去る9月14日、第3回JOCスポーツと環境・地域セミナーが都庁・都民ホールで行われ、約250名が参加した。JOC・水野正人副会長、東京オリンピック招致本部・荒川満本部長、東京オリンピック招致委員会・武市敬事務次長など、主催者の挨拶を皮切りに、基調講演とパネルディスカッションが行われた。
第1部 染野室長と水野副会長による基調講演
最初に、環境省地球環境局地球温暖化対策課国民生活対策室・染野憲治室長が、基調講演で近年の異常気象を取り上げ、台風の大型化、グリーンランドの氷やチェルバ氷河の融解、世界でいちばん最初に沈むといわれている国・ツバルなど、地球温暖化の現状を紹介した。
染野室長は「21世紀末には平均気温が6.4℃上昇するといわれている。人体や農作物などの生態系に与える影響は、1〜2℃でも大変なものである」と述べ、「雪がなければスキーができない、水がなければ水泳ができないというように、温暖化によって影響を受けるスポーツもある。その選手たちとのコラボレーションによって、国民に“気づき”を促す運動を推進し、環境問題は他人事ではなく私事だという危機意識を持つことで、スポーツとの連携を図りながら広めたい」と訴えた。
環境省では「チーム・マイナス6%」というキャッチコピーを掲げて企業などと協力し、1人、1日、1kg 、CO2削減を目指している。
続いて、IOCスポーツと環境委員会の委員を務めるJOC・水野正人副会長から、IOCが進めている環境保全についての報告が行われた。水野副会長は、「蛙は自分が浸かっている水の温度が徐々に上がっても適応して生きられる。しかしずっと浸かっていると高温になっていることに気付かないうちに茹だって死んでしまう。人間も同じことが言えるのではないか。だからきちんと環境を保全していかなければならない」と語った。さらに、「1970年の札幌オリンピックで恵庭の滑降コースを造るときに環境保全団体が、コースを造るのはよいが、オリンピックが終わったら木をきちんと植えてほしいという要望をIOCへ提出。今、恵庭のコースは、コースの面影がないほどに木が生長している」というエピソードを披露。これが、IOCが初めて行った環境保全であると語った。また1994年、IOC創立100周年の年にフアン・アントニオ・サマランチ前会長が、これまでオリンピック運動はスポーツと文化という2本の柱であったが、環境を加えて3本柱にしようと提唱したことで、オリンピック憲章に初めて“環境”という項目が加えられた、と紹介。「“混ぜればごみ、分ければ資源”。今まで排出していたものを資源として利用し、廃棄物ゼロの“ゼロ・エミッション”を目指す循環型社会を形成する。環境を守りながら経済も発展する“持続可能な開発を行う”ことが大切である」と継続の大切さを強調した。
その後、水野副会長は、JOCの各加盟団体が行っている横断幕の掲揚やポスターの掲示、パンフレットの配布などの啓発活動や、ごみの分別、マイカップの使用などの実践活動について紹介した。
第2部 5名のパネリストを迎えたパネルディスカッション
JOCスポーツ環境専門委員会・板橋一太委員長がコーディネーターを務め、先に登場した染野室長と水野副会長に加えて、東京オリンピック招致委員会・武市敬事務次長、東京都環境局環境政策部・小沼博靖副参事、JOC理事/スポーツ環境専門委員会・平松純子委員がパネリストとして登壇し、パネルディスカッションが行われた。
まずは武市事務次長が、2016年の東京オリンピック誘致のためにIOCへ提出するファイルのなかで、環境が大きなテーマとなっていることを紹介した。2016年の第31回オリンピック競技大会・パラリンピック競技大会には、東京を含め、バクー(アゼルバイジャン)、シカゴ(アメリカ)、ドーハ(カタール)、マドリード(スペイン)、プラハ(チェコ)、リオデジャネイロ(ブラジル)の7都市が立候補している。今後は、2008年6月のIOC理事会において絞り込まれた5都市程度が、2009年2月に300ページにも及ぶ立候補ファイルを提出し、10月のIOC総会で開催都市が決定するが、武市事務次長は、東京オリンピック招致委員会では各方面と協力しながら、計画を立て準備を進めていくと語った。
東京都庁の環境保全や計画・調整を担当している小沼副参事は、東京都が行っている最新の環境保全対策を発表。東京オリンピック開催概要計画書に示されている大会コンセプトで、“世界一コンパクト”“先端技術を駆使”に並んであげられているのが、“環境優先”であると語り、それに伴って東京都では、カーボンマイナス、環境負荷を抑制した移動、水と森の復活、廃棄物ゼロ、の4テーマを柱とし環境ガイドラインを作成したと述べ、「東京を、環境と大都市が調和した新しい都市モデルとして、東京オリンピックでアピールしたい」との考えを示した。また、2016年の東京オリンピックを視野に入れて環境都市づくりの方向性を示した都市戦略として東京都が作成した「10年後の東京〜東京が変わる〜」を紹介した(この冊子は都庁HPからダウンロード可能)。
フィギュアスケートの審判競技役員として活躍してきたオリンピアンの平松委員からは、フィギュアスケートを通じての環境問題について「1980年ごろまで、スケートリンクに氷を張るためには、アンモニアやフロンが主流だったが、現在は代替フロンが一般的。もっと地球に優しい方法をと、開発研究が進んでいる」と語られた。また、「冷凍機の運転に際して問題になっている消費電力も、建物の断熱や容積を意識した建設を心がけるなど、リンクそのものの建設に工夫がされている。氷面のメンテナンスに使う車も、ガソリン車から電気車に移行し、空気汚染を防ぐようにしている」とスケート界での取り組みが紹介された。さらに平松委員は、2006年に行われた神戸市国体開催によって新たに造られた施設は、プールだけであること、またそのプールは、冬はスケートリンクとして使用できるものであることも紹介。最後に、「私はオリンピアンとして、スポーツと環境について積極的に取り組んでいかなければならないし、そのPRをするのは、私たちの大きな役目である。スポーツ界が率先して環境問題に取り組むため、皆さんの理解と協力を得たい」と述べた。
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