日本オリンピック委員会(JOC)は2月14日、平成28年度「総務委員会フォーラム」を味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)で開催しました。これは、「女性スポーツ専門部会」「アントラージュ専門部会」「スポーツ環境専門部会」の3つの専門部会による合同フォーラムで、今年度はJOC、JOC加盟競技団体(NF)の役職員ら51団体101名が参加しました。
最初に、平岡英介専務理事が開会の挨拶にあたり、東京2020大会以降を見据えた取り組みである「JOC将来構想」を1月24日に発表したことを説明。それを踏まえ「NFの皆さん方といっしょに議論しながら、具体的な方法を進めていきたいと思っております」と呼びかけると、「JOCの根本はアスリートファースト。そして総務委員会としては、オリンピズムを普及させ、オリンピック・ムーブメントをしっかりと日本に根付かせて、スポーツ界のレベルを上げていきたいと思っています。そのために皆さんと一緒に考えていきたい」と協力を求めました。
■女性がスポーツ界でも大きな役職を得るために
午前中に行われたのは女性スポーツ専門部会のパート。始めに、前文部科学大臣で日本レスリング協会副会長ならびにスポーツ議員連盟事務局長・女性アスリート支援のためのPT顧問である馳浩衆議院議員が「スポーツ議員連盟での女性活用政策」をテーマに基調講演を行いました。「本日は政策提言という意味で参りました」という馳議員は、男女共同参画社会への機運の中、スポーツ界はどうのような現状であるかを説明。各NFの女性理事・役員の人数がまだまだ少ないことから、「もっと女性に参画してほしいですし、できれば理事・役員の数は男性と半分半分が望ましい。社会全体におけるスポーツの価値観を高めることを考えれば、競技力の向上、特に10代・20代の女性のスポーツへの参加を増やすための政策、スポーツでの地域開発、国際化などを進めていくために、女性の役職への参画は必要不可欠です。そのことがチームジャパン本来のチーム力の底上げとなり、それこそがオリンピズムだと思います」と訴えました。
続いて、「男性監督が独占してきた『ガラスの天井』が破られた背景」をテーマにパネルディスカッションが行われました。山口香理事・女性スポーツ専門部会部会長がモデレーターを務め、パネリストとして馳議員、今井純子日本サッカー協会理事・女子委員長、テニス女子元フェドカップ監督の吉田友佳さん、2017年4月より全日本女子バレーボール監督を務める中田久美さんが参加。女性監督が誕生した経緯・背景や、それに伴った苦労、今後の課題などが話し合われました。その中で、引退後の女性アスリートのセカンドキャリアがまだ限られていることから、馳議員、吉田さん、中田さんは女性選手には現役選手でいる早い時期から指導者としての道などを含めて、様々なキャリアがあること、そのキャリアにおける具体的な例など、多くの選択肢を示すことが必要と提言。今井さんは女性が大きな役職に就くにあたり、「背中を押してあげることが大事」と話しました。
そして「女性スポーツを色々と見てきて、メダル戦略のための支援はすごく進んできたと思います。ただ、もうひとつ先に、女性アスリートたちの次のキャリアであったり、そのキャリアを積んでいくための支援・教育がまだ足踏み状態ではないかと思います」という山口部会長の訴えに対し、「女性アスリートが安心して競技に専念しながら、デュアルキャリア(「競技者としての人生」と「人としての人生」を同時に送ること)としての選択肢を示す、そのサポートを国策としてやっていくことが必要」と答えた馳議員。また、すでに久光製薬スプリングスの監督として実績を残している中田さんは、引退後の女性アスリートのロールモデルとして「とにかく色んなこと、色んな可能性を発信していきたいです」と、次の世代の女性アスリートに向けてメッセージを送りました。
■デュアルキャリアの重要性
午後からは、松丸喜一郎常務理事・総務委員長による「JOC将来構想について(※ページ下部『関連リンク』参照)」、また、小風明理事による「アスリート委員会」についての説明が行われた後、アントラージュ専門部会のパートが行われました。
最初に、高橋尚子理事・アントラージュ専門部会部会長が「アントラージュはフランス語で“取り巻く”という意味で、監督、コーチ、家族などまさにアスリートを取り巻く人々のことを指します。今回は『アスリートのキャリアに対するアントラージュの関わり方』をテーマに、アスリートのキャリアの構築に当たって、アントラージュがどのような形で支援をし、導き、また後押しをしていくことができるかを皆さんと共有したいと思います」と挨拶。続けて、竹内浩理事・アントラージュ専門部会部会員がモデレーターを務め、パネリストとして、企業スポーツの立場からスピードスケート・ショートトラックで4度のオリンピック出場を果たし現在はトヨタ自動車スケート部の監督を務めている寺尾悟さん、トップアスリート強化担当の立場から日本フェンシング協会の敷根裕一強化本部長、大学生の競技会を運営する立場から三宅仁全日本柔道連盟強化委員会委員・全日本学生柔道連盟理事が参加して、アスリートキャリアについて討論が行われました。
この中でパネリストは、馳議員も指摘したデュアルキャリアの重要性を説明。生活の基盤を築くための資格取得や、将来の指導者となるための準備など、セカンドキャリアを考えながらのデュアルキャリアについて話し合われ、企業スポーツの観点から寺尾さんは「本音としては年間300日以上の合宿などをして競技成績を上げていきたい。そこを我々企業が何日合宿をしていても社会人としてのキャリアを形成していける仕組みを考えること、そして、選手に少しでもキャリアを意識させるかが大事だと思います」と述べました。
ディスカッションを終え、高橋部会長は「アスリートは引退した後も人生が続きますし、その生き方を支えることも必要。アスリートに将来何ができるのだろう、何を求められているのだろうという付箋をつけられるのは、今日ここに来ている皆さんです。ぜひそのことを伝える機会を持っていただいて、アスリートたちが今までしてきたことを、その後の人生につなげられるような支えをぜひしていただきたいと思います」とコメント。最後に齋藤泰雄JOC常務理事・アントラージュ専門部会副部会長が「アスリートを守る、アスリートの代弁をするのがアントラージュ専門部会の役割だと思います。NFの方からJOCで取り上げてほしい議題があれば、どんどんおっしゃっていただいて、ますます議論を深めていきたい」と、各NF関係者に呼びかけてこのパートを締めくくりました。
■環境問題に関するレクチャー、啓発の課題
フォーラムの最後に行われたのは、スポーツ環境専門部会のパート。まず、野端啓夫理事・スポーツ環境専門部会部会長が、「今年度、スポーツ環境専門部会は、昨年度の総務委員会フォーラムで提案頂いた意見の中からスポーツ環境専門部会が取り組んでいる『環境啓発ポスターの大会プログラムへの掲載』『指導者を通したアスリートへの啓発』『スポーツと環境に関するアスリートメッセージ映像の作成』を中心として取り組んでいます。今回はその中から、新たに作成した『指導者に向けたスポーツと環境に関するレクチャー原稿』のデモンストレーションを見ていただきたいと思います」と挨拶しました。
続いて情報提供として、オリンピック・パラリンピック等経済界協議会が行っている競技会場でのゴミ拾い・美化運動「KEEP THE STADIUM CLEAN」プロジェクトが紹介された後、昨年11月18日に開催された「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」でも紹介された、「2100年未来の天気予報」を導入としたスポーツと環境に関するレクチャーのデモンストレーションが行われました。
それを基に、NF関係者はこのレクチャーがどのような場面で導入できるか、また各所属団体内で選手たちにレクチャーし啓発していくに際しての課題などを討論。グループ発表では「環境に関する講師の人材確保の難しさ」「環境問題は表面的な話ではなく、その競技に対して具体的にリンクする内容でなければいけない」「レクチャー動画、教材があれば導入しやすくなる」「ジュニア世代へ熱心に伝えることが重要」といった意見が出されました。
フォーラムの最後に、松丸常務理事が閉会の挨拶に立ち、「本日のテーマであった女性の登用、アスリートの支援、環境への配慮、これらは今の社会が要請している内容です」と、JOCをはじめ各スポーツ団体が公益法人として現代社会の求めに対して貢献していかなければならないことを説明。その上で、各NF関係者に向けて「JOCはこれからも社会的要請に先んじて、しっかりと公益法人としての社会的責任を果たせるように、NFの皆さんと一緒に活動していきたいと思います。これからもご協力のほど、よろしくお願いいたします」と呼びかけて、今年度の総務委員会フォーラムを締めくくりました。
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