JOCは9月3日、JOCパートナー都市である横浜市と共催で「第6回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を、横浜市開港記念会館で開催しました。関東地区の競技団体関係者を中心に約220名が参加し、意義のあるセミナーとなりました。
同セミナーは、地球環境保全のスポーツ界における啓発・実践活動の必要性を理解してもらい、実践の協力を呼びかけるのが目的となっています。
今年度は、市原則之JOC専務理事と、横浜市の林文子市長のあいさつで開会。市原専務理事は「JOCは2001年にスポーツ環境専門委員会を設置し、環境保全活動を推進しております。またJOCと日本体育協会が来年100周年を迎えますが、その記念事業のひとつとして、12月11日には京都市で『スポーツと環境』をテーマにシンポジウムを開催いたします。セミナー開催にあたり、横浜市をはじめとする関係者に深く感謝いたします」と話しました。
林市長は「横浜市では、スマート都市プロジェクトとして8年間で41%のゴミの削減を実現するなど、環境問題に先駆けて取組んできました。また来年はバスケットのプロチームも増えるなどスポーツ振興にも力を入れております。スポーツはなんとも言えない幸福をもたらすものです」と、横浜市の環境とスポーツへの取り組みについて紹介しました。
■基調対談「スポーツ界における地球環境問題の啓発・実践活動」
第1部は、水野正人JOC副会長(IOCスポーツと環境委員会委員)をコーディネーターに、JOCスポーツ環境アンバサダーの瀬古利彦さんと大林素子さんによる基調対談「スポーツ界における地球環境問題の啓発・実践活動」が行われました。
水野副会長は、まず二酸化炭素の排出による地球温暖化の概要を説明。1990年代に、「スポーツ」と「文化」に加えて「環境」がオリンピックムーブメントの3本柱となった歴史を話しました。
瀬古さんはマラソンの経験を振り返り、「四日市市で育ち、子供のころから光化学スモッグの中で練習していて、もっと綺麗な所で走りたいと思っていました。駅伝やマラソンの試合では、以前は先頭を走る中継者の排気ガスが辛かったのですが、最近は環境に配慮して、すべて電気自動車になっていますね。またマラソン大会の沿道で、観客が紙の旗を振るのが恒例でしたが、これも環境のためと選手に触れると危ないということから、今は廃止になりました」と、日本陸上競技連盟の取り組みを紹介。大林さんは、「子供のころ、母の田舎に行き空気の良い所で過ごすと、アトピーで荒れた皮膚が治るので、環境の大切さを実感して育ちました。バレーボールでは、試合中のクーラーの温度設定を調整したり、試合が終わったらすぐ照明を消すなど、以前に比べて取組むようになってきています」と話しました。
■横浜市の環境施策
続いて、横浜市の環境施策について、横浜市環境創造局の山田二郎環境保全部長が紹介しました。横浜市では、「樹林地を守る」「農地を守る」「緑をつくる」の3分野からなる「横浜みどりアップ計画」を取組んでおり、その財源確保のため昨年から「横浜みどり税」を設定しています。山田部長は、「市民は1人900円を5年間、法人は市民税の年間均等割額の9%相当額を課税し、みどり基金を設立、その用途を特別会計で開示しています。市民の方々のご協力のお陰で、計画が進められています」と話しました。
その他、ゴミ処理に関しても、2001年に161万tだったゴミを30%削減することを目標にし、すでに41%減まで実現。生ゴミの資源化、ゴミ処理場での廃棄物発電と熱利用など、多角的な環境対策をとっていることを示しました。
■パネルディスカッション「スポーツ界における環境活動の新しい展開について」
続いて行われたパネルディスカッション「スポーツ界における環境活動の新しい展開について」は、板橋一太JOCスポーツ環境専門委員長をコーディネーターに、吉田章・筑波大学大学院人間総合研究科教授、河原智・横浜市卓球協会会長、沼田昭司・横浜市ラグビーフットボール協会会長、奥寺康彦・横浜FC取締役会長の4人をパネリストに行われました。
吉田氏は、「これまでは『スポーツの環境』という視点で、スポーツの現場整備を考えてきましたが、『スポーツで環境』という考え方を持ちたいです。スポーツから何が発信できるかが大切でしょう。例えば、会場でのゴミ分別は広く行われるようになりましたが、自治体によってゴミの分別基準が異なり開催地によって分かりにくいのが現状です。スポーツスタンダードの基準があってもいいのではないでしょうか」と提案しました。
河原氏は卓球の現場について報告。「温暖化の影響もあり、昔はエアコンのない体育館でも試合が出来ましたが、今はエアコンのない体育館での試合で、熱中症で倒れる選手も出ています。体育館のエアコン設置は、避けられなくなりつつあります。一方で、2009年に開催した世界選手権では、ゴミを極力減らそうと、選手が試合中に飲む水の問題に取り組みました。20kgの水のタンクを準備し、選手は自分のペットボトルに名前を書いて、タンクから補充、再利用することで、本来ペットボトル5万本が必要な大会でしたが、1万本以下で済ませられました」と報告しました。
沼田氏は、日本ラグビー協会の「やさしさにトライ」という標語について紹介。「これからは人に優しく、環境にも優しくという考えで取り組みたいです」と話し、2019年に開催予定の東京ワールドカップについて、「2016年東京オリンピック招致の目玉のひとつが環境でした。環境負荷を最小におさえ、自然と共生するそのコンセプトを参考に、ワールドカップの開催に取り組みたいです」と意欲を示しました。
奥寺氏は、「サッカー選手の行動の影響力は大きいです。スタジアムでは、ゴミの分別のほか、大画面で環境のスローガンを流して啓蒙したり、選手が学校訪問をした時に環境対策について子供たちに話したりと、様々な取り組みを行っています。スタジアムでは、持ち帰り用のプラスチックコップでジュースを売って、ゴミを減らすなど工夫しています」と、活動を紹介しました。
板橋委員長は「いまスポーツ界が取り組むべき活動は、新しい展開の時期を迎えています。スポーツ人だけでなく、競技の設備業者、移動を担う輸送業者など、多くの関係者が協力関係を構築して、環境活動を進めようとする時期です」とシンポジウムをまとめました。
最後に水野副会長(IOCスポーツと環境委員会委員)が「横浜市の皆様、林市長を初め、パネリストの方々のお陰で有効な知識を得ることができました。このセミナーで得た情報を理解し、そして実行することを決議し、採択したいと思います」と呼びかけ、全員の拍手で決議を採択、有意義なセミナーを締めくくりました。
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