日本オリンピック委員会(JOC)は11月21日、北海道帯広市で「第11回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を開催しました。
JOCは平成13年度からスポーツ環境専門部会を設置し、スポーツと環境にかかる啓発・実践活動を推進してきました。その活動の1つとして今回、JOCパートナー都市である帯広市で環境・地域セミナーを開催しました。このセミナーでは、帯広市を中心としたスポーツ関係者とともに、スポーツ界における地球環境保全の必要性について改めて考え、その活動をどのように実践に移していくか、スポーツ団体の具体的な実践例を交え、一緒に学ぶことを目的としています。当日は地元のスポーツ関係者や高校生192名の参加者が、熱心にオリンピアンの話などに聞き入っていました。
はじめにセミナー開催にあたり、平岡英介JOC専務理事が「昨今、地球温暖化がますます加速し、自然環境への影響はスポーツ界においても他人事ではないという思いです。このような中で、環境問題において全国をリードする環境モデル都市である帯広市の皆さまと環境保全の必要性について改めて考えることは意義が深いことです」とあいさつ。続けて、開催地を代表して米沢則寿帯広市長は、2017年冬季アジア競技大会のスピードスケート会場が帯広市に決まったことに触れ、「私たちの暮らし、社会活動はあらゆる面で地球環境と密接な関わりを持っており、スポーツの分野でも同様です。今回のセミナーはスポーツ分野における環境保全の取り組みなどについて、皆さまといっしょに考える貴重な機会となるでしょう」と述べました。
今回のセミナーは2部構成で行われ、第1部の基調対談では「スポーツと環境との関わり」をテーマに、上田藍選手(トライアスロン)、鈴木靖さん(スピードスケート)、鶴岡剣太郎さん(スノーボード)の3名のオリンピアンがパネリストとして登壇、同じくオリンピアンでJOCスポーツ環境アンバサダーならびに、JOCスポーツ環境専門部会員の宮下純一さん(競泳)がコーディネーターとして進行し、それぞれの競技経験などから、環境保全についてディスカッションを行いました。
まず、上田選手から自然環境と関わりの深いトライアスロンについて、千葉県手賀沼の環境活動を取り上げ、1970年代には汚染度ナンバーワンの沼と呼ばれていた手賀沼で、トライアスロンの大会を開催したいと願う地域の人たちが、水質改善活動に30年以上努め、ついに2006年、大会を開催できるようになった事例を紹介しました。
「小さなことから始めた結果、水質を変えるという大きなことにつながった。スポーツが環境を変えた大きな一歩になりました」とコメント。また、東京2020大会のトライアスロン会場を予定しているお台場での水質改善の活動についても触れ、現在お台場にアサリを放流して水をろ過する作業をしているが、その効果としてアサリ1個につき1年間で約4トン以上の水をろ過出来るという説明に、来場者も驚いた様子を浮かべていました。
続いて海外での経験を語ったのは、フランスに2年間在住していた鶴岡さん。「僕は現役時代、夏はヨーロッパの氷河地帯で練習していたのですが、以前は8月初旬でも練習できていたのに、1年ごとに7月、6月と時期を早めないと、良い雪質のコンディションで滑れなくなりました」と、地球温暖化を肌で実感した体験を語りました。
また、フランスでの生活で強く意識するようになったのは、「リサイクル」「リユース」「リデュース」の『3R』。華やかで最先端を追っているように見えるパリの人たちも、すぐに物を捨てるのではなく、驚くほど大切に長持ちさせていることを紹介し、そんなパリの人たちの生活スタイルを目の当たりにし感じたことを踏まえて、「私たちスポーツ選手も、道具や自然に敬意を払うこと、そして1つ1つのことに心を込めることが大切ですし、それが環境保全につながっていくと思います」と呼びかけました。
鈴木さんは2017年に札幌で開催されるアジア冬季競技大会の組織委員会という立場から、スポーツと環境について話をしました。札幌は1972年にオリンピック冬季大会を開催し、それまでのオリンピック開催都市の中で初めて環境について考えた都市であるという歴史から、札幌オリンピック時に建設された施設の大部分を再利用し、また、電気照明のLED化、太陽光発電、地中熱の利用、ハイブリッド車の配備など、地球環境保全を全面に押し出した大会を17年のアジア冬季大会では目指していると説明しました。
そうした活動を進めている中で、最近街中でゴミを拾う人を多く見受けられるようになったことについて触れ、それをきっかけに「ゴミ1つ 拾う気持ちで おもてなし」を自身のスローガンにしたといいます。そして、「ゴミ拾いをしている姿を見て、私自身もいいなぁと優しい気持ちになりました。ゴミを1つ拾うという小さなことが周りの人たちに伝わり、それが大きな心になっていく。もっと言えば、社会が良くなり、国が良くなり、環境に対する意識も変わっていくのではないか。そのような気持ちでアジア大会では各国の皆さまをお迎えしたい」と述べました。
一方、この基調対談はスポーツと環境について考えるきっかけにすると同時に、なぜ環境保全はスポーツにとって大事なのかを考える場でもあります。これについて、進行を務めていた宮下さんは「未来への投資」と語りました。
「今日は高校生の皆さんも来てくれていますが、さらに下の世代、生まれてくる子どもたちに、私たちの時代と同じようなスポーツ環境を整えられるのか? 例えば水質問題や水不足でトライアスロンができない、水泳ができないというように、選択肢がなくなってしまうのはすごく悲しいことだと思います。私たちはスポーツで色んなことを学んできましたので、子どもたちのためにたくさんのスポーツができる環境を作るということが、環境問題を考えることだと私は思います」
また、宮下さんはオリンピックで学んだこととして、「エクセレンス(卓越性)」、「フレンドシップ(友情)」、「リスペクト(敬意/尊重)」の3つのオリンピックの価値を子どもたちに伝えていきたいと考えています。「オリンピックの価値を感じることができるスポーツの舞台を崩さないためにも、自然環境を整えていきたい。そして、スポーツと環境保全について感じたことを一人が二人に伝えて、二人が三人に伝えていけば、それがどんどんムーブメントとして広がっていくと思います。そういう意味でも、スポーツ環境というものを改めて考えてもらえればと思います」と呼びかけました。
第2部では「スポーツを通した環境に関する取り組み」として、「十勝管内の総合型スポーツネット活動と環境」をテーマにNPO法人幕別札内スポーツクラブの小田新紀代表がプレゼンテーションを行いました。
まず小田さんは十勝管内にある50面以上の天然芝コート、国内2番目の屋内リンクである十勝オーバル、さらに、雪も北国の大切な資源であることから、冬に凍らせた氷を夏に利用する世界初のカーリング場など、日本有数のスポーツ施設を紹介。その一方で、自然の地形や廃工場を再利用して作られているなど、環境と向き合った簡素な施設も多く見られるヨーロッパの現状から「必ずしも施設が立派なことが大事ではない」ということも学んだといいます。
また、同じくヨーロッパから、スポーツは衣食住、音楽、文化とすべていっしょにあるという精神も学んだ小田さん。今後の十勝管内のスポーツ活動の展望として「十勝には世界に誇れる自然環境、自然エネルギー、食材、また世界に劣らない施設があります。ありのままの食や自然を生かしながら楽しめるスポーツの場を創出することを大切にしながら、そのことを次世代につないでいきたい。自然と共生しながら、十勝らしいスポーツ文化を作っていけると思っています」と、十勝のスポーツ環境が持つ大きな可能性に期待を込めました。
セミナーの最後に、野端啓夫JOCスポーツ環境専門部会部会長が閉会のあいさつを行い、これまでのプログラムを振り返りながら「環境保全の取り組みはある意味、ゴールの見えない活動でもあります。しかし、スポーツを楽しめる環境を50年後、100年後の子どもたちに残すためにもアクションを起こさないといけない。そのためにも、今回のセミナーで感じられた環境保全を啓発することの意義を、皆さんの仲間にもぜひ伝えていただきたい」とメッセージを送り、セミナーを締めくくりました。
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