公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は10月29日、東京商工会議所で、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビとは、オリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動です。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに35社48人(内定者含む、2014年11月4日現在)の採用が決まっています。
今回の説明会は東京商工会議所との共催で行われ、73企業から100名が参加。オリンピック出場を目指すアスリート6名が、支援を求めて多彩なアピールを行いました。
始めに、東京商工会議所の後藤忠治健康づくり・スポーツ振興委員長が「依然としてスポーツを取り巻く環境は厳しく、中には競技自体を諦めなければならないケースもあると伺っています。多くのアスリートは、競技生活を通じて目標達成に向かって努力することや、チームワーク、チャレンジスピリットなど組織人にも有効なさまざまな能力を身につけており、企業の求める人物像にもマッチしております。この機会に制度を十分に理解いただくとともに、アスリートの方々と直に話していただくことで採用に結びつくことを願っております」とあいさつを行いました。
竹田恆和JOC会長は「オリンピックを目指すトップアスリートでさえもなかなか所属場所がなく、将来に不安を抱えながら競技会に参加しているという選手も少なくないのが現状です」と述べ、「日本のアスリートが世界のトップアスリートとオリンピック等で真剣に競い合う姿は、国民、特に若い世代の皆さんには大きな感動、そして希望、夢につながる大きな力を持っています。世界のトップ選手とこれから競い合うためにも、ぜひとも皆様に支えていただく、そうしたご理解を賜れれば大変ありがたいと思っております」とアスリートへの支援を訴えました。
説明会本編ではまず、スキー・ノルディック複合で1992年アルベールビルオリンピック、1994年リレハンメルオリンピックと2大会連続で金メダルを獲得した荻原健司さんが登場。北野建設スキー部のゼネラルマネージャーとしての立場から、スポーツ支援に関する同社の考え方や取り組みを紹介し、「スポーツだけでなくどんな場合においても自分の所属するものがないというのは心細いものですが、元気にプレゼンテーションをしてください」と選手たちにエールを送りました。
そして、大学卒業後に引退を考えていた中で「V字ジャンプ」をいち早く取り入れるチャレンジをしたことがアルベールビルオリンピック出場、そして金メダル獲得に結びついたという経験談を披露し、「彼らはまだオリンピックの代表に手が届いていませんが、(少しのきっかけで)突然、明日良くなることもある。いつどこで世界チャンピオンになるか分かりませんし、その可能性を大いに秘めています」と企業関係者にアピール。「未来ある選手たちを採用いただき、選手とともに『オリンピックの当事者』になっていただけたらと思います」と力強く語りました。
八田茂JOCキャリアアカデミーディレクターによるアスナビの概要説明に続き、アスナビ開始初年度の2011年にビーチバレーの朝日健太郎さん(2008年北京オリンピック、2012年ロンドンオリンピック出場)を採用した株式会社フォーバルの川口浩二執行役員・人事部長が事例紹介を行いました。川口部長は朝日さんを採用することになった経緯をはじめ、朝日さんが関わった社内外のさまざまな活動が会社のPRにつながったこと、オリンピック出場を目指す選手を応援することによって社員のモチベーションが向上したことなど、トップアスリートが企業にもたらすメリットを具体的に説明。最後に朝日さんがビデオメッセージで登場し、「競技優先の環境を与えていただき、その中でもできる限り社内の催しや業務に積極的に参加させていただきました。そういった皆様の応援があってロンドンオリンピック出場を果たすことができました。これから夢のあるアスリートを私もぜひ応援をしていきたいと思いますので、今後とも日本スポーツ界をよろしくお願いいたします」と後押ししました。
最後に、就職先を探しているアスリート6名が順番にプレゼンテーションを実施。自身の競技映像とともに競技で使用する用具などを手にしながら、各自工夫をこらしたスピーチで、支援を訴えました。
■瀧口陽平選手(水泳・競泳)
「ロンドンオリンピックの選考会ではタイムが1秒足りず出場を逃しました。水泳に対して気持ちが入らない時期もありましたが、応援してくれる人たちのためにも頑張ろうと思って努力をした結果、出場したすべての種目で表彰台に上り、世界短水路選手権では800mで日本新記録という結果を残すことができました。今の目標はオリンピック出場はもちろん、メダルを持って帰ってくることです。世界の精鋭が集う舞台で競争を勝ち抜く力を発揮してきたことは、きっと企業でも生かせると思います」
■一丸尚伍選手(自転車)
「私の得意種目はチームパシュートという団体種目です。先日のアジア大会で銅メダルを獲得したことで、リオデジャネイロオリンピックの出場まであと一歩となりました。チームの中ではムードメーカーとしてチームを盛り上げることが得意で、コミュニケーションをしっかりと取りながら切磋琢磨し限界に挑戦しています。私は今までいろいろな困難を乗り越えてきました。どんな境遇に立たされても笑顔を絶やさず、プラス思考をモットーに感謝の気持ちで進んでいける自信があります」
■宇山賢選手(フェンシング)
「189cmの高い身長と、腕の長さを生かして相手にプレッシャーとフェイントを与え、カウンターを狙うのが私のプレースタイルです。今年、新卒として株式会社二トリに就職し、店舗運営業務をさせていただきました。その中で、社内スタッフやお客様にこの高い身長などで早く顔を覚えて頂き、より良いコミュニケーション、関係を築かせていただきました。私を採用していただいた企業様には広報・広告への露出はもちろん、採用活動において私自身の経験を語らせていただけたらと思っております」
■大西富士子選手(セーリング)
「私はウインドサーフィン競技を通じて、最後まで諦めない粘り強さと忍耐力を得ることができました。またウインドサーフィンを教える仕事を通じて、誰とでもすぐに打ち解け合うことができるようになりました。北京オリンピック、ロンドンオリンピックは出場を逃してしまいましたが、次こそは必ず出場したいと思っています。企業に就職できましたら社員の皆様と一丸となり、日々向上心を持って努力し続け、応援してよかったと言われるような選手になれるように頑張ります」
■小黒義明選手(スケート・ショートトラック)
「長野オリンピック以降日本はメダルから遠ざかっていますが、平昌オリンピックで私がメダルを獲得することが、ショートトラックにずっと携わってきた私の使命だと思います。『競技で活躍し会社の宣伝効果を発揮する』、『世界で戦うアスリートを身近に感じていただくことで、社内の一体感を作る』、『オリンピックという高い目標に向けてどのような考えを持ち、行動してきたかを役立てていただく』、この3つを実践し、感謝の気持ちを決して忘れず、常に会社への貢献を頭に置きながら活動していきたいと思います」
■柿崎史穂選手(カヌー) ※ビデオメッセージ
「私は北京オリンピック、ロンドンオリンピックと目前で出場権をつかみ取ることができず、一度は競技から離れました。しかし、ここままでは終われない、私なら絶対にできるはずだ」ともう一度競技復帰することを決め、仁川アジア大会では銅メダルを獲得することができました。オリンピック出場のため、競技に関して何一つ妥協せず、皆様の思いとともに夢をつかみたいと思います。応援してくださる企業様があれば、是非社員の方々と夢と勇気を分かち合い、最高の瞬間をともにできたらと思います」
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