日本オリンピック委員会(JOC)は2月19日、味の素ナショナルトレーニングセンターで「第11回JOCスポーツと環境担当者会議」を開催しました。この会議は スポーツを通じた持続可能な社会づくりへの理解を深めると共に、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020)に向けた関係者・関係団体との地球環境保全への連携、実践活動の推進を図ることを目的としています。「スポーツ界が目指す持続可能な社会づくり 〜東京2020に向かって競技団体が実践できる取組み〜」というテーマが掲げられ、JOCや加盟団体の環境担当者ら80名が参加しました。
はじめに、平岡英介JOC常務理事があいさつに立ち「2020年のオリンピック・パラリンピック競技大会の立候補ファイルに、スポーツを通じて地球環境、地域環境の大切さを発信する大会にすることがうたわれております。さらに、昨年12月に採択された『オリンピック・アジェンダ2020』の中には、オリンピック・ムーブメントの日常的な業務における持続可能性の導入が盛り込まれています。東京2020まで約5年間、ホスト国といたしまして、またオリンピック・ムーブメントを推進する組織として、JOCと各競技団体がスポーツと環境に対し、これまで以上に真剣に考えていかなければならないと考えております」と述べました。
■環境省がスポーツ界に求める取り組みとは
会議の前半は、「東京2020に向け環境省としてスポーツ界に求めるもの」と題し、環境省の上田康治総合環境政策局総務課長による基調講演が行われました。上田課長ははじめに、環境問題の変遷を時代ごとに示しながら現状を説明。環境問題について考える際のキーワードとして「持続可能性」を挙げ、持続可能な社会とはどういうことか、それを実現するためには何が必要かを述べました。
また、スポーツと環境の関係については2つの側面があるとし、まず「スポーツが環境に与える影響」の例として大規模なスポーツ施設の建設や大会運営、スポーツへの参加を通じた環境問題への関心の高まりなどを挙げました。逆に「環境の変化がスポーツに与える影響」については、大気汚染などの公害問題が屋外競技に、地球温暖化の進行が冬季競技に影響を及ぼすなどの例を示しました。
東京2020に向けては、2012年ロンドンオリンピック・パラリンピックでの例を挙げながら、「環境にやさしいオリンピック」と「環境都市東京」の実現に向けた環境省の取組みを紹介。当面やるべきこととして、東京の名所を回るマラソンコースをモデルケースにした多角的なアプローチが検討されていると明かしました。
さらに具体的な取組みとしては、施策の一例としてカーボン・オフセットやESD(持続可能な開発のための教育=Education for Sustainable Development)が紹介されました。カーボン・オフセットとは、事業活動や日常生活で排出される温室効果ガスについて削減努力を行った上で、どうしても削減できなかった温室効果ガス排出量を、他の場所で行われた温室効果ガスの排出削減・吸収量等(クレジット)でオフセット(埋め合わせ)し、自らの 排出に責任を持つ取組みのことで、実行には「知って、減らして、オフセット」という3つのステップがある中で、まずは知るところからはじめてほしいと訴えました。
ESDは単に環境だけではなく、貧困、人種、平和、開発といった現代社会の課題を自らの問題としてとらえ、身近なところから取組むことで課題の解決につながる価値観や行動を生み出し、持続可能な社会を目指すことが目的であると説明。自身の取組みを6つの視点から理解し、7つの工夫をすることで必要な 能力を身につけられるとし、「ゴミの分別をする」「川をきれいにして魚を放流する」という具体例に落とし込んだ場合の考え方を示しました。
■東京2020、サッカー協会、横浜市の事例をもとに意見交換
後半は、「東京2020に向けて競技団体として何ができるか」というテーマで、パネルディスカッションが行われました。パネリストは、東京2020組織委員会で大会準備運営部に所属する本橋淳持続可能性担当課長、ともにJOCスポーツ環境専門部会の一員でもある日本サッカー協会 (JFA)の玉利聡一管理部部長代理と横浜市の西山雄二市民局局長に、環境省の上田課長を加えた4名。大塚眞一郎JOCスポーツ環境専門部会長のコーディネートのもと、実践活動の事例を紹介し、各競技団体が抱える悩みや質問に対してアドバイスが行われました。
本橋課長は、東京2020の取組みとして、(1)環境負荷の最小化、(2)自然と共生する都市環境計画、(3)スポーツを通じた持続可能な社会づくり、という3つの柱を紹介。ファンクショナルエリア(大会を支える機能)の1つに「持続可能性」があり、大会開催基本計画の中で「環境に配慮し、持続可能なオリンピック・パラリンピック競技大会を運営する」というミッションが記載されていると説明しました。そして、各競技団体が取組める部分として柱の (1)と(3)を挙げ、「今後温暖化が進んだとき、夏の暑い中で運動ができるのか、冬の競技ができるのか。皆さんの競技が将来にわたって持続可能であるために、何ができるかと考えていただければと思います」と訴えました。
玉利スポーツ環境専門部会員は、最近良く知られるようになったサポーターによる試合後の清掃活動(クリーンサポーター活動)が、もとはサポーター有志の活動からスタートし、JリーグやJFAが追随して定着したという経緯を説明。また、事務業務においてはタブレットを活用した会議資料の ペーパーレス化を進めているほか、今後強化していきたい点として、競技環境の整備に関するルール作りやアジアサッカー全体で貧困問題などに取組む活動 「ONE GOAL」との連携を挙げました。
西山スポーツ環境専門部会員は「横浜シーサイドトライアスロン大会」で実施している「横浜ブルーカーボン事業」によるカーボン・オフセットの社会実験を紹介しました。これは大会運営や参加者の会場までの移動により生じるCO2排出量を金額に換算し、参加費に上乗せされた任意の寄附金でカーボン・オフセットを行うもので、わかめの栽培・地産地消などを支援することでCO2削減、海の環境改善に貢献しようという取組みです。昨年は64.9%の参加者から賛同を得られたという 西山スポーツ環境専門部会員は、トップアスリートが参加する国際大会「世界トライアスロンシリーズ横浜大会」においても実施を予定していると明かし、「横浜の歴史の中で環境に対しても目を向ける大会にできればと思っています」とPRを行いました。
環境省の上田課長は、パネリスト3名のプレゼンテーションを受け、「(こうした取組みは)自分で考えてストーリーを作り、共感を得られないとなかなか取組んでもらうことができません。そういった意味で、皆さんとても工夫をされていると思います」とコメント。東京2020組織委員会の本橋課長も「環境のことというのは、事務局ばかり頑張って総論で止まったりしがちですが、いかに自分の組織や市民を巻き込んでいくか、ストーリーを作って自分の活動にどんな意味があるのかということを理解してもらうことが大事ですね」と応えました。
質疑応答、パネリストによる総括に続いて、最後に大塚部会長が閉会あいさつを行い、「2020年に向けてもうスタートは切られていますので、これからは 本当に重要な5年間になります。今日のお話の中でもヒントになったことがたくさんあったのではないでしょうか。スポーツを通じて持続可能な社会づくりをいかにしてできるか、皆さんと共に挑戦していきたいと思います」と呼びかけました。
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