公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は12月9日、味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、オリンピック・パラリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに89社/団体129名(2016年12月9日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会には、29社42名が参加しました。
最初に、主催者を代表して開会のあいさつに立った星野一朗JOC理事は、あらためて今夏のリオデジャネイロオリンピックで史上最多41個のメダル、88の入賞を獲得したことを報告。その上で「トップアスリートが世界の舞台で活躍するためには、練習場や宿泊・食事施設のハード面のみならず、経済的な観点からも安心して競技に打ち込める環境が必要不可欠です」とアスリートを取り巻く現状を訴えました。そして「皆さんの日々のサポートがトップアスリートの明日を作っていきます。その意味で、本日お集まりいただきました皆さまも“チームニッポン”の一員です。本日はおよそ3年7カ月後に迫った東京2020大会において主役となる可能性を秘めたアスリートが8名登壇します。夢をかなえるために一生懸命頑張っているアスリートの生の声をお聞きいただけたら幸いです」と、一層の支援を呼びかけました。
次に八田茂JOCキャリアアカデミー事業ディレクターが、雇用形態や給与水準、勤務スケジュール、配属部署、国際大会での社名の使用などの概要を、資料をもとに説明しました。
採用企業の事例紹介では、2016年4月にレスリングの阿部宏隆選手を採用したサコス株式会社の木本隆総務部次長が、採用の経緯や目的、採用後の勤務状況などを報告しました。
同社は工事現場で使用される建設機械のレンタル及び販売を事業内容としており、震災復興やオリンピック開催に伴うインフラ再整備での需要が増していることから、社会貢献の一環として東京2020大会を目指す選手を支援、雇用しようと決定。練習場が通勤圏内、応援に行ける地域で大会が開催される、ストイックで正直な人柄などが決め手となり、阿部選手を採用したと説明しました。「会社の広告塔というよりは、実力があるのに支援しないと競技を続けられない選手を雇用したいと思っていました」と木本次長。今年7月の全日本社会人選手権で優勝した際に、阿部選手が「会社の皆さんの応援のおかげです」と“勝因”を語ってくれたことが「すごく嬉しかったですね」と振り返りました。
今後について、「練習に打ち込める環境は出来るだけ作ってあげたい」とさらなるバックアップを約束。その上で「日々頑張っている姿を見せてもらうことで、社内での模範、社員みんなの気持ちが盛り上がる材料になればと思っています。また、教育も色々と受けてもらい、自発的に自分の目標を仕事の中で見つけられるようになっていただければ」と、アスリートとして、そして社会人としての成長に期待を寄せていました。
続いて行われたオリンピアンからの応援メッセージでは、2006年トリノオリンピックのスピードスケートチームパーシュートで4位に入賞した石野枝里子さんが登壇しました。石野さんは、スピードスケートが盛んで多くのオリンピアンを輩出した北海道帯広市出身。3歳でスピードスケートを始めてから20年以上にも及ぶ現役生活を振り返りました。
社会人選手としては富士急行株式会社、その後、日本電産サンキョー株式会社の所属として活動。「試合のときはとても多くの社員の皆さんが応援に来てくれたことがとても心強く、今まで頑張ってきた姿を応援してもらえる、見てもらえると思うだけで自然と力になりました。このように応援してくださった企業や社員の皆さんがいたから、私はスケートを頑張ってこれたと思います」と、社会人選手時代は特に企業、社員の応援が支えになっていたことを明かしました。
ただ、石野さん自身「自分はとても恵まれていました」と話し、「実力があるのに就職先が見つからずに苦労しているアスリートがいるのも事実です」と、選手が置かれている厳しい現状を説明。一人でも多くのアスリートが経済面や環境面の不安がなく競技に打ち込み、2018年平昌冬季オリンピック、東京2020大会を目指せるよう、「これから登壇するアスリートは、これから、そしてすでに日本を背負っているアスリートです。オリンピックに出場する、メダルを獲得するなどの目標達成はアスリートの努力次第ですが、どんなアスリートも一人では強くなれません。支えてくれる人がいるから強くなれるのだと思います。どうか、目標達成を目指しているアスリートのサポートをお願いいたします」と、企業に向けて一層の支援を訴えました。
最後に、就職希望アスリート8名がプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像での競技紹介や競技のデモンストレーションなどで、自身をアピールしました。
■小林奈央選手(水泳・競泳)
「私は5歳から水泳を始め、今年で18年目になります。オリンピックの舞台に立つことを目標に毎日厳しい練習に取り組んできたのですが、一発勝負で決まる今年のリオオリンピック代表選考会は3着という結果で代表を逃してしまいました。それからもあのときの悔しさを忘れることはありません。リオで銅メダルを獲得した星奈津美選手が引退された後、私の目標はバタフライの第一人者としてレースを牽引し、4年後の東京オリンピックでメダルを獲得することです。来年4月からは大学院に通いながら、今まで以上に自分自身の泳ぎを徹底的に研究し修正を繰り返すことで、さらなるタイム短縮ができると確信しております。さらに企業に所属することで私自身、人として成長し、企業の皆さまに応援していただくことで、さらなる競技力向上を目指し、企業の皆さまと一緒に喜びを分かち合い、共に突き進んでまいりたいと思います」
■吉井康平選手(自転車・BMX)
「BMXレース競技は2008年北京オリンピックから正式種目に採用されました。そのときから私の目標はオリンピックの舞台で活躍したい、メダルを獲得したいという目標に変わりました。しかしながら今シーズン、リオデジャネイロオリンピック出場を目標にワールドカップを転戦しましたが、思うように結果を残すことができず、出場を逃し、とても悔しい思いをしました。また、ケガも多く、このまま辞めてしまおうかとも考えたこともありました。しかし、私は諦めませんでした。それはオリンピックの映像を何度も見返し、必死になって戦っている選手を見ているうちに、私が目指したいところはやはりここなんだと強く感じたからです。自分の中でやり切ったと思えるように、4年後の東京オリンピックまで走り続けようと決心しました。その目標に向け、企業の皆さまに応援していただければと思っています」
■井上智裕選手(レスリング)
「世界ランキングにもランクインすることがないほど無名で注目されることのなかった私でしたが、リオデジャネイロオリンピックのアジア予選では誰もが予想していなかったオリンピック出場枠を獲得することができました。ただ、リオでは3位決定戦で僅差で敗れ、オリンピックでメダルを獲得することの難しさをあらためて実感させられました。しかし、私の夢はここで終わってはならないと思いました。応援していただいている方々のためにメダルを取って恩返しをするまでは、私の戦いは終わりません。メダリストになれなかった悔しさを、2020年東京オリンピックに向けて決して忘れることなく、課題と感じている体力強化や技の決定力を身につけ、より一層練習に励んでいきたいと思います。こんな遅咲きの私ですが、これからも世界の舞台で結果を残し、努力ができるという才能を授かったことに感謝し、オリンピックを目標としている後輩や、支えてくれている家族、応援していただける会社の方々に希望、活力をお伝えできればと思います」
■山本実果選手(陸上競技/円盤投)
「私は中学1年生から陸上競技の円盤投を続けてきました。今の私の目標は2020年の東京オリンピックに出場し、世界と戦うことです。いつか大きな舞台で戦いたいと思っていたことが、今は手の届く目標へと変わりました。私は身長175センチと、手足の長い恵まれた体格を生かすことで、さらに成長し、世界の選手と戦えるようになる自負しています。この1年間で自己ベスト49メートル33を出し、記録を3メートル伸ばしました。現在、日本ランキング8位と、まだまだ成長途中にあります。日本一の選手との差はあと4メートルになりました。2020年の東京オリンピックは開催国の利点から、日本一になれば開催国枠で出場できる可能性があります。女子円盤投は競技人口が少ないことから、出場できる可能性は非常に高いです。私はまずは日本一を目指します。入社いたしましたら、常に感謝の気持ちを忘れず、社員の皆さまとともに会社に貢献できるよう、前を向いて行動していきたいと思っております。どうか2020年の東京オリンピックに向けて、陸上に専念できる環境とご支援をいただきたく、よろしくお願いいたします」
■三武潤選手(陸上競技/800m)
「私の座右の銘はネバーギブアップです。私は中学校から陸上競技を始め、今年で10年目となります。今年のリオデジャネイロオリンピック代表選手を決める日本選手権大会で、私は第3位に入賞することができました。しかし、標準記録の突破はかなわず、残念ながら代表には選ばれませんでした。しかし、この悔しさが4年後の東京オリンピックに向けての思いをより強いものにしてくれています。中距離は世間では注目されていない種目かもしれません。しかし、東京オリンピックに出場し、活躍することで、中距離という種目を世間に広めるチャンスだと私は思っており、その第一人者になることが私の大きな夢であり、目標でもあります。私の強みは諦めないことだけではありません。陸上競技を通して培った責任感や協調性は、企業に入社した際にもぜひとも実践していきたい力だと思っております。私を採用していただいた際には、陸上での結果はもちろん、仕事の面でも精一杯精進してまいりたいと思います。どうか東京オリンピックに向けてのご支援をよろしくお願いいたします」
■毛呂泰紘選手(陸上競技/走幅跳)
「私の強みは、自分のコミュニケーション能力を使い自分を成長させ、さらに自分を支えていただいた方々に結果で恩返しできることだと思っています。この能力は社会に出てからもとても役に立つ能力だと思っています。私は2020年の東京オリンピック出場はもちろん、入賞を目指しています。ただ、入賞という目標は自分ひとりの力だけでは達成することはとても難しいと思っています。ですが、周りの方々から支えられることで達成できる目標だとも思っています。私を採用していただけましたら、陸上競技で努力することはもちろんですが、会社から与えられた仕事も一生懸命努力していきたいと思っております。結果にこだわり、陸上での結果、そして仕事での結果で会社に貢献していきたいと思っております。そのための後押しをしていただけないでしょうか。目標達成のために専念できる環境、ご支援のほどよろしくお願いいたします」
■山方諒平選手(陸上競技/棒高跳)
「私の強みは、自分の意思、意見をしっかりと持ちながら、人からいただいたアドバイスを柔軟に取り入れ、常に成長する姿勢を持っている点です。私は今年度の日本ランキングは7位ですが、まだまだ身体能力面、技術面ともに発展段階にあり、伸びしろがあると考えております。現段階での能力でも少し修正を加えれば、あと10センチは自己ベストが伸びると思っています。これはリオデジャネイロオリンピックで入賞した澤野大地選手の高さになります。オリンピック標準記録は非常に高いものですが、あと30センチのところまで来ています。私はその30センチをクリアする自信があります。私を採用していただけましたら、常に東京オリンピックを意識しながら競技に取り組むだけでなく、陸上で得た経験を生かして仕事にも取り組んでいきたいと思っております。かなわない夢と思っていたオリンピック出場が、達成したい目標へと変わりました。私の2020年東京オリンピック出場の夢をかなえるために、ぜひ私を採用していただければと思います」
■伊藤佑樹選手(陸上競技/競歩)
「私は競歩を本格的に始めてからまだ6年目です。現在、日本の50キロ競歩は30歳を越えるベテラン選手が強く、24歳で日本の6位前後にいる私は4年後の東京オリンピックを考えますと、十分チャンスがある位置にいると思っています。経験が少ない中でここまでたどりついたということは、他の選手よりも伸びる可能性があると捉えることができます。技術に磨きをかけ、経験を積んでいくことにより、日本のトップレベルの選手たちと戦っていけるまで成長していけると思っています。私は競歩を通じて、目標に向かい淡々と努力していくことの大切さを学び、何事にも積極的に挑戦していけるようになりました。ご支援いただける企業の皆さまには、今までの経験と大学院で勉強してきたバイオメトリクスの知識を生かし、ウォーキング教室などを開催できればと考えています。東京オリンピックに出場し、ぜひ皆さまに沿道でご声援いただけますように全力で頑張ります。夢を実現できますように、ご支援のほどをよろしくお願いします」
説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、情報交換会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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