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2012.11.08 キャリア支援

「アスナビ」連携会議を開催 企業・経済団体・競技団体・アスリートが参加

「アスナビ」連携会議を開催 企業・経済団体・競技団体・アスリートが参加
企業・経済団体・競技団体・アスリートが参加し、開催された「アスナビ連携会議」(写真:アフロスポーツ) 

 日本オリンピック委員会(JOC)は10月30日、トップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の連携会議を味の素ナショナルトレーニングセンターで行いました。会議には採用企業の関係者、「アスナビ」説明会を開催した経済団体推薦企業の関係者、オリンピック実施競技団体の関係者、「アスナビ」に登録して就職先を探している選手など100名が出席しました。

 冒頭、市原則之JOC専務理事はアスリートの持つ可能性の大きさについて、ロンドンオリンピックに被災地から視察団として派遣された中学生がサッカー女子の準決勝日本対フランスの試合を観戦した後、それまでの暗かった表情が一転して大いに喜んでいたというエピソードと、大会終了後に東京・銀座で行われたメダリストによるパレードに50万人以上の動員があったという例を挙げ、「このようなアスリートの持っている素晴らしいポテンシャルを日本の企業の中、あるいは社会の中でどんどん役立てていただきたいと思います」とあいさつしました。

 続いて、荒木田裕子JOC理事が「アスナビ」のこれまでの活動と夏季競技のアスリート8名、冬季競技のアスリート3名が就職し、安心して競技に取り組めているという実績を紹介し、この日の趣旨として「企業と競技団体の関係者が集まることで、横の連携をとってもらいたい」という点があることを説明しました。

「アスナビ」連携会議を開催 企業・経済団体・競技団体・アスリートが参加
競泳・上田春佳選手の事例を紹介した日本代表・平井伯昌ヘッドコーチ(写真:アフロスポーツ)

■「アスナビ」で就職した選手の変化
 パネルディスカッションでは、はじめにロンドンオリンピック競泳日本代表のヘッドコーチを務めた平井伯昌さんが「『アスナビ』が選手に及ぼす影響」というテーマで、「アスナビ」を通じて、大学卒業後の2011年4月にキッコーマン株式会社へ入社、ロンドンオリンピックでは競泳女子メドレーリレーで銅メダルを獲得した上田春佳選手の事例を紹介しました。

 まず平井コーチは、一般的にトップアスリートが大学4年になっても、国際大会や合宿、国体などが続き、他の大学生のような就職活動が満足にはできないことを踏まえ、「普通に就職活動をしても入れない企業に入社できた上田選手がうらやましい」と同じ競泳でロンドンオリンピックに出場した寺川綾選手や加藤ゆか選手が話していることを伝えました。
 
 さらに大学時代はなかなか記録が伸びない時期もあった上田選手が、入社後、短水路の日本記録を何度も更新するといった競技への好影響が見られ、「社会人になることで目覚めたのではないか」と語りました。

 昨年4月に行われた国際大会代表選手の選考会には、大勢の同社社員が応援にかけつけ、上田選手がとても驚きながら、笑顔で平井コーチに報告してきたというエピソードを披露。「アスナビで就職を決めたおかげで、社員の方々に応援していただいているという安心感と競技に対する責任感が出てしっかりしました。いい時はもちろん、悪い時に力になってくれるのが『アスナビ』や企業の方々の支援だと思います」と話しました。

 最後に、平井コーチは競泳が恵まれた種目であると前置きした上で、具体的に競技活動にかかる費用を説明しました。トップアスリートには補助金が出て、かつ味の素ナショナルトレーニングセンターなどの練習施設も低い料金で利用できることを紹介し、「スポンサー契約よりも企業に就職できることで安心感を生み、それが競技へのプラスにもなります」とさらなる採用を訴えました。

「アスナビ」連携会議を開催 企業・経済団体・競技団体・アスリートが参加
右からキッコーマン(株)松崎毅理事人事部長、(株)フォーバルの綾部敏郎執行役員人事本部長、東海東京証券(株)の永森利彦名古屋戦略部長(写真:アフロスポーツ)

■選手を採用した企業の考え
 続いて「アスナビ」によって選手を採用した企業の事例報告が行われました。
 最初に、競泳の上田選手とカヌーの竹下百合子選手を採用したキッコーマン株式会社の松崎毅理事人事部長が登壇。
同社は2011年4月に2名の選手を採用しました。2名を迎えるにあたり、プロジェクトチームを結成して検討会議を行い、嘱託社員として採用し、現役引退後に正社員に転換できることを決めたそうです。
 2人は人事部とコーポレートコミュニケーション部を兼務し、ホームページ、グループ広報の仕事に携わり、可能な限り会社の業務を行うということで採用したのですが、2人ともオリンピックの前年に採用されたということもあり、「競技が仕事である」ということを踏まえて、時間があるときに出社しているというのが現状だそうです。
 多くの採用企業が懸念すると思われる競技の費用については、競技団体からの補助もあり、想定以下の費用で収まったとのこと。また、企業のメリットとして2名それぞれが出場する大会に応援に行ったり、壮行会、祝勝会などを各地の工場や支店などで実施したりすることで、国内の社員だけでなく海外で働く社員にも「一体感が生まれた」と紹介しました。
 最後に、松崎さんは今後のJOCへ、「アスナビ」を検討・採用する企業間の橋渡し、実施企業と未実施企業の間のノウハウの交換の促進などを要望しました。

 2社目として、ビーチバレーの朝日健太郎さん(2012年9月に現役引退)を2011年7月に採用した株式会社フォーバルの綾部敏郎執行役員人事本部長が同社の事例を紹介しました。
 まず、綾部さんは朝日さんが「明るい・元気・素直という3つの要素を高いレベルで持っている人物であり、インドアバレーからビーチバレーへ転身し、夢をあきらめない心を持ち、新しいことに挑戦し、世界の舞台で活躍している選手」であるということが、採用のポイントになったと紹介しました。
 朝日さんの入社は社内報で全国の社員に告知されたほか、新卒採用向けの説明会にも登場してもらうことで、新たに入社してくる社員にも浸透を図ったそうです。
 また、朝日さんには会社の社外活動として行っている本社近隣のゴミ拾い活動や、商工会議所などの活動に参加してもらっているそうです。
 会社としての応援活動も実施していて、2012年7月に神奈川県川崎市で行われたロンドンオリンピック日本代表決定戦には現地へ応援に行ったり、オリンピック壮行会を開催したりしたそうです。
 また、社内の表彰式などの活動にも参加し、「会社として大切にしているものを朝日選手には伝え、そういった場面で彼に登場してもらっている。彼に一番大切なのは時間だったので、そこは彼に歩み寄りながら関係を築きました」と綾部さんは説明しました。
 雇用形態としては、朝日選手とは契約社員として人事部に所属。引退前は競技を最優先してもらっていたそうですが、現役を引退した現在は双方の考えが合う働き方について話し合いをしている最中とのことです。

 3社目として、2012年6月に近代五種の黒須成美選手を採用した東海東京証券株式会社の永森利彦名古屋戦略部長が報告を行いました。
 採用の経緯として、中部経済同友会で行われたアスナビ説明会に永森さんが参加し、スポーツ選手の支援が会社としてのスポーツ振興への協力、そして社会貢献につながり、トップアスリートが社内にいることで一体感を醸成し、競技に真剣に取り組む様子を見せることで社員の士気向上につなげようという2つの考えがあったそうです。
 その中で検討を進め、近代五種で20歳の黒須選手が、若い社員の多い同社の中で、厳しいスポーツに取り組む姿が社員に好影響を与えられるという考えがあり、正社員としての採用を決定したそうです。
 現在は、社員向けの研修などの場に登場してもらい、アスリートならではの話をしてもらっていますが、今後は顧客向けのセミナーなどに登場してもらうことも検討中だそうです。
 今後、黒須選手は2016年のリオデジャネイロオリンピックを目指すとのことで、合宿やコーチの手配を行い、競技活動の費用などは同社が負担をしていく予定。現役引退後のことについては、正社員なので会社に残るか、指導者などを目指すかといった点については黒須選手とも考えていると述べました。

 3社の報告を受けて、「アスナビ」という名称の名付け親でもあるJOCゴールドプラン委員会の原田尚幸委員は、「世界を目指す、オリンピックを目指すというアスリートの経験を採用した企業のみなさまが、同じ職場の仲間として共感、共有されているということを感じました。そして今後、事例を積み重ね、情報の共有を行い、今後より多くの企業に『アスナビ』へご支援を参加いただきたいと思います」と総括しました。

「アスナビ」連携会議を開催 企業・経済団体・競技団体・アスリートが参加
トランポリンの外村哲也選手(写真:アフロスポーツ)
「アスナビ」連携会議を開催 企業・経済団体・競技団体・アスリートが参加
フリースタイルスキー・モーグルの西伸幸選手(写真:アフロスポーツ)

■3名のアスリートによる支援の訴え
 パネルディスカッションの最後に、現在「アスナビ」に登録している3名のアスリートによる現状説明が行われました。
 はじめに、体操・トランポリンの外村哲也選手がやや緊張した面持ちで登壇。外村選手はトランポリンを始めたきっかけや、北京オリンピックで4位入賞、2011年の世界選手権では団体優勝という実績を紹介し、リオデジャネイロオリンピックのメダル獲得へ向けた支援を訴え、就職先の企業での仕事に対する意気込みを語りました。
 
 続いてスキー・フリースタイル・モーグルの西伸幸選手が説明を行いました。日本人で唯一の世界選手権2大会連続メダル獲得といったこれまでの経歴や、モーグル競技への思いを語りました。また、2014年のソチオリンピックで金メダルを獲得するためには、海外選手同様に雪を求めて海外でトレーニングを行う必要があるという現状を説明した上で、そのための支援をしてくれる企業を求めました。

「アスナビ」連携会議を開催 企業・経済団体・競技団体・アスリートが参加
競泳の酒井志穗選手(写真:アフロスポーツ)

 最後に水泳・競泳で背泳ぎを専門とする酒井志穗選手が現状報告を行いました。現在、酒井選手は九州産業大学4年生で、北京、ロンドンとオリンピック代表選考会には2回出場しましたが、ともに本大会出場はなりませんでした。しかし、ロンドンオリンピック後に行われた国体の100m背泳ぎ優勝などの実績をアピールしました。
来年春の大学卒業後には故郷の福岡を離れ、関東での生活を目指し、競技面では来年の世界選手権の代表とメダル獲得が目標であると語りました。

 指導者、採用企業、「アスナビ」登録選手という3つの立場から報告が行われたパネルディスカッションの最後に、JOCゴールドプラン委員会の福井烈委員長は「もし2020年のオリンピック東京開催が決まればスポーツ界が劇的に変わります。そのスポーツ界を支えるのが今日、紹介した選手たちです。トップアスリートには大きな魅力と影響力があります。選手の採用のご検討をよろしくお願いします」と企業にさらなる支援を要請しました。

 なお、会議終了後、参加した企業の関係者は、味の素ナショナルトレーニングセンターと国立スポーツ科学センター(JISS)内にあるトレーニング施設をオリンピアンやアスリートたちと一緒に見学。トップアスリートが日々鍛錬を積む現場を回りながら、同行した選手や関係者に質問を投げかけていました。

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