日本オリンピック委員会(JOC)は10月20日、千葉県の幕張メッセ 国際会議場で「第15回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を開催しました。
JOCは平成13年度からスポーツ環境専門部会を設置し、スポーツと環境に係わる啓発・実践活動を推進してきました。その活動の1つとして、今回はJOCパートナー都市の千葉県で本セミナーを開催。同県のスポーツ関係者を対象としてスポーツ界における地球環境保全の必要性について改めて考え、どのように実践に移していくかを学ぶことを目的としています。当日は千葉県内のスポーツ関係者など116名が参加し、スポーツ界における環境問題について議論を深めました。
はじめに主催者を代表してJOCスポーツ環境専門部会長の野端啓夫理事が開会挨拶を行い、千葉県を含む広域に被害をもたらした台風15号、19号で被害に遭われた方々へお見舞いの言葉を述べ、「ここ数年、毎年のように異常気象で全国各地が大変な被害を被っており、この状況が続くとスポーツをする我々は大会を運営することが出来なくなる可能性があります。50年後、100年後の子供たちにスポーツを楽しめる今の環境を残すことが我々の使命と感じており、皆様と一緒に少しでも環境の改善に役立てられるようなセミナーにしたいと考えています」と参加者に力強く述べました。
続いて、開催地を代表して千葉県環境生活部オリンピック・パラリンピック推進局の高橋俊之局長が挨拶し、台風15号、19号からの復旧・復興に向けて尽力する中で、「スポーツのみならず日々の活動と自然環境との関わりを考える機会になっている」と現状を説明。その後、JOCパートナー都市でもある同県における、東京2020大会のオリンピック・パラリンピックを通じた環境問題への取組みについて触れた高橋局長は、「本日はアスリートの方のご経験、地元の取り組みなどを幅広くご紹介いたします。全体を通じて皆様方にとって有益な一日となればと思います」と話しました。
■「スポーツと環境の関わり」をテーマに意見交換
本セミナーは2部に分けて行われ、第1部では「スポーツと環境の関わり」をテーマに、いずれもJOCスポーツ環境専門部会員である東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会総務局の荒田有紀持続可能性部長、NPO法人気象キャスターネットワーク代表の藤森涼子氏、オリンピアンの上田藍選手と、オリンピアンの千田健太さんによるパネルディスカッションを実施。JOCスポーツ環境専門部会副部会長の大津克哉東海大学准教授がコーディネーターを務め、それぞれの立場から環境に対する取り組みや体験談、エピソードなどを共有し、スポーツに携わる者が今後行うべきことについて意見を交わしました。
まず、大津准教授は、スポーツと環境には「スポーツが環境から影響を受ける」被害者の側面と、「スポーツが環境に影響を与える」加害者の側面の2つがあることを紹介。空気や水がきれいなところでスポーツがしたいと願うアスリートやスポーツ愛好家たちは「地球環境の大切さを知っている」人たちであるとした上で、そうした人たちが「率先して自分の意識を地球環境に向け、さらにライフスタイルを見直すことでスポーツは地球環境問題を解決する一翼を担う可能性もあるのではないでしょうか」と参加者に問いかけました。
続いて、荒田部長が「オリンピック・パラリンピックと持続可能性-私たちは何ができるのか-」をテーマに、組織委員会の環境問題への考え方と実際の取り組みについて講演しました。その中で、東京2020大会では(1)気候変動、(2)資源管理、(3)大気・水・緑・生物多様性等、(4)人権・労働・公正な事業慣行等、(5)参加・協働、情報発信の5つを持続可能性の取り組みの柱に据えてさまざまなプログラムを取り入れていること、また「みんなの表彰台プロジェクト」「スポーツごみ拾い」など、大会前〜大会後を通じて一般の方々と共にできる取り組みを実践していることを紹介。そして、最後に「皆さんと一緒に少しでも地球のために、人のために良くしていきたいと思っています」と述べ、より多くの方の参加を呼びかけました。
その後、上田選手と千田さんが、オリンピアンの立場からスポーツの現場で行われている環境問題への取り組みや自身の経験談を共有しました。上田選手は、「ITU世界トライアスロンシリーズ横浜大会」において、2015年に導入された「ブルーカーボン事業」を紹介。本事業は、参加者の会場までの移動等で発生する二酸化炭素排出量を金額に換算し、参加者から集めた環境協力金で相殺することにより、海洋資源を用いた温暖化対策を推進し、海の森の育成・海の水質改善に生かすものです。大会では、参加賞として「完走 (乾燥) わかめ」を配布し、パッケージ裏面を使って取り組みを説明するなどして、参加者への啓発活動につなげていることを紹介。そして「日本はどこに行っても泳げる環境があってトレーニングしやすいですが、そうではない国に行くと『日本って恵まれているんだな』と感じる機会があります。その中で日本に戻ってきた時に、朝早くに電気をつけて泳がせていただいていることに感謝するとともに、後輩や若い世代の子たちに『これは当たり前じゃないんだよ』と伝えていかないといけない」と自身も啓発活動に取り組んでいく意欲を示しました。
千田さんからは「現役時代は屋内競技なので、環境問題についてあまり考えたことはありませんでしたが、引退後にJOCのオリンピックムーブメント普及活動やアスリート委員会の活動をきっかけとして問題に向き合うようになりました」と自身の考えの変化について述べた後、国際フェンシング連盟が2017年に開始し、日本でも行われている「Donate your fencing gear」プログラムを紹介。使用していないフェンシング用具を収集し、必要としている国に寄付する活動で、日本フェンシング協会でも今年6月のアジア選手権では100点以上の用具を集め、キルギスに寄付したことなどを報告しました。そして「大会会場が窓口となって用具の受け入れをしていくという機会さえあればリユースは進んでいくと分かったので、フェンシングのオリンピアンとして用具の寄付を呼びかけたいと思っています」と述べました。
これらを踏まえて藤森氏が「2100年の未来の天気予報」と題したプレゼンテーションを行い、夏には全国各地で気温が40度を超え、約12万人が熱中症となり、大雨による川の氾濫やがけ崩れが発生する一方で、雨が降らず干ばつが頻発するとして、参加者に警鐘を鳴らしました。また、温暖化がスポーツに与える影響として、かつてスケートの競技会場として使われていた池が、冬の最低気温の上昇により氷が薄くなり競技ができなくなった事例や、先の台風19号の影響でさまざまなスポーツイベントが中止に追い込まれた実例を紹介。温暖化対策として私たちが取り組める具体例を提示すると、「今すぐ効果は出なくても、今すぐ脱炭素社会に向けてシフトチェンジしていく必要があります」と訴え、「行動を変えて、社会の脱炭素化につながる選択、COOL CHOICEを未来のスポーツのためにも実践していただきたいと思います」とメッセージを送りました。
パネリストたちが質疑応答を行い議論を深めた後、今日の感想や今後の取り組みについて、上田選手は「私もできることからコツコツとやっていきたいと改めて思いましたし、環境が変わる中で適応することについて考えさせられたので、それをしっかりと生活に落とし込んで過ごしていきたい」、千田さんは「室内競技としても死活問題だと思いました。オリンピアンとして自分自身の活動の中で呼びかけられる機会があれば積極的にやっていきたい」と話しました。そして大津准教授より、第1部のまとめとして「アスリートの皆さんや競技団体の方々、そしてスポーツ愛好家の皆さん、全員でスポーツの場面でのフェアプレーはもちろんのこと、日常生活ではエコプレーを実践し、スポーツ界から地球環境問題に取り組んで、ぜひ解決の一翼を担いたいと思います」と述べました。
■千葉県内におけるスポーツと環境の取組み
第2部では「千葉県内の取組み」をテーマに、千葉県環境生活部オリンピック・パラリンピック推進局の小髙直子氏による司会のもと、県内のスポーツと環境に関する3つの取り組みが紹介されました。
まず、東京2020大会に向けて同県が実施する「おもてなしCHIBAプロジェクト」の一環である「ビーチクリーン・キャンペーン」における取組みについて、千葉県環境生活部オリンピック・パラリンピック推進局の大石祐介主事が概要を説明しました。引き続き、地元サーフクラブ「本須賀波乗り倶楽部」の千葉淳哉部長が、同倶楽部が2002年に始めた「ビーチクリーン・キャンペーン」について、活動内容や苦労した点などを共有。そして、今後のビジョンとして「将来的にはこの活動をやらなくてもきれいなビーチ、誰も自然にごみを捨てない世界、そんな世の中になるまで私たちはビーチクリーンをやっていきたい」と語りました。
次に、ちばアクアラインマラソン実行委員会の門脇年宏氏と三橋一文氏が登壇し、「ちばアクアラインマラソン2018における取組み」と題して、会場である木更津市内の住民団体や任意団体による花植え活動「花いっぱい運動」や、会場の清掃活動を行う「クリーン作戦」について、概要や参加者の反応などを紹介。木更津市の担当者からも「ちばアクアマリンマラソンが開催される以前よりも(市民の)環境への意識が確実に高まっている」と取り組みが評価されていることが報告されました。
最後は、株式会社千葉ロッテマリーンズ事業本部コミュニティリレーション部の豊田耕太郎部長が登壇。「プロスポーツチームの取組み」をテーマに、日本財団とNPO法人海さくらによるプロジェクトで、同チームが2018年に参画した「LEADS TO THE OCEAN(LTO)」の概要と、その一環として実施されているスタジアム周辺のゴミ拾い活動の概要や開始までの経緯、楽しく参加してもらうための工夫などを共有しました。そして「私たちのコンテンツである選手やチア、キャラクターなどを使って、より多くの方にLTO活動を知っていただくということを、引き続きやっていきたい」と今後の展望を述べ、第2部のプログラムを締めくくり、セミナーを終了しました。
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