日本オリンピック委員会(JOC)は7月24日、神奈川歯科大学附属横浜研修センターで、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、アスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、アスリートと企業をマッチングする無料職業紹介事業です。年間を通じて「説明会」を複数回実施し、企業に対してトップアスリートの就職支援を呼びかけています。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに180社/団体281名(2019年7月24日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会は神奈川県体育協会との共催で行われ、24社32名が参加しました。
最初に主催者を代表して、中森康弘JOC強化第二部部長があいさつに立ち、アスナビに登録しているアスリートについて「JOCは世界で活躍することを目指すアスリートを支援しています。世界を舞台に活躍する彼らは自身のために競技をするだけではなく、誰かに応援され、周りの人から愛されることで、モチベーションが高まり、今まで勝てなかった相手に勝利したり、記録を更新することができます」と述べると、「ぜひ今日はアスリートが競技にかける思い、企業人として今後どのように育っていきたいかという話を聞いて、その思いを受け止めてあげてください」と呼びかけました。
次に、神奈川県体育協会の鴻義久会長が登壇。神奈川県内でのスポーツの盛り上がりについて「2ヵ月後にはラグビーワールドカップが始まり、横浜では決勝戦が行われます。そして来年には東京2020大会が開催され、神奈川県でも4競技が実施されるなど県民の関心は高まってきています」と紹介しました。また、スポーツの活性化について「学生時代に競技に励んだアスリートが企業に入った後もさらなる高みを目指して活動ができ、さらに選手生活終了後も、地元の後進を育成する指導者として神奈川県のスポーツ振興に貢献したいという熱い思いを受け入れられる、循環型の競技力向上システムの構築を目指しています。この考えを理解いただき、協力してもらえましたら幸いです」と述べました。
続いて、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターが動画を用い、アスナビの概要と、過去にアスナビを通じて採用されたアスリートと採用企業の担当者のコメントを紹介。さらに資料をもとに夏季・冬季競技それぞれの採用人数、採用された競技などを説明しました。また、アスナビチームが採用企業間同士で選手の勤務日程や社会人としての育成方法などの共有を目的に実施している情報交換会をはじめとするサポートプログラムの事例が語られました。
次に、1988年ソウルオリンピックのシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング)のソロとデュエットで銅メダルを獲得した小谷実可子さんが応援メッセージを送りました。小谷さんは、水泳の世界選手権でアーティスティックスイミングの混合デュエット・テクニカルルーティンと混合デュエット・フリールーティンで銅メダルを獲得した安部篤史選手の競技生活における苦労話を紹介。「混合デュエットは4年前に採用された競技ということで、会場に更衣室が用意されていないということもありました。また混合デュエットでは、男性は筋肉が重いのでジャンプした後に女性の倍ぐらい沈んでしまうという難しさもあります。しかし弱音を言うこともなく、苦しい練習を重ねてきました」とメダル獲得までの努力について語りました。今回の安部選手の活躍について「頑張っている過程を知っているから、彼の成し遂げたことが自分のことのように嬉しかったです」と感想を述べると、「近くに目標へ向かって真摯に努力している人がいると、沢山の刺激と感動をもらえます。彼らと夢を一緒に追いかけられることは特別なことです。私はそういう選手を見るだけで、『私も頑張ろう。人に感動を与えられる人になろう』という気持ちになります。ぜひ皆さんにもその気持ちを感じて欲しいです」と、アスリートと一緒に働くメリットをアピールしました。
続いて、就職希望アスリート8名がプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像での競技紹介などで自身をアピールしました。
■安松青葉選手(トライアスロン)
「私の好きな言葉は創意工夫です。所属している大学のトライアスロン部には監督やコーチがいないため、主将である私がチームを運営し、学生主体で練習メニューを作成しています。しかし、そんな環境にも関わらず、昨年の日本選手権では強豪の実業団選手を抑え、大学のチームメイトが優勝を果たしました。これらの経験から、創意工夫することで物事を冷静に見極められる判断力を身につけることができました。会社に入社後も1つ1つの行動、業務を意味ある物と考えて取り組んでいきます。また、目標に向かって一直線に努力する姿を社員の方に見ていただき、アスリートの使命と思っている勇気や希望、そしてスポーツをすることの楽しさを伝えられればと思っています。よろしくお願いします」
■菊池瑞希選手(空手道)
「私は空手をやっている兄の姿に憧れたのをきっかけに競技をはじめました。私の目標はナショナルチームに入り、世界大会で優勝することです。海外の選手は体も大きく、力も強いですが、誰にも負けない気持ちで戦っています。また両親、監督、コーチに感謝を忘れず、日々のトレーニングに全力で励んでいます。私の強みは負けず嫌いで、何事にも一生懸命に取り組めることです。企業に入社後はこれらの強みを生かし、貢献できるように頑張りますので採用のご検討よろしくお願いします」
■坪内紫苑選手(ビーチバレーボール)
「ビーチバレーボールではプレー中にコーチからアドバイスをもらうことができません。私は大学進学後、自主性を大切にする佐伯美香コーチの指導の下で、自ら考えて行動する力を身につけました。また、私の強みはどんなことがあってもくじけない心の強さと向上心です。社会人になると大きな壁にぶつかることもあると思います。しかし、どんなことにも決して屈せず、企業のために自らも成長しながら頑張れると信じています。そして競技では、目標である2024年パリオリンピックで表彰台に立ちたいと思います。必ず目標を叶え、企業のイメージアップや士気向上に貢献します」
■山﨑弥十朗選手(レスリング)
「私は中学校、高校と一貫校に通っており、中学時代は高校生を相手に練習していたため、負けてばかりの日々を送っていました。しかし、負けて悔しいと思うのではなく、どのようにすれば強くなれるのかを考えていました。誰よりも練習を意欲的に行い、先輩と積極的にコミュニケーションを取ってきたことで大きく成長でき、高校時代には多くの大会で好成績を残すことができるようになりました。大学進学も勉強と部活の両立を考え、質の高いトレーニングを追い求め、短時間で最大効果を生み出せるように努力しています。採用いただけましたら私の培ってきた経験を生かし、企業に貢献できるように頑張ります」
■君嶋愛梨沙選手(ボブスレー・スケルトン)
「私の目標は夏季オリンピックに陸上競技で、冬季オリンピックにボブスレーのスケルトン競技で出場し、日本人5人目となる夏季と冬季の両オリンピック参加選手になることです。私は中学、高校と陸上競技をやってきましたが、大学3年生の時に平昌オリンピック新人発掘のポスターを見たのをきっかけに、何事にも挑戦しようという思いからトライアウトに参加し、スケルトン競技をはじめました。残念ながら平昌オリンピックには出場できませんでしたが、トレーニングの成果は陸上競技にも出ています。かつては複数競技を行う選手が多くいましたが、現在ではほとんどいません。もし採用いただけましたら、会社のシンボルアスリートとして活躍し、多くの方に挑戦の素晴らしさを感じてもらいたいと思っています」
■高橋佳汰選手(スキー・フリースタイル)
「私は小学校5年生で競技を始め、今年で11年目になります。目標は2022年の北京オリンピックでメダルを獲得することです。ハーフパイプの大会は、強風の中で行われることも多く、標高の高い地域では、暴風で体が飛ばされてしまう時があります。常に風向きと雪質に合った動きが求められることから、自然に判断力と集中力が鍛えられました。この競技を通じて培ったあらゆる場面にも適応できる判断力と集中力、どんなことがあっても最後まで諦めない継続力を生かし、周囲から信頼される、誠実な社会人を目指します。家族、スキー関係や会社でお世話になった方など支えてくださる皆さまに恩返しができるよう精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
■田中美紗樹選手(セーリング)※ビデオメッセージ
「セーリング競技が行われる海の上では命に関わるリスクがあり、自分の身は自分で守らなければなりません。またレース中はコーチにアドバイスを求めることができないため、一緒にヨットに乗っている選手と2人で様々なことを判断していかなければなりません。不確定要素の多い自然を相手にすることから、時には自分ではどうしようもできないトラブルに会うこともあります。その際にはすぐに助けを求める、またレース中であっても他の競技者を助けるということが必要になります。私はそのような競技での経験を通じ、助け合うことの大事さ、どんな状況においても幅広い視野で考え、責任を持って行動し、何事にも柔軟に対応できるという強みを身につけました。大学卒業後は仕事と競技を両立できるよう頑張りますのでよろしくお願いします」
■ストリーツ海飛選手(フェンシング)
※ビデオメッセージ
「私は8歳からフェンシングを始め、アメリカの国内大会に出場。優勝することもできました。しかし14歳の時、鹿児島にある祖母の家で、2008年北京オリンピックの太田雄貴さんが銀メダルを獲得した試合を見て、自分も日本のためにメダルを取れる選手になりたいと思うようになりました。そして2015年、選手登録を日本人とし、日本国籍を取得しました。また学業では、ペンシルベニア大学で経済学を専攻し、インターンシップではビジネスマネージメントを学びました。それらの経験と、ネイティブの英語力を生かし、企業の海外進出、現地マーケティングや交渉の業務ができると思っています。私の強みはフェンシングを通じて身につけた素早い判断能力と、目標達成まで諦めない向上心です。東京2020大会に日本のアスリートとして出場する夢を支援していただけるように、企業の皆さまよろしくお願いします」
最後に、神奈川県体育協会の小野力専務理事が登壇。神奈川県のスポーツへの取り組みについて「来年の東京2020大会に向けて、1人でも多くの神奈川県に縁のある選手が出場するようにアスリート育成事業を行ってきました」と述べると、「どうか参加企業の皆さまには積極的にアスリートへ声をかけていただき、ご支援、ご協力いただけますようよろしくお願いします」と参加企業に訴えました。
説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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