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2015.03.06 その他活動

アスリートを取り巻く環境改善に向け「平成26年度 JOCアントラージュフォーラム」を開催

アスリートを取り巻く環境改善に向け「平成26年度 JOCアントラージュフォーラム」を開催
アントラージュ専門部会長を務める山下理事(写真:アフロスポーツ)
アスリートを取り巻く環境改善に向け「平成26年度 JOCアントラージュフォーラム」を開催
味の素トレセンの大研修室は大勢の参加者で満員に(写真:アフロスポーツ)

 日本オリンピック委員会(JOC)は18日、味の素ナショナルトレーニングセンター(味の素トレセン)で「平成26年度JOCアントラージュフォーラム」を行いました。

 「アントラージュ」とはフランス語で取り巻き、環境という意味で、競技環境を整備し、アスリートがパフォーマンスを最大限発揮できるように連携協力する関係者のことと定義しています。JOCは2013年6月にアントラージュ専門部会が立ち上がり、山下泰裕JOC理事が部会長に就任。同年10月より本格的な活動がスタートしました。

 第1回目の開催となった本フォーラムは2部構成で行い、国内競技団体の担当者を中心に47団体100名が出席。第1部ではJOCアントラージュ専門部会事業、第2部では文部科学省(文科省)から委託された「アスリート・アントラージュ」の連携協力推進事業に関するプログラムを実施しました。

 フォーラム開始に先立ち、あいさつを行った山下部会長は「我々は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本の若き選手たちが自分の持てる可能性を存分に伸ばし、最高のパフォーマンスを発揮してもらいたいと思っております。そのためには選手を取り巻く環境を整えていくことが極めて大事ですが、それぞれの競技団体、そして我々あるいは文科省、日体協(日本体育協会)、JSC(日本スポーツ振興センター)、そういったところが心を一つにして一緒に取り組んではじめて完成するのではないかと思っています。ぜひ本音で、そして前向きな議論をお願いいたします」と述べ、関係者が一体となって問題に取り組むことの重要性を訴えました。

アスリートを取り巻く環境改善に向け「平成26年度 JOCアントラージュフォーラム」を開催
日本バスケットボール協会の堀井幹也理事(写真:アフロスポーツ)
アスリートを取り巻く環境改善に向け「平成26年度 JOCアントラージュフォーラム」を開催
全日本柔道連盟の宇野博昌事務局長(写真:アフロスポーツ)

■暴力、ハラスメント対策への取り組み

 第1部は暴力、ハラスメント対策をテーマに、2団体の事例紹介とグループディスカッションが行われました。はじめに日本バスケットボール協会で男子の強化部長を務める堀井幹也理事が、2012年に大阪市の高校で起こったバスケットボール部顧問による体罰問題を発端とした、暴力行為等の根絶に対する取り組みを報告しました。堀井理事は「バスケット界は本件を非常に重く受け止めており、暴力根絶の取り組みを真摯に行っています」とコメント。弁護士などの第三者で構成する裁定委員会の立ち上げ、公認コーチに対するアンケートの実施コーチライセンスハンドブックへのメッセージ掲載をはじめとした啓発活動などについて、具体的に紹介しました。

 続いて、全日本柔道連盟の宇野博昌事務局長が、2013年1月に発覚した女子強化選手への暴力問題をきっかけとした柔道連盟の事例を報告。宇野事務局長はまず、問題発覚後は執行部を全面的に変えるなどの組織改革を行い、第三者委員会の助言に基づいて様々な案件に取り組んだとし、各加盟団体の代表が参加した「暴力根絶プロジェクト」の立ち上げ、「暴力行為根絶宣言」と啓発ポスター作成、「コンプライアンスホットライン」「柔道目安箱」という2つの告発窓口の設置を行ったと説明しました。また、暴力と密接にかかわるセクシャルハラスメントの防止活動や「礼節を高め品格のある柔道人を育成する」ことを目的とした「柔道MINDプロジェクト」の紹介も行いました。

 2件の事例紹介を受けたグループディスカッションでは、9つのチームに分かれて「ハラスメント対策のポイント〜自分たちの国内競技団体でできること、すべきこと」をテーマに意見を交換しました。参加者は自身の所属団体での取り組みを紹介しながら、何を優先に、どのような方法で活動を行うべきかを熱心に議論。発表では「告発しやすい仕組みや組織作り」「啓発活動の継続」といった意見が複数上がったほか、選手の意見を取り入れやすくするためのアスリート委員会の立ち上げ、指導者への教育、保護者を巻き込んだ活動などが施策として提示されました。

■国際オリンピック委員会(IOC)での活動とは?

 第2部ではまず、文科省委託のコーチング・イノベーション推進事業「アスリート・アントラージュの連携協力推進について、これまでの活動報告が行われました。JOCのワーキンググループでは、日本のアスリートを取り巻く関係者による連携協力のあり方、連携を促進する教育プログラムのあり方を調査研究することを目的に、2014年8月14日から12月15日まで計5回のラウンドテーブルディスカッション(RTD)を開催しています。アスリート10名が参加した第1回のRTDで明らかになった課題について、続く4回のRTDで選手、有識者、専門家らが検討した結果、最も解決が急がれる課題とされたものが本フォーラムのテーマに選ばれました。

アスリートを取り巻く環境改善に向け「平成26年度 JOCアントラージュフォーラム」を開催
グループディスカッションの様子(写真:アフロスポーツ)
アスリートを取り巻く環境改善に向け「平成26年度 JOCアントラージュフォーラム」を開催
ボウケル委員長は本フォーラムのために来日(写真:アフロスポーツ)

 続いて、アテネオリンピックのフェンシング・エペ団体で銀メダルを獲得したクラウディア・ボウケルIOCアスリート委員長が登壇し、キーノートレクチャーが行われました。ボウケル委員長は冒頭で、「このフォーラムは、皆さまと経験を共有し、ベストプラクティスを共有する良い機会です」とあいさつ。「第1部ではどんなアスリートにリーチするか、アントラージュのメンバーとしてどのように告発するのか、あるいはどのように懲罰を加えるのか、といった疑問がいろいろ出たと思いますが、私の話が参考になれば幸いです」と述べました。

 レクチャーではまず、IOCアスリート委員会の活動を紹介。現役アスリートとの連絡役として、ほかのアスリートやスポーツ機関に対して声を届けることや、世界のアスリート委員会の活動サポート、行動規範の策定、SNSや専用WEBサイトなど情報発信・収集のためのツール整備、アンチ・ドーピング、キャリアや教育に関するプログラムの構築などを行っていると説明しました。
 また、選手だけではなくコーチ、家族、ドクター、マネージャーらに対するアドバイスや、暴力、ハラスメント対策も様々な形で実施しており、IOCアントラージュ委員会とも密接に連携しながら活動していることを紹介。さらに、2014年12月に採択されたIOCの改革案「アジェンダ2020」の中で、アスリートをオリンピック・ムーブメントの中心に据えるために様々な提言が出されたとし、クリーンアスリートを守るワークショップや差別の撤廃のほか、アンチ・ドーピングや八百長問題が重要視されていると語りました。

アスリートを取り巻く環境改善に向け「平成26年度 JOCアントラージュフォーラム」を開催
第2部のコーディネーターを務めた山本浩さん(写真:アフロスポーツ)

■選手選考とアスリートファーストについて考える

 第2部の後半は、元NHKアナウンサーの山本浩さんがコーディネーター役となり、「代表選手選考プロセスの透明化」と「アスリートファーストの推進」について、国内競技団体の情報が共有されました。

 まずは山本さんが過去のニュース記事を用いながら選手選考の近代史を解説。その後、「代表選考プロセスの透明化」についてJOC強化部長によるJOCの取り組み報告を行いました。そして、2000年シドニーオリンピック競泳での千葉すず選手の選考問題をきっかけに、明確な選考基準を設定し事前に公開したことで選手のレベルが大きく引き上げられたという水泳や、代表監督を公募し「この人に任せる」と決めた監督が選んだメンバーを強化委員会でも議論しながら協力体制をつくっていくというバレーボールの事例が紹介されました。山本さんは透明な選手選考がもたらすメリットとして、選手・指導者のモチベーションアップや競技計画の立てやすさ、ファンの関心の高まりなどを挙げ、「選手全員が100%満足のいく選考というものはありませんが、堂々と『この基準で選んだ』と言い切れる競技団体が増えてくると信じています」と述べました。

アスリートを取り巻く環境改善に向け「平成26年度 JOCアントラージュフォーラム」を開催
アスリート委員会の重要性を強く訴える高橋理事(写真:アフロスポーツ)
アスリートを取り巻く環境改善に向け「平成26年度 JOCアントラージュフォーラム」を開催
バレーボール協会の強化事業本部長としても事例を共有した荒木田理事(写真:アフロスポーツ)

 続く「アスリートファーストの推進」では、「アスリートファースト」という言葉は2013年9月、2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致活動においてオリンピアンの田中理恵さん(体操競技)が会見で語ったものが最初であるという話題からスタート。競技の特性による様々な悩みや苦労、選手への負担が強いられている例が挙げられるなか、アントラージュ専門部会員として活動している高橋尚子JOC理事は「日本ではまだ27%しかアスリート委員会が設置されていないので、少しでも多く設置してほしい」と述べ、活用事例を示しながら、選手の声を吸い上げる手段としてアスリート委員会の重要性を訴えました

 アスリート専門部会長を務める荒木田裕子JOC理事、山本さんによる総括の後、最後に山下部会長が再度あいさつに立ち、「多くの方々が非常に真剣な顔で、食い入るように参加されている姿を見て非常に感銘を受けました。今日のフォーラムはこれで終わりですが、これからが我々、アスリート・アントラージュのスタートです。皆さんが自分だけの情報にせず、各競技団体で多くの方々と今日の内容を共有していただき、選手を取り巻く環境の改善に一緒に取り組んでいければと思っております」と参加者に語りかけてフォーラムを締めくくりました。

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