公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は4月27日、経団連会館(東京都千代田区)で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビは、オリンピック・パラリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに75社/団体105名(2016年5月2日時点)の採用が決まりました。
今回の説明会は、日本経済団体連合会(経団連)の会員企業/団体を対象に行われ、67社116名が参加しました。
最初に主催者を代表し、平岡英介JOC専務理事があいさつ。まず、熊本地震の被災者の方たちに向けてお悔やみとお見舞いの言葉を述べた後、ちょうどこの日がリオデジャネイロオリンピックまで残り100日であることを紹介しながら、「リオデジャネイロの後は2018年に平昌オリンピック、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが行われます。本日8名の選手がプレゼンテーションをしますが、それぞれが各大会を目指して、良い成績を収める可能性が高い選手たちです。ぜひともご支援、ご協力をいただき、トップアスリートを育てていただければと思います」と引き続きの支援を訴えました。
続いて経団連オリンピック・パラリンピック等推進委員会企画部の山本一郎部会長が登壇。山本部会長は企業側へ向けて「アスリートの皆さんの夢を企業の皆さんに応援していただければと思います。ただアスリートを支援するのではなく、会社の将来を担う人材をと思って採用していただけますよう、よろしくお願いいたします」と呼びかけました。
次に八田茂JOCキャリアアカデミーディレクターが、雇用形態や給与水準、勤務スケジュール、配属部署、国際大会での社名の使用などの概要を、資料をもとに説明しました。
続けて行われた採用事例紹介では、今年4月1日付でパラ水泳の小野智華子選手、宮崎哲選手を採用した、あいおいニッセイ同和損害保険経営企画部の倉田秀道次長がスピーチしました。同社ではアスリートを採用するにあたって、大会に応援に行くこと、現場を見ることを柱とし、3月6日に開催されたリオデジャネイロパラリンピックの選考大会である「平成27年度春季静岡水泳記録会」での応援の様子を紹介。さらに、新入社員研修の一環として障がい者スポーツ支援講座を行っていることも報告しました。
また、この日は小野選手も同席しており、「選考会での応援はすごく励みになりました。勤務体制につきましても、毎日練習できるように仕事の時間を早めに切り上げさせていただいて、練習がベストのタイミングでできるようにさせていただいているので、その点もすごくありがたく感じています。今のこの環境に感謝しながら、リオではメダルを取って皆さんにお返しできればと思っています」と力強くコメント。宮崎選手もビデオメッセージで「3月の選考会では応援の力で自己ベストを更新し、代表を勝ち取ることができました。リオでは自己ベストを更新し、メダルを取ることを目標に頑張ります」と意気込みを語りました。
採用事例紹介の後は、就職希望アスリート8名がプレゼンテーションを実施。スピーチをはじめ、映像で競技を紹介したり、デモンストレーションを行ったりと、それぞれ趣向をこらしたプレゼンテーションで自身をアピールしました。なお、競泳の青木智美選手、金子雅紀選手はリオデジャネイロオリンピックに向けた合宿中のため、ビデオメッセージによるプレゼンテーションとなりました。
■岸大貴選手(体操・トランポリン)
「私の目標は東京オリンピックに出場しメダルを獲得することです。しかし、東京オリンピックでメダルを獲得するためには力がまだ足りません。さらに上のレベルへステップアップするためには、環境面で何か大きな変化が必要だと思いました。そこで考えたのが生まれ育った石川県を離れ、東京へ上京することです。トップ選手が集まる国立スポーツ科学センターに練習拠点を置き、仕事をしながら競技を続ける厳しい環境に身を置くことで、さらに自分自身を磨き上げたいです。
私は人と関わることが好きで、人と距離を詰めることが得意だと思います。なので、接客業や販売業に興味があります。しかし、競技を続けられるのであればどのような仕事でも力の限りを尽くし、全力で勤めたいと思っております。お世話になる企業には、あらゆる大会で結果を残すことで社内を盛り上げ、会社を活気づけられる、そんなアスリートを目指します。ご支援のほどをよろしくお願いいたします」
■黒川魁選手(ビーチバレーボール)
「私の最終的な目標は東京オリンピックに出場し、メダルを獲得することです。しかし、今の筋力、技術、経験ではまだ達成できるレベルにはありません。この目標を達成するためにできることは何でもやっていく覚悟を決めております。このアスナビにおいてロンドンオリンピックに出場された朝日健太郎さんをはじめ、ビーチバレーボール選手男子4名、女子2名がすでに採用されており、競技と仕事を両立させ高い評価を受けていると聞いています。私も採用していただいた企業の多くの皆さまに、必死に戦っている姿を応援していただき、その応援を力に変えたいと思っております。
そして、私の選手としての強みは、どんな劣勢な状況に立たされても、下を向かず声を出し、向かっていける負けん気の強さなどのメンタル面です。これは会社で仕事をするうえでも活かせると思います。また、所属選手として試合で結果を出すことはもちろん、企業様の広告面やイメージアップなどにも貢献することをお約束いたします。どうぞよろしくお願いいたします」
■土屋良輔選手(スケート/スピードスケート)
「私は小学校3年生のときからスピードスケートを始め、12年間競技を続けてきました。その中で培ってきたものは、どんな逆境でも折れない心の強さと、5000m、1万mという長距離を滑りきるのに必要な集中力と忍耐力です。現在では全日本選手権総合2位、ワールドカップで上位16名のみが滑れるディビジョンAに昇格を果たせるまでになりました。これからの私の目標は来年札幌で行われる冬季アジア大会での金メダル、そして、2018年平昌オリンピックでの上位入賞、さらに平昌から4年後の北京オリンピックで金メダルを獲得し、日本スピードスケートで新たな歴史を刻むことです。
私を採用してくださった企業様に貢献できることは、私の名前を世界中に広め、世界のトップで戦ってきた経験を企業様に還元し、私の頑張る姿を見て社員の皆さんに元気を与えられることだと思っています。そして、世界一になったあかつきには企業様から支援をいただいたことへの感謝を世界中に向けて発信したいと思います」
■横山碧生選手(スケート/スピードスケート)
「私は小学1年生からスピードスケートを続けてきました。練習の厳しさから逃れたくなるときもありましたが、そんなときこそ自分を奮い立たせ頑張ってきた結果が、全日本距離別選手権での優勝につながりました。
今後は社会人選手として自覚を持ち、2年後の平昌オリンピックを目標に、雇用していただいた企業の方に恩返しができるよう全力で励みたいと思います。将来的には日本だけではなく、世界に名前を残せる選手になり、スケート界をけん引していきたいです。私の強みは絶対に諦めないことです。高校生が社会人選手に通用しないという考えをなくして、体の限界までトレーニングをしてきました。そして次の平昌オリンピックまで色々なことを吸収していこうと思います。
私は今年、スピードスケート王国・オランダにスケート留学をします。そのため、私を応援していただける企業がありましたら、多くの場で宣伝いたします。よろしくお願いいたします」
■浜田千穂選手(レスリング)
「私は小学1年生のときからレスリングを始め、16年間続けてまいりました。大学4年生のときにはウズベキスタンで開催されました世界選手権大会55キロ級にて初出場・初優勝することができました。その後、吉田沙保里選手のいる53キロ級に階級を変更し、リオデジャネイロオリンピックの代表になるために努力しましたが、代表になることはできませんでした。このとき引退も考えましたが、周りの応援や励ましから、自分の納得する結果を残してから引退しようという気持ちが強くなりました。今では東京オリンピックで金メダルを取ることが目標です。
私はレスリングを通じ、困難な状況でも自ら考え決断し、行動することを身につけました。16年間の競技生活を活かし、結果を残すことはもちろんですが、子どもや初心者向けの教室を開催したり、自分の今までの体験談を話したり、自分にしかできないことで企業や社会に貢献していきたいと思っております」
■有吉利枝選手(パラローイング)
「競技を始めて2年になります。今日は公共交通機関を使ってこの会場まで来ましたが、駅員さんが介助してくれましたので、問題なく来ることができました。つい先日まで、イタリアで開催されたリオデジャネイロパラリンピックの選考会に出場していました。決勝まで進むことができましたが、残念ながら6位に終わり、出場権を獲得することはできませんでした。
競技を始めたきっかけは、もともとヨット競技をやっていたんですが、ボート競技の方がリオに近いということで、誘われて転向しました。練習は相模湖で行っています。自分の強みは、負けず嫌いなところと、芯が通っているところです。また、基本的に車いすで行けるところであれば、問題なく普通の人と変わらず仕事をすることができます」
■青木智美選手(水泳・競泳)
「本来であれば経団連のアスナビ説明会に参加したかったのですが、先日行われた日本選手権の200メートル自由形で、800メートルフリーリレーにおけるリオデジャネイロオリンピックの派遣記録をクリアしてオリンピックに出場が内定し、現在、代表合宿に参加しているためビデオメッセージにて失礼いたします。
私は大学に入学してから記録が飛躍的に伸び、成長し続けています。その理由は目標を明確に持ち、自ら練習法や泳法を考え、実践することができたからです。今回、私の目標であったリオデジャネイロオリンピック代表に内定し、オリンピックという舞台を経験することになりました。リオでは必ず決勝に出場し、上位に行けるように4人で頑張っていきたいと思います。さらに4年後の東京オリンピックでは、メダルを獲得することに挑戦したいと思います。そして、今まで競泳で培った徹底的に挑戦する姿を見ていただき、企業の皆さんに元気になっていただくことで貢献していきたいと思います」
■金子雅紀選手(水泳・競泳)
「本来はアスナビ説明会に参加したかったのですが、リオデジャネイロオリンピックに向けた強化合宿の最中であるため、ビデオメッセージで失礼いたします。
今年のオリンピック選考会で、リオデジャネイロオリンピックの出場権を獲得することができましたが、あらためてオリンピックに出場するためには個人の技量だけではなく、周りの方々の応援、支えがとても大事であることを認識しました。ですので、そういった応援してくださる方々のためにも、リオでは決勝に残り、しっかりとメダルを獲得して、2020年の東京オリンピックに向けたいいステップにしていきたいと考えています。
東京オリンピックを目指すにあたって、私は大学院を卒業してからは企業に勤めながら競技を続けたいと考えております。それは社会人としての自覚を持ち、企業の代表として責任感を持って競技に打ち込むことによって、人間的にも成長できると考えたからです。私は企業に就職してからは、自分自身が大学や競技生活の中で培ってきた困難に負けない強さや、客観的なデータをもとに冷静な判断を実行できる能力を生かして、企業の求める人材になれるように努力していきたいと考えております。また、企業の多くの方々が応援してくださることが、自分がオリンピックでメダルを取ることのパワーになると考えておりますので、応援のほどよろしくお願いいたします」
最後に、オリンピアンからの応援メッセージとして、アテネオリンピックに出場したバレーボールの大山加奈さんが登壇。小学生、高校生、日本代表時代の映像を交えながら、東レアローズ女子バレー部時代のエピソードなどを話しました。そして、「2020年の東京オリンピックは子どもたちにとって、とても大きな影響を与えるものになると思っています。先ほどプレゼンされた選手の皆さんが、4年後、ここ東京でスポーツの力や素晴らしさを日本中、世界中の皆さんに伝えてくれる役割を担ってくれることを心から期待しています」とエールを送ると、「東レの皆さんと喜びも苦しみも分かち合いながら競技を続けて来れたことは私にとってとても大きな財産となっています。本日ここにご参加の企業の皆さんと、プレゼンされた選手の皆さんがそのような関係を築いてくださることを心から願っております」と、アスナビでのマッチングに期待を寄せるコメントで締めくくりました。
また、説明会終了後には、選手と企業関係者との名刺交換、懇談会が行われ、企業と選手がそれぞれ交流を深めました。
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