開幕が迫ってきた2020年東京オリンピック。JOCが年1回発行している広報誌「OLYMPIAN」では、今大会の追加種目である野球、ソフトボール、スポーツクライミング、空手道、サーフィン、ローラースポーツでオリンピックを目指すアスリートにインタビューを実施しました。ここでは誌面に掲載しきれなかったアスリートの思いをさらに詳しくお届けします。
サーフィン:五十嵐 カノア選手
サーフボードを操り波に乗ってテクニックを競い合う「サーフィン」。刻々と変化する唯一無二の波、自然との戦いが魅力の競技である。そのサーフィンで東京2020大会に挑む五十嵐カノア選手の心境に迫る。(Text/中村聡宏)
■プレッシャーを力に
―― サーフィンがオリンピックの追加種目に選ばれたと聞いて、五十嵐選手はどう感じましたか。
すごくうれしかったです。自分自身はもちろん、サーフィン界にとっても、日本にとってもうれしいことだと感じました。一方で、プレッシャーも感じるようになってきました。でも、プレッシャーを感じた方が、力を出せる気がしますし、トレーニングのモチベーションとなり、自信にもつながっています。
――オリンピックで印象に残っていることはありますか。
陸上競技のウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)などは見ていてすごい、さすがだなと感じます。他にも昨年の平昌冬季オリンピックのスノーボード・ハーフパイプで、銀メダルを獲得した平野歩夢選手が、金メダルのショーン・ホワイト選手(アメリカ)と戦った試合が特に印象に残っています。大きなプレッシャーの中でよく戦っていたと思います。平野選手は同世代の日本人選手で近い存在ということもあり、自分自身のモチベーションにもなりました。
――ご両親の母国でもある日本でオリンピックが行われることについてはどう感じていますか。
スポーツの中でもオリンピックは最大のイベントで、開催地も特別な場所です。その中で日本の東京が選ばれたことは誇らしいことだと思います。東京でオリンピックを開催することも、サーフィンがオリンピックの競技になったことも、今自分がすごくいい状態でワールドチャンピオンシップツアーのランキングでトッ
プ10に入っている(第3戦終了時点で2位)ことも、本当にいいタイミングで、ありがたく感じています。
――そんな中、いよいよ来年、オリンピック本番を迎えます。
オリンピックが持つエネルギーは普通の大会とは違うと感じています。そんなオリンピックを早く体験したいですね。緊張もありますが、楽しみの方が大きいです。1年間ゆっくりよく考えながら、しっかり準備をしたいと思っています。今は、東京でオリンピックのエネルギーを感じたい気持ちでいっぱいです。
■日本人らしさを生かして
――五十嵐選手にとってライバルはどんな存在ですか。
戦っている選手は多いので、誰か一人がライバルというわけではありませんが、最近では特に、ケリー・スレーター選手(アメリカ)と競う時は良いバトルになりますし、自分のモチベーションも上がります。(47歳の)ケリー選手は、僕のことを「まだ子供だ」というふうに見ていて、子どもの頃から先生やコーチのような存在でいつもアドバイスをくれていました。それが最近は一緒に戦っているので、ケリー選手には僕に負けられないプレッシャーもあるのではないかと感じています。ケリー選手からしたら「こんな子供に負けたくない」という感じだと思いますが、僕も「こんなおじさんに負けたくない」という感じです。お互いに負けたくない気持ちが強いので、僕自身もケリー選手と戦うときは100パーセントの力が出せます。
――オリンピックが近づいてきて注目されることに対しては、どのように感じていますか。
たしかに、オリンピックが決まってからインタビューも増えましたが、元々取材には慣れていることもあって、大きく変わったと感じることはありませんでした。ただ、聞かれる内容に関しては、以前はサーフィンのワールドチャンピオンシップツアーのことが中心だったのですが、最近はオリンピックの質問が多くなってきたと実感しています。
――これまでサーフィンを見たことがなかった人も、オリンピックを機会にサーフィンを楽しんでくれるのではないかと思います。こういうところを見て楽しんでほしいというアドバイスがあれば教えて下さい。
バスケットボールのようにシンプルなスポーツとは違い、サーフィンは意外と見るのが難しいスポーツかもしれません。テクニックやコントロールが優れているサーファー、自信があってパワーがあるサーファーなど、上手いサーファーは、普通のサーファーとはスピードが違うので、すぐに違いを感じると思います。そうしたスピード感を楽しんでほしいですね。
――サーフィンをしていて、日本人だからこそいいところがある、と感じる面はありますか。
いつも感じています。トレーニングが終わるまで休まないとか、仕事が終わるまでやり抜くとか、何事にも全力で取り組み、100パーセントになるまでやめずに頑張る日本人の勤勉さや真面目さは大好きで気に入っています。こうした日本人のマインドセットや考え方は、僕自身サーフィンで生かせていると感じますし、実際、サーファーの中でもトレーニングをしている方だと思います。
■海のために、日本のために
――9月には宮崎県でワールドサーフィンゲームズが開催されます。日本代表「波乗りジャパン」にも選出されました。大会への意気込みを教えて下さい。
昨年、初めてワールドゲームズの日本代表に選ばれました。日本チームは団体で金メダルをとり、僕は個人で銀メダルをとりました。今度は金メダルをとって、オリンピックと同じようなエネルギーを使って、オリンピックと同じつもりで準備をして、大会に挑みたいですね。
――それが終わるといよいよ東京2020大会ですね。その先も見据えて、どんな事を考えていますか。
今の目標は、オリンピックの金メダルですが、サーフィンのワールドチャンピオンシップツアーの年間チャンピオンも目標の一つです。
オリンピックを見てサーフィンのすごさを感じてもらい、それをいいきっかけにして、ネクストジェネレーションである日本の子どもたちにもっとサーフィンを楽しんでもらいたいですし、日本人サーファーをもっと増やしたいですね。それが僕の今の目標です。
――五十嵐選手にとって、オリンピックの金メダルをとることにどんな意味を感じていますか。
日本はもちろん、それだけではなく世界全体で、プラスチック製品を減らして、ごみを拾って、海をきれいにしたいと思っています。サーファーにとっては、海は「家」のようなもの。海の中にいることが多いので、なるべくきれいにしたいですし、そのメッセージを広げていきたいです。そうして皆さんでちょっとずつ力を合わせれば、海もきれいになると思います。金メダルをとることによって、そういう情報やメッセージを広く伝えられると思うので、それもモチベーションになっています。
――五十嵐選手をよく知っている日本のみなさんも応援してくれますね。
東京2020大会では、日本のファンの皆さんの前で金メダルをとるのが夢です。ファンの存在はありがたく、そのおかげで、毎日朝早く起きてトレーニングに行けますし、トレーニングをする意味を感じることができています。一日一日を大切にして、あと1年の中で少しずつ上達して、一歩一歩金メダルに近づきたいですね。
普段出場しているサーフィンの大会とは違い、オリンピックは日本代表として戦います。トレーニングを積んで、自分のためではなく、日本のために頑張りたいです。
■プロフィール
五十嵐 カノア(いがらし・かのあ)
1997年10月1日生まれ。アメリカ・カリフォルニア州出身。3歳でサーフィンを始める。2012年にUSA Championship U-18を14歳で優勝。17年、18年とUSオープン2連覇。19年にワールドサーフリーグのチャンピオンシップツアー第3戦でアジア人初となる優勝を飾った。木下グループ所属。
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