JOCの進めるオリンピック・ムーブメント
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19ですから、沙保里さんが負けたのは、自分のこと以上に悔しかったですね。——ともにオリンピック3連覇。メディアなどでもいつも比較される存在かと思うのですが、伊調選手にとって吉田選手はどんな存在ですか。伊調 沙保里さんとは、何も言わなくても分かり合える、という感じですね。私の決勝戦前に食事をとっていたときも、「あとひとつだね、頑張ってね」と声をかけてもらったのですが、お互い視線が合ったときに言葉以上の重みを感じました。一方で、沙保里さんの初戦前は、すごく硬くなっていたので「沙保里さん、リラックスですよ。肩の力抜いてくださいね」と声をかけました。 沙保里さんは、何でも引き受けて背負ってくれる性格です。今回も、日本代表選手団の主将であり、女子レスリングチームのキャプテンでもあり、最年長という立場で、私たち後輩を引っ張っていってくれました。それだけ重圧もすごかったと思うんですよね。 4連覇に挑戦できるのも、その苦しさを感じていたのも私たちだけでした。2番目に年長だった私が、その苦しさを分かち合ってもっとサポートしてあげられたらよかったですね。いまになって「すみません」と申し訳ない気持ちでいっぱいです。 でも、沙保里さんが女子レスリング界に残した功績や、偉大な先輩であることは何も変わらないです。——チームメイトの敗戦からも、学びがあるす。狭い世界の中でまとまりたくない気持ちですかね。 ——陸上競技などのように、ベストパフォーマンスを出し合って順位を決める競技に対して、レスリングのような対戦型のスポーツは、相手にできるだけベストパフォーマンスをさせないようにして勝利を目指しますよね。伊調 ええ、そうですね。たしかに、納得できた試合というのは今までほとんどありません。練習の成果を出したいと思っても出し切れないことが多いですからね。だからこそ、試合の中でベストパフォーマンスを出したいという気持ちでつねに臨んでいます。敗戦からの学び——レスリングの魅力とは何でしょう。伊調 とにかくレスリングが好きで、アテネオリンピック、北京オリンピックは姉とともに取り組んできました。その後は、そこからまた、新しいスタイルのレスリングにチャレンジしてきました。ここまでやってきても、レスリングの難しさや奥深さを痛感させられています。楽しさ、苦しさ、辛さ……全てを味わえるのがスポーツの魅力だと思いますので、とことんやり通すことが大事ですね。——「今後についてはゆっくり考えたい」とおっしゃっていた伊調選手ですが、いつか現役を引退しても、レスリングとずっと向き合っていくことになりそうですね。伊調 そうですね。おそらく、一生ずっとレということかも知れないですね。伊調 私はあまり言葉にするのが上手なタイプではないですし、苦しさが分かるからこそ、余計に言葉にしづらい面はあったかもしれません。気遣いのつもりがお節介になってしまうこともありますし、難しいですね。——伊調選手と吉田選手だからこそ、2人でそんな話をできる日がくるといいですね。伊調 はい、本当にそうですね。いつか、沙保里さんとそういう話をしたいと思います。スリングを突き詰めていくことになると思います。——1月のヤリギン国際大会の決勝で敗れ、連勝が(189で)途切れました。伊調選手はこの敗戦とどう向き合ったのでしょうか。伊調 負けたときの方が、勝ったときに比べて何倍も学ぶことが多いですよね。自分のパフォーマンスを上げるためにもどんどん強い人と戦いたいですし、だからこそ、いま、女子レスリング界全体のレベルが上がっている状況も本当にいいことだと思っています。やはり、弱い選手に勝つよりも、強い選手たちと戦っている方が、私自身もいいパフォーマンスを発揮できます。そして、そうやって強い選手が揃っている中で勝った方がうれしさも大きいですし。世界のトップと戦い続けてきたこと、そこで、勝ち続けてきたことは、私自身誇りに思っています。 負けたとしても、その内容ややってきたプロセスが、人生の中で大きな自信になるはず。私は勝つことが全てじゃないと思っています。吉田沙保里選手への思い——今回、伊調選手とともに4連覇を目指した吉田沙保里選手が決勝で敗れました。伊調選手はあの敗戦をどう見ていましたか。伊調 沙保里さんは私と違い、連勝記録をモチベーションにするなど、勝つことによって自らを奮い立たせるタイプだと思うんです。メダリストインタビュー Hero & Heroine’s VoiceInterview & Text:中村聡宏/Photo:PHOTO KISHIMOTO、岩本勝暁(Interview)伊調 馨(いちょう・かおり)1984年6月13日生まれ。青森県出身。兄姉の影響を受け幼少期よりレスリングを始める。中京女子大学附属高校(現・至学館高等学校)から中京女子大学(現・至学館大学)へと進学。2004年アテネオリンピック、08年北京オリンピック、12年ロンドンオリンピック女子フリースタイル63kg級で3連覇を達成。その後階級区分変更で58kg級へ。16年リオデジャネイロオリンピックでは、女子フリースタイル58kg級で日本人選手初のオリンピック4連覇。2016年9月、国民栄誉賞受賞。ALSOK所属。

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