日本オリンピック委員会(JOC)は25日、日本青年館大ホールで「スポーツ界における暴力行為根絶に向けた集い」を日本体育協会(日体協)、日本障害者スポーツ協会、全国高等学校体育連盟(高体連)、日本中学校体育連盟(中体連)と開催しました。この集いは、スポーツ現場における暴力行為の根絶を目指すもので、競技団体や都道府県体育協会関係者、アスリートなど821人が参加しました。
冒頭、日体協の森正博副会長は「昨今、明るみになった暴力行為はスポ−ツの品位や信頼を大きく損ない、社会問題となりました。今後のあるべき姿のため、本日ご参加いただいた皆さんと暴力行為根絶に向けた意志を明らかにします」とあいさつしました。
■為末大さんから暴力行為根絶に向けた提言
まず始めに基調講演として、陸上競技男子400mハードルの日本記録保持者で、世界選手権大会日本人初の銅メダリスト、オリンピックに3大会連続出場した為末大さんが登壇しました。為末さんは、かつての日本社会には閉鎖的かつ一方的な上下関係があり、漫画やドラマなどに代表されるように「暴力が必要である」という考え方が当たり前のように存在していたことを紹介しました。
また、これらの風潮が社会や環境の変化によって当たり前でなくなってきた現代社会では「指導の現場で暴力を通じて伝えた熱意を、他の方法で伝えるべきです」と述べ、「暴力をふるってきた指導者を排除するのではなく、反省させ、新しい指導法を模索させるべき」という考えを示しました。
さらに暴力行為が指導現場で禁止された後に起こりうる問題について、具体的なシミュレーションを紹介。それぞれの対策案も披露しました。
最後に為末さんは「体罰を容認していたことを反省し、根絶するためにしっかり話し合い、スポーツがあってよかったと思ってもらえるように、力を注ぎたい」と講演を締めくくりました。
■目撃した暴力行為を涙ながらに語ったヨーコ・ゼッターランド日体協理事
休憩を挟んで、早稲田大学スポーツ科学学術院長の友添秀則教授がコーディネーターを務めシンポジウムが行われました。パネリストとして、スポーツ議員連盟の遠藤利明幹事長代理、望月浩一郎弁護士、日体協のヨーコ・ゼッターランド理事、JOCの福井烈理事、日本パラリンピック委員会の中森邦男事務局長、JOCアスリート専門部会米倉加奈子部会員が登壇しました。
まず、遠藤氏が「スポーツ現場には昔から指導を目的とした体罰がありましたが、昨今明らかになったものはいずれも暴力行為です。これからのスポーツは自律性、自主性を基本とした、楽しいものであるべきです」と述べました。
次にJOC福井理事が、JOCがとりまとめた「競技活動の場におけるパワハラ・セクハラ等に関する最終報告書」から「競技をやめた理由に暴力があった」というコメントを紹介し、「選手・指導者の信頼関係とコミュニケーションがもっと必要なのではないでしょうか?」と意見しました。
この報告を受けて、バレーボールの米国代表としてオリンピック2大会に出場した日体協のゼッターランド理事は「報告書にあるアスリート、指導者の生の声は、私が現役時代に思っていたことと同じでした」と述べ、さらに中学時代に目撃した暴力の現場について涙ながらに語り「なぜ暴力ではなく、言葉で指導ができないのでしょうか?」と訴えました。
さらに日本を代表するテニスプレーヤーとして活躍した福井理事とバドミントンで2度、オリンピックに出場した米倉さんも現役時代に体験、あるいは目撃したスポーツ現場における暴力行為について語り、スポーツ指導への暴力行為不要論を唱えました。
■満場一致で採択された「暴力行為根絶宣言」
続いて「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」の採択に移り、JOCの福田富昭副会長、日体協の岡崎助一専務理事、JOCの市原則之専務理事、日本障害者スポーツ協会の吉田秀博常務理事、高体連の梅村和伸専務理事、中体連の塩田壽久専務理事、友添教授が登壇。宣言文案作成に中心的な立場で携わった友添教授から、趣旨と内容の紹介が行われました。
宣言文案の全文朗読に続いて宣言に対する質疑応答に入り、ゼッターランド理事は「この宣言を世界に発信して、これからのスポーツ界に大きく貢献されることを期待します」と賛同意見を述べました。
続いて、日体協生涯スポーツ推進専門委員でもあるテレビ朝日の宮嶋泰子アナウンサーが「宣言文の中に『セクシャル・ハラスメント』という言葉を暴力行為の一つとして明記していただけないでしょうか?」と提言すると、会場からは拍手が湧き起こりました。これに対して友添教授も「ぜひ、追加させていただきます」と返答し、拍手はより一層大きなものとなりました。
そして宣言文案の採択が行われ、満場一致で承認。これを受けてJOCの福田副会長は「この宣言をスポーツ界から発出することは大きな価値があります。これを受けて、スポーツに関わる全ての人が、暴力行為の根絶に主体的に取り組まなければいけません」と総括し、スポーツ界における暴力行為根絶に向けた集いを締めくくりました。
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