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2016.12.02 その他活動

地球温暖化がもたらすスポーツへの影響「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」レポート

地球温暖化がもたらすスポーツへの影響「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」レポート
「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」が開催された(写真:フォート・キシモト)
地球温暖化がもたらすスポーツへの影響「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」レポート
松丸JOC常務理事/総務委員長(左)、岡東京都オリンピック・パラリンピック準備局次長(写真:フォート・キシモト)

 日本オリンピック委員会(JOC)は11月18日、東京都庁都民ホールで「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を開催しました。

 JOCは平成13年度からスポーツ環境専門部会を設置し、スポーツと環境にかかる啓発・実践活動を推進してきました。その活動の1つとして今回、JOCパートナー都市である東京都でスポーツと環境・地域セミナーを開催。このセミナーでは、東京都を中心としたスポーツ関係者とともに、スポーツ界における地球環境保全の必要性について改めて考え、その活動をどのように実践に移していくかを一緒に学ぶことを目的としています。当日は都内のスポーツ関係者など207名の参加者が、熱心にオリンピアンの話などに聞き入っていました。

 はじめにセミナー開催にあたり、主催者を代表して松丸喜一郎JOC常務理事/総務委員長が「昨今、地球温暖化がますます加速し、気象や自然環境への影響はスポーツ界にとっても他人事ではない切実な問題となっております。こうした中、東京2020大会をあと4年後に控えた東京都において、地球環境保全の必要性について改めて考えることは大変意義深いことであると考えております」と開会の挨拶。続けて開催地を代表して岡義隆東京都オリンピック・パラリンピック準備局次長は、リオデジャネイロオリンピックで視察した競技施設の再利用や余った食材のフードロス対策をはじめ、過去大会での環境問題を参考にしつつ東京2020大会に向けて準備していることを報告。「東京都は2020年のオリンピックに向けて、環境をはじめ、あらゆる分野で東京を進化させ、都民生活の質の向上と持続的な成長を実現させていく、そのようなハードとソフトのレガシーを遺し、私たちにとって真の成功に結び付けていきたいと思っています」と述べました。

地球温暖化がもたらすスポーツへの影響「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」レポート
国、都、組織団体、民間団体のそれぞれの立場から環境に対する取り組みが報告された(写真:フォート・キシモト)
地球温暖化がもたらすスポーツへの影響「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」レポート
左から白石氏、小坂氏、田中氏、吉本氏(写真:フォート・キシモト)

■2020年に向けた国、都、団体の環境に関する取組

 今回のセミナーでは2つの対談が行われ、対談1では「スポーツに関連した環境に関する取組」〜東京2020大会に向けて〜をテーマに、環境省の白石隆夫 総合環境政策局総務課長、東京都オリンピック・パラリンピック準備局の小坂勉 総合調整部 計画担当課長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の田中丈夫 持続可能性部長、株式会社アシックスの吉本譲二CSR・サステナビリティ部長がパネリストとして登壇。野端啓夫JOCスポーツ環境専門部会長/理事がコーディネーターとして進行し、それぞれの立場から東京2020大会に向けた環境に関する取り組みを紹介しました。

 まず、環境に配慮した大会運営という観点から、田中持続可能性部長が東京2020組織委員会の運営計画を説明しました。
 組織委員会では環境保全を「持続可能性(サステナビリティ)」という言葉を用いており、例えば「都市鉱山(都市でゴミとして廃棄される小型家電などに含まれている金、銀、銅などの資源)からメダルを作る計画は、鉱山から鉱物を取り出すこともないので、環境や社会的にも配慮したまさに持続可能性の象徴です」と紹介。そして、持続可能性には大きく分けると「環境」「経済」「社会」という3つの要素があり、この3つが持続可能な発展を支えるトリプルボトムラインであると補足しました。
 それを踏まえたうえで、組織委員会では(1)気候変動(ローカーボンマネジメント)、(2)資源管理、(3)大気・水・緑・生物多様性、(4)人権・労働・公正な事業慣行等への配慮、(5)参加・協働、情報発信(エンゲージメント)の5つを主要テーマに持続可能性に配慮した運営計画を作っていると報告しました。

 続けて、東京2020大会を契機として環境対策を推進するという観点から、環境省の計画・取り組みを同省の白石総合環境政策局総務課長が紹介しました。
 環境省では、東京2020大会に際して考えるべき「環境問題」として、(1)低炭素社会づくり、(2)良好な大気環境、水環境の維持、(3)ヒートアイランド・熱中症対策、緑化、(4)資源の循環の推進を挙げて、それぞれについて、環境省が呼びかけているCOOL CHOICE(低炭素型の「商品」・「サービス」の購入、賢い省エネ行動など、温暖化防止につながる「賢い選択」を推進する国民運動)の推進や皇居外苑濠の水質改善事業など、取り組み状況を説明しました。
 一方で白石課長は、個人的に気になったこととして、東京マラソンで発生した雨具や紙コップなどのゴミ問題を紹介。「環境を考えると言っても、結局はひとり一人の行動の積み重ねだと思います。こうしたことを呼びかけていかないと共感は生まれないのではないか」と、環境問題に対する各個人の行動、心がけに対して注意を促しました。

 次に、東京2020大会後のレガシーを見据えてという観点から、東京都の計画と取り組みが紹介されました。
 東京都としては2020年に向けた取り組みを一過性のもので終わらせるのではなく、「大会後にも東京にポジティブなレガシーを遺していくことが大変重要なことと考えております」と小坂総合調整部計画担当課長。東京都は大会後のレガシーとして8つのテーマを掲げており、その中の1つとして環境に配慮した持続可能な大会への取り組みがあること、またそれを通じて東京自体が豊かな都市環境を後の世代に遺していくことを大きな目的としている点、そのための施策として水素社会の実現への取り組みなどが説明されました。
 また東京都は、若者にどのように環境の重要性を教えていくかという取り組みも重要と考えており、オリンピック・パラリンピック教育を進めていくことが先述したレガシーのテーマの1つに取り上げられています。都内の小学校・中学校・高等学校では東京都が作製したオリンピック・パラリンピック学習読本を通じて、環境問題の学習がすでに進められていることも小坂課長から報告されました。

 対談1の最後は、民間における環境の配慮という観点から、株式会社アシックスの計画と取り組みについて同社の吉本CSR・サステナビリティ部長が紹介。商品、材料、工場と、それぞれにおける持続可能性の施策を説明しました。
 アシックスではサステナビリティの活動をするにあたって、同社の一番の主体であるランニングシューズの製造から廃棄にいたるまでのライフサイクルを研究。その結果、一足あたりのCO2排出量が14kg、そのうち材料の調達と製造の段階で排出するCO2が最も大きいことが判明。そこで同社は、様々なCO2削減策を打ち出し、機能を保ったままCO2排出量を20%削減したシューズを開発に成功。さらに、植物に由来した材料であるバイオマスを使用しシューズ製造が進められていることが報告され、吉本部長は「2020年に向けて、将来的にはバイオマスの比率を100%に近づけていけるように努力しています」と目標を掲げました。また、工場においても電気の削減、熱放射の削減など様々なエネルギー削減プロジェクトが実施されているとのことです。

 すべての発表と質疑応答の後、野端スポーツ環境専門部会長は「スポーツを楽しめる地球環境を50年後、100年後の子供たちに残すには、それぞれの立場や観点は違いますが、国、東京都、組織団体、民間団体、そして我々スポーツ関係者が同じ方向を向いて協力することが重要になってくると、改めて感じました」と感想を述べて、第1部が終了しました。

地球温暖化がもたらすスポーツへの影響「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」レポート
上田藍選手(写真:フォート・キシモト)
地球温暖化がもたらすスポーツへの影響「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」レポート
富澤慎選手(写真:フォート・キシモト)

■オリンピアンと考える「スポーツと環境の関わり」

 対談2では、「スポーツと環境の関わり」をテーマに、トライアスロンの上田藍選手(北京・ロンドン・リオデジャネイロオリンピック出場)、セーリングの富澤慎選手(北京・ロンドン・リオデジャネイロオリンピック出場)、スキー・アルペンの皆川賢太郎選手(長野・ソルトレークシティ・トリノ・バンクーバーオリンピック出場)の3名のオリンピアンがパネリストとして登壇。同じくオリンピアンでJOCスポーツ環境専門部会員の宮下純一さん(水泳・競泳、北京オリンピック出場)がコーディネーターとして進行し、それぞれの競技経験などから、「スポーツと環境の関わり」についてディスカッションを行いました。

 前半では各オリンピアンが自身の競技やオリンピックに関するエピソードを紹介。室内プールで行われる競泳選手だったことから「各国での環境の変化をあまり感じたことがない」という宮下さんに対し、富澤選手は「海の中の糸一本でも順位が変わる」、皆川選手は「天候、雪質が国によって全然違う」と、まさに自然との戦いでもある競技と環境の密接な関わりを、自身の体験をもとに説明しました。
 一方、上田選手は千葉県手賀沼の環境活動を紹介。1970年代には汚染度ナンバーワンの沼と呼ばれていた手賀沼で、トライアスロンの大会を開催したいと願う地域の人たちが、水質改善活動に30年以上努め、ついに2006年、大会を開催できるようになった事例を挙げました。環境保全の面では、日本セーリング連盟も積極的に海の環境保全運動を行っており、「色々と言われていたリオの水質問題ですが、一方ではビーチにはゴミ1つ落ちていなかった。僕たちも見習わなければいけない」と富澤選手。皆川選手は「雪が資源なんです」と力を込めると、地球温暖化により年々、ヨーロッパでも氷河が溶けてきていることに危機感を募らせていました。

地球温暖化がもたらすスポーツへの影響「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」レポート
皆川賢太郎選手(写真:フォート・キシモト)
地球温暖化がもたらすスポーツへの影響「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」レポート
宮下純一さん(右)、気象予報士の藤森涼子さん(写真:フォート・キシモト)

 対談2の後半では、気象予報士でNPO法人気象キャスターネットワーク代表の藤森涼子さんが加わり、スポーツと気象の密接な関わり、地球温暖化についてディスカッション。ここでは藤森さんが「2100年 未来の天気予報」として、このまま何の対策もしなければ、夏に日本各地で40℃を超える猛暑日が当たり前のように続く一方、大雨による氾濫やがけ崩れ、反対にまったく雨が降らない地域の干ばつも頻繁に起こることを紹介すると、4名のオリンピアン、そして会場からも大きな驚きの声が上がりました。
 このような地球温暖化が進む未来に向けて、ひとり一人ができることは何か。藤森さんは「CO2を減らしていく緩和策」と「地球温暖化に備える適応策」の2つの考え方を提示。その中でも今からできる緩和策として、省エネ、植林・森の整備、自然エネルギーの増加、先述した環境省のCOOL CHOICEの推進などを挙げました。

 藤森さんの説明を聞き、「全日本スキー連盟としても自然エネルギーを増やす対策をしていますが、今日勉強した情報を僕ら連盟がきちんと共有して、下部組織に伝えていかないといけない」(皆川選手)、「100年後の気温が衝撃的でした。一歩も二歩も先を意識して考えないといけないんだと分かりました」(富澤選手)、「ここで聞いたお話をしっかり持ち帰って、誰でも発信できる力が強くなっている時代ですし、100年後は遠いようで近い未来なのでしっかりやっていかなければと思いました」(上田選手)とそれぞれ感想を述べたパネリストたち。宮下さんも「環境に対する考え方のヒントをもらったと同時に、これからの責任というものを感じました。未来の子供たちのために我々がアクションを起こさないと間に合わない。環境保全を長く続け、多くの人たちに広まるような会話のヒントをここから得て、持って帰っていただければ幸いに思います」と呼びかけて、対談2が終了しました。

地球温暖化がもたらすスポーツへの影響「第12回JOCスポーツと環境・地域セミナー」レポート
野端JOCスポーツ環境専門部会長(写真:フォート・キシモト)

 セミナーの最後に、野端スポーツ環境専門部会長が閉会の挨拶。これまでのプログラムを振り返りながら、参加者に向けて「温暖化が進むことでの危機感や、ゴミの分別・電気をこまめに消すなど、まず自分にできることをする重要性を、皆さまのお仲間の指導者、あるいは選手、子供たちにぜひ伝えていただきたい。子供からお年寄りまでの幅広いスポーツを愛する人たちを通じて、環境に関心を持ち行動することをより多くの人たちに広めることが、未来のスポーツ界に対する我々の責任ではないかと思います」とメッセージを送り、セミナーを締めくくりました。

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