日本オリンピック委員会(JOC)は3月8日、トップアスリートの就職支援ナビゲーションシステム「アスナビ」の支援説明会を札幌市内で行いました。7回目の説明会となる今回は、ロンドンオリンピック・ソチ冬季オリンピックを目指す選手6名(ビデオ登場アスリート3名含む)が、北海道経済連合会常任理事会メンバー約30名の企業役員らの前で現状を説明し、それぞれが企業のために貢献できることを話した上で支援を求めました。
はじめに、市原則之JOC副会長兼専務理事は、「アスリートの世界における活躍は、日本国民に大きな感動と夢を与えてくれます。しかし昨年3月11日の震災後、(アスリートたちは)スポーツを本当にしていていいのか苦悩し、海外からも日本はロンドンオリンピックに出場することができないのではないかとまでも言われました。でも、この時期だからこそ“スポーツの力”が必要であり、アスリートとともに活動をすることにしました。JOCでは、アスリートの国際競技力の向上とオリンピックムーブメントの推進という大きな目的のために日々活動をしており、昨年7月をもって、100周年を迎えることができた事をこの場を借り、長年アスリートとオリンピックムーブメントを支えていただいた企業の皆さま方に改めて感謝したい。トップアスリートは日本が誇るべき宝であり、その宝を育て支えていただくために、ぜひとも北海道経済連合会メンバーの皆さま方の協力をいただければと思います」と挨拶。さらに、「昨年6月24日“スポーツ振興法”が50年ぶりに改正され、“スポーツ基本法”が制定され、国策として国の支援を受けることになりましたが、我々の調査によると、オリンピック出場選手の半数以上が企業のサポートを受けて競技生活を行っていることが明らかとなりました。企業のスポーツへの支援の在り方も“保有”から“サポート”に移行しており、今後は企業とアスリート双方にメリットのある“雇用”という形態に移行しつつあります。本日、アスリートの生の声を聴いていただき、企業経営者の皆さまにも日本のトップスポーツ・アスリートの在り方について改めて考える場としていただきたい。JOCとしてもその責任として、アスリートに『自覚』と『社会的責任』を持たせるよう、今後も教育していきたいと考えています」と感謝の気持ちを述べました。
続いて、橋本聖子理事・JOCゴールドプラン委員会副委員長が、「2017年のアジア冬季大会を札幌および帯広で開催していただけることになったことに感謝します。大会を受け入れる事で事前合宿を北海道で実施するなど、海外から人が集まることによる経済効果が上がることは間違いありません。2020年のオリンピックを(東京に招致)する意義は、日本が謙虚なリーダーシップを発揮し、メッセージを発信することにあると考えています。企業がアスリートを雇用することにより、その地域の活性化にも必ずつながっていく。また、企業のためになるアスリートはたくさんいると信じています。これからも『スポーツ』を通じた人財育成の必要性を感じています。人生を“ゴールド”にするために何をしなければならないのかを考えていく必要があります」と、スポーツを通じた経済活性化と人財育成について語りました。
さらに、荒木田裕子JOC理事・JOCゴールドプラン委員会副委員長は、「日本のトップスポーツは企業に支えられてきましたが、バブル経済の崩壊後、企業のスポーツに対するニーズが変化し、スポーツを企業理念と結び付け強化に取り組む企業と、休廃部により撤退に向かう企業の二極化が進んでいます。結果、多くの選手が職や支援を失い、競技生活を断念、または就職活動との同時進行を余儀なくされ、十分な練習時間の確保に苦労しています。昨年3月11日の東日本の大震災のときには、アスリートたちが直ぐに立ち上がり、現地に向かいました。アスリートの行動力は、企業で役立てていただけけると信じております。本日は、選手3名が登壇し、海外遠征・大会等で登壇できない選手がビデオで登場いたしますので、アスリートの声を聞いていただきたいと思います」とアスナビの概要を説明しました。
続いて、アスリートの現状報告として、ボブスレーの桧野真奈美さんから先輩アスリートとしての体験談を語った後、就職先を探している6名(ビデオ登場3名含む)が、25名の北海道経済連合会常務理事らを前に緊張しながらもそれぞれの思いを語りました。
■桧野真奈美さん(ボブスレー)/ゲストアスリート
「現役時代は、練習をしながら同時に就職活動をしていたため、何度も企業を回りましたが、企画書を目の前でやぶられるというつらい経験もしました。(2006年)トリノオリンピック時には、所属先がなく不安なまま出場しましたが、(2010年)バンクーバーオリンピックの1年前に、現在の勤務先である、北斗病院に正社員で採用され、集中して競技に取り組む事ができるようになり、一人ではないという思いが力になりました。自分たちを含む選手の活躍が、帯広で報道などに取り上げられて地域が盛り上がるのを感じ、応援してくれる職場での一体感も感じる事ができました。これから、この3名の後輩アスリートたちが、プレゼンをすることになりますが、普段の競技での舞台とは全く違う場所でかなり緊張していると思います。選手たちの熱い思いを感じてほしいです」
■帰山雄太選手(スピードスケート)
「自分は、北海道の苫小牧市出身です。叔父の山本雅彦がスピードスケートでインスブルックおよびレークプラシッドオリンピックに出場した事もあり、その叔父に憧れて競技を始めました。昨シーズンは日本代表としてワールドカップに出場することがかない、初めて海外遠征を経験しました。長距離ではもう少しのところで、日本代表になりそうなポジションにいます。自分の持ち味は、レースの後半になってもスピードを維持したり、スピードを上げたりできる粘り強さ。大学を卒業し、来月からは今まで通学に費やしていた時間も、すべて練習にあてられるので、今までよりももっと練習量を増やすことができます。やると決めたらとことん自分を追い込んで、何が何でも目標を達成しようと頑固なぐらい頑張るところがありますが、ひとつのことに夢中になると、周囲が見えなくなってしまうというのが短所でもあります。支援していただけることになれば、北海道選手として企業の看板を背負い、最後まであきらめない粘り強いレースをして、皆さんに感動していただける選手になりたい。また、自分ができることで、少しでも企業の役に立てるように行動したいと思っています」
■郷 亜里砂選手(スピードスケート)
「北海道の別海町出身で、幼いころ兄の影響でスピードスケートを始めました。スピードスケートは、実業団や社会人チームなどが少ないため、支援をいただきながら活動するのは難しい状況にあります。現在は、山口県の国体強化選手として県からの支援をいただき活動してきましたが、3月いっぱいまでの契約であるため、4月から所属先がなくなってしまいます。現在の練習環境は、帯広市の室内リンクを中心に、オリンピックにも出場した大和ハウスの及川佑さん、大菅小百合さん、JR北海道の太田明生さんらと一緒に練習をしています。社会人2年目からは、引退された大菅さんから指導いただき、活動してきました。精神面や技術面、たくさんのことを学び、今まで以上に世界を目指し、世界で戦える選手になりたいと強く思うようになりました。社会人になってからは、大学で授業を受けていた時間のすべてを練習にあてられるようになりました。1年目は男子選手との練習で、より強度の高い練習に変わったため、ついていくので精いっぱいでしたが、2年目からは体も気持ちも強くなり、陸トレにしても男子選手にも負けないという意識を持ちながら取り組む姿勢になってきました。体力、パワー、細かい基礎的な動きなど男子選手の動きをしっかり学び、この2年間でだいぶ『世界で戦うための土台』ができあがったように実感しています。目標設定の仕方もただ漠然と設定するのではなく、月ごとの目標、1年を通しての目標、ソチに向けての目標と、短期、中期で明確に設定するようにと考え方も変えていった結果、昨シーズンは、国内で5戦行われるジャパンカップという大会において、総合ポイントで500m1位になることができた。ワールドカップ出場は、あと一歩のところで逃してしまいましたが、今後、ソチに向けて更なるトレーニングを積み、オリンピック選手の先輩方と練習することで技術面を高めることができれば、今度のシーズンでは必ず今年以上に良い結果が出せると、自分自身手ごたえを感じています。私の名前は、『郷』ということもあり、常に前向きに『Go!Go!』と自分で自分の背中を押しながら、チャレンジすることをモットーにしています。希望する仕事内容は、大学では商学部だった事もあり、パソコンを使った仕事にも興味があるし、美容関係の分野にもとても関心を持っています。この2年、自分で活動計画を立て、実行に移してきた経験から、応援して下さる会社の方に、何か少しでも自分のできることを、自らさせていただければと考えています。また、競技に全力で取り組む姿を見ていただくことで、皆さんに何かを感じていただければと思っています。今回、このような機会をいただき、大変感謝しています。ぜひ皆さまからのご支援、ご協力をお願いします」
■沼崎高行選手(スピードスケート)
「短距離の500mと1000mが専門。道東の別海町で生まれ、帯広の白樺学園高校を卒業し、明治大学に進学しました。その後もオリンピック金メダルという夢を追い続け、今こうしてスケート競技を続けさせてもらっています。実家は酪農を営んでおり、シーズンオフの今時期は実家を手伝っていて、昨日も子牛にミルクを上げてから飛行機で札幌に入りました。小学3年生からスケート競技を始め、大学4年生のときがちょうどバンクーバーのシーズンでした。オリンピック選考会では16位と惨敗し、あまりの負け方に区切りを付けるべきかとも考えました。大学4年間でスケートを辞めると約束していたため、両親からも続ける事には猛反対されました。しかし、まだ上へ行ける自信やこんなレベルで終わってたまるかという気持ち、オリンピックで金メダルを取りたいという思いが強くあり、両親を説得し卒業後も続ける意思を固めました。そのお陰もあり学生時代から1年目で500mでは36秒3から35秒4まで約1秒タイムを更新することができました。練習拠点は、東京から夏から滑走ができる帯広へと移しました。卒業後の活動経費は東京の企業から物品提供をいただき、また山梨県の企業から一部ご支援をしていただいています。それでも必要な金額には満たないため、夏は生活費のためにコンビニエンスストアで夕方5時〜夜10時まで働きました。夏場のトレーニングはとても重要ですが、午前3時間、午後1時間程度しか行うことができず、自分としてはもっとやりたいと思っています。長島圭一郎さんや加藤条治さん、及川佑さんら、スピードスケートの短距離の日本選手は世界のトップ10に入れる程の実力があります。私は現在、その男子500mでは7番目に位置しています。日本代表として世界に出ていけるのは5名で、あと2つ順位を上げなければなりません。自分の課題は『スタート』なので現在、その改善を中心に、短いオフシーズンの3月いっぱいかけて綿密に来シーズンに向けての計画をしています。この不景気の中、スポーツにご支援いただくのは、企業の方々からしても難しいことだとは思いますが、現在、北海道出身の選手で北海道の企業にご支援いただいて活動できている選手は数少なく、大学卒業後にスケートを続けている人の大部分が道外の国体強化要員や企業の下で活動をしています。多くの北海道選手が地元である北海道の企業のため、また自分自身のために夢を達成したいと願っています。本日はこの様な場でこうしてお話させていただける機会をいただいたのは3名だけですが、お手元の資料には、まだまだ悩んでいる北海道選手がたくさんいるので少しでもご理解をいただきたいと思っています。この会を開いていただいた北海道経済連合会の皆さま、JOC関係者の皆さま、スケート連盟橋本会長さま、そして本日お集まりいただいた企業の皆さまに心から感謝をしたい」
≪ビデオ登場アスリート≫
■附田雄剛選手(スキー/フリースタイル・モーグル)
「昨年3月まで福島の企業に11年間所属してきましたが、東日本大震災でスキー部の活動が中止になりました。目標は、オリンピックでメダルを獲得することと、子供たちにスキーを指導すること。自分の役割は、国際大会で活躍し競技を知ってもらい、多くの子供たちにスキーを普及することです。新たに支援していただける企業とともに、次期オリンピックでのメダル獲得を目指したい」
■小西ゆかり選手(ライフル射撃/ピストル)
「高校を卒業して、12年間自衛隊に勤め、3年前に自衛隊を退職し、現在は個人で競技を続けています。普段は、自衛隊時に貯めたお金で生活費、競技の活動費をまかなっていますが、ロンドンオリンピックではあくまでもメダルを取ることを目標にしているのでとにかく頑張りたい。チームジャパンが一丸となって、日本に元気を取り戻せるように自分も精いっぱい頑張りたいです」
■平野由佳選手(アイスホッケー)
「アイスホッケーは小学1年生から始め、協調性と明るさには自信があります。バンクーバーオリンピックの最終予選では、宿敵の中国に1点差で負けて悔しい思いをしました。その思いをバネにソチオリンピック最終予選に向けて代表歴11年のベテランであり、日本代表チームのキャプテンとしてチームを引っ張り、幼いころからの夢であるオリンピック出場を目指したい」
この「アスナビ」は、平成22年10月に経済同友会の協力により説明会がスタートしました。現在、水泳/競泳の古賀淳也選手が「第一三共株式会社」、水泳/競泳の上田春佳選手とカヌーの竹下百合子選手が「キッコーマン株式会社」、フェンシグ/女子エペの下大川綾華選手が「テクマトリックス株式会社」、ビーチバレーボールの朝日健太郎選手が「株式会社フォーバル」、スキー/スノーボード・アルペンの家根谷依里選手が「株式会社大林組」にそれぞれ就職が決定しています。
JOCは今後も、企業と選手のより良い関係を築くために「アスナビ」による支援を行っていきます。
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