■04年アテネ大会以来12年ぶりのチームメダル
リオデジャネイロオリンピックの大会15日目。シンクロナイズドスイミングのチームフリールーティーン決勝が行われ、日本(乾友紀子選手、三井梨紗子選手、箱山愛香選手、丸茂圭衣選手、中牧佳南選手、中村麻衣選手、小俣夏乃選手、吉田胡桃選手)は95.4333点をマーク。前日のテクニカルルーティーンの93.7723点との合計189.2056点で3位に入り、2004年アテネオリンピック以来3大会ぶりにチームでのメダルを獲得しました。
「私がシンクロをやっていて成し遂げたかった目標だったので、今達成できてホッとしている気持ちです」
デュエットに続き、チームでも銅メダルを獲得。キャプテンとしてチームをまとめてきた乾選手は、声を震わせながら語りました。「演技が終わってから涙が止まらなかった」。それは前回ロンドンオリンピックでメダルを取れなかった悔しさから始まったこの4年間の苦しい道のり、それを乗り越えた安堵、そして銅メダルを取れた喜び――様々な感情が入り混じっての涙だと言います。
「想像以上にたくさんの山がありましたし、想像以上のしんどい道のりだったんですけど、それがすべて今日につながってきたんだなと思うと、乗り越えられて良かったです」
■「最初はあの子たちに日本語が通じませんでした」
1984年ロサンゼルス大会から6大会連続でメダルを獲得してきた日本の“お家芸”。しかし、08年北京大会でデュエットは銅メダルを獲得したもののチームは5位に敗れ、12年ロンドン大会ではデュエット、チームともに5位と、シンクロにおいて初めてメダルを逃す結果となりました。
日本シンクロ復活のキーパーソンとなったのが、指導者としてロサンゼルス大会からメダル獲得に貢献してきた井村雅代ヘッドコーチ。04年アテネ大会を最後に日本代表を離れていましたが、2014年に10年ぶりに代表ヘッドコーチに復帰したのです。
「最初はあの子たちに日本語が通じませんでした。本人たちも意味が分からなかったと思いますよ。私が怒っても何を怒られているのか分からなかったんですもん。“何怒ってるんだろう?”って。すべてがおかしかったんです。日常生活からアスリートとしておかしい、練習態度もおかしい、練習に取り組む気持ちの持ち方も全部おかしい」
リオ大会までの残り期間で根本から変えることは無理だと感じた井村ヘッドコーチは「ともかくメダルを取らしたろうと」。代名詞となっているスパルタ練習のもと、まず14年アジア選手権で3つの銀メダルを獲得し、続く15年世界水泳選手権でもフリールーティンコンビネーション、デュエット・テクニカルルーティン、チーム・テクニカルルーティン、チーム・フリールーティンで4つの銅メダルを獲得しました。
「先生にチームを見てもらうようになってから明確な目標ができるようになったし、世界水泳でメダルを取れたことがすごい自信になった。頭の中になかったオリンピックのメダルというものが目に見えてきたということは、すごく大きな私たちの気持ちの変化だったと思います」(吉田胡桃選手)
■「全部この1回にかけて泳いで来い。とにかく攻めろ」
オリンピックに向けて復活ののろしを上げるに十分な成果となったこの国際2大会。ですが、井村ヘッドコーチによれば、ここから選手たちとの新たな“戦い”が始まったと言います。
「彼女たちがきっと思ったのは、私と一緒にやってたらメダルを取れると思ったんです。それも違う。私とやったってメダルなんか取れない。あなたたちが私の練習のもとでどれだけ自分で自分を酷使して追い込むか。どこまで行けばメダルを取れるかは私は知っている。でも、あなたたちはいつも私の3歩か10mか100mか知らないけど、後ろについてくるだけじゃ取れないって、それを逆に世界選手権の後に言い続けました。常に後ろからついてくるようじゃ無理だ、私を抜きなさいと」
チーム全員、性格が良すぎる「かわいいやつ」というのは井村ヘッドコーチも認めるところ。ですが、世界のトップを相手に戦うには気持ちの面が物足りない。リオ入りした後も「大爆弾3回ぐらい落としましたけど、そんなん初めてです(笑)」。
井村ヘッドコーチの猛ゲキもあって、前日のテクニカルルーティーンに続きこの日のフリールーティーンでも3位争い最大のライバルであるウクライナを上回った日本。演技の前に、井村ヘッドコーチは選手たちにこう伝えたと明かしました。
「今日に至るまで私としては9回目のオリンピックの中で最も中身の濃い、ハードな練習をしてきた。だから今からたった1回、できないはずはない。終わった後にやり残しがあるような演技だけはするな。全部この1回にかけて泳いで来い。とにかく攻めろ」
この言葉が自信になった、と三井梨紗子選手。「天照大神」をテーマに、様々なバリエーションを持たせたリフト技も次々と成功させました。そして、12年ぶりの銅メダル獲得。順位が出た瞬間の選手たちの涙、表彰式での晴れ姿を見たこのときばかりは、井村ヘッドコーチも安堵の表情を浮かべていました。
「むちゃくちゃ強引に指導しました。それであの子たちはついてきた。むちゃくちゃ強引にしてきた責任の取り方はメダルを取らせてあげることだから、責任を果たせた気持ちです。あの子たちのすごい喜ぶ姿を見たときは率直に嬉しかったですね。力は出したと思います」
■打倒ロシア・中国に必要な課題
このリオ大会でデュエット、チームと2つの銅メダルを獲得したことで、名実ともに世界のシンクロトップ勢力に日本が帰ってきたと言っていいでしょう。しかし、井村ヘッドコーチが目指すのはもちろん東京オリンピックでの金メダルです。
「ロシアがえらいのは、あれだけ金メダル取っても手を抜かない。そんなに甘くはないけれど、もう1つ前に行くことは全然可能なことです」
1位のロシア、2位の中国を倒すためには選手の大型化、それもアスリートとしての強いハートを持った大型選手が必要と課題を挙げます。ただ、今は選手もコーチもしばしの休息が必要のようです。井村ヘッドコーチはこんな言葉で締めくくりました。
「もうスイッチが切れた(笑)。またスイッチが入るのにそんなに時間はかかりませんけど、今は水を見たくないです(笑)」
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