公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は6月1日、味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、オリンピック・パラリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに77社/団体107名(2016年6月1日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会は、昨年7月以来2度目となる東京都との共催で行われ、53社62名が参加しました。
最初に、主催者を代表して尾縣貢JOC理事が挨拶に立ち「トップアスリートが世界で活躍するためには、この味の素トレセンのようなトレーニング施設、宿泊所、食堂といったインフラはもちろん大切ですが、精神的に、そして経済的に安定し、本当に安心して競技ができる環境が不可欠なものです。ぜひ皆様のサポートでここにいるアスリートの明日を作っていただきたい」と呼びかけました。
続けて、東京都オリンピック・パラリンピック準備局の小室明子スポーツ推進部長が登壇。「東京都は2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に、多くの東京のアスリートが出場することを目指して、競技力の向上に取り組んでおります。その取り組みを効果的に進めていくためには、アスリートの生活基盤を確立し、競技活動に集中できる環境を整えていくことが何より重要であると考えております。ぜひアスリートの支援にお力をお貸しいただき、共に2020年大会を盛り上げていただけますと幸いに存じます」と訴えました。
その後、八田茂JOCキャリアアカデミーディレクターが雇用形態や給与水準、勤務スケジュール、配属部署、国際大会での社名の使用などに関して、資料をもとに説明しました。
次に行われた採用事例紹介では、株式会社ポピンズの執行役員である金指勝則人事本部長と、2013年11月にアスナビを通して同社に採用されたビーチバレーの小川将司選手がスピーチしました。幼児教育事業を行っている同社は、個の成長に合わせた本物教育の実践のためにアスリートの専門性に着目。そして、幼児期から本物のトップアスリートと触れ合うことによる教育効果を期待して小川選手を採用したという説明がなされました。
また小川選手は、週3日程度の勤務の中で、保育園に赴き子供たちに様々な運動指導をしている勤務状況を紹介。競技との両立についても「ポピンズに入社して、まず練習時間がしっかりと確保できたことと、遠征などの自己負担が軽減されたことによって、自分の競技に前向きに取り組むことができています。それによって個人ではなかなか難しかった海外遠征にも挑戦させていただいています」と、充実した競技生活を送ることができていると報告しました。さらに、「入社してから表彰台に上がる回数が増えました。支援されたことによって勝たなければいけないという責任感も生まれますし、それだけ集中した環境があるので競技力もきっと向上すると思います」と、アスナビを通じて就職したことによるプラスの効果を強調しました。
採用事例紹介の後は、オリンピアン応援メッセージとして、2012年ロンドンオリンピックのフェンシングフルーレ団体銀メダリスト、千田健太選手が登壇しました。千田選手はロンドン大会後にいったんは競技生活から離れ、東京オリンピック招致活動などに注力していましたが、オリンピックで金メダルを取りたいという強い思いが再燃。リオデジャネイロオリンピックを目指し、アスナビに登録しました。すぐには採用が決まらず、経済面での不安が競技にも悪影響を及ぼした時期もあったそうですが、アスナビを通して株式会社阿部長マーメイド食品に入社後は「競技に没頭する時間が増え、競技成績もしっかり出るようになり、リオを目指す環境がしっかり整いました」と振り返りました。
残念ながらリオデジャネイロオリンピック出場はかないませんでしたが、社会人選手となってから大きな心境の変化もあったと言います。「以前はただ競技の結果だけを重視していましたが、実際に社員の方々などから多くの支えがあってスポーツに取り組むことができており、どうやったら自分は企業に貢献できるか、またスポーツを通しての町興しであったり、復興活動やアスリートとしての役割を意識するようになりました」。そして、「現在はアスリートと社員活動を両立しており、今後も会社にとってどういった貢献ができるかを考えながら、社員業にも全力で取り組んでいきたいと思っております」と、自身の今後の抱負を述べると、最後に「今回お越しいただいた企業様からも、より多くのトップアスリートを採用していただけますよう、ぜひよろしくお願いいたします」と締めくくりました。
最後に、就職希望アスリート6名がプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像で競技を紹介するなど、自身をアピールしました。
■渡邊一輝選手(水泳・競泳)
「私はオリンピック出場を夢に、6歳から16年間水泳を続けてきました。現在、日本代表まであと少しのところまで来ています。今までのように着実にタイムを縮めることができれば、日本代表に入れると確信しています。そして、来年の世界水泳、2年後のパンパシフィック出場と、1つずつ目標をクリアしていき、4年後の東京オリンピック出場、そしてメダル獲得を目指します。
大学4年生となり、私は企業にお世話になりながら競技を続ける道を選びました。それは企業で様々な経験をし、自分の幅を広げ、人間として成長していきたいと思ったことと、また、引退後も企業でしっかり働きたいと考えているからです。現在、法政大学の体育会水泳部の主将を務めています。部員総勢75名を取りまとめ、チームの運営をしながら選手として自らの結果も残してきました。全体を見渡しながら自らのこともやってきたということは、企業に求められることにも通じていると思います。入社させていただけた際には、持ち前のひたむきな姿をお見せし、活躍することで社員の方々に刺激を感じていただき、また応援していただくことにより一体感の醸成にも貢献できると考えております」
■佐藤凌選手(陸上競技)
「私が陸上の走高跳を始めたきっかけは小学校6年生のときで、3カ月弱の練習で小学校の全国大会で優勝し日本一になりました。中学校では怪我に悩まされ初めて同学年の選手に敗れましたが、高校では全国インターハイ、国体で優勝して再び日本一になり、必然的に次はオリンピックで勝負したいという気持ちが芽生えました。私の自己ベストは2メートル22センチです。オリンピックの参加標準記録は2メートル29センチなので、わずか7センチのところに迫っております。私は従来の日本人選手にはない、外国人のような硬くて弾けるようなバネが持ち味です。この持ち味を生かして技術をより磨くことで、オリンピックの標準記録、あるいはその先を見据えることができています。
最後になりますが、私のモットーは、何事にもチャレンジし続け飛躍することです。このことを社員の皆様と共有し、企業の発展、または飛躍に少しでも貢献できればと思っております。2020年の東京オリンピックに向けて、私は飛躍します。ぜひ競技を続ける環境をサポートしてください」
■竹田渉瑚選手(水泳・競泳)
「私は5歳から水泳を始め、小学校3年生のときに競泳の選手になり、大学2年時の2014年には日本のトップスイマーとして日の丸を背負い、パンパシフィック選手権やアジア選手権などに出場することができました。今年はオリンピックが開催される年であり、競泳も4月にオリンピックの予選会が行われましたが、結果は代表内定には至らず、これで日本の長距離は2大会連続でオリンピックに出場することができていません。大学4年ということもあり、現役を退くことも考えましたが、競泳の長距離の第一人者としてレースを引っ張っていくという立場にもあり、悩んだ末に、東京オリンピックを見据えて社会人として競技を続けながら、企業にサポートしていただくという道を選択いたしました。
また、1500メートル自由形は自ら考え、行動することが求められ、競技を通して培ったことが仕事にも生かせると考えております。そして、世界へ挑むチャレンジ精神を社内の士気向上へとつなげられるよう努めていきたいと考えております。不撓不屈の精神を胸にオリンピックへの挑戦を続けていきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
■近藤太郎選手(スケート・スピードスケート)
「私は大学1年生のときに、夢だったソチオリンピックに出場しました。しかし、結果は振るわず、世界との差をただただ痛感するだけで終わってしまいました。とても悔しい思いをしましたが、得るものも大きかったです。体格で劣る日本人選手は世界では通用しないと言われている固定観念を、私が自らの結果で克服したいと強く思っております。
私は競技力を向上させるために、トレーニングを自ら工夫し、物事をあらゆる観点から捉えることで成果を挙げてきました。企業においても、私の最大の強みである主体性を発揮したいと思っております。また、ソチオリンピックに出場した経験を語ることで、オリンピックをより身近に感じてもらえると思います。企業代表として世界と戦うことで、企業全体に活力や一体感を生み出すことは、私の使命だと感じております。日本国内でもテレビ放映されるので、企業の名前を日本にとどまらず、世界に発信することもできます。社会人としてはまだまだ分からないことばかりですが、採用いただけた際には持てる力を存分に発揮して、企業に貢献していきたいと思っております。最高の舞台で自信を持って世界に挑むために、ぜひ私を採用してください」
■平加有梨奈選手(陸上競技)
「私は小学校3年生から17年間、北海道で陸上競技を続けてまいりました。昨年は1つの夢でもあった走幅跳の日本代表としてアジア選手権大会に選出していただき、とてもいい経験ができました。今は世界陸上、オリンピックに向けて日々努力しています。目標達成のためには、自己ベストの6メートル45センチを超えられるよう、さらなる技術向上が必要です。そのために生まれ育った北海道を離れることを決意して、シーズンを通して屋外でトレーニングができる関東に拠点を置き、レベルアップを図って世界を目指そうと考えました。リオデジャネイロオリンピックの最終選考は6月末の日本選手権です。リオ出場も視野に入れながら、最後まで全力で頑張ります。そして、東京オリンピックに向けてさらに練習を積んでいきたいと思います。
私は人と関わることが好きで、元気と明るさが持ち味です。北海道で活動していたころも、小中学生や親子向けに何度か陸上教室をさせていただきました。その経験を生かして、地域の方々からも愛される明るく元気な企業作りに貢献し、社内を活気付けられるアスリートになれるよう全力で頑張ります」
■伊藤力選手(パラテコンドー)
「私は昨年4月に仕事中の事故により、右腕ひじより上を切断しました。切断して2カ月後には障がい者のサッカーであるアンプティサッカーに参加し、そこからできた知人の紹介で、今年の1月下旬よりパラテコンドーの競技をスタートしました。東京パラリンピックまで4年、決して時間があるとは思っていません。せっかくいただいたチャンスですので、東京パラリンピックは確実に出場し、金メダルを取りたいと思っております。
現在住んでいる北海道千歳市では通える道場もなく、また競技の相手もいない状況であります。やはり4年後の東京パラリンピックで金メダルを狙っていくには、師範やコーチのいる道場、競技の相手が必要になってきます。また、現在勤めている会社では競技を優先することは非常に難しい状況になっています。東京パラリンピックを目指すにあたり、日本をはじめ、サポートいただく企業様のために頑張るのはもちろんですが、このように障がいを持ってしまっても支えてくれる家族、そして昨年生まれた娘のために頑張り、4年後にはかっこいいパパと言われるように頑張っていきたいと思います」
また、説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、懇談会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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