■スナッチ2回連続の失敗、いきなりのピンチ
本格的な競技開始となるリオデジャネイロオリンピック2日目。競泳の400メートル個人メドレーでは萩野公介選手が日本人選手の今大会金メダル第1号に輝き、瀬戸大也選手が同じレースで銅メダルを獲得、柔道では男子60キロ級の藤直寿選手、女子48キロ級の近藤亜美選手がそろって銅メダルを獲得しました。
メダル以外のところでも、競泳の池江璃花子選手が100メートルバタフライで日本新記録を連発し、清水咲子選手も400メートル個人メドレーで日本新。テニス、バスケットボール女子などでも格上の選手、チームに勝利するなど、日本代表選手団の活躍が目立ちました。
その中でも、特に印象的だったのがウエイトリフティングの三宅宏実選手です。言わずと知れたウエイトリフティング女子の第一人者で、前回ロンドンオリンピックでは銀メダルを獲得。今大会が4度目のオリンピック出場となります。
当然、今回もメダル候補の一人と期待されていましたが、3月から痛めていた腰の具合がリオ入り後に悪化し、人生で初めの痛み止め注射を打つなど、まさに満身創痍の状態でした。
試合本番でも、やはり腰痛の影響か、普段なら難なくクリアできるスナッチ81キロが持ち上がらず2回続けて失敗。記録なしのまま最後の3本目を迎えてしまったのです。
「全然上げられるような重さじゃなかったので、ちょっとマズイなと。正直、もう私の夏は終わったと思いました」
試合後、三宅選手はその時の素直な気持ちを吐露しました。しかし、ここから脅威の粘りを発揮します。
「なんて言うのかな、あれは奇跡ですね。奇跡の81キロを取ることができました」
■「これを取れないと日本に帰れない」
バーベルを頭の上まで一気に持ち上げたとき、前の2回の試技と同様に足腰がぐらついた三宅選手。膝が地面につきそうになり、それを踏ん張ることで今度は後方に重心がかかってお尻をつきそうになる。そんな絶体絶命のピンチもしかし、次の瞬間にはピタッと重心と体勢が安定したのです。
「(なぜ3本目を上げられたのか)分からないです。でも、何か分からないんですけど、無心で入ったら(バーベルを)抑える位置に抑えられた。不思議な3本目だったので、きっとみんなが手伝ってくれたのかなという気がしています」
姿勢が安定したところで一気に立ち上がると、ついにスナッチ81キロを成功。場内からは割れんばかりの拍手が送られ、三宅選手もホッと安堵の表情を浮かべました。ですが、前半のスナッチを終えて順位は8番目。メダルを狙うには厳しい折り返しと言えます。ただ、三宅選手は後半のクリーン&ジャークが得意なので、一気のジャンプアップも十分可能。事実、三宅選手は1本目に105キロをクリアし4位に上昇しました。3位とは1キロ差で、その時点で試技が残っているのは1位、2位の選手と三宅選手だけ。つまり、107キロを上げた時点で銅メダルが確定するのです。
メダルがかかった1回目の107キロ。問題なく第1動作に入れたと思いましたが、審判の判定は膝が地面についたとして失敗。三宅選手自身も不可解に思うジャッジでしたが、一方で「あれで1本失ってしまった。3番と4番では全然違うので、これは絶対に取ろう、取れないと日本に帰れないと思いました」。
■バーベルにハグ! そして「ありがとう」
再び迎えたもう後がない正念場。ここで三宅選手はまたも驚異の勝負強さを発揮します。
「最後まで諦めずに自分を信じて、そして、みなさんの応援がすごく響いてきて しっかり挽回することができました」
土壇場で逆転の銅メダルを決める107キロを見事に成功!
「やったー!」
そう声を上げると、「16年間いっしょに練習してきたパートナー」というバーベルをハグし、そして「ありがとう」と声をかけたと、三宅選手は明かしました。
「それも私の夢の1つだったので、それができて嬉しかったです」
■「今回は本当に一番嬉しい」
結果としては前回ロンドン大会で持ち上げたトータル197.0キロに9キロも及ばず、またメダルの色も1つ下がりました。それでも、首から銅メダルを下げた三宅選手の笑顔は、ロンドン以上に弾けているようにも見えます。
「オリンピックは記録ではないし、父も『順位だ』と言っていました。もちろん納得いかない記録ではありますが、その中で取れた銅メダルなので、今回は本当に一番嬉しいです」
リオで獲ったこのメダルはきっと“奇跡の銅メダル”として三宅選手とともに輝き続けるに違いありません。そして、銀、銅と来たら、次は2020年東京オリンピックでの金メダルを期待してしまいます。4年後に関しては、次のようなことを話していました。
「オリンピックは本当に素晴らしい大会なので、また出たいなという気持ちはあるのですが、4年は長いですし、何があるか分からないので、日本に帰ってからゆっくり考えたいと思います」
三宅選手が見せた最後まで諦めない心、土壇場での集中力と粘り強さは日本代表選手団全てにも期待されることです。大会3日目以降もぜひ日本代表選手団には、そうした姿勢とプレーでリオの地をもっと、もっと熱くしてほしいと思います。
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