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アスリートメッセージ

アスリートメッセージ スキー・フリースタイル 上村愛子

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選手時代から憧れていた
ヤンネ・ラハテラコーチと

世界選手権で象徴的だったのは、ミドルセクションの滑りもさることながら、第1エアのランディング時の対応だ。意識的に減速を図ろうとする動作なく、ゴールヘまっすぐにスキー板を向けていたのである。そこに技術の高さが表れていた。

ターンの進化の大きな原因は、モーグルのナショナルチーム・チーフコーチを務めるヤンネ・ラハテラとの出会いにあると、上村は言う。
フィンランド人のラハテラは、1998年の長野冬季オリンピックで銀メダルを、2002年のソルトレークシティー冬季オリンピックでは金メダルを獲得。ワールドカップや世界選手権でも数々の活躍をした、モーグルの世界ではまぎれもないスーパースターであり、今後も語り継がれるであろう名選手である。
トリノ冬季オリンピックで現役をしりぞいたあと、日本チームのコーチに就任したラハテラは、上村が「格好いいなあ」とその滑りに憧れた選手でもあった。
「モーグルをやっている人なら、みんなが憧れる選手でしたね。でも見ていても、どうしてああいう滑りができるのか分からなかった。自分には絶対できない滑りだと思っていました」


世界トップレベルの上村選手のターン技術は、世界選手権でも群を抜いていた
(写真提供:アフロスポーツ)

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世界選手権では日本モーグルチームの3選手が表彰台に上がった
(写真提供;アフロスポーツ)
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世界のトップアスリートとなった今、自身が
子どもたちへ与える影響などについても考えている

ラハテラの指導が始まると、その思いは徐々に変化していった。
「『日本チームはスキーが下手だなあ。まずはスキーをうまくなるぞ』っていうところからヤンネさんの指導は始まったんです。実際に教わりはじめたら、滑りの論理もだんだん分かってきたし、ヤンネさんが言っていることができるようになったら楽しいだろうなと思ったんですね。だから、ああ難しいなあと思うよりも、やってみたい、やってみたいという気持ちが強かったです。
反復練習も昔はあんまり好きじゃなかったんですけど、今は、『こういうふうに滑るんだよ』とか、『ポジションはこれくらいだったけれど、もっと下げて』と言われても、なんで指摘されているのかが理解できるし、ひとつひとつクリアするのが楽しい。本当に基本的なところから技術を教えてくれました。基本を大事にしていこうという方針は、現在まで一貫しています。
エアの教え方も、今までのコーチとヤンネさんと違うのは、選手にも考えさせようとするところですね。『自分でどう思った?』と聞いてくれるんです。それまではコーチから言われたことをやるという流れで来ていたので、自分の意見を言わないように育っていたから最初の頃は聞かれても全然答えられなかったんです。でもヤンネさんが聞いてくれることで、少しでも感じたことを答えると、『あ、それはこういうことなんだよ』と、きちんと理由づけをして話してくれる。なんだか面白かったですね」

上村はラハテラの就任以後、日本チームの雰囲気の変化も感じている。
「『チャンピオンになりたいって思う選手しか、俺は教えない』と最初に言ってくれたおかげで、日本チームの全員がそういう気持ちでやっている。チームの雰囲気も作ってくれました」
それを裏付けるように、世界選手権では上村のみならず、伊藤みきと西伸幸がデュアルモーグルで銀メダルを獲得するなど、日本選手の活躍が目立った。
こうしてラハテラの指導を受ける中で、上村は新しいターン技術を身につけていった。今や、各国の選手やコーチが驚嘆するほどのレベルにまで達している。
習得できたのは、長年にわたってスキーと真摯に向き合い、模索してきた経験も大きかったに違いない。試行錯誤してきた土台があったからこそ、ラハテラと出会うことで花開いたのだろう。

ラハテラの存在の大きさは、技術面だけにとどまらなかった。
「選手の頃のヤンネさんは、私、怖かったんですよ。ピリピリしていて。尊敬していたからというのもあると思うんですが、ハローくらいしか言えないなとずっと思っていました(笑)。
でもコーチになったから、いつも一緒にいるじゃないですか。意外に面白いところもあるし、お茶目なところもあるし、優しいところもあったんです。もちろん真面目だな、というところもあるし、いろいろなヤンネさんを見ることができました。
選手じゃなくなったからいろいろ話してくれるというのもあると思いますが、チャンピオンになる人も、特別怖い人じゃないんだと気づいたんです。今までは、勝つような人は自分の会ったことのないような強い人なんだと思っていたんですよね。でも、チャンピオンも普通の人なんだな、スキーに対する取り組み方とかも似ているなあと感じて……、だったら自分にもチャンスがあるなと思えました」

尊敬し憧れていたチャンピオンと接することで、技術に限らず、多くのものを吸収することができた。
それは自分自身の立ち位置についても考える契機になったと語る。

「モーグル界で名前もあるし成績もあるけど、自分はみんなと一緒だと思ってきました。でもヤンネさんがコーチになってくれて思ったのは、ジュニアの子たちからしたら、自分もヤンネさんのような立場なのかなということです。自分の話すふつうの体験談でも、ジュニアや若い選手たちにとって、何らかのきっかけになるのかなと思ったんです。
前は取材などでも、頭の中ではいろいろ考えていても、言葉に出すと軽くしゃべってしまったりということがよくありましたが、今はちゃんと思っていることを話さないといけないなと思うようになりました。
私はチームを引っ張っていこうというタイプではないですね。自分らしくスキーに真面目に生きていけばその姿を見てくれるだろうし、世界で一番になりたいと思ってやっている姿勢は、もしかしたらどこかで勉強になるのかもしれないから、しっかりやっていこうという気持ちがあります」

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