技が相手のポイントになってしまった。でも、篠原は試合後の記者会見で「私が弱いから負けたんです」と言った。彼は審判を責めるのではなくて、「自分の技が相手のポイントになったとしてもまだ時間があった。本当に自分に力があったのなら逆転ができたはずだ。自分には何かが足りなかったんだ」と。渡部選手の言い訳しない姿勢と通じるものがありましたね。
 もう一つ、スピードスケートの女子チームパシュート。平昌大会ではオランダの選手が様々な種目でメダルをとっていました。でも、一人ひとりの力では相手が勝っていても、みんなが一つにそろって力を発揮する。これはやはり日本人が大事にしてきた「和」、チームワーク。みんなで協力し合って、組織全体で最高のパフォーマンスを出す。
 このように、試合は勝者・敗者がありますが、その勝った負けただけではなくて、そこから我々が学んで大事にしてほしいことはたくさんあります。でも、日本ではそういった部分が強調されることがまだまだなのかなと思います。

伊藤 そうですね。そこがオリンピックの本質だと思いますが、すべてが伝わるのはなかなか難しいですよね。

山下会長 逆に言うと、勝てば全てがいいのかというと、そうではないと思います。

伊藤 まさにそうだと思います。勝つための努力をすることこそがとても大事ですから。

山下会長 精一杯努力をして、最善を尽くす。ひたむきに最後まで諦めないで精一杯頑張る。そうしたアスリートたちの姿というものが、多くの日本の皆さんに何かを感じてもらえるものであってほしいなと思いますね。

■パラ選手をきっかけに自分の可能性を発見してほしい

伊藤 アスリートの姿をきっかけに、自分の人生や行動を考えたりする瞬間になるといいなと思いますよね。河合委員長はいかがですか?

河合委員長 パラはまた違う視点が一つ、あるんです。それはまさに「障がい」だと思っていまして、例えば今回初めての実施となるブラインドサッカーという競技があるんですが、本当に目が見えなくてドリブルして、パスして、シュートしているのか?と思ってしまうくらいの動きをしている。それがすごいことであって、もちろん、そこに行くまでの色々なトレーニングをしているからそのレベルまでになっているのですが、また、義足のロングジャンプとか、水泳で手足がないのになぜそこまで速く泳げるんだとかありますよね。

伊藤 はい、なぜあんなに速く泳げるのかと私も思います。

河合委員長 そのようなことを知ることによって、「自分たちにももっとできるかも」という気持ちを発見してほしいなと思っているんです。子供たちに、もっとバラエティ豊かな存在が世界中に、実は日本中にもいるんだよと。自分たちが今見えている世界だけが世界じゃないということが伝わっていってほしいなと思っています。それが、なかなか自分の気持ちを伝えられない子供たちもいるでしょうし、落ち着きがなかったり、色々な特性を持った子供たちがいる中で、そういう子供たちの良さを皆さんで理解し合っていける社会をつくるような、誰もが自分らしく生きられることを目指すメッセージを伝えられるんじゃないかと思っているんです。そういう意味でもパラリンピックというものをぜひ子供たちにこそ見てもらいたいなと思っています。子供たちの心に何か残ったら、10年、20年経って彼らが大人になったときに、自分のいる会社や地域はもっとこうしたらいいんじゃないかと自分たちでも気づけるような、そうした子供たちになってほしいなと思っているんです。
 ですから、パラリンピックって、実はそういう世の中や社会を見るレンズを獲得するようなものなんじゃないかと僕たちは思っていまして、そうしたものを大会を通じて、色々な制約はあるにせよ、皆さんの力をお借りして、何とか伝えていきたい。そして、先ほども言ったように、自分たちの中にもある可能性を見つけてもらえたら嬉しいなと思います。

山下JOC会長×河合JPC委員長特別対談(後編)東京2020大会の意義、アスリートの姿を通じて伝えたいこと
ファシリテーターを務めた伊藤華英さん(右)(写真:フォート・キシモト)

■「オリパラ一体」への取り組み

伊藤 お二人の話を聞いていて、大会に関わっている人はもちろんですけど、なんとなく見てみようかなと思って見た人たちもきっと何かを感じると思います。また「オリパラ一体」という視点で考えたとき、山下会長は早くからオリンピックとパラリンピックの選手を一緒に練習させていたという話を伺いました。そのエピソードを教えていただけますか?

山下会長 練習させたというか、私が柔道の全日本監督として最初のオリンピックはアトランタ大会でしたが、大会前に視覚障がい者柔道の関係者の方から相談をいただきました。どうしてもパラのアスリートたちは海外の選手たちとの試合の経験が少ない、と。外国選手と日本選手の柔道スタイルは全然違うんですよ。

伊藤 そうですよね。柔道の経験が全くない私でも、戦い方のスタイルが全く違うというのは存じ上げています。

山下会長 だから、その点について少し教えていただけないかというお話をいただいたんです。私も何か力になりたいという気持ちがありましたから、コーチと相談して、それではゴールデンウィークに一緒に練習するのがいいんじゃないか、と。もちろん、練習の内容は違いますから道場は別にして、担当コーチに半日はパラの選手の道場に行ってもらって、外国選手の組み手、技などを全部アドバイスするようにしました。また、小川直也とか古賀稔彦、吉田秀彦、あと野村忠宏とか中村兄弟とか、もうヘロヘロになるまで練習した後に「お前たち、疲れているのは分かっているんだけど、パラの視覚障がいの選手たちも頑張っているんだ。だから、ちょっと胸を貸してくれないか」と言ったら、あいつら結構わがままですからね(笑)、嫌な顔するかと思ったんですが、みんなが練習に参加して、小川なんかもきれいに投げられるんですよ。

伊藤 へぇ~、そんなことがあったんですね。

山下会長 それで最終日の練習が終わった後、パラリンピック代表の選手が御礼の挨拶をしようとしたんですが、涙で言葉が出なかったんです。

伊藤 柔道のトップ選手が一緒に練習してくれたんですから、それはやっぱり嬉しいですよね。

山下会長 その光景を見たときに、その場にいた全員が「これから我々はもっと近くに寄り添って、もっと協力していかなければいけない」と思ったんです。ただ、これはあくまでも私が男子柔道の監督だったからであって、自分の競技の中だからできたこと。それが最初でした。
 もう一つ、面白い話があって、その8年後のことです。2004年アテネオリンピックの前に、私の教え子でもある井上康生が筑波大学での稽古に行った後、「先生、一つ相談があるんです」と私に言うんです。「我々、オリンピック代表選手は柔道着でもなんでも必要なものをスポンサーが提供してくれます。しかし、私が稽古に行った筑波大学ではパラの選手たちが大学の協力を得て合宿をしていましたが、柔道着が擦り切れている選手が何人もいました。聞いてみると、例えパラリンピックに出場したとしても、柔道着の支給など何もない。先生、私はその姿を見たときに、自分たちと同じように白い柔道着とブルーの柔道着の新しいものをパラリンピック日本代表選手の皆さんに用意したいと思いました。私のこの考えはスタンドプレーになりますか?」と。これを聞いて私は「なるもんか。そういうことに気づけて素晴らしいことだよ。絶対にやりなさい」と答えたんです。でも「教え子のお前がやって、私がやらないわけにはいかない。じゃあ、私の方はウエアとシューズ、バッグを。お前が白とブルーの柔道着。これで行こう!」と。
 そして、最後はこれがもっとハッピーな話になるんです。このことを全日本柔道連盟が聞きつけたんですが、二人だけがそうした寄贈をするというのは、連盟としてはちょっと格好が悪いものがありますよね。

伊藤 確かにそうかもしれないです(笑)

山下会長 それから1カ月半くらいして、「山下先生と井上君がこういう形で寄贈するという話を聞きました。できれば、この後は全日本柔道連盟に引き取らせていただけませんか? 連盟の方でちゃんと責任を持ってやりますから」と言ってきたんです。だから、「そうですか。では、ちょっと確認したいんですけど、これは今大会だけですか? それとも今後ずっとですか?」と聞き返しました。そうしたら「もちろん、ずっとです」と(笑)

伊藤 そういう約束を取り付けたわけですね。

山下会長 はい(笑)。ただ、自分がいる連盟のことをあれこれ言う前に、それが当時の日本のパラスポーツを見る目だったような気がします。ですから、河合委員長、他の国ではオリンピックとパラリンピックと同じような環境を提供していますし、国も民間もすごく協力してやってますよね。

河合委員長 はい。

山下会長 日本はみんなオリンピックの方ばかり目が行ってしまって、パラリンピックに対して冷たいと感じたことはあるんじゃないでしょうか?

河合委員長 昔は本当、そうですよね。

伊藤 今はどうですか?

河合委員長 今はだいぶ変わってきましたよね。

山下会長 変わってきたと思います。でも、東京2020大会が終わった後も支援が続くのかどうか、ということですよね。世界から見たときに、また私から見ても、はっきり言って、日本はパラスポーツに非常に冷たい。あるいは障がい者に対して関心が低い。そう思っていました。
 ですから、河合委員長が先ほどおっしゃっていました通り、ひとたび、パラのアスリートたち、もちろん日本だけではなく世界各国のアスリートたちの競技、演技、パフォーマンスを実際に見れば、おそらく信じられないことがいっぱいあると思います。血のにじむような努力によって、これだけの困難や障がいを乗り越えていけるのか、と。そうすると、多くの人たちは「自分も負けちゃだめだ。人生を前向きに生きていかないと」と感じてもらえると思うんです。また、子供たちにとっても「諦めないで頑張りなさい」とか「また良い日も来るんだから」という言葉よりも、パラのアスリートたちのひたむきなプレーを見ることによって、言葉では伝えきれない、もしかすると私が小学校1年生のときに東京オリンピックをテレビで見てジーンと来たのと同じように、子供たちの魂が何かを感じることがあるのではないかと思っているんです。

伊藤 何かそういうきっかけになる大会になればいいですよね。

山下JOC会長×河合JPC委員長特別対談(後編)東京2020大会の意義、アスリートの姿を通じて伝えたいこと
(写真:フォート・キシモト)

■東京2020大会のレガシーが根付く社会を目指して

伊藤 山下会長にはたくさんのメッセージをいただきましたので、最後は河合委員長もお願いします。

河合委員長 山下会長が就任以降、さらにオリパラ一体を掲げていただいたことで、ユニフォームが完全にそろったりとか、ナショナルトレーニングセンター・イーストができてパラ選手の利用が進むことになったこともそうですし、本当にものすごくオリパラ一体が推進されてきたと思います。また、今大会に関しても選手村の日本棟の装飾などをオリパラ共通にすることはできないかというアイデアも一緒に出しながら進められたことも含めて、積み上げてきたものが東京大会を通じて花を開いていくところなんだろうなと感じています。コロナなど色々な状況のことで大変なこともありますが、少なくともこの日本代表選手団や、JOC、JPCであったり、アスリート同士はより緊密になり、そして、さらにこのことを経験した皆さんとともにその先もまた一緒に手を取って進んでいこうというマインドは間違いなくあると思っています。
 ですので、引き続き山下会長にリードしていただきながら、我々も障がいのあるなしを越えてスポーツを楽しんだり、健康で生きる人たちを増やすことに貢献することが大きな方向性だと思うんです。常々、山下会長が色々な会議でこのことをおっしゃられていますが、私もそう思っています。ただ立場上、どうしても私も山下会長も、ときにはメダルをとるためにはどうすべきかを言わなければいけないことも多くて、なおかつ、それぞれがアスリートだったことによってメダルのことを言うと、そちらばかり取り上げられる傾向もあります。ですが、気持ちはやっぱり私も、今は日常的に障がいがあって家からも出られない方々もいると思いますが、そうした方々にスポーツを通じて新たな出会いや社会参加、また雇用などにもつながるような社会をつくるために、このオリンピック、パラリンピックを最大化して活用していきたいというのが、一番強い気持ちです。
 このメッセージがなかなかダイレクトに伝わり切らなくて、もどかしい気持ちは常にありますが、その意味でも大会が成功できるように、メディアの皆さんにも協力いただいて、何より選手たちがオリンピック、パラリンピックで輝けるように、ベストパフォーマンスを発揮できるように、我々は一生懸命サポートしていきたいなと思っています。

伊藤 どうしてもお二人は選手時代の功績が素晴らしいですから、メダルの話とかそちらばかりが採り上げられてしまいますが、やはり想いというのは本当に同じなんだなというのが分かりました。ですので、東京2020大会が終わった後にもう1回、お二人の対談でお話を聞くことができればいいですね。
 また、オリンピック、パラリンピックの本質的な価値と言いますか、東京2020大会にはそういう要素がたくさん含まれているんだというお話を今回お伺いできたと思います。やはり東京2020大会というものは、みんなの大会ですよね。

山下会長 そうですね。オリンピズムそのものがですね、あらゆる人がスポーツに関わることを通して成長していく、そして、スポーツはあらゆる差別を決して許さない。ですから、アスリートが集まって活躍することだけがオリンピックの目指しているものではなくて、そうしたオリンピズムが目指している精神というものを広げていきながら、フェアな社会、思いやりにあふれる社会につながっていけばいいなと思っています。東京2020組織委員会が目指しているレガシーに関して、大会が終われば組織委員会はなくなってしまいますから、JOCとJPCが連携して、さらに強固な関係をつくっていきながら、しっかり日本に根付く形にしてきたい。これは我々の使命ですね。

河合委員長 そうですね。一生懸命頑張りますよ!

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