日本オリンピック委員会(JOC)は10月28日、東京都千代田区のクラブ関東で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動を続行できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに191社/団体297名(2019年10月28日時点)の採用が決まりました。
説明会は公益社団法人経済同友会の会員を対象に行われ、11回目となる今回は24社36名が参加しました。
最初に主催者を代表して星野一朗JOC理事があいさつ。アスナビを通じて採用されたアスリートの活躍について「彼らが自らの競技力を高めるには、自身のために取り組むだけでなく、誰かから応援されることが必要です。これまで多くの選手が社員の皆さんに応援され、愛されることで成長してきました」と述べると、「東京2020大会まで残り270日となりました。今日は東京2020大会、そして2024年のパリオリンピックでメダル獲得を目指す選手がプレゼンテーションします。皆さんもオリンピック、パラリンピックを一緒に目指すチームジャパンの一員として彼らをサポートしていただければと思います」とアスリートの支援を訴えました。
次に、経済同友会の大西賢東京オリンピック・パラリンピック2020委員会委員長が登壇。本会について「今日はアスリート採用がどのような効果を会社にもたらすのか、さらに企業に所属するアスリートの声も聞いていただける機会になっています」と紹介すると、「経済同友会ではトップアスリートを民間企業が支えていくということでスポーツ界に貢献できればと思っています。皆さま、積極的な参加をよろしくお願いします」と述べました。
続いて、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターが、資料をもとに夏季・冬季競技それぞれの採用人数、採用された競技などを説明。さらにJOCアスナビチームがアスリート向けに行っている社会人としての教育プログラムをはじめとする取り組みが紹介されました。
続く「アスナビ」採用企業の事例紹介では、全日空商事株式会社で総務部・人事開発部・経営企画部担当を務める泉谷力執行役員が登壇。アスリート採用に至った経緯について「当社では特別扱いはなく、新卒採用の学生同様に適性や保有能力、個性を考慮しています。彼らは挑戦する姿勢を持ち合わせていますし、日々の練習を通じてPDCAサイクルを上手く回せる能力を身につけています」と説明しました。さらに、選手の応援体制を構築する過程で生まれる社内での一体感の醸成や、メディアでの会社の露出機会の増加、運動部に所属する学生への会社のアピールなど、アスリート採用の有用性が語られました。また、全日空商事株式会社の総務部で働いているアスナビ出身アスリートで競泳の渡邊一輝選手が体験談を含め、自身の現状について「応援してくれる人が増え、後押しが自身の競技力向上に繋がっています。加えてビジネスマナーなどを身につけられ、社会人として成長できています」と紹介しました。
次に、バレーボールで1988年ソウルオリンピック4位入賞、1992年バルセロナオリンピック5位入賞、1996年アトランタオリンピック出場の大林素子さんが応援メッセージを送りました。大林さんはアスリートの努力する姿勢について、「今の若い人は何かをやる際に頑張る理由が必要と聞きますが、アスリートは努力することが普通で、苦労だとは感じません。企業に所属したら貢献することを当たり前だと思って、業務に取り組んでくれると思います」と述べると、「アスリートは監督、コーチはじめチームメイトなど日頃から様々な人と接しているのでコミュニケーションスキルが高いです。ぜひ彼らの話を聞いてあげてください」と参加企業に呼びかけました。
続いて、就職希望アスリート8名がプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像での競技紹介などで自身をアピールしました。
■藤井達哉選手(レスリング)
「私は5歳の時に強さに憧れ、選手であった父の影響で競技を始めました。大学進学後、はじめは大学レスリングのレベルの高さに悩んでいました。そのような中で、何が足りないのか、どのような練習をすれば良いかを考えるようになり、シニアの大会でも成績を残せるようになりました。レスリングを通じて学んだ目標や課題に対して何が必要かを考えて行動できることは私の強みです。これらは企業で活躍するためにも必要不可欠だと思います。また競技だけではなく、社会人の一員として今まで培った物を生かし、企業に貢献できるよう頑張ります」
■石川拓磨選手(陸上競技)
「私の強みは周囲の人と積極的にコミュニケーションを取れることと、行動力です。監督やコーチ、部活の仲間だけではなく、大学を卒業された先輩方とも交流することで、多くのアドバイスをもらい競技力向上に繋げてきました。そして、これまでに築いた人脈を生かし、関東だけではなく地方の大会や合宿にも多く参加してきました。採用いただけましたら競技で結果を残し会社の知名度向上に貢献するだけではなく、オフシーズンには地域貢献活動を行いたいと思っています。競技で身につけた継続力を生かし、成果を上げるために努力を惜しみません。採用のご検討よろしくお願いします」
■津波響樹選手(陸上競技)
「私は陸上競技を通じて諦めずに努力することと、周りの人への感謝を忘れないということを学びました。大学4年間の中では怪我で試合に出られないで悔しい思いをすることもありました。しかし、そのような状況で忍耐力と集中力を身に付けることができました。また、陸上競技は個人競技ですが、コーチ、チームメイト、家族など周囲の方の支えがあったからこそ競技を続けられていると思ってます。社会人になっても競技を続けられることへの感謝の気持ちを忘れず、しっかり結果で恩返しをし、業務でも会社に貢献していきます」
■青山夏実選手(陸上競技)
「私の長所は失敗を恐れずに挑戦し、目標達成のために最後まで諦めずに取り組むことができることです。今年度は陸上競技部の跳躍ブロックのリーダーを務めました。選手層が厚く、ライバル意識が強いチームの中で、種目や学年に関係なくコミュニケーションを取れる環境作りに注力してきました。その結果、練習内容はじめ技術面での意見交換ができるようになり、チームで立てた目標を達成することができました。採用いただきましたら競技で培ってきた経験と知識を生かし、どのような社業にも積極的に取り組みます」
■赤松諒一選手(陸上競技)
「私の目標は日本選手権での優勝、東京2020大会、2024年パリオリンピックへの出場です。この目標を達成するためトレーニングと研究の2つの側面から競技力向上に取り組んでいます。動作やトレーニング方法について学ぶプロセスの中では問題解決能力を身につけました。さらに研究を通じて自身の考えをアウトプットする考察力も成長させることができました。また、大学院では教育学研究科に所属しており、学校現場や地域のコミュニティーに参加し、小学生を対象とした運動指導などに携わっています。これまでに学んだことを生かし、業務と競技に誠心誠意努めていく覚悟ですのでよろしくお願いします」
■東田旺洋選手(陸上競技)
「私は来年の東京2020大会、2年後の世界選手権出場を目標としています。高いゴールですが、問題を明確にして、課題解決を行っていくことで十分に達成可能だと思っています。大学院では競技に主体的に取り組み、先入観に捉われず、新しいことに挑戦してきました。多くのことを試み、オーバーワークになった時もありましたが、現在はより良い方法を選択し、競技に取り組むことができています。これまでの競技活動、研究活動を振り返ると1人でコツコツと作業を行うことに向いていると思っており、今後は社会人として資格取得、スキル向上に努めていきたいと考えています」
■相原大聖選手(陸上競技)
「高校生の時に競技をはじめ、これまで過酷な練習から怪我をしたことや挫折もありましたが、その度に練習での試行錯誤を繰り返し、オリンピックに出たい、日本記録を更新したいと思い努力を続けた結果、これまで好成績を残すことができました。しかし一昨年、右ひじの靭帯を断裂してしまいました。それでも夢を諦められず、大学院で競技を続ける決意し、怪我をしない体作りをするべく栄養学やトレーニング方法などの勉強をしました。現在ではチームメイトや後輩にも積極的にアドバイスをしています。採用いただけましたら、これらの知識を生かし、社員の栄養、健康管理に貢献できればと思っています。よろしくお願いします」
■若生裕太選手(パラ陸上競技)
「私の強みは主体性と逆境を乗り越える前向きな姿勢です。これらは高校時代の野球部での経験で身につけました。個人練習に多くの時間が割かれる中で、自らの長所であった守備力を磨いたおかげで、最初は学校内で1番下のチームに所属していたにも関わらず、134人の部員の中でキャプテンになることができました。私の目標は東京2020大会に出場し、支えてくれている人、応援してくれている人に恩返しをして、勇気や元気を与えられる人になることです。そして、今後も結果を残し、パラスポーツ界を引っ張る存在になり、障害理解などの啓発も行っていきたいです。今までの経験を自身の言葉で発信し、企業に貢献できればと思います」
説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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