日本オリンピック委員会(JOC)は2月2日、「応援される選手になるために」をテーマに「JOCキャリアアカデミー キャリアデザインセミナー」を味の素ナショナルトレーニングセンターで開催しました。本セミナーはアスリートのキャリアに対するサポートを目的として「JOCキャリアアカデミー事業」が主催。8回目となる本セミナーには現役アスリートと指導者ら合わせて8名が参加し、アスリートOBの事例紹介や「自分の魅力の伝え方」を学ぶワークショップが行われました。
はじめに、中村裕樹JOCキャリアアカデミー事業ディレクターが「キャリアデザインの勧め」と題した講義を行いました。JOCのキャリアサポート事業について説明した上で、キャリア形成はWill(したいこと)、Can(できること)、Must(役割)のスパイラルであると説明。「意志(Will)が能力(Can)、役割(Must)をけん引します。どういう意志を持っているかによって、能力や役割が大きな輪になり、また意志の輪が大きくなっていきます」と、中村ディレクターはキャリアを形成する上での意志の大切さを強調しました。
■元スケルトン選手、中山英子さんのライフストーリー
今回のセミナーは2部構成で行われ、第1部「オリンピアン講話」には、元スケルトン選手で2002年ソルトレークシティ大会、06年トリノ大会と2大会連続で冬季オリンピックに出場し、現在は株式会社電通に勤務している中山英子さんが登壇。現役時代から現在の仕事に至るまでの自身のキャリアについて話しました。
中山さんは大学卒業後に地元長野県の新聞社に就職。運動部記者として1998年長野オリンピックの取材を通じてそり競技に出会い、「とにかくスケルトンが楽しかった」とその面白さに魅了された結果、新聞記者として活動する傍らアスリートに転身した異色の経歴の持ち主です。中山さんはその自身のヒストリーを、成功や挫折によって上下する人生曲線の図と、中村ディレクターも用いたWill、Can、Mustの3つの円のスパイラルの図で表現しながら紹介。3度目のオリンピック出場を目指したバンクーバー大会の選考会で落選した直後は心身ともに大きく落ち込んだとのことでしたが、ソチ大会を目指す4年間の中で「大きな発見」があったと話します。それは120%のパフォーマンスの出し方。「調子が悪いなら悪いなりに、自分の現時点での状態や気持ちを受け容れたら、100%以上の力を出すことができました」と中山さん。残念ながらピーキングがうまく行かず、ソチ大会の選考でも落選してしまいましたが、「そうした収穫があったことが一番嬉しかった」と振り返りました。
平昌オリンピックを目指す決意を固めた後は、活動資金の捻出や、日本代表選考基準の不透明さをめぐり日本スポーツ仲裁機構に仲裁を申し立てるなど苦労も多かったとのことですが、それらの活動の中で自分の率直な思い、意見を発信していくことで「自身のアスリートとしての在り方」を見つめ直すことができたそうです。そして、「悔いが全然残らないで、気持ちよく終えることができました」と、2016年12月の日本選手権3位を最後に現役を引退後は、JOCが実施しているセカンドキャリア支援「アスナビNEXT」を通じ、2017年6月に株式会社電通に入社。現在は同社のスポーツ局2020東京オリンピック・パラリンピック室に所属し、地方への東京2020大会の普及や、海外のオリンピック委員会や競技団体の事前キャンプ地視察のアテンドなどに尽力しているとのことで、「社会に出るのは2度目になりますが、アスリート時代の体験が物すごく役に立っている」と語りました。
改めてオリンピックの持つ大きなエネルギーを感じ取り、そのオリンピックに携わる仕事ができて良かったと話した中山さんは、講話の最後に伝えたいこととして「人としての在り方にこだわる」「自分の感情を受け容れる」「自分の考えを言葉にする習慣を身につける」、この3つをセミナー参加者に呼びかけました。
■「自分の魅力の伝え方」を学ぶワークショップ
第2部では、ボイスイメージコンサルタントの森裕喜子さんを講師に迎え、ワークショップ「自分の魅力の伝え方」が行われました。ここでは自分の価値を高め、その魅力を伝えられるようになることを目的に、自分のライフストーリーを作り、それについて3分間のプレゼンテーションを行うことをゴールとして実施されました。
まず、自分のライフストーリーを作るために、セミナー参加者は2人1組に分かれ、一方が自分の人生の成功体験や挫折、その中から得た気づきや学びを語り、もう一方がそれを付箋に書き留め、話した人のワークシートに貼っていくグループワークを行います。そして、そのワークシートをもとに自分のライフストーリーにタイトルをつけ、2人が互いに3分間のプレゼンテーションをする練習を実施。最後に参加者を代表して、陸上・円盤投の日本記録保持者でもある堤雄司選手が、自身のライフストーリーを発表しました。
今回学んだライフストーリーのプレゼンテーションに関して「絶対に発表する場を作ってください。そうしたらもっと良くなります」と参加者に呼びかけた森講師は「選手も本番に出てこそ強くなります。プレゼンでも必ず本番に出てください。そうすれば人生は良くなる。言葉は自分を強くします」と強調。そして、今回のワークショップのまとめとして「自分を一歩外から見る」「競技人生から一歩外に出る」「好きなことを思い切りやり切って結果を出す」ことを実践してほしいと訴えると、最後に『人生の金メダルを目指せ。』をメッセージとして送りました。
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